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天野と朝ご飯

『えーっと、天野、、?』


天野は俺に腕というか体を丸ごと預けた。

胸が当たっている。


時折、俺の方を恥ずかしそうに一瞥する。

これが上目遣いだから、ズルい。



あんなに無表情だった天野が、

こうやって俺に寄りかかるのだ。



一緒に朝を迎えたわけだが、

特にやましいことは何もない。


『タケルさん、すみません。こうしていると安心するんです。』


そう言われて体を貸さない男はいない。



学校が始まる前の早朝の時間帯だ。

補給が終わってないので、少し元気が出ない。

喫茶店で朝飯でも食べることにしよう。





『いらっしゃいませーー』


マスターは目を丸くする。

そりゃあそうだろう。


しがみついた可愛らしい女の子を朝から侍らせているのだ。


この構図だけ見れば似つかわしくない場所に来たようなものだ。



『天野は何頼む?』


『いえ、私は特に、、、』


『いいよ、俺が奢るからさ。アイスコーヒー美味いんだぜ。』


『じ、じゃあアイスコーヒー。』


『と、目玉焼きトースト2人分ね!』



マスターに注文する。



マスターはかたまっている。

『マスター??』


『ああすみません。目玉焼きとアイスコーヒーですね。かしこまりました。』


天野は席につくまでしがみついたままだ。


『タケルさん、椅子はどこに、、、』


『椅子?目の前にあるじゃないか。』


天野の足に椅子がぶつかる。


『ああこれですね。わかりました。』



天野は背もたれをペタペタ触りながら座る。


天野を見る。


喫茶店にある絵は見えているはずだが、何も反応をしない。


ぽやんとどことなく虚な目で視線を泳がせている。





『お待たせしました。』



トーストとアイスコーヒーが来た。


俺は早速アイスコーヒーを口につけて、トーストを頬張る。


美味い。



『天野、これ、美味いぞーーーって天野?』


『お客様、大丈夫ですか!?』



天野はアイスコーヒーをこぼし、トーストも床にこぼしてしまっていた。



『え、いったい、何が。。』



天野はただならぬ事態に涙目になっている。

『あー、うん、大丈夫。コーヒーとトーストをこぼしてしまっただけだ。うん。』


『ごめんなさい、せっかくタケルさんが、、、』


『今お作りし直しますね、、』


『だ、大丈夫です。私、お腹空いてませんから、、、』



『そうかい。マスターすまないな。』


『は、はあ、、、』


マスターはいそいそとさがっていった。


『俺のわけようか?』


『は、はい、あの恥ずかしいのですが、、その、、アーンしてくれませんか!?』


吹き出しそうになった。

胸が熱くなる。

視界が一瞬ぐらついたが、真っ直ぐ天野を見据える。




『い、いいのか?天野?』


『は、はい。タケルさんなら構いません。』


顔を赤くしてこちらをモジモジしながら見る。


俺は意を決した。


俺はトーストをちぎり、天野の口に運ぶ。



『はい、あーん。』


『あーん。』


天野の口に一切れのパンが運ばれる。

もぐもぐと口を動かす天野。

ハムスターみたいだ。



『よ、よし、天野、もう一切れーーー』



天野を見る。


天野は体を震わせて、涙をぼろぼろ流している。


『あ、天野、そんなに美味かったのか??』


確かに美味いトーストだ。

泣くほどかは、わからないが感性は人それぞれだ。



『た、タケルさん。もうお腹いっぱいですから、、その、、もう行きましょう。』


『ああ、うん。マスターお勘定。』



天野は店から出てもずっと泣いている。

俺はそんな天野を見守るしかなかった。

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