すっぽかされたデート
絵画展の日。
俺は展示会場で天野と待ち合わせをした。
初日は天野の番でないから、絵画を見てまわろうということになった。
時間になっても来ない。
『まあ、遅れてるのだろう。』
俺は天野を喫茶店で待つ事にした。
『いらっしゃいませ、ああお客様。』
マスターは笑顔で応対する。
その笑顔が少し引き攣っていたような気がした。
『アイスコーヒーください。』
『はい、かしこまりました。』
天野はいつ来るのだろうか。
受付の人には、ベレー帽の黒髪の女の子が来たら喫茶店に来るよう伝えてある。
チャットシステムで連絡も可能だが、
国による検閲が入る為、こういった時は伝言が1番安全だ。
『アイスコーヒーお待たせしました。』
マスターの手が震えている。
顔を見る。
大粒の汗が額に滲むのが見えた。
『ありがとう。』
俺はマスターのそんな様子を特に気にとめなかった。
アイスコーヒーを口にする。
『ああ、美味い。』
夕方になった。
学校をサボっているから、迎えに行くわけにもいかなかった。
夕方になれば、生徒は下校しているから
比較的人目に付かず動くことが可能だ。
『マスターお勘定。』
『ありがとうございました。』
マスターは一度も顔を合わせなかった。
天野は視聴覚準備室だろう。
俺は夕方以降天野と会うのは、一度あったかどうかだ。
もしかしたら下校してしまったかもしれない。
視聴覚室に入る。
『天野?』
ガラクタの山の中を彷徨っている天野がいた。
『はい、天野です。あなたのお名前は?』
『タケルだよ。天野、今日はどうしたんだ。』
天野に近づく。
ガラクタにつまずき、少し大きな音がする。
『ひぃっ!』
天野はその場でうずくまった。
『あ、まの?』
天野は側から見ても震えているのがわかった。
『いったい。』
『ああ、ああ!』
天野はらしくない叫び声をあげた。
俺は音を立てずに近づく。
『天野、どうしたんだ?ほら、立てるか?』
『た、タケルさん、、どこですか、、!!』
手を空でジタバタさせる。
距離にして15センチほどだ。
天野は俺の腕に手があたる。
『ああ、タケルさん!!』
天野は俺の腕にしがみついた。
胸が、、、
『怖いんです、、どうか、明日は、ここから私を連れ出してください!!』
天野は涙を流している。
俺は一瞬にして我に帰った。
天野の見たことのない感情表出に驚く。
『わ、わかったよ。だから落ちつくんだ。』
『は、はい。』
『とりあえず帰ろう。』
俺が立とうとする。
『いやで、、す。今日は視聴覚準備室でずっと一緒に、、いてください、、、』
天野は涙目で上目遣いで懇願する。
『え、あ、だって。』
『お願いします。今日は一緒にいて、、、』
天野ハルカ。
黒髪ベレー帽の女の子は、ひとしきり俺の腕に縋り泣いた。
俺はどうする事も出来なかった。
何か過ちがあっても。
男女が密室で一夜を過ごすというのは
そういうことなのだ。
だが、とうの天野はひとしきり泣いた後、
俺の腕にしがみつくようにしたまま寝てしまった。
『寝れない、、、』
俺は天野にしがみつかれたまま、壁にもたれかかった。
一睡もできないまま、絵画展の日を迎えた。




