美しさ
俺は天野が絵を描いているのを茫然と見ている。
天野は表情を変えずに淡々と絵を描いている。
何を書いているかはわからない。
キャンバスの裏側から天野が絵を描いている姿を見ているからだ。
天野は綺麗なストレートの黒髪を乱すことなく、静かに絵に向かっている。
その表情はぽやんとしている。
天野の通常の表情は少し眠そうなのだ。
ぐるぐると思いを馳せる。
天野に手解きを施したあの男のこと。
天野や俺に比べるとふたまわりほど歳上の男だ。
この男から手解きを受けているなら天野は相当、あっちの方も手慣れなのでは・・・・。
胸が高鳴る。
一糸纏わぬ姿で、なぜかあのベレー帽だけ取らずにベッドに横たわる天野の姿を思い浮かべると、、
『大丈夫ですか?』
『はっ!』
『あの、鼻血出てますよ。』
鼻血なんて初めてだ。
だいぶ油臭いけれども、、なんだか人間らしいでないか。
『ああ、大丈夫だ。』
『ダメですよ。ちょっとジッとしていてください。』
天野はハンカチで俺の鼻を拭く。
天野の髪の匂いがふわりと俺の嗅覚を包む。
目の前には見事な双丘が自己主張をする。
『あれ?なんか、鼻血の量が増えてますよ、、』
『ああっ、大丈夫だ!気にするなっ!』
天野からハンカチを取り上げて拭き取る。
『はあ・・・・。』
天野がぽやんとした表情でこちらを見る。
『ああ!悪い。ハンカチ洗って返すから!』
『ああはい。よろしくお願いします。』
天野はスカートに両手を添えてペコリとお辞儀する。
そうすると天野は再びキャンバスに向かって絵を描き始めた。
俺はハンカチで鼻を拭きながら、チラチラと天野を見る。
端正な顔立ちだ。
それでいて体つきは大人びていて
天然ぽさを感じながらも、俺ごときの鼻血を
自前のハンカチを使って拭き取る。
俺はリリーの件で懲りたはずなのに、
また目の前の女の子を幸せにできないだろうか。
願わくば自分のそばで笑っていて欲しいと願ってしまうのだった。
『チャイム、、、そろそろ鳴りますよ。』
『ああ、、天野は、、ここにいるのか?』
『はい、、、』
『そうか、、』
イスから立ち上がり、背を向ける。
『私は・・・・』
天野が後ろから声をかけてくる。
いや、独り言を言うくらいの声の大きさだ。
自分に語りかけるように、噛み締めるように話す。
『私はただのガラクタですから。』
俺は拳を握り締めて部屋を去った。




