天野の恋心?
入学式が終わって、45回目の時は
市場に出向いた。
今回は違った。
入学式に天野がいなかった理由。
俺はそれがとても気になっていた。
無論、理由の推察がつかないわけでもなかった。
でも、新たなる門出である入学式くらい、出ても誰も咎めないのではないかと思う自分もいた。
リリーに心を砕いた45回目。
恋心とは別に天野を心配してないわけではなかった。
『私なんてただのガラクタですから。』
悲しそうにそう語った天野のことは気になっていた。
リリーを愛して、救いたかった45回目。
己の至らなさで失敗した45回目。
俺にリリーを愛する資格はない。
懺悔の気持ちもあったのだろう。
天野に少しでも光のあたる学園生活を過ごして欲しいという独りよがりな思いなのかもしれない。
俺の頭の中は、脳みそをシェイクされているようにぐるぐると思考が渦巻いていた。
視聴覚室のガラクタの山をかき分けて準備室に入る。
扉を開けると薄暗い部屋に、ベレー帽をかぶって黒髪の美少女が座っている。
『よう、天野。』
『こんにちは、私の名前は天野です。』
『知っているよ。』
近くにある丸椅子に腰掛ける。
天野は椅子に座り、キャンバスに視線を移した。
『今日は何を書いているんだ?』
キャンバスを覗きこむ。
『秋葉原です。』
『ああ確かにこれは秋葉原だな。』
有数の電気街。
かつてそう呼ばれた街の最盛期の風景だ。
山手線が走っていて、これはいつのアニメだろうか。懐かしい。
涙が出る。
いや、涙が出るような気持ちだ。
『この頃には戻れないのかな。』
『この頃とは?』
『ああなんでもない。』
天野にとってはデータでしか知らない秋葉原。
それを模写しているだけなのだ。
『天野はすごいな。こんな絵を描くなんて、俺にはできない。』
『そ、んなことはないです、、』
天野は筆を止める。
できていることをこちらが伝えても、当の本人ができていないと実感してたとしたら、できていてもこのくらい、みたいな自己肯定感が低くかったらどうなるか。
天野は筆を再び走らせた。
良かった。
天野を落ち込ませることにはならなかった。
『天野は絵を描くのが好きなんだな。』
『好き、、どうでしょうか。好きだからやってるのか、そういう風にプログラムされてるからなのかわかりません。』
天野は表情を変えずにキャンバスに向き合う。
ひたむきな天野。
だけど、絵が上手い自分を肯定できない天野。
世が世なら、天野は画家として大成したかもしれない。
『なあ、天野。秋葉原以外だとどんなものを描いたことあるんだ?』
『どうでしたかね、、例えば、、、』
天野は細い指先に力を込めて握っていた筆を少し優しく握り直す。
筆置きにおいて、スカートの皺を伸ばした。
ベレー帽を被り直し立ち上がる。
黒いロングヘアをたなびかせて振り返る。
一つ一つの動きがとても繊細で天野の描く絵はこういった繊細な立ち振る舞いの積み重ねなんだろうと見惚れてしまう。
『例えばこんな絵です。』
そこに写っていたのは1人の男性の肖像画だ。
その男性はベレー帽をかぶり、キャンバスに向かいながらも、おそらく肖像画を描いている天野に向かって微笑んでいる。
これは誰だろう。
少し握り拳を作っている自分に気づく。
『これは誰なんだい?』
少し声がうわずってしまった。
天野は首を少し傾げた。
顔が熱くなるのがわかる。
しばらく固まっていると天野はゆっくり目を閉じて、愛おしそうに絵を抱きしめた。
『私の、、大事な人なんです。』




