キスの翌日
いつもの坂道を歩く。
すでに夏は近く、桜の木はますます緑で覆われる。
『なんてことをしてしまったのだろうか。』
俺は頭を抱えながら歩く。
『おい、今日サボってしまったらヤッちゃうよ?』
『サボらねえよ、加藤。』
振り向く。
いつものように眼帯を付けた、ショートヘアの美少女。
いつもはニヤつきながら銃を構えているその眼帯の少女は、いつもと違った。
虚な目。
どこを見ているかわからない。
いつもより見開いた目。
目の下にあるくまは、寝不足なことを示唆しているのだろうか。
『加藤、疲れてるのか?』
『スパイは疲れない。』
『でも、くまが、、、』
『気にするな。』
俺を追い越しふらふらと歩いていく。
徹夜でもしたのだろうか。
あいつが普段何をして過ごしているかは知らない。
『タケルさん。』
振り向く。
金髪のロリータ服の美少女が通学カバンを両手でスカート前で持っている。
『ああ、やあ、リリー。』
『おはようございますですわ。』
リリーはハイヒールをかつかつと言わせながらこちらに近づいてくる。
普段は控えめな靴音が、やたら耳に響き渡る。
『今日は遅いんだな。』
『ええ、、なんだか最近朝の準備に時間がかかってしまいますの。』
俺の横をそう話しながら通り過ぎていく。
『あ、あのリリー、、』
靴音が止まる。
わさっと、金髪が風に吹かれる。
『なんですの?』
『あ、あのさ、昨日のこと、、』
『昨日?昨日ああ、、、』
リリーはまた近づいてきて、口が触れてしまいそうなくらいの距離になる。
リリーの髪の匂い、吐息が感じられる。
『昨日は、、、昨日ですか。』
リリーはタブレットを見る。
すると、アラームが鳴る。
『ああ、そろそろ授業ですわね。行きましょうか、タケルさん。』
リリーは振り返る。
『リリー。昨日は、、、』
肩越しにこちらを見てくる。
『昨日は、ごめん。』
『昨日?はて、、、』
リリーは人差し指を唇に添える。
『昨日、何かありましたかしら?』
リリーはそのままこちらを振り返らず歩いていく。
俺も歩いた。
気持ちが安らいでいくのがわかる。
俺は卑怯だ。
リリーが忘れることを知っていたのに。
俺は自分の感情を優先したのだ。
拳を握りしめる。
安堵した気持ちだけが、その時は俺の心を支配していた。




