かげろうの"姫" ② 女装でお出掛け!! バレたら失脚、男の娘・皇子!! ~影狼の帝都・外伝
「ねぇ……男の子って、ホントに単純で可愛いなぁ」
(……って、まぁ、ボクもれっきとした男子なんだけれどね)
銀髪縦ロールを揺らし、キュッと胸元を隠したボク――
皇子・レナースは、目の前で顔を真っ赤にしている親友のアギルを見下ろして、心の中でくすっと笑った。
まさか、日頃から剣を交えている親友が、ピンクのフリフリドレスを着たボクを「可憐な令嬢」だなんて勘違いするなんて!
「アギル様……あのね、私、城下町へお買いものに行きたいの。でも、女の子一人じゃ……少し心細くて」
( ボクにとっちゃあ、庭みたいなものだけれど。女装で出歩くのはさすがに心細いし )
上目遣いでうるうるっと瞳を濡らしてみる。
自分で言うのもなんだけど、元が絶世の美少年だ。
ウィッグの銀髪と、レースとパニエでふんわり膨らんだピンクのスカート。
どこからどう見ても完璧なお人形さんみたいな美少女。
「お、俺でよければお供しますよ! レディアーナ様をお守りすること、この剣に誓って!」
即答だった。単純すぎる!
でも、これでボディガードは確保。
ボクはアギルを従え、うきうきで城下町へと繰り出した。
「わあ……♡」
夕暮れ時の城下町。オレンジ色に染まる風が、ボクのスカートと銀髪をふわりと揺らす。
女の子の服って、風の感じ方が全然違う!
歩くたびにフリルが揺れて、足元から甘いパニエの擦れる音がする。
自分が最高に「可愛い女の子」になっているという快感が、全身を駆け巡った。
(ナディールのドレス、最高……ぉ! 政治の勉強なんて忘れて、ずっとこの姿でいたいよ!)
街角の鏡に映る自分にときめいて、風にスカートを揺らして胸を躍らせる。
変身のフェチズムに酔いしれていた、その時――。
「……ん? そこにいるのは……アギルか?」
心臓がドキンと音を鳴らした。
夕闇の向こうから歩いてきたのは、一番会いたくない相手。
宿敵、政敵、最大のライバル、従弟のレオンハルトだった。
(げっ……レオンハルト!?)
彼は、剣でも勉学でも、いつもボクの後塵を拝していることを根に持っている。
もし、この「女装」がバレたらどうなる?
『皇子レナースはドレスを着て街を徘徊する変態だ!』なんて言いふらす。
そう、鬼の首を取ったように失脚させられるに決まっている!
「アギル、そんなところで何をしている? ……それに、その隣の女は誰だ?」
レオンハルトの鋭い視線が、ボクへと向けられた。
アギルがサッとボクの前に立ち、誇らしげに胸を張る。
「レオンハルト殿か! こちらはレディアーナ様だ。訳あって俺が警護をお引き受けしている!」
(アギル、余計なこと言わないでー!)
レオンハルトはジロジロとボクを頭から足先まで観察し始めた。
ピンクのフリル、キュッと絞られたウエスト、そして……ボクの顔。
(やばいやばいやばい! 距離が近い! バレるぅぅ……!)
ボクは必死にうつむき、萌え袖にした両手で顔を隠す。
冷や汗が背中を伝い、ドレスのシルク生地を濡らしていく。
「ふん……。ずいぶんと可憐な令嬢だな」
レオンハルトがふっと目を細めた。
終わった、とボクは目を瞑った。
「だがアギル。お前のような無骨者に、このような繊細で美しい姫君の護衛が務まると思うか?」
「な……なんだと!?」
「レディアーナ様。このような粗野な男ではなく、この私め……レオンハルトが、貴女を安全にお送りいたしましょう」
レオンハルトは優雅に膝をつき、ボクの手を取って――その甲に、うっとりとキスを落とした。
「……えっ?」
「ちっ!? レオンハルト、貴様ズルいぞ!」
(ええええええっ!? バレてない!? ていうか、ライバルのレオンハルトまでボクに惚れちゃったの――!?)
バレたら人生終了の危機から一転。
男の子たちの熱い視線を独占してしまったレナース、いや、レディアーナの乙女(?)心は、恐怖と、さらなる異常なときめきで、破裂しそうになっていた。
つづく




