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かげろうの"姫" ③ 女装でお出掛け!! バレたら失脚、男の娘・皇子!! ~影狼の帝都・外伝

「おい、そこの不審者! レディアーナ様から手を離せ!」

「ふん、粗野な男にこの可憐な姫君を守れるものか!」


(ちょっと待って、ボクを奪い合わないでーーー!?)

……なんて、心の中の大悲鳴はなんとか口からもらしそう。


ライバルのレオンハルトに手を取られ、親友のアギルと睨み合いになられた時は生きた心地がしなかったけれど。

二人が勝手に張り合って勝負を始めた隙をつき、ボク

――皇子・レナースは、パニエのフリルをシャカシャカ鳴らして全力で逃走したのだった。


     ◇


「はぁ……はぁ……! む~、胸が苦しい……」


なんとか自室の隠し通路へ滑り込み、バタンと扉を閉める。

心臓がバックバク言っているのは、走ったからだけじゃない。


「ふぅぁ……助かったぁ……」


手入れの行き届いたベッドに倒れ込む。

身に纏ったピンクのドレスが、ふんわりとボクを包み込んだ。


背中のリボンを必死にほどき、締め付けから解放される。

パニエを脱ぎ、銀髪縦ロールのウィッグを外すと、いつもの鏡に映るのは

……どこかポッとした顔の、男の子のボクだ。



「バレなかった……ううん、それどころか……」


レオンハルトの、あの熱い視線。

アギルの、必死な顔。

男の子たちから「守るべき可憐な美少女」として扱われたあの感触が、心に残って消えない。


(ボク、ホントに可愛かったのかな……♡)


危険すぎる火遊びだったはずなのに。

ドレスを脱ぐのが、なんだか少しだけ、勿体なく思えてしまった。


       ◇



翌日。夕暮れ時の家庭教師の時間。


「……で、ですから! 帝国の税制改革においては、この二点が重要で……ちょっと、聞いてます? レナース様~」


「ひゃいっ!?」


机のすぐ隣に座るナディールが、ふっと妖しい笑みを浮かべた。

相変わらず麗しい胸元と、綺麗な顔立ち。

母上直属のボディガードにして、ボクの家庭教師だ。


そして、最強の魔導士らしいけれど……それはうわさに過ぎない。

最強に可愛いお姉さまであることは間違いないけれど。


「本日は随分と勉強に集中されていらっしゃいますね。……昨日のように、居眠りをして私のお胸に飛び込んでくることもなく」


「う、うるさいな! ボクだってやるときはやるんだよ!」


「ふふ。それにしても……なんだか顔色がよろしくありませんね? 少しお顔が赤いような」


「き、気のせいだよ! 部屋が暑いんだ!」


ナディールはすっと立ち上がると、ボクの机の横に寄り添った。

ふわリと漂う、甘い香水とフェミニンな香り。


彼女はボクの耳元に顔を寄せると、可憐な唇を小さく開いた。


「レナース様。私のクローゼットにあった……『例のドレス』、どこへ行ったかご存じありませんか?」


「や、やばぁ――――!?」


冷や汗が背中をダラダラと吹き出す。


「さ、さあ!? 知らないよ! ナディールの服なんてボクが知るわけないじゃないか!」


「そうでしょうか? 昨夜、城下町で『銀髪縦ロールの絶世の美少女』が二人の騎士を狂わせていたという噂を耳にしましたけれど……」


「な、ななな、なんのことかなーーー!?」


裏返った声を出すボクを、ナディールは面白そうに、いとおしそうに見つめている。


(バ、バレてる……!? いや、でもハッキリ『お前が着ただろ』とは言われてない! カマをかけてるだけかも……)


そわそわ、ドキドキが止まらない。

ボクの慌てぶりを楽しんだナディールは、「では、今日の講義はここまで」と優しく微笑んで、部屋を去っていった。



          ◇


「ふぅ……あ、危なかった……命が縮んだよ、ナディ~」


ナディールが帰り、一人になった自室。

机に突っ伏して深呼吸をする。


(もうダメだ、あんな危険なこと、二度とやらない! 女装なんて二度と……)


そう決意して、着替えのためにクローゼットへ向かったボクは――絶句した。


ベッドの上に、ポツンと置かれた『新しい箱』。


そこには、フリルとレース、そして可憐なリボンがこれでもかとあしらわれた、純白とブルーの「お姫様ドレス」。


わざとらしく畳まれていた。

さらに、添えられた小さなメッセージカード。


『万が一の避難用に。レナース様のお好みに合えば幸いです♡ ナディールより』


「……!」


完全にバレている。

バレているけれど……これは、彼女からの『許可』であり『誘惑』だ。


ボクは吸い寄せられるように、箱の中のドレスに触れた。

滑らかなシルク。レースの繊細な触感。

昨日知ってしまった、「可愛くなれる」という甘美な快感が、胸の奥で一気に燃え上がる。


「ナディールの意地悪……。こんなの置かれたら……」


ボクはドレスを胸に抱きしめ、鏡の前へと歩き出した。

顔を赤く染めながら、唇をキュッと結んで。


「えっと、一回だけ。試着するだけ……だからね……♡」



          完






☆ 本伝『影狼の帝都』もよろしくね♪ 

  本伝の方はもうちょっとシリアスな物語になります、TSしちゃう~♡

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