第09話 『合成機能が解放されました』
入学三日目――水曜日から始まった俺のゴミ捨て場生活。
いや、さすがにここで生活まではしてないんだけどさ。
それから四日経った今日の土曜日。
ついにアイテムボックスがレベル5まで到達!
「長かった……そのへんの運動部の十倍くらい疲れた……」
そして思い知ったのは学園内の情報の広がりの速さ。
確かに普通科の生徒には最初から注目されてたし?
そいつらに通報されて地味系三十路女教師に注意もされたし?
少しは目立ってるんだろうなー? とは思ってたけど、多少どころか翌日にはほぼ校内全域に
『午後になると普通科の校舎裏手で反復横跳びしてるおかしな新入生がいる』
ということが伝達されていたと言うね。
まぁ遅いか早いかだけで噂話なんてそのうち広がるモノだから、それはどうでも良いんだけどさ。
「……どうしてみんな底辺スキルだと認識されている(というかゲームでも九郎はそういう扱いだった)アイテムボックスではなく反復横跳びに反応するのか?」
ほら、俺ってゴミ捨て場にいるんだよ?
手で拾ってるわけじゃないから分かりづらいけどゴミ拾いしてるんだよ?
一応一人というか一組だけ、『ゴミ拾い(それ)』を理解して、律儀に小馬鹿にしに来てくれた連中がいたんだけどさ。
「ハッ、ハハハハハ! おいおいおい! こんな所で何やってんだよお前!!」
「晴明、人のことを指さすのはとても失礼な行為よ」
反復横跳び休憩中、座り込んでいる俺を見て心の底から愉快そうに笑うのはもちろん葛葉。その隣、少々ズレたツッコミを入れたのは『後北条蓮華』。ゲームヒロインの一人で、葛葉の幼馴染だな。
もちろん指さしてるのも失礼だろうけど……どちらかと言えば大声で笑ってることの方が失礼じゃないかな?
「何だよそれ? もしかして荷運び人からゴミ回収に転職でもしたのか?」
「おう、そうだぞ!」
そうそう、俺が欲しかったのはソレなんだよ! 分かってるじゃないかお前!
ゴミ捨て場にいるゴミスキル持ちの新入生に投げ掛ける言葉はそうじゃなきゃ駄目だよな!
ちょっとだけ嬉しくなってにこやかに答えた俺。
口元を引き攣らせながら言葉を失う葛葉。
その後ろで小さく「あ、あはは……」と乾いた笑いを浮かべる九重。
他にも二人ほどいるのだが……俺とは関わることもないヒロインたちだしどうでもいいな。
いや、どうでもいいと言えば葛葉がわざわざ俺の様子を見に来たことだってものすごくどうでもいい話なんだけどさ。
ていうか葛葉。もう異界に入ってるはずなのに、わざわざ時間を浪費してまで俺の様子を見に来るとかなんなの?
もしかして俺のことが気になって気になって仕方がないツンデレ……だったとしたらとても気持ちが悪いのでこれ以上考えるのは止めておこう。
――まぁそんな主人公様のことはさておき。
レベルが『5』まで上がったアイテムボックスの話の続きである。
『いや、アイテムボックスのレベルとか上がってもどうせ容量が増えるだけでしょ?』
確かにそれもある。最初は十枠しかなかった収納スペースだって今では五十枠まで増えたからな。
もっとも五十枠になったとはいえ、それでも少なく思えるかも知れないが。
でもほら、魔石とか薬草なんかのいわゆる『汎用アイテム』は一枠につき最大九百九十九個まで入るし?
よほど装備品やイベントアイテムを溜め込みでもしない限り容量不足で困ることはない……話が少し逸れたので、スキルレベルの話に戻す。
そう、アイテムを入れる枠が増えたところでそこまで大きなメリットにはならない現状、それなのにどうして俺がここまで必死になってスキルレベルを上げていたのか?
理由は簡単。スキルレベルが『5』や『10』といったキリの良い数字に到達するたび、新しい機能が追加されるからだ。
そしてアイテムボックス・レベル5で追加される機能、それは『合成』。
複数の同素材を消費することで、上位素材へと変換する機能。
例えば『低品質の魔石や薬草を複数個消費してより品質の高い素材にする』こと。
スキルレベルさえ上げれば物語終盤でしか手に入らないランクの素材まで合成することが出来るのだ!
……もちろんそれを使いこなせるかどうかはまた別の話になるんだけどな。
『いやいやいや! それってアイテムボックスじゃなくて錬金術師の仕事だろうが!!』
確かにそうだ。俺だってそう思う。
でもほら、ソシャゲのアイテムボックスだって似たようなことできるじゃん?
うん? あれは画面を移動する手間を省いてるだけで、実際には専用の施設を使ってる(という設定)って?
……俺が便利ならそんなこまけぇことはどうだっていいんだよ!!(暴論)
ゴミ捨て場に捨てられているゴミ――正確には『ランク無し廃棄物』である『壊れた魔石』をアイテムボックスに詰め込めるだけ詰め込む。
50枠×999個。冷静に考えれば結構なゴミの山である。
『貝塚じゃないんだから、学校のゴミ捨て場にそんな大量に資源ゴミがあるはずがないだろう!』って?
ほら、そのへんはゲームの仕様だから! 苦情は開発元に言ってくれ。
「何はともあれ、これで第一段階はクリアってとこだな」
もちろんまだまだ最低限の用意が出来ただけ。
さっそくではあるが能力管理デバイスからアイテム一覧画面を開くことに。
……いや、合成ってどうすればいいんだ?
浮かび上がったホログラムを前に右往左往する。
ゲームだとパッドを操作するだけなんだけど……ああ、なるほど!
合成したいアイテムのところをタップすれば良いのか!
ていうかこのホログラム画像、指で触れるってどんな未来技術なんだよ……どうやら科学と魔導学の融合らしい。説明文に専門用語が多くて俺にはちんぷんかんぷんだけどな。
まぁそんなことはさておき! 今は合成の続きである!
アイテム欄の一マス目にある壊れた魔石をタップ。
『壊れた魔石5個をF級魔石1個に合成しますか?』
と表示されたので、すかさず合成を実行!
……その瞬間、『ポンッ』と目の前に一個の魔石が浮かび上がった――かと思ったらポトリと足元に落ちた。
「……あれ?」
作ったアイテムって外に出る仕様だったっけ?
ゲームだとそのままアイテムボックスの中に収納されたような……ああ! 今はアイテムボックスが満タンだからか。
とりあえず一マス分開ける――いや、一マス開けようと思ったらアイテムの取り出しにMPが999必要じゃん!
……ここから反復横跳び5000回追加するとか絶対にしたくなんだけど?
そこまで多くないが、未だに普通科その他の生徒に観察されている不審者。
この上何も無いところからポトポトと何かの排出を始めたらどんな噂が立つかわからない。
「家で出来ることは家ですればいいよな」
足元に転がった魔石をそっと拾い上げ、何も無かったかのように帰路に着くことにした。




