第10話 『魔石? いいえ、エーテル・セルです』
帰宅後――土曜の夜から日曜日にかけ、本格的に魔石の合成作業に入る。
壊れた魔石5個から『F級魔石コモン』1個へ。
F級魔石コモン5個から『F級魔石レア』1個に。
さらにF級魔石レア5個からE級魔石コモン――
「……レベル5だとF級以上は合成出来ないのもゲームの通りか」
明日からも予定通り行動できるのであれば、しばらくは魔石を大量消費することになるはず。
戦闘で使う時はもちろん、F級魔石コモン(魔力50)よりレア(魔力75)の方が強いんだけどさ。
それ以外の用途で使うなら、MP消費量(レアだとMP6消費で1個にしかならない……)も考慮する必要が出てくるわけで。
生産数と俺の体力の限界を最優先に、F級コモン(お安い方)を作れるだけストックする。
……とはいえ。
合成するためにはMPの回復が必要で、ここは学校ではなく愛しの我が家。
俺が暮らしていたワンルームマンションと比べればはるかに広い九郎の部屋とはいえど、さすがにドンドンドコドコ床を揺らしながらの反復横跳びは家族迷惑となってしまう。
「かと言って、庭でやるのもなぁ……」
ほら。学校には他人しかいないけど、家には美人の母上と可愛い妹様がいるじゃん?
そんな二人から「最近息子(兄)の様子がちょっとおかしいんだが?」なんて思われたり友達と噂されたりしたら凹んじゃうじゃん?
ベッドの角に腰掛け、考える人ポーズで俺は考えた。
……何も思い浮かばなかったので、一休さんの姿勢に変更した。
考えた。(ポクポクポクポク……)
必死に考えた。(ポクポクポクポク……)
……閃いた!!(チーン!!)
『マス移動するだけでいいなら、なにも横移動に拘らなくても縦移動で良くね?』
である!
「フッ、我ながらなんたる才能……」
もちろん反復横跳びには反復横跳のメリットがあるんだよ?
ジョギングするほどのスペースが必要ないし、木曜日には『反射神経上昇・レベル1』ってパッシブスキルまで生えてたし、土曜日にはそれがレベル2まで上がってたし。
引き続き学校ではレベルMAX(たぶんレベル10)まで続ける予定だけど――それはそれとしてなのだ。
タンスをガサゴソと漁り動きやすい服を探す。
「おっ! おそらく買ってからほとんど使ってない雰囲気の真新しいスポーツウエア発見!」
ちゃちゃっと着替え、首にタオルを掛けながら階段を降りた先のリビングで――
「ちょっとそのへん走ってくるわ」
「全裸で?」
「なんでやねん」
ソファーにだらっと垂れ下がっていた瑶子に声をかけて玄関前で膝を曲げて軽く屈伸運動。
「……ジョギング、反復横跳びと比べたらまったく疲れねぇな」
次の曲がり角まで走ってから能力管理デバイスで確認したところMPはちゃんと回復してた。
週末二日間――実質日曜日だけで合成できたF級魔石の数はおおよそ1500個。
250歩走るだけで休憩が出来るジョギングとか楽勝! ……というわけでもなく。
目的も無く……はないんだけど、同じことを延々と繰り返すとかすげぇ飽きるんだよ!
……そんなこんなで頑張って合成した魔石。
「ゲームだとF級でも300円で売れたんだけど、ここでも売れるのかな?」
スマホで『魔石 F級 値段』と検索をかける。
当然のように未使用品限定だけど売値が300円、買値は500円という相場は全国共通らしい。
「なるほど、取引価格はゲームと変わらないんだな」
ちなみにこの世界での魔石の立ち位置は『物凄く効率の良い電池』。
正式名称は『エーテル・セル』と呼ばれているらしい。
F級でも単一電池数十本分のパワーがあるみたいで、電池というよりバッテリー扱いだな。
もちろん使われ方も電池と大差なく、電化製品(エーテル製品?)を動かしたり車を走らせたり。
俺達みたいな超常現象調査員――P・Iにとっては装備品の『エネルギーパック』にもなる。
そう。この世界の銃はレーザーを打ち出す『魔銃』だし、剣も刀身にビームをまとわせる『魔剣』。
防具に至っては、身の回りにバリアを張り巡らせる『エーテルフィールド発生機』なんていう未来アイテムまで使われているのだ!
とりあえずブレイクスルー起こしすぎだろ科学。
そんな万能燃料である魔石を毎月どころか毎日。
肉体を酷使すれば酷使するほど、通常のP・Iが異界に潜って手に入れる何倍何十倍もの数量を生み出すことが出来るようになった俺。
それを右から左に流すだけで大金持ち!
将来は左うちわでお札風呂でハーレム――などという美味しい話は早々無くて。
ほら、ここってゲームの世界。それも『鬱ゲー』一歩手前の魔人戦記の中(?)じゃん?
さすがに一作目では『攻略失敗』でもそこまで大きな話にはならないんだけど……。
それでも黄龍学園を中心に街が五つ六つは消滅しちゃうじゃん?
ちなみに二作目で首都、三作目で日本全土。四作目以降は当たり前のように地球が滅ぶというね。
「……いやこれ、黄龍学園が舞台になってる一作目だけど、世界線そのものは未来と繋がってるんだよな」
一応四作目以降は近未来の話なんだけど……始まる年代と九郎の年齢を考えればまだまだアラフォーくらいなわけで。
「さすがにそこまで先の話を今から考えても仕方ないか」
そもそも俺なんて、本来ならチュートリアルで死んじゃうモブキャラなわけだし?
「ここは一作目の主人公である葛葉晴明に頑張ってもらえば何の問題も無い! ……と、言い切れない程度にはあいつの行動が怪しいんだよなぁ」
そこに追い打ちをかけるように『俺が死なない』――九重にアイテムボックスが移らないことで、そこそこストーリーの流れが変わっちゃうだろうし。
中ボス程度なら葛葉が失敗しても、ある程度は蘆屋が尻拭いしてくれたりもするんだけどな?
さすがに脳筋の蘆屋だってラスボスを倒すほどにははっちゃけてくれなかった。
というより主人公がラスボスにたどり着いた時には先に戦っていたらしいあいつのパーティは既に全滅してた。
「ていうかそのライバル自体がTSして女の子になってるからシナリオがどう変わっちゃうか見当もつかないんだよな」
流行り物のラノベ主人公なら葛葉のことを影に日向に手助けしたりするんだろうけど。
「せっかく社畜生活を抜け出せたのに、そんなストレスで胃潰瘍の出来そうなことしたくねぇ……」
だってあいつ、まともに話の出来ないタイプじゃん!
関わるだけで時間を無駄にしたと後悔する人間じゃん!
かと言って自分でラスボスを倒すとかさらに苦労を背負い込むのも嫌だし……。
「……とりあえず玄真と同じ蘆屋姓だし、朔夜ちゃんに頑張ってもらうしかないかな?」
もちろんあの子はあの子で会話にならない可能性が大いにあるんだけど……美人さんだし、ツンデレだと思えばギリ我慢出来る! ……と思いたい。




