第11話 『芦屋朔夜とのファーストコンタクト』
場所は変わって――というか普段通りのC組教室。
さすがに一週間も経てば落ち着いたとは言え、相変わらず人気者の芦屋朔夜。
まぁそれもレア職を引いたんだから当然といえば当然だけどな。
そんな蘆屋を今日はチラチラと観察。離れた場所から情報収集する俺。
一限目 異常なし。
二限目 変化なし。
三限目 休み時間に廊下へ。
四限目 何もなし。
「我ながら何なんだこの観察力の無さは……」
どうやら俺の将来に探偵業という選択肢は無いみたいだ。
それでも、少しは分ったこともあるんだよ?
それは『彼女の育ちがとても良い』ということ。
授業中であろうが休み時間であろうが、椅子に腰掛けるその姿勢がとても綺麗だった。
さらに、入学してからあいも変わらず『誰に対しても分け隔てなく塩対応』なこと。
俺とは違い男女分け隔てなく話しかけられてはいるのだが。蘆屋の口から出てくるのは、
「そうか」
「必要ない」
「結構」
「貴様には関係ない」
一言というか、片言の返事だけ。
つっけんどんとか高圧的通り越してただのコミュ障である。
「さすがにあれは酷すぎるだろ。あいつ、パーティでは上手く立ち回れてるのかな?」
……立ち回れてるどころか、そもそもパーティを組めてなかった。
あなた主人公のライバルですよね?
それが一人ぼっちでソロダンジョンとか何やってんの?
『一方通行で行き止まりだと? なら突き当りの壁を壊せばよかろう』
でおなじみ(?)の、芦屋玄真ですら六人パーティを組んでたんだぞ?
いや、あいつの場合は凄まじく顔と家柄が良かったから女子が勝手に集まっただけだったか。
もっとも朔夜の方だって玄真と同じく美形だし、異性が大量に寄って来てはいるんだけど。
「……そんな気持ちの悪い連中と一緒に行動するようにも見えないしな」
このままだとボス討伐を押し付けるどころか、主人公の当て馬にすらならないんじゃないだろうか?
葛葉のせいでお前の両肩にはこの街、この世界の未来が掛かってるんだからもう少し頑張ってくれないと困るんだけど?
などと、いつまでも他力本願している状況でもないんだよなぁ……何より時間がもったいないし。
仕方なく、本当に仕方なく彼女を囲む集団に紛れ込む俺。
「蘆屋朔夜。ちょっと聞きたいこととかあるんだけど、一緒に昼ごはん出来ないかな? 当然割り勘。できれば二人きりで、静かな場所だとなおよし」
人のことをコミュ障だとか言っておきながら思ったよりも不審な誘い文句になっているが気にしてはいけない。
だってほら、最近は家族以外と話してないし……知らない女の子に話しかける時、声が小さくなっちゃうのも仕方ないよね?
もっとも、そんな俺の声でもちゃんと聞こえていたんだろう。
キョトンとした顔をしたかと思えば口元を少しだけ動かし、いつもの張り詰めた表情を緩める蘆屋。
「……駿河九郎。それは私のことを誘っている、で良いのだよな?」
……罵倒されるのも覚悟の上だったのに普通の返事が返ってきただと!?
「おう。誘ってるというか、情報の共有がしたい?」
「なるほど。しかし、それならそれで割り勘というのはどういうことだ? こういった場合、男なら全部支払うモノではないか?」
「なんとなくだけど、蘆屋は初対面の相手に気分良く奢ってもらうようなヤツじゃないだろ?」
ソースはもちろんゲーム中の三択会話。
もっとも朔夜ではなく玄真の好む答えなので、これで正解かどうかは――あっ、彼女の表情がさらに柔らかくなった。
「クッ、ククッ、フフ……ハハハハッ! その通りだ駿河九郎。見ず知らずの、どんな下心があるかわからんような人間になど少しの借りも作りたくはないからな」
そう答えたかと思えば、無駄のない動きで席から立ち上がった蘆屋。
教室の前扉の方へ歩き出したかと思えば、
「どうした? 早く来い」
「お、おう」
振り返り、ポカンとしたままの俺のことを呼ぶ。
いや、行くなら行くでなにがしかを伝えてから動けよ! まったく、これだからコミュ障は!
ため息を付きながらも、小走りにそれを追いかける俺。
残された男子生徒からの尋常じゃない圧を背中に感じながら、三歩ほど距離を空けて彼女の後をついていった。
画面越しでは何度も見ているが、実際に足を運ぶのは初めての黄龍学園の学食。
テラス席まであったりして、学食っていうよりおしゃれなカフェって感じだけど。
メニューはビュッフェオンリー、お値段は五百円というお求めやすさ。
思ったよりガッツリと、それでいて華やかに料理を盛り付けて席に戻ってきた蘆屋。
俺? 俺はほら、全体的に茶色い感じで。
サラダ? コーンスープがあれば良かろうなのだ!
ていうか学食イベントに出てくるヒロイン。
やたらきつねうどんをちゅるちゅるしてるイメージがあるのって俺だけ?
ナフキンを膝に乗せ、水の入ったグラスに口を付けた彼女と二人。
向かい合って、カトラリーの音だけを無らしながらのんびりと食事を――
「……駿河九郎。貴様の前にはこの私が居るのだぞ? 会話に花を咲かせろとまでは言わんが、さすがにそちらから誘っておいて黙々と食事をするだけなのはどうなのだ?」
いかん。『美少女とのランチタイム』というアラサーのオッサンには起こり得ない、それを実現するためにはそれなり以上の金銭の支払いが発生するであろうイベントを全力で楽しんでしまった。
もちろん正直に、そんなことを伝えてしまえばドン引きされるだけでは済まないので、
「はは。教室は毎日、あれだけうるさく絡まれてるだろ? だから食べるときくらいは静かなのも良いかと思ったんだけど……もしかして挙動不審にでも見えたか? ぶしつけな目は向けてなかったと思うんだけど、視線を向けられるだけで不愉快とか言われると、さすがにどうしようも無いんだけど」
それっぽいことを言って流す。
「ふふっ、確かに貴様は目つきが鋭い時があるからな。しかし、クラスに居る連中のように下卑た目をしてるとは思わんぞ? ……というか貴様は妙に場慣れというか女慣れしているようだが」
「もしかして、入学以来教室内でボッチを満喫してる俺のことディスってる? まぁ女子とご飯を食べるってだけならうちには妹がいるし幼馴染だっていたからな。……ほら、先週の火曜だか水曜だかに男連れで教室に来てただろ?」
「……ああ、そう言えば不愉快な顔を連れて貴様のところで騒いでいた女が居たな。というか貴様はあのクズ……ノハとは面識があるのか?」
「面識というか他人以上顔見知り未満? あいつが俺の幼馴染――九重と一緒に居るところに遭遇したことがあるだけ」
「……それは大丈夫なのか? それなりに見目の良い娘だったように思えたが? 一応忠告しておくが、あいつは昔から女癖と性格がすこぶる悪いぞ?」
「大丈夫も何も、九重とはそういう間柄では無いからな。でも気遣いには感謝するよ」
「そうか、なら良いのだが」
そう言いつつも少し目尻を下げ、心配そうにこちらを見つめる蘆屋。
「というか蘆屋の方こそ葛葉と知り合いだったのか? なんとなくあまり良い印象を持っていないようにも見えるけど」
「知り合いといえば知り合いになるか。私のというより弟のだが。中学時代に色々と因縁のあった相手だな。もっとも、弟は弟で問題のある人間でな。本当ならあいつも、今年からこの学校に通うはずだったのだが……」
『弟』の話になった途端、楽しそうにしていた彼女の表情が憂いを帯びたものに変わる。
今年から『通う予定』だった弟。
彼女とは同い年――つまり双子ってことかな?
蘆屋玄真が居なくなった原因って……。
「弟さん、もしかして事故か病気に――」
「いやいや、あいつはすこぶる健康だぞ? 悪いのは頭だけだからな」
……それって入試に落ちただけだよな?




