第19話 『スキルがないなら、スキルを取れるまで稽古すればいいじゃない』
葛葉の心無い発言により。
俺が元いた世界なら『セクハラ』では済まされないレベルの暴言によって、ゲームキャラとしてのアイデンティティに深い傷を負ってしまった水無瀬たち。もっとも、その傷の八割くらいは水無瀬が占めているのだが……。
そんな彼女たちを、どうにかこうにか言いくるめ――というのは、さすがに人聞きが悪いな。
「まぁ、その……なんだ。なぜか、本当になぜかわからないが蘆屋を筆頭に! とんでもない勘違いをされていたみたいだけど。ここまでの話で俺だってあいつの被害者だということは分かってくれたと思う」
「貴様の幼馴染もあのクズにネトラレたようなモノだものな」
確かに駿河九郎は九重牡丹のことが大好きだったけれども!
「だからここで先に誓っておこう。少なくとも俺は水無瀬にも神楽坂にも、言わずもがな藤宮になんて恋愛感情どころか友情すら抱かないということを」
「どうして私だけ個別に宣言したのよ!? もちろん私だって、見ず知らずのあなたに特別な気持ちなんて持っていないけど! でもほら! パーティに誘うのなら! せめて友情くらいは感じてほしいんだけど!?」
そんなこと言われても……ねぇ?
藤宮。下手に色恋を匂わせると、それまでがどれだけ疎遠だったとしても、全力で自分ルートに固定してくる『一途』なキャラだし。
「あれだぞ藤宮。これだって、ある意味お前だけを特別扱いしてるってことなんだぞ?」
「特別扱い!? ……そうなのかしら?」
などと適当な説明でスルーする俺。
もっとも、当の藤宮はと言えば小首を傾げたかと思えばまんざらでもなさそうな顔で俯き。
上目遣いでチラチラとこちらを意識してますよアピールを始める。
……お前、そういうとこやぞ?
ちなみに、さっきの発言で重要なのは、天逆の名前が入っていなかったことである。
「まぁ、そんな藤宮の戯言とおバカな男の話はさておき。正直なところ……どうよ? 俺も含めてここにいる全員が、まだ異界には潜ってないんだよね? まさかこのまま卒業まで入らないつもりってわけではないと思うんだけど」
さすがにここで『入らないよ!』と言い切る奴はいないと思いたい。
「そりゃまぁ。親方……じゃなくて、お義父さんの勧めもありましたし。せっかくこの学校に入学したんですから、多少はレベルも上げたいですし」
「僕だって。異界に入らないと鉱石が掘れないからね? 最悪はムーちゃんと二人で行こうと思ってたよ?」
「妾は別に。異界なんてどうでもよいのだが……。でも、そなたがどうしてもというのなら?(チラッ、チラッ)」
「ほら! うちはこう見えて忍ぶ者だから! 誰にも誘われなく……誰からも認識されなく……うっ、ううっ……一人ぼっちは嫌ぁ……!」
『本当に大丈夫なのか、こいつらは?』
そんな顔をしているのはもちろん蘆屋朔夜。……いや、その気持ちはとてもよく分かるけどさ。
藤宮は異界に出会いを求める直結厨なところがあるし、天逆なんて突き抜けた陽キャギャルな外見のくせにネガティブ思考に陥ると、とたんに情緒不安定になっちゃうし。
「だったらまずはお試しってことで! 夏休み前まで一緒に行動してみるってのはどう?」
さすがに自分でも、ちょっと後ろ向きな提案だと思わなくもないけど……集まってもらったメンバーが全員『陰の人』だからねぇ。
ウエィウエィした雰囲気で『ヤッてやるぜ!』みたいな音頭を取っても『おー!!』と返事してくれる人が居るはずもなく。
「……まぁせっかくこうして集まったことですし、夏休みまでだったら。でも、勘違いはしないでくださいね? あくまでも様子見ですからね?」
最初に返事をくれた水無瀬が念を押すように一言。
「そうだね。君はともかく、他の人は全員女の子だし。男の子に囲まれることを思えば安心かな?」
続いて神楽坂がジッと俺を見ながら頷く。
「……妾は、大勢の男衆にかしずかれるのも悪くはないと思うがの」
などと上から目線の藤宮だが、恋愛経験どころか男友達すら居たことはない。
「ふふっ。そこまで言われたら? うちだって力を貸してあげなくもないかな? いやー、これでも引く手あまたなんだけどなー? 仕方なく! 本当に仕方なくなんだから!」
そして最後は、一体誰にマウントを取ってるのかわからない天逆。
それぞれの理由はどうであれ。
これでひとまずパーティ結成に向けての第一歩は踏み出せた――はずである!
「フッ、俺たちの本当の戦いはここからだ!!」
「そこはかとなく打ち切りエンドを彷彿とさせる縁起の悪そうな発言は控えろ」
ちょっとしたハプニングというか、『主人公の置き土産』とでも言うべき嫌がらせ(?)のせいで、思った以上に時間が掛かってしまった新パーティ結成。
もっともメンバーが集まったからといって、すぐに黄龍学園内にある『境界門』へ潜るわけではなく。
ほら、今回集めたメンバー。
第一線で戦える蘆屋と、前衛も後衛もこなせるけど今ひとつ決め手に欠ける天逆を除けば、全員がサポート職じゃないですか?
それでも頑張れば、F級、E級異界くらいなら攻略できないこともないんだけど……下手に怪我をするのもつまらないし。
繰り返しになるけど俺の死亡原因。
最初に接触することになるであろう魔人、『幻夢姫』と呼ばれる、夢魔系の魔人とエンカウントしちゃったら全滅待ったなしだからね?
境界門に潜るのは、せめてそいつを撃退出来るだけの力を身につけてから――
「……てことで。まずは俺を含めたサポート職の面々が異界で戦えるようになるための下準備。ついでに蘆屋と天逆の戦力が『倍』になるように訓練をしておきたいんだけど」
「訓練だと? わざわざそのようなことをしなくとも……。とっとと異界に入り怪異を倒せば、レベルなどそのうち上がっていくモノだろう?」
「戦闘職の人っていつもそうですよね!? 私たちサポート職のことをなんだと思ってるんですか!?」
「何を言っているのだ貴様は?」
不思議そうな顔で俺のことを見る蘆屋。
戦闘職のこいつには興味が無いであろう、サポート職がサポート職たる所以。
それは『戦闘に役立つスキルをまったく持っていない』ということ。
もちろん剣を振り回すことも、飛び道具を撃つことも出来るんだけどね?
まぁその攻撃が当たらない当たらない……。
言うまでもなく、攻撃がハズレればダメージだって入らない。
ゲームなら『はいはい、役割分担役割分担』で終わる話――というか、ゲームだとサポート職のスキル。
俺を筆頭に、主人公またはヒロインに吸い取られがちなんだけどな!
てなわけで、サポート職が戦えるようになるにはどうすればいいのか?
一言で言うなら、
『スキルがないなら、スキルを取れるまで稽古すればいいじゃない』
そうだね! チートや裏技ではなく『努力の積み重ね』だね!
もちろん、これも一作目には実装されていない要素なのだが。
その稽古に必要なのが『魔銃』と呼ばれる後衛職向けの魔装具だった。
しかし、問題になってくるのはそのお値段。
F級の魔装具、ハンドガンですら一丁あたりのお値段が五万円弱もする。
現状でも、手持ちの魔石を売り払えば。メンバー全員分を揃えることは可能な金額ではある。
可能ではあるんだけど、スキルが生えてくるほどに魔銃を撃つためには魔石が大量に必要になるんだよなぁ。
なんとも世知辛い話である。
蘆屋におねだりして用意してもらうという手も無くはないんだけど。
アラサーのオッサンがお嬢様にたかるというのも格好がつかないじゃないですか?
ちなみに、蘆屋のジョブである『弓腰姫』。
いかにも弓使いです! と言わんばかりの名称だが、実は魔銃でもスキルを発動できたりする。
というか俺が考えている戦力アップは魔銃でしか無理なので弓にこだわりがあったとしても諦めてもらうしかない。




