Scene22:『聞こえる獣』
村外れへ向かう道は、午後になっても人影がなかった。
石造りの家並みが途切れると、道は畑の間を抜け、そのまま山裾の林へ続いている。封鎖前なら、薪を拾う者や、山羊を連れた子どもが行き来していたらしい。いま聞こえるのは、風に擦れる草と、遠くで鳴く鳥の声だけだった。
少なくとも、そう聞こえているつもりだった。
私とダヴィトは、道の左右へ四歩ほど間隔を空けて歩いていた。サロメは、その中間から数歩遅れてついてくる。
私とダヴィトは、時刻を合わせた懐中時計と、小さな記録板を一枚ずつ持っている。異音を知覚しても、互いに口には出さない。まず時刻、方向、距離、変化を別々に記録し、板を伏せてから照合する。
サロメには、異音を探させない。私たちの反応と、周囲で実際に起きた変化だけを見てもらう。
私は記録板を開き、頁の上部へ、新しい記号を書く。
《GNS-B》
ダヴィトが横から文字を確認した。
「獣のような異常音源の呼称ですか。GNS-B……Bとは?」
「Beast。獣だ」
「獣だと確定したわけではありません」
「仮の分類名だ。獣に似た音と行動を持つものを、ほかの異音から分ける。正体が判明すれば改めればいい」
ダヴィトは自分の記録にも同じ記号を書いた。
家並みを抜けてからも、三人ともほとんど話さなかった。道の両側には収穫を終えた畑が続き、その先で山裾の木々が近づいてくる。林へ入る手前では、道幅が荷車一台分ほどに狭まり、片側には浅い排水溝が走っていた。
私は道の中央寄りで足を止めた。
林へ入る前に時計を合わせ直しておこうと、ダヴィトが差し出した懐中時計へ、自分の時計を並べる。二つの秒針には、半秒ほどのずれがあった。
竜頭へ指を掛けた、その時だった。突然、肩の付け根へ指が食い込んだ。
白衣ごと身体が後ろへ引かれる。靴底が土を擦り、隣ではダヴィトの背が私の肩へぶつかった。
何をされたのか理解するより先に、風が頬を叩いた。馬の黒い胴が、左肩のすぐ脇を通り過ぎる。
続いて、荷車の大きな車輪が石を弾きながら道を抜けていった。御者台の男がこちらを振り返り、何かを怒鳴っている。しかし声は、既に道の先まで離れたところから届くように薄かった。
馬車が通り過ぎてから、蹄と車輪の音が耳の中へ残った。私は道端で白衣の襟を直し、遠ざかる荷台を見送った。
「いつから来ていた?」
ダヴィトも、ずれた眼鏡を押し戻しながら馬車の背を見ている。
「車輪の音は聞こえていました。ただ、まだずっと後方にいるものと……」
背後で、サロメが黒手袋をした両手を離した。私の肩とダヴィトの上腕を一人ずつ掴み、互いにぶつけるように道端へ引き込んだらしい。
細い腕から予想するより、ずいぶん容赦のない力だった。
「怪異を見つける前に、馬車に踏みつけられるところでしたね」
声は静かだった。
乱れた黒い帽子の縁を、いつもと同じ角度へ戻している。
「もっともな指摘だ」
私は道へ戻ろうとしたが、サロメの視線が足元へ落ちた。
一度止まり、左右を確認してから道へ出る。ダヴィトは既に、記録板へペンを走らせていた。
覗くと、調査開始から十五分。発症者二名、後方より接近した馬車の音源距離を誤認、とある。
自分が轢かれかけた事実は、もう観察結果へ変換されていた。
実に冷静である。
林へ入ると、道幅はさらに狭くなった。
ダヴィトが三歩ほど先を歩き、私が続く。サロメは私のさらに後ろから、二人をまとめて視界へ入れている。
葉を落としかけた木々が斜面に並び、根元には褐色の落ち葉が重なっていた。足を置くたび、乾いた葉が靴の下で崩れる。
しばらく進んだところで、喉の奥が勝手に狭くなった。自分のものではない息遣いが、右手の斜面から聞こえた。
……低い。
鼻腔の広い獣が、地面へ顔を近づけているような音だった。
一度、大きく息を吸う。続いて、落ち葉を鼻先で押し分けるような摩擦が聞こえた。
私は足を止めた。一拍遅れて、前を歩いていたダヴィトの靴も止まる。
彼は振り返らなかった。私も声を掛けず、懐中時計を開いた。時刻を記し、その下へ方向と距離を書く。
《右前方。十五歩から二十歩。低い吸気。落ち葉を掻くような摩擦》
書き終え、記録板を伏せる。
ダヴィトも記録を終えたらしい。半歩だけ戻り、伏せた板を差し出した。私も自分の板を裏返したまま渡す。
方向は一致していた。時刻のずれは二秒。音の表現も、ほぼ同じだった。
板を返し合い、私は右手の斜面へ顔を向けた。息遣いは続いている。
落ち葉の下へ鼻を差し込み、何かを探している。呼吸のたび、湿った鼻先が土へ触れる様子まで想像できた。
一歩踏み出そうとしたところで、サロメが片手を上げた。彼女は私たちの記録を見ていない。しかし、視線は同じ方向を向いていた。
「お待ちください」
右手の林で、細い枝が折れた。続いて落ち葉を踏む重い足音が近づき、茂みの根元が揺れる。
サロメが右手を伸ばし、私の胸元を押して止めた。
枝の間から、黒褐色の背が現れる。大きなイノシシだった。
低い頭をこちらへ向け、短く鼻を鳴らす。口元には湿った土がつき、片方の牙が白く覗いていた。
サロメの腕に押されるまま、一歩下がる。ダヴィトも斜面から目を離さず、ゆっくり距離を取った。
三人が道の左端まで下がると、イノシシはしばらくこちらを見ていた。やがて首を振り、斜面の奥へ駆けていく。
枝が続けて折れ、落ち葉を蹴る音が遠ざかった。姿が見えなくなってから、私たちは先ほど音のした場所へ近づいた。
枝は、獣の肩ほどの高さで折れている。柔らかい土には、二つに割れた蹄の跡が残っていた。落ち葉の一部は鼻先で押し退けられ、その下の土が浅く掘り返されている。獣の脂と、湿った毛の臭いも残っていた。
私は蹄跡の手前へしゃがみ、縁へ指を近づけた。崩れた土はまだ乾いていない。
ダヴィトも隣へ膝をつき、先ほどの記録板を開いた。
「方向は合っています」
「こちらもだ。距離感はいまいち掴めなかったがな」
私たちが聞いたものは、そこにいた。ただし、ゴーストノイズではない。普通のイノシシだった。
安心するより先に、別の問題が残った。
異音を探しているという前提が、通常の獣音まで怪異の候補へ押し上げている。聞こえた音が獣に似ているというだけでは、何も分類できない。
サロメがいなければ、私たちは足跡を見つけるまで、実在するイノシシを未知の音源として記録していただろう。
「最初から、なかなか有意義な対照例だな」
「相変わらず、失敗を誤魔化すのがお上手ですね」
「学者の仕事の九割は、失敗に立派な名称を与えることだ」
「では先ほど馬車に轢かれかけた件にも、なにか名前をつけておいてくださいませ」
私が立ち上がると、ダヴィトは記録板へ一行加えた。
「現実の動物音との誤認例、として残します」
「今のボケツッコミも残すのかね」
「調査上、必要であれば」
何を必要と判断したのかは、訊かないことにした。
場所を変え、林道から外れた緩い斜面へ入った。先ほどのイノシシが向かった方角は避ける。木々の間隔が少し広く、落ち葉の表面も見渡せる場所を選んだ。
三人で数分待った。
鳥が一度、頭上の枝から飛び立った。羽音が遠ざかり、風が止む。
次に聞こえた吸気は、先ほどより低かった。胸の内側から響くようでありながら、位置は左前方にある。喉に水を含んだまま、大きく息を吸っている。
私は顔を動かさず、目だけをダヴィトへ向けた。彼の指も既に記録板へ動いていた。
時刻を書く。方角を書く。距離はおそらく十歩ほど。
音は一度途切れ、少し位置を変えて再び始まった。互いの記録を伏せたまま、私はサロメへ尋ねた。
「周囲に通常の獣音は?」
「いまのところ、確認しておりません」
彼女はこちらの視線を追わず、私とダヴィトの顔を交互に見ている。私は先ほどと同じ手順で記録板を交換した。
左前方。開始時刻は同じ。ダヴィトも、水分を含んだ喉の吸気と記していた。
私たちは音源を互いに教えていない。それでも、同じ場所に何かを聞いている。
私はダヴィトへ二本の指を立て、二歩だけ進んだ。落ち葉が靴の下で沈む。すると、左前方の呼吸も近づいた。
音量が増しただけではない。吸気の終わりに混じる、喉の奥の小さな震えが近くなった。
最初は木々の間にあったものが、いまは低い茂みの向こうへ移っている。
私は止まった。向こうの音も止まった。
ダヴィトを見る。彼は懐中時計を確かめ、記録板へ線を引いた。
私たちは二歩下がった。
……すると、呼吸は一度遠ざかった。だが、そこで止まるかと思った足音が地面を掻く。何かが、こちらとの距離を埋めている。
板を返し、私はダヴィトへ掌を向けた。その場に残れという合図だ。
呼吸の方を見たまま、ゆっくり一歩下がった。
吸気が止まった。
逃げたのではない。息を潜めて、こちらの出方を窺っているような途切れ方だった。
しばらくして、今度は少し右から鼻を鳴らす音がした。先ほどより近い。正面から来るのを避け、こちらの匂いを取るように回り込んでいる。
私は身体の向きを変えず、目だけを動かした。次の吸気は、さらに右へ移っていた。低く、長い。鼻先を上げ、空気の中から私の位置を探っているようだった。
そこで私が半歩退くと、呼吸がまた止まった。数秒の間を置いて、喉の奥で湿った音が鳴る。
……近い。
いつの間にか正面へ戻っている。
距離を詰める途中の音は聞こえなかった。獣が動けば生じるはずの足音も、枝の擦れる音もない。ただ、呼吸の位置だけが変わっている。
ダヴィトを見ると、彼も記録板から顔を上げていた。
私たちは動かずに待った。一度、短い吸気。続いて、鼻先でこちらを確かめるような細い音。
それから大きく息を吸い込みながら、音源はゆっくり間合いへ入ってきた。
獲物として見ているのか。縄張りへ入った異物を調べているのか。それとも、こちらの動きそのものに興味を持っただけなのか。現時点では選べない。
だが、明らかにこちらの動きに反応している気配がある
湿った呼吸が、すぐ前で止まった。
姿はない。間にあるのは、細い若木が一本だけだ。若木も、周囲の枝も動かない。
それでも、腕を伸ばせば白衣へ鼻先が触れる距離に獣の喉がある……。
私は両足を少し開いた。次に、白衣の前を外し、左右へ大きく広げる。
「スゥゥ……」
両腕を頭上まで持ち上げ、肺へ息を入れる。
「パターナルゥゥ!!ロアァァァァッ!!!!」
声を、正面の空間へ叩きつけた。
「きゃあっ!?」
背後から、場違いな可愛らしい悲鳴が上がった。振り返らなくても、誰のものかは分かる。ダヴィトが悲鳴を上げても、もう少し低いだろう
威嚇の直後、目の前の呼吸が崩れた。短く空気を吐き、地面を乱暴に掻く音が斜面の奥へ走っていく。
姿はない。枝も揺れない。だが、音だけが逃げていく。
私とダヴィトの顔が、同じ方向へ動いた。数秒後、呼吸と摩擦音は木々の向こうで消えた。
静けさが戻る。私は両腕を下ろし、威嚇によって乱れた白衣の前を整えた。
背後を見ると、サロメは革鞄を胸元へ抱えていた。灰青色の目が、いつもよりわずかに大きく開いている。
私と目が合うと、彼女は鞄を下ろし、何事もなかったように帽子の縁を整えた。
「……次回からは、始める前にお知らせください」
「予告してから吠えては、威嚇にならないだろう」
「少なくとも、味方を威嚇する必要はありません」
ダヴィトはまだ斜面の奥を見ていた。やがて眼鏡を押し上げ、私へ顔を向ける。
「逃げたからよかったものの、逆に襲ってきたらどうするつもりだったんですか?」
「問題ない」
私は胸を張った。
「私は日頃から、娘たちへ奇抜な交流を試みては殺されかけている。相手を刺激した結果、全力で襲われる状況には慣れているとも」
ダヴィトの目が、ゆっくり細くなった。
「それは、襲われても対処できるという意味ですか」
「いや。たんに殺されかけることに慣れているという意味だ」
「何ひとつ大丈夫ではありません」
即答だった。
サロメが革鞄の持ち手を握り直す。
「先生のご家庭では、それを交流と呼ぶのですか」
「無論だ。娘の全力を正面から受け止める。それこそ父親の務めである」
「受け止められていないから、殺されかけているのでは?」
痛いところを突く。だが、父性とは結果ではない。姿勢である。
私がその旨を説明しようとしたところで、ダヴィトが記録板へペンを走らせ始めた。
横から確認する。
《被験者一、突発的に奇声。両腕および白衣を展開。GNS-Bは直後に急速離脱》
その下へ、さらに一行が加わった。
《なぜか"父性"と叫ぶ。危険性を事前に検討した形跡なし》
「待ちたまえ。最後の一文は観察結果ではなく、君の感想ではないかね」
「本人の証言によって確認しました」
「私の崇高な父性理論も併記したまえ」
「調査に不要です」
「では、先ほどのサロメ女史の可憐な悲鳴も……」
「了解しました」
「消してください」
サロメの声だけが、急に低くなった。ダヴィトのペンが止まる。
私は黙って斜面へ向き直った。
……GNS-Bは逃げた。
少なくとも、父性より先に命の危険を感じる程度の判断力は持っているらしい。
音が逃げた斜面を見つめていたサロメが、革鞄を地面へ下ろした。
「既知の霊的現象、あるいは霊的存在であるかどうかだけ確認いたします」
留め金を外し、白い糸と銀片を取り出す。
「今回限りです。これ以上の調査は、感染を広げる可能性がありますから」
私たちは頷いた。GNS-Bが逃げた方向は教えない。近づいた距離も、呼吸の特徴も伝えない。
サロメは地面へ白い糸を伸ばし、木の根と根の間へ緩く渡した。銀片を数か所へ置き、方位磁針を糸の内側へ据える。
次に香草巻きへ火をつけた。細い煙が、冷えた林の空気へ上がる。
彼女は異音の場所を探しているのではない。土に残った偏りや、木々へ付着した残留。私とダヴィトの身体に、既知の死者現象と同じ反応がないか。
それを順に確かめている。
サロメが銀片を一枚持ち上げた時、斜面の奥から低い吸気が戻ってきた。
私の背筋が先に固まった。隣を見ると、ダヴィトもペンを止めている。
GNS-Bは、先ほど逃げた場所から真っ直ぐ戻ってきた。
後方に大きく回り込む。呼吸はサロメの後方へ移り、一度止まった。
……彼女は気づかない。
白い糸の張りを確かめ、次の銀片へ手を伸ばしている。
短い吸気がした。黒いコートの裾、そのすぐ横。続けて、もう一度。
位置が少し上がり、革鞄の金具の辺りで止まる。鼻先を近づけ、匂いを確かめるような吸い方だった。
サロメのコートは動かない。鞄にも、触れられた跡はない。
彼女は香草巻きの煙を見上げている。GNS-Bの呼吸だけが、彼女の身体の周囲をゆっくり移動していた。
ダヴィトと目が合った。
彼の唇がわずかに開く。私は指を口元へ立てた。
ここで警告すれば、サロメは自分の背後へ注意を向ける。
何がいるのか。どの高さにいるのか。どんな呼吸をしているのか。
知らなかったはずの聞き方を、私たちが教えることになる。
ダヴィトは口を閉じた。視線を下げ、それぞれの記録板へペンを走らせる。
GNS-Bはサロメの左側へ回った。コートの裾から肩の高さまで、短い吸気が順に上がっていき、顔の近くで一度止まる。
サロメは銀片の表面を布で拭い、反応を確かめていた。彼女には何も聞こえていない。何も見えていない。それでも向こうは、彼女を調べている。
やがて吸気の間隔が開いた。調べ終えたのか、興味を失ったのか。呼吸はサロメから離れ、木々の間をゆっくり遠ざかっていった。
彼女は最後の銀片を拾い上げ、方位磁針の蓋を閉じた。白い糸を巻き取り、道具を一つずつ革鞄へ戻す。
「既知の霊現象を示す反応はありませんでした」
立ち上がり、手袋についた土を払う。
「今回確認できた範囲では、霊的存在でもありません。ただし、反応がないことだけを理由に、何も存在しないとは申しません」
サロメは留め金を閉じた。
「私からの調査は、ここまでにいたします。以後は、お二人と現実側の状況だけを確認します」
林から道へ戻る途中では、GNS-Bの呼吸は聞こえなかった。
「何かありましたか?」
「いや、何も」
「何もありません」
声が重なった。サロメは私を見て、次にダヴィトを見た。それ以上は尋ねず、帽子の縁を指先で整えた。
林を出てから、私とダヴィトは道端へ寄った。サロメには少し前で待ってもらい、それぞれの記録板を開く。
私の頁には、サロメを中心に半円が描かれていた。背後から右肩へ。腰を通って左側へ。正面で一度止まり、林の奥へ離れる。
ダヴィトの頁にも、ほぼ同じ線があった。時刻も一致している。
彼は二枚の紙を見比べ、しばらく黙っていた。
私は記録の下へ一行を書き足した。非発症者へも接近。観察行動を示す。
ダヴィトはその文字を読み、視線を上げた。発症者にだけ聞こえる。だが、聞こえない人間を認識できないわけではない。
私たちが向こうの音を知覚しているように、向こうもまた、こちらにいる人間を何らかの方法で捉えている。
ダヴィトは記録板を閉じた。サロメがこちらを振り返る。
「一致しましたか」
「はい」
ダヴィトが答えた。
「内容もお聞きした方がよろしいでしょうか?」
私は二枚の記録板を重ねた。
「いや。知らないままでいてくれ」
サロメは一度だけ頷いた。
革鞄を持ち上げ、先に村の方へ歩き出す。林へ背を向けたまま、道の中央へ出た。左右を探ることも、後ろを振り返ることもしない。足元の石を避けるたび、黒いコートの肩が小さく上下した。
私は歩幅を広げ、彼女の左側へ出た。ほとんど同時に、ダヴィトが右側へ回る。どちらからそうしようと言ったわけでもなかった。
三人の足音が並んだ。
サロメの歩調が、わずかに緩む。
灰青色の目が私を見て、次に反対側のダヴィトへ動いた。何か尋ねかけるように唇が開いたが、声にはならない。
やがて彼女は前へ向き直り、少し乱れていた帽子の縁へ指を添えた。
——to be the next scene.




