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第3話 400年後の世界

「なんだその反応。理解できなかった? ここどこだ」

「その・・・どこってここの位置を聞くのですか」

「そう」


 アドリスの答えに、父は「何この人。自分がいまどこにいるのかもわからないのか」と言わんばかりの表情をした。


「ここはテルティア王国の東村です」

「テルティア王国? どこだ」


 聞き覚えのない王国であった。剣聖のとき、いろんな王国を回っていろんなところに行ってみたが、テルティアという王国は聞いたことがない。


「知らないんですか。三番目に大きい王国ですけど」


 そんなに影響力がある国なら俺がわからないはずないのに。


「じゃ教会はどこにあるんだ」

「教会なら村にあります」

「いや、村の教会じゃなく、聖女がいる大教会を聞いてるんだ」

「大教会ならここからすごく遠いんです。休まずに歩き続けてゆうに二週間はかかります」

「そんなの構わねえんだ。どっち方向なのか言え」

「あっちです」


 父は太陽が昇る方向を示した。アドリスはそっちに顔を向けて頷いた。


「そっか。ありがとう」


 簡単に感謝を言ってアドリスは大教会のある方向へ向かって歩き始めた。

 大教会に行って魔王討伐を報告しよう。そして、あいつが無事か確認する。


「あ、あの」


 森の中に入る直前、父がアドリスを呼び止めた。アドリスはおもむろに振り返った。


「名前を教えていただけますか。僕と娘を助けてくださった方のお名前を覚えておきたいんです」

「俺の名前?」


 まあいいっか。


「アドリス。アドリス・アングリアだ」

「アドリス、アドリス・アングリア。魔王を倒した剣聖と同じお名前ですね」

「・・・ちょっと」


 アドリスは父の方へつかつか歩いてきた。あっという間に父の前に立って彼の胸ぐらを掴んで鋭く睨んだ。


「それをなんでお前が知ってるんだろ」

「は、はい? どういう意味なのか僕はよく」


 アドリスの顔が怖く変わって父は少しビビった。


「三十九代剣聖が魔王を討伐した。それをなんでお前が知ってるんだっつってんだよ」


 アドリスは怒鳴った。どらだけ興奮したのか額に青筋が立っている。

 俺が魔王を倒したってまだ大教会に通報しなかった。あのとき、魔王城にいた人の中でこれを外へ伝える人は俺しかねえ。つまり、魔王討伐はまだ世間に知られてねえはず。なのに、こいつは俺が魔王を討伐したことを知っている。まさか魔王のやつの部下か。

 アドリスは父を鋭く睨みつけた。父の体が小刻みに震え始めた。さっき魔獣に囲まれた時より今がよほど怖かった。


「答えねえとお前を」

「父ちゃんいじめるな!」


 アドリスは言っている途中、子供の声が彼の口を塞いだ。声がした方は父の胸。魔獣たちから父に隠していた金髪の少女の声だった。少女の青い瞳は敵意を抱いたままアドリスを見つめていた。


「わかった」


 子供の声に、アドリスは一応落ち着いて父から手を離した。しかし、だからといって疑いが完全に消えたわけではなかった。


「なんでお前がそれを知ってるんだ。三十九代剣聖が魔王を討伐したことはまだ知られてねえはずだが」

「何を言ってるんですか。四〇〇年前、三十九代剣聖と聖女が一緒に魔王を倒したのは三歳の子供も知ってる有名な話です」

「なん・・・だと」


 もう世間に広まったわけか。一体誰がそれを・・・いや、待って。


「今なんて言った」

「三歳の子供も知ってる有名な話だと」

「いや、その前に」

「三十九代剣聖と聖女が一緒に魔王を倒した?」

「いや、その前」

「その前ですか。えぇと、四〇〇年前?」

「そう、それ!」


 アドリスは彼の両肩を強く掴んだ。娘がアドリスを睨んだが、そんなのどうでもよかった。


「四〇〇年前ってどういう意味だ。剣聖が魔王を倒してから四〇〇年が過ぎたってことか」

「はい。魔王討伐は四〇〇年前ですよ」

「バカな。ありえない」


 マジでありえねえ。四〇〇年だって。絶対にありえねえ話だ。さっきまで自分は魔王城で魔王と相打ちした。でも、なぜかこの体で目覚ましたけど、今が四〇〇年後の世界だと?

 アドリスはこのことを受け留めなかった。現実を否定しているところ、ある記憶が思い浮かんだ。


『アドリスそれ知ってる? 転生というものがあるんだって。人が死んだら、その魂は前世の記憶を失って生まれ変わるらしいわ』

『何バカなこと言うんだ。転生なんてありえねえだろ』 

『だよね? わたくしもそう思うわ』


 あいつとの会話が思い出した。っつか転生って本当にあるものだった?!

 アドリスは自分の両手を見下ろした。見慣れない手。元の体は水ぶくれと胼胝ができて汚かったのに

、この手は胼胝一つなく綺麗だ。


「本当に転生っていうのを・・・」


 アドリスは手を振るわせながら独り言をつぶやいた。


「しかも四〇〇年後の世界に。・・・これからどうしよう」


 アドリスは目の前が真っ暗になった。


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