第4話「戦国の影」
第4話「戦国の影」
一:それからの日々
老夫婦の庵での生活は、驚くほど穏やかに流れていった。
十兵衛は畑仕事に精を出し、宗助は老爺の善兵衛から農具の使い方を教わった。椿は老婆の花乃の家事を手伝いながら、光の世話を続けた。朝は鶏の声で目覚め、昼は汗を流して働き、夜は囲炉裏を囲んで団欒する——その一つ一つが、椿にとっては奇跡のように愛おしい日々だった。
光はすくすくと育ち、よちよち歩きを始める頃には、もう弥助の後を追いかけては転ぶのが日課になっていた。弥助は弥助で、年の離れた弟ができたように光を可愛がり、山で見つけた木の実を分け与えたり、川で捕まえた小魚を見せびらかしたりしていた。
「光! これ、食えるんだぞ!」
「ひかーる!」
舌足らずな自分の名を呼ぶ光に、弥助が得意げに胸を張る。
ある夏の日のことだった。
川で遊んでいた光が、足を滑らせて深みにはまった。弥助はためらわずに川に飛び込み、必死にもがく光の体を抱き上げて岸まで運んだ。ずぶ濡れになりながら、弥助は光の背中を叩いて水を吐き出させ、泣きじゃくる光の頭を何度も何度も撫でた。
「大丈夫だ、光。俺がついてる。絶対に離さないからな」
その言葉は、まだ幼い光には届いていなかったかもしれない。でも、弥助の目は、誰よりも真剣だった。まるで、自分自身に誓いを立てるように。
椿は、その光景を遠くから見守りながら、胸が熱くなるのを感じていた。
(これが、弥助と桃太郎の絆の始まりなんだ)
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村の鎮守の森で開かれた秋祭りの夜、村人たちが焚き火を囲んで団子を頬張る中、椿は光を抱き上げ、皆の前で高く掲げてみせた。
「この子の名は光! そして——あだ名は桃太郎!」
「ももたろう?」
「変わったあだ名だねぇ」
村人たちが首をかしげる中、弥助が大声で叫んだ。
「桃太郎! かっけぇ名前だな!」
「ももたろー!」
光が嬉しそうに手を叩く。その無邪気な笑顔に、村人たちもつられて笑顔になった。
「桃太郎! こっちだ!」
「桃太郎、団子食うか?」
そうして、いつしか「桃太郎」は光の通り名として、村中に定着していった。
椿は、自分がこの世界に来てから積み重ねてきた日々を、一つ一つ噛みしめるように思い返した。宗助を救い、十兵衛と共に山を降り、老夫婦に迎えられ、そして弥助と出会った。どれも、本編にはなかった「新しい歴史」だ。
(でも——私は知っている。この平和は、永遠には続かない)
彼女の胸の奥に、常に冷たい予感が横たわっていた。
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二:鬼の噂
桃太郎が十歳を過ぎた頃——それは、あまりにも突然に訪れた。
最初は、風の噂だった。
「隣村が襲われたらしい」
「食料を奪われて、人が殺されたとか……」
村人たちの間で、不穏な囁きが交わされ始めたのだ。最初は遠くの話だと思われていたが、日を追うごとに噂は現実味を帯びていった。
夜になると、遠くから叫び声が聞こえるようになった。風に乗って、かすかに焦げた匂いが流れてくる。村人たちの声は次第に小さくなり、道端で交わされる笑い声も、いつの間にか消えていた。
「鬼が出たんだって」
その一言が、村全体を覆う不安の正体だった。
椿の心臓が、大きく跳ねた。
(来た……本編で私が殺される、あの鬼の襲撃だ)
まだ実際にこの村が襲われたわけではない。
しかし、空気が変わった。人々の目に怯えが宿り、日が暮れると誰も外を歩かなくなった。まるで目に見えない何かが、じわじわと村を包み込んでいくようだった。
桃太郎と弥助は、その噂を聞いても怖がるどころか、目を輝かせた。
「鬼か……俺、退治してやる!」
「俺も行くぜ、桃太郎!」
二人は拳を握りしめ、今にも飛び出していきそうな勢いだ。
椿は、そんな二人を見つめながら、複雑な思いを抱えていた。
(本編では、桃太郎は春の死をきっかけに鬼退治を決意する。でも今は、まだ春は生きている。だから——鬼退治の動機が、まだ弱い)
彼女は、自分の胸に手を当てた。心臓が、嫌な予感を告げるように速く脈打っている。
(私は生きているから——ダメだ…身体が動かない…実際まだ死んだわけじゃないのに………そうか、私は現世で死んだんだ…死の恐怖が染み付いてしまった…?)
その考えは、彼女の背筋を冷たく這い降りていった。
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三:秀家の来訪
そんな不穏な空気が漂う中、老夫婦の庵に、旅の一行が立ち寄った。
身なりの良い者たちに囲まれた少年——年の頃なら十歳そこそこ。背筋は凛と伸び、幼さとは裏腹に、どこか聡明な光を宿した目をしている。
宇喜多秀家だった。
(秀家……! 本物だ……! 歴史の表舞台に立つ、生きた人間だ……!)
椿は、本編の記憶を必死にたどった。本編では、秀家はこの庵で老夫婦のきび団子を食べ、その味に心を奪われる。そして、鬼退治に向かう桃太郎と出会う——。
秀家は、老夫婦が差し出したきび団子を口にし、目を見開いた。
「この味……前にどこかで」
彼は、黙々と団子を食べ続けた。その表情は、遠くを見るようで、どこか寂しげだった。
(城で一人、窓から月を見上げていた夜。母の顔を思い出せなくなった朝。幼くして故郷を離れ、諸国を巡る旅の中で、彼はどれだけの孤独を抱えてきたのだろう)
椿は、秀家の横顔に、かつての自分を重ねていた。病室で一人、父の死を受け入れられずにいた、あの日の自分を。
椿は、秀家に近づき、静かに声をかけた。
「美味しいですか」
秀家は、椿を見つめた。
「ああ。とても美味い。この味は、決して忘れてはならない味だ」
椿は、微笑んだ。
「秀家様は、これからこの国を動かすお立場になられるのでしょう」
秀家の目が、わずかに見開かれた。
「……なぜ、それを」
「私は、ただの村娘です。でも、一つだけお願いがあります」
椿は、秀家の目をまっすぐ見つめた。その瞳には、迷いがなかった。
(私は、現代で両親を亡くし、この時代で母を亡くした。大切な人を失う悲しみを、二度も味わった。だからこそ——奪い合うのではない世界を、誰かに託したい)
「今、あなたが笑って団子を食べられるように、みんなが笑って団子を食べられる…そんな街を作ってください。奪い合うのではなく、分け合える世の中を」
一人の護衛が椿に一歩近づいた。
「娘! 若様に向かってあなたとは何事だ! 無礼だぞ!」
「よい! 下がれ!」
秀家は、護衛を鋭く一喝し、下がらせた。そして、しばらく椿の顔を見つめていたが、やがて静かに、しかし確かに頷いた。
「……ああ、約束しよう! しかし面白いな…我を知っておきながら軽口を叩くただの村娘がいるとは信じ難い」
「秀家様が何故、この村まで来たかは察しております。もう少ししたら、もっと心が軽くなるような出来事が起こりますよ」
椿の確信に満ちた言葉に、秀家は何かを問いたげな目を向けたが、その時——。
「ただいまー!」
「婆ちゃん、腹減った!」
山から桃太郎と弥助が、汗と泥にまみれて帰ってきた。
二人は客人の前でも物怖じせず、当たり前のように客のきび団子を手に取りながら、興奮気味に話し始めた。
「聞いてくれよ、ばっちゃん! 村に鬼が出たんだって!」
「俺はもっと強くなって! 必ず鬼を退治してやる!」
桃太郎は、純粋な目でお婆さんを見つめ、熱い決意を語った。
その目には、疑いも曇りもない。ただ、正義を信じる少年のまっすぐな光だけがあった。
秀家は少年たちの行動と言動に呆気に取られていたが、偽りのない真っすぐなその目に心を奪われた。城の中で育った秀家にとって、これほど純粋な目を持つ者に出会ったことはなかった。
だが、お婆さんは桃太郎たちの意気込みを聞きもせず、激しい怒りを露わにした。
(来るぞ!来るぞ!来るぞ!その手のお盆が桃太郎達の脳天を直撃するこの瞬間が!おばあちゃん!心の準備はOKだ!振り抜け!秘技を!)
「悪ガキども! 客の団子を食いやがって!」
お婆さんは、秀家に団子を出していた盆を手に取り、桃太郎の頭を力強く叩いた。その剣幕には、先ほどまでの優しいお婆さんの影はなかった。
「ねっ! 心が軽くなるでしょ!」
春は笑顔で秀家に語りかける。
その様子を見た秀家は、思わず腹の底から笑い出した。
「ふっ…ふふふ…」
笑いすぎて涙がこぼれ、笑いが止まらなかった。この素朴な村の、この温かい庵で、秀家は家族の一部のように扱われている。そのことが、彼の心の奥深くにある孤独を、一瞬だけ溶かした。
「ハハハハハ! 子どもも子どもだが、御婦人よ、そなたも我に出した皿を使って罰を与えているではないかッ!」
「お主、名は?」
「俺は桃太郎だ! 覚えとけ!」
秀家は、もう一度笑った。
「桃太郎……覚えたぞ。お前の言う『鬼退治』、私は見てみたいものだ。いつか、その姿を——」
「そこの娘、名は?」
「桃太郎の姉、椿です!」
椿は、その光景を見つめながら、心の中で呟いた。
(これでいい。歴史は、ちゃんと繋がっている)
「あーあ…つい椿って名乗っちゃったよ…」
遠ざかる秀家の背中を見ながら、秀家の未来を思い起こしていた
(秀家……宇喜多秀家。太幽は一度も明言しなかったけど、私は気づいてる)
(吉備の国、鬼ノ城、温羅伝説。そして秀家の出自。本編を読み込めば読み込むほど、この人が「桃太郎」のモデルになったんだろうなって、そう思う)
(桃太郎のモデルを調べ、秀家にたどり着いた太幽は、歴史に名を残す秀家とは別に童話の桃太郎が出来るまでを時雨の焼印で書き切った。)
(桃太郎と秀家。伝説と歴史。その両方が、今、同じ団子を食べて笑っていた…この繋がりこそが、秀家がモデルとされる歴史を作ったんだ。)
(……太幽ぅ、お前、こういうのズルいよ。これこそが真の歴史だと思っちゃうじゃないか。)
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四:鬼の惨劇
秀家が去ってから数日後。
椿の恐れていたことが、現実になった。
鬼が、村を襲ったのだ。
ただし——十兵衛の家ではない。隣村との境にある、老夫婦の庵からほど近い小さな家だった。
そこに住んでいたのは、お絹という名の若い女だった。春と同じ年頃で、春と同じように腹に子を宿していた。彼女は、隣村から嫁いできたばかりで、庭には彼女が植えた野花が咲き始めていた。家の軒先には、生まれてくる子のために縫った小さな産着が、風に揺れて干されていた。
「鬼が……食料庫の前で、鍬を握ったまま……」
村人の言葉に、椿は膝から崩れ落ちた。
(私の代わりに……お絹さんが……)
彼女は走った。その家へ。
そこで見たのは——食料庫の前で倒れているお絹の姿だった。彼女の手は、まだ鍬を握ったままだった。指は硬直し、一本一本が白く変色している。腹には、新しい命が宿っていたはずだった。
庭の野花は、無残に踏み荒らされていた。軒先の産着は、血しぶきで赤く染まっていた。風が吹くたび、産着が揺れて、かすかに赤い滴が地面に落ちる。
椿は、その場に立ち尽くした。
「…同じだ…本来、私が殺されるあの場面と…瓜ふたつの状況…」
(本来……この姿は、私だった。私が死ぬはずだった)
(でも、私が生きているから……代わりに、お絹さんが……)
(お絹さんも、私と同じだった。愛する人の子を宿し、母になることを夢見ていた。それなのに——)
彼女の中で、何かが弾けた。
その後すぐ、桃太郎と弥助が息を切らせて到着した。
「はる…」
桃太郎が声をかけようとしたその瞬間。
「このっ……太幽うぅぅぅぅーーーーっ!!!!ちくしょうーーーーーーーー!!!」
彼女の叫びが、村中に響き渡った。
村人たちは驚いた顔で椿を見つめたが、彼女は構わず、空に向かって叫び続けた。涙が、止めどなく溢れた。地面に膝をつき、拳を土に叩きつける。その小さな拳から、血が滲んだ。
桃太郎は、姉の見たことのない姿に言葉を失った。これまでどんな時も冷静で、母のように自分を導いてくれた春が——今、子どものように泣き叫んでいる。
弥助は、ただ静かに椿の背中を見つめていた。彼の目には、何かを深く理解した者の光が宿っていた。口を開かず、近づきもせず、ただそこにいる。それが、彼なりの「守る」という行動だった。
「覚えてなさいよ……絶対に、絶対に変えてやる……!」
彼女は、拳を握りしめ、歯を食いしばった。
(私は、この物語を変える。太幽の想像を超えてみせる)
(お絹さんの分まで——私は、戦う)
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五:桃太郎の怒り
その夜、桃太郎が、椿の元を訪れた。
囲炉裏の火だけが、部屋を照らしている。外では、風が木々を揺らし、遠くで犬の遠吠えが聞こえた。
「春……鬼の仕業なのか」
「……うん」
「俺、許せない。鬼を退治したい」
椿は、桃太郎の目をまっすぐ見つめた。その目には、正義を信じる少年の、まっすぐな光が宿っていた。第1話で十兵衛の家の惨状を見た時と同じ——いや、それ以上に強い炎が、彼の瞳の奥で燃えていた。
(本編でも、桃太郎は春の死をきっかけに、鬼退治を決意した。今は、お絹さんの死が、そのきっかけになった)
(太幽の強制修正……歴史の大きな流れは、変わらない)
「……わかった。でも、一人じゃダメ。仲間が必要よ」
「仲間?」
「弥助。そして——もうすぐ、あなたの師になる人が現れる。その人を見つけて、強くなって。そして、鬼ヶ島へ行くの」
桃太郎は、驚いた顔で椿を見つめた。
「春、お前……なぜそんなことを。師になる人って、誰なんだ。なぜそんなことまで知ってるんだ」
その問いには、疑いではなく、純粋な困惑があった。姉が、見えない未来を知っている——その違和感を、彼はもう隠さなかった。
椿は、静かに微笑んだ。
「私は、あなたの姉だから。あなたが進む道を、ずっと見守ってきたから」
(いつか、すべてを話す日が来る。でも、今はまだ——)
桃太郎は、しばらく椿の顔を見つめていたが、やがて力強く頷いた。問い詰めることはしなかった。それが、彼の信頼の形だった。
「わかった。俺、強くなる。必ず鬼を退治して、村に平和を取り戻す」
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その夜、桃太郎は村はずれの丘に一人座り、月を見上げていた。
冷たい風が吹き抜け、草が揺れる。遠くで川のせせらぎが聞こえる。あの川だ。自分が生まれ育った山から流れてくる、命の水。お絹さんの家の近くも、あの川が流れていた。
隣に、弥助が静かに腰を下ろした。
彼は何も言わず、ただ桃太郎の隣に座った。それが、彼なりの優しさだった。
「なあ、桃太郎。鬼を退治してやろうぜ! 俺も行く。お前一人にさせるかよ」
桃太郎は、驚いて弥助の顔を見た。
「弥助……!」
「でも、条件がある。絶対に、生きて帰るぞ! ここは俺たちが帰ってくるべき場所だ」
桃太郎は、力強く頷いた。
「ああ、必ず!」
弥助は、もう一度月を見上げた。
「山の掟ではな、仲間を見捨てた者は、二度と山に入れなくなるんだ。俺は、お前を絶対に見捨てない!」
「弥助…」
「だから俺も見捨てないでね♡」
「お前っ! 締まらないって! 気持ちわりぃな!」
月明かりの下、二人の少年は固く誓い合った。その姿は、これから彼らが歩む過酷な運命を思わせるには、まだあまりに幼かった。
椿は、その姿を遠くから見守っていた。老夫婦の庵の影から、二人の後ろ姿をじっと見つめている。
(これが、桃太郎伝説の本当の始まりだ。そして私は——影の戦士として、この旅に同行する)
彼女は、静かに拳を握りしめた。お絹さんの血で赤く染まった産着が、脳裏に焼きついている。
(もう、誰も死なせない。私が、この物語を変える)
月明かりが、彼女の決意を静かに照らしていた。
【次回予告】
(お絹さんの死から数日。私はまだ、完全には立ち直れていない。でも——立ち止まっている暇はない)
「私に戦闘民族の血が流れてなくて良かったな!あの瞬間、私の体にはきっと黄金のオーラが纏ってたと思うわ!」
「桃太郎と弥助は、鬼退治を誓い合った。月明かりの下で、『絶対に生きて帰る』って。あのシーン、本編で読んだ時も泣けたけど、生で見るともっと泣ける……! 弥助の『俺も見捨てないでね♡』からの桃太郎の『気持ちわりぃな!』って掛け合い、最高かよ……!」
「……お絹さんのあれがなければ…弥助のあのシーンはもっと違うテンションで見れたのに…って!しんみりしてる場合じゃない。私にも、やらなきゃいけないことがある」
「——衛門さんだ」
「本編では、桃太郎と弥助が旅立ったその日に、道端で倒れてる衛門を見つけるはずだった。でも今は、歴史が変わってる。衛門さんは、父ちゃんが畑からの帰り道で見つけた。痩せ細って、着物はボロボロで、息をするたびに喉がヒュウヒュウ鳴ってて……でも、背筋だけは、不思議と伸びてた」
「そして、私は決めたんだ」
「『私にも、戦いを教えてください』って」
「……言っちゃったよ。あの衛門さんに。『時雨の焼印』で、桃太郎の軍師となり、最後には『お前は私の誇りだ』って娘に言い残して逝った、あの伝説の武士に!」
「衛門さん、最初は『女が戦う必要などない』って言った。でも、私が新体操で鍛えた動きを見せたら——目が変わった。『くノ一の技に通じる』って」
「くノ一……そう、時雨と同じ道。力じゃなくて、体の柔らかさと技で戦う、影の戦士の道」
「私は、桃太郎や弥助みたいに表舞台には立てない。でも、それでいい。私は『影』として、彼らの旅を支える。誰にも知られず、歴史にも残らず、それでも確かに、そこにいる戦士になる」
「……そして、私は気づいたんだ」
「桃太郎一行には『犬、猿、雉』がいる。でも、本当はもう一人——『雉』は時雨じゃない。私が『雉』になるんだ」
「雉は、派手な羽根を持つが、その鳴き声は決して大きくない。それでも確かに、仲間に危険を知らせ、空から戦場を見渡し、誰にも知られることなく戦いを支える。それは、私がこれから担おうとしている役割そのものだ」
「……って、かっこよく決めたところで、本音を言うけど」
「次回、ついに衛門さんとの修行が始まる! そして私は、くノ一の技を学びながら、新体操の動きを戦闘に応用する術を模索するんだ! バク転からの着地で敵の死角に回り込むとか、側転しながら手裏剣を投げるとか……! 考えるだけでワクワクする!」
「でも、衛門さんの訓練はマジで厳しい。桃太郎も弥助も、毎日ボロボロになってる。私も多分、痣と擦り傷が絶えない日々になるだろうな……。でも、それでいい。強くなれるなら、何だってする」
「そして——いつか必ず、あの人に会うために」
「次回、第5話『影の戦士』。私は、歴史の裏側を生きる。太幽、見てろよ。お前の書かなかった『もう一人の戦士』として、私はこの物語を支え抜いてみせるからな!」
「……って、誰に向かって啖呵切ってるんだろう私。まあいいや。とにかく次回も、私は戦う。お絹さんのためにも、母ちゃんのためにも、そして——まだ見ぬ推しのためにも!」
【第4話・完】




