表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
作者への反逆〜転生したので、春の運命を書き換えてみせます〜  作者: 太幽


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/22

21話「ふたつの椿」

最終話「ふたつの椿」


一:白い空間


白い空間。上下も左右もなく、ただ優しい光に包まれた場所。


春は、ふと目を覚ました。ここはどこだろう。さっきまで、十兵衛たちと暮らした家の縁側にいたはずなのに。夕焼けが庭を赤く染めて、懐かしい声が聞こえて——。


(そうだ、私は、死んだんだ!やっとお迎えが来たか!太幽め!最後まで余計なシーン書きやがって!)


その事実を、不思議と穏やかに受け入れている自分がいた。


「あーっははは!——やっと会えたね!春」


声がした。顔を上げると、目の前で腹を抱えて笑ってるのは、見覚えのある年配の女性。どこかで見た顔。いや、鏡で何度も見た顔——。


「私は椿。あなたが春として生きてる間、こっちでずっと歳をとってた、もう一人のあなただよ」


春は、困惑したように周囲を見渡す。


「ここは…?私は、さっきまで縁側にいて…ってか私!死んでなかったの?」


「…いっそ死にたかったわよ!恥ずかしかったんだから!」


椿は、少し悪戯っぽく笑った。


「大変だったんだからね。お風呂で大きな音がしたらしく、隣の部屋の男の子が必死で心臓マッサージしてくれてて。で、目が覚めたと思ったら、いきなり8歳の春の意識が大暴れ。『ここはどこじゃ!父ちゃんは!兄ちゃんは!』って、もうパニックよ。そりゃあもう、手がつけられなくてね。太幽の小説じゃあるまいし、って思ったわ」


春は、顔を真っ赤にしてうつむいた。


「あー…ドンマイ…」


「まぁすぐに記憶が混ざって落ち着いたけどね。それからはね、私の片方が夢の国に行ったから腹たったわ!何よあれ!太幽の新連載始まったと思ったら、私が歴史を動かしてるんだもん!」


椿は、そっと自分の胸に手を当てた。


「最初は、同じ名前のキャラかと思ったわ…」


椿の目が鋭くなった。


「でもね!こっちにも春の片方が流れ込んだのよ!これは名前が同じじゃなくて私よね!」


「でしょうね!でも文句は!」


「「太幽に言って!」」


二人の声が重なった。そして二人は、同時に吹き出した。その笑い声が、白い空間に柔らかく響き渡る。


二:推しの話


「ねえ、春。一つ、どうしても聞きたいことがあるんだけど」


椿が、少し意地悪な笑みを浮かべて尋ねた。


「なに?」


「なんで、弥助と結婚しなかったの?」


春は、一瞬きょとんとした顔をし、それからぶわっと顔を赤らめた。その反応を見て、椿はさらに畳みかける。


「だって、あれだけ『推し』『推し』言ってたじゃない?チャンスはあったんでしょ?衛門さんが圓に会いに行く時だって、もっと自分から動けたはずだし。弥助だって、まんざらでもなさそうだったじゃない」


「あったけど…そんなことしたら、物語が壊れちゃうでしょ!」


春は、拗ねたように口を尖らせる。


「弥助は、みんなの弥助なの!あの自由さで、誰にも囚われず、山の王として、精霊として、ずっとみんなを見守ってる。それが、あの人の『役割』なんだから。私なんかがちょっかい出して、それを壊すなんて、できるわけないでしょ…」


椿は、その言葉を静かに噛みしめるように、何度も頷いた。そして、優しく微笑んだ。


「…そっか。春は、そうやって生きたんだね。私は、こっちでただ『弥助かっこいい!』って叫んでるだけだったのに」


「それはそれで、正しい愛だよ。推しは、叫んでなんぼでしょ」


二人は顔を見合わせ、同時に吹き出した。その笑い声が、白い空間に柔らかく響き渡る。


「でも、考えてみればさ」


椿が、ふと思い出したように言った。


「『時雨の焼印』って、『愛』って言葉、ほとんど出てこなかったよね。なのに、あなたの介入で、あの世界、『愛』がかなり増えたと思うよ。特に、オタク愛」


「え?そう?」


春は、少し考え込み、それからむっとしたように言い返した。


「出てきてるわよ!時雨のお父さんの手紙で『時雨、お前を愛している』って!それに、桃太郎だって忠助に『次はお前が愛される番だ!』って言ってたじゃん!ちゃんと二回は出てきてる!」


椿は、目を丸くし、それから呆れたように、でも優しく笑った。


「…本のない世界に何十年もいて、よく覚えてるわね、そんな細かいこと」


春は、照れくさそうに、小さく笑った。


「…だって、大事な言葉だったから」


三:太幽という男


「あ!そうだ!」


春が、急に思い出したように声を上げた。


「太幽、衛門さんの二十五年修正したかな?」


「いやー…多分彼は修正しないと思う」


椿は、少し考えるように首を傾げた。


「一度公開したら、それはもうやり直し効かないと思ってるのかもね」


「意外と堅物なんだね…本当以外…こっそり直せばいいのに」


春は、少し不満そうに口を尖らせる。


「でもまあ、それがあの人の『自由』ってやつなのかもね」


「自由?」


「うん。『小説家じゃないから自由だ』って、自分で言ってたんでしょ?だったら、直さない自由だって、きっとあるんだよ。書道家として字を書き、歌手として歌を歌い、歴史の成績は1でもオリジナル曲を配信する——そんな自由な人が、たかが『二十五年』の修正くらいで縛られるわけないじゃない?」


「…面倒くさい自由だね」


「本当にね」


二人は顔を見合わせ、くすくすと笑った。その笑い声は、もうすっかり若返った、少女の声になっていた。


四:融合


「…あれ?なんだか、椿、さっきより若くなってない?」


「え?そう?…あ、本当だ。春も、さっきより少し、皺が減ってる気がする」


互いの変化に気づいた二人は、驚いたように顔を見合わせる。そして、会話を続けるほどに、その変化は加速していく。老齢の椿は、みるみるうちに中年へ、そして青年期の姿へと若返っていく。春もまた、縁側で死を迎えた老女の姿から、みるみる若返り、やがて十兵衛たちと生きた、あの頃の「春」の姿を取り戻していく。


そして、すべての想いを語り尽くした時、二人の姿は——鏡を見つめるように、全く同じ、高校生の「椿」の姿になっていた。それは、魂が分離する直前、浴槽で『時雨の焼印』を読んでいた、あの日の姿。


「…戻ってきちゃったね」


「うん。あの頃の姿みたい。」


二人は、向かい合って、静かに微笑んだ。その顔には、迷いも、老いの影も、どこにもない。


やがて、春の体が、少しずつ透けていく。


「…行くんだね」


「うん。でも、悲しくはないよ。私は、あなたの中にいるから…いや、一つ寂しい!椿は百まで生きる世界だからまだ生きるよね!私の方が先とか本当嫌だわ!」


「大丈夫だよ。あなたが生きた時間は、ちゃんと私の中にある。あなたが見た光景も、あなたが感じた温もりも、全部——私が覚えてる」


椿は、そっと手を差し伸べた。透けていく春も、その手に、そっと自分の手を重ねる。指先が触れ合う——その瞬間、二人の姿が、ふわりと重なり、一つになった。白い空間に、温かな光が満ちていく。


一人残った椿は、自分の手のひらを見つめ、それから、遠くの光を見つめた。その顔は、すべてを受け入れ、すべてを許した者のように、穏やかだった。


「…まったく、本当にオチを作りたがるわね…同じ人間なのに別人みたい…ありがとう、もう一人の私。そして——太幽、あなたもね」


その時、椿の心の奥底から、もう一人の自分の声が、そっと響いた。


(こっちの世界は、飢えは無いけど、安らぎが無いなあ…便利だけど、不便。やっぱり、向こうの世界の方が、楽しかった)


椿は、その声に、静かに微笑んだ。否定も、肯定もせず、ただその言葉を、自分の魂の一部として受け入れた。


彼女は、もう一度、光の中へと歩き出す。その足取りは、迷いのない、確かなものだった。


もう、何も怖くはない——。


五:目覚め


目を開けると、見慣れない白い天井が広がっていた。窓の外では、桜が満開だった。ここは現代。そして——彼女は三十歳の体で目を覚ました。


——四月。桜が満開の暖かい日。


規則的な電子音が耳の奥で繰り返し、消毒液の匂いが鼻腔を刺激する。懐かしい感覚。


(ここは……)


体を起こそうとして——バランスを崩した。


「……っ!」


腕の肉付き、張り。何より、重心の位置が違う。身体が軽い。懐かしい感覚。


(そうか、これは椿の体か……)


この体には、安土桃山時代に行ってからの十二年分の記憶も詰まっている。


…身体が硬い。同じ三十歳でも、くノ一として動いていた私の方が遥かに良い。


そこまで考えて、椿はハッとした。


(あれ?さっきまで私、早くお迎え来てと騒いで…そして椿の身体の私に会って…今三十歳!?でも——三十歳以降のこの体の人生は、まだ誰も生きていない。これからどう生きるかは、私が決めるんだ)


その時、病室のドアが開いた。


入ってきたのは、見覚えのある女性——いや、見覚えのある「春」だった。看護師の制服を着て、カルテを抱えている。


「……春?」


椿の声が、思わず漏れた。


「なんで、ここにいるの?あんたがここにいるなら、戦国の春はどうなったの?」


春は、少し困ったように首をかしげた。


「え?だって、ここ、私の勤務先だし。それに——私は『春』だけど、戦国の春とは違うの」


「……どういうこと?」


「私はね、こっちの世界に来てから、あなたの記憶を継承して転生したの。戦国時代で生きた『春』の記憶はあるけど、それとは別に、現代の『春』としての人生もある。だから、あなたのことは『覚えてる』けど『自分』じゃない。不思議な感覚でしょ?」


椿は、言葉を失った。春の口調は、確かに戦国時代の「春」だった。でも、どこか違う。もっと軽くて、もっと——現代的な響きがあった。


「……驚いた?」


「……うん」


「だよね」


春は、少し照れくさそうに笑った。


「私も、最初は驚いたよ。だって、目が覚めたら八歳で、しかもこの世界の記憶がどんどん流れ込んできて。もう、パニックの連続だったから。記憶喪失のふりをして児童養護施設に助けを求めて、十三歳で医者の子として引き取られた。それからは、看護師になるために勉強したんだ」


「それで、看護師に?」


「うん。戦国時代でたくさんの死を見てきたから、今度は助ける側になりたかったの」


春は静かに微笑んだ。その笑顔は、戦国時代で「春」として生きた彼女の、確かな覚悟を物語っていた。


椿は、しばらく考え込んでから、ぽつりと言った。


「……ねえ、それってさ」


「うん?」


「太幽が書いた、三つ目のシナリオってことで受け入れよ」


春は、きょとんとした顔をし、それから声を上げて笑った。


「あははは!それ、いいね。太幽、また勝手に話を増やしやがったってことで」


「でしょ。あの人、自由だから」


二人は顔を見合わせ、くすくすと笑った。病室に、柔らかな笑い声が響く。


六:これから


窓の外では、桜が満開だった。風が吹き抜け、花びらが一枚、窓ガラスに張りつく。それはまるで、遠い日の吉備の村で、シロが咲かせたあの桜のようだった。


「私は、もう一度同じ人生を歩んでもいいって思った。だから看護師になった。でも、椿は違う」


春が、静かに言った。


「椿は、これから自分で選ばなきゃいけない。これから先、どこへ行くのか、何をしたいのか——全部、自分の意志で」


「……それが、『どう生きるかが重要』ってこと?」


「うん。太幽が言ってたんだ。『屍を乗り越えて、これから先どうするかが重要なんじゃないか』って。それは、弥助の言葉でもあるけどね」


椿は、窓の外を見た。満開の桜が、風に揺れている。三十歳以降のこの人生は、まだ誰も生きていない。戦国の記憶も、現世の記憶も、すべて背負った上で——これからどう生きるかは、自分で決める。


「……私は、新体操に復帰する」


「うん」


「そして、またメダルを取る」


「うん」


「それが、私の『これから』だ」


椿は、春の顔を見て、静かに微笑んだ。


「そっか。それが、椿の選んだ道なんだね」


春も、微笑み返した。


七:それから


それから数年後。


椿は見事に新体操に復帰し、国際大会で再びメダルを獲得した。彼女の演技には、戦国時代で培った「無駄のない動き」と、現代で鍛えた「正確な技術」が融合していた。観客は、彼女の演技に「戦場の舞」と称賛の声を送った。彼女がその評を聞いて、苦笑いしたのは言うまでもない。


春は、看護師として働きながら、戦国時代の知識を現代医療に活かしていた。彼女の患者への寄り添い方は、多くの人々の心を癒した。ある日、彼女が担当した老人が呟いた。「あなたの手は、どこか懐かしい温もりがするね」——春は、その言葉を聞いて、遠い日の吉備の村を思い出した。


二人は、時々集まっては、戦国時代の思い出を語り合った。光の成長。時雨の団子。弥助の笑顔。衛門の手紙。そして——多くの別れと、その先にある「安堵の光」。


「私たちは、確かにあの時代を生きたんだね」


春が、ぽつりと言った。


「うん。そして、これからも生きていく」


椿は、空を見上げた。そこには、戦国時代と同じ月が、静かに輝いていた。


風が吹き、桜の花びらが舞い上がる。その一片が、窓の隙間から滑り込み、椿の手のひらにそっと落ちた。


(そして…私たち…全ての人に、ひとりひとりに物語がある——生きていこう…この世界を自分の意思で)


彼女はその花びらを指で摘まみ、光に透かして見つめた。淡いピンク色の向こうに、懐かしい笑顔が浮かんでいる気がした。


「……ありがとう」


それが、椿がこの世界で最初に発した、確かな声だった。


八:エピローグ


——こうして、私の長い長い旅は終わった。いや、終わったんじゃない。新しい始まりなんだ。


春として生きた時間。椿として生きた時間。二つの人生が、今、一つになった。私は、あの時代で確かに生きて、確かに誰かを愛して、確かに誰かに愛された。その記憶は、決して消えない。


太幽、お前はすごいよ。歴史の成績が1で、書道家で、歌手で、オリジナル曲まで配信してるくせに、こんな物語を紡いだ。しかも、最後に三つ目のシナリオまで用意してるんだもんな。お前のその『わけのわからなさ』が、私の人生を変えたんだ。ありがとう、太幽。


……って、真面目に締めくくったけど、最後に一つだけ!


太幽!お前のせいで私、丸裸転生の謎を永遠に抱えることになったんだからな!しかも近所の男の子に心肺蘇生されられるとか!絶対にこの恨みは晴らしてやる!


……でも、まあ、それも含めて、私の人生だ。


これが、本当の最終話。でも、物語は終わらない。私が覚えている限り、あの時代は確かにここにある。そして、この物語を読んだあなたの中にも、きっと。


だから——これからも、よろしくね。もう一人の私、そして、太幽、そして——この物語を愛してくれた、すべての人へ。


ありがとう。そして、さようなら。また、どこかで。


——桜が、満開だ。まるで、あの日の吉備の村のように。


【完】


作者への反逆~転生したので、春の運命を書き換えてみせました~!


---



【次回予告】

作者への反逆~あとがきも書き換えます~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ