第四話 なんか覚醒させられた
ナギに連れられ、狐道という変な空間を彷徨った先、どこかのアパートかマンションの玄関前。
よく見ると505号室とある。
壁がところどころ汚れていて、そこまで新しくなさそう。雰囲気で言えばボロアパート。
周りは国道と山があり、閑静という言葉が似合う。
いや、異様なほどに静かな気もする。この階だけ隔離されてるような感覚。
そんな場所で俺は腰を抜かしていて、ナギが仁王立ちしてる。
そして先程、精神的な疲労でバテている俺に対し、今から“痛い目に合わせる”とナギは宣告してきた。
ふざけるんじゃない。
「別にふざけてないよ?」
「慣れてきた自分が嫌になる。ってか慣れてもうぜぇ」
「やっぱいいわねぇ。そのあけすけな感じ」
「心読まれてんなら、表面上の社交もクソもねぇだろ」
「だからって私に対してその態度を一貫できるのが、すごいのだよ」
「はぁ?」
「じゃあ、もう覚悟はできた?ちゃんと契約の時に後戻りはできないけど構わないって了承は得たからね」
「あれって、そういう意味か!?あの時の力をあげるって今から!?もっと仰々しくやるもんじゃないの!?待て!一旦、「はい!いっくよー!」
またしても間髪入れずにアイアンクロー。痛みはないが、妙な圧で黙ってしまった。
ナギは、真剣な眼差しで俺を見つめ、ニパッと笑う。
「安心していいですよ。悲鳴をあげることさえできないんだから、ね」
瞬間、全神経がざわめいて、衝撃が細胞一つ一つを一閃するように駆け巡った。
「!!!!!!!!」
ナギの言う通り、声すら出せないほどの痛みが身体中で同時に発する。
全身がパチパチしてる。
でもそれも一瞬、コンマ数秒。
次にきたのは流れる感覚。
ツボというか経脈とでもいうのか、それらが無理矢理こじ開けられて、脳天を通して一周点したような感じ。
「気持ちわる、、、」
「にゃははは!面白いでしょ?」
タライでもいいからこいつの頭に直撃しねぇかな、、、
「いたっっ!!なんやこれ!?魂にガツンときたんだが?チバ?お前さっそく使いこなしてんじゃん!いいね!見込みがある!覚醒させた甲斐があるねぇ!!」
「なん、、、の、話だ?」
気分が悪すぎてそれどころじゃない。なんていうか感覚が増えた?違うな。直感が、常時発動してるような気持ち悪さがある。
「お!言い得て妙よのぉ。第六感って言われてるやつなのだよ。それが」
「説明よりも、これ早くどうにかしてくんない?」
「しょうがないやつだねぇ」
「さっきのもっかい喰らわせてやろうか?」
「一回目は楽しいけど、二回目はやだなぁ〜。チバー目を瞑って〜深呼吸して〜集中〜集中〜」
投げやりで呑気なトーンのナギの声が癪に障る。が、これで治まるならまぁいい。
深呼吸に集中する。
「血液がドクドクと、心臓がバクバクと、そんな感じで脳内でザワザワしてる場所はない?そこを落ち着けるように、落ち着けるよーに、、、」
ナギの言う通り、脳天の方でざわめきがある。脈拍のように一定のリズムだけど、テンポが荒々しい。ゆっくりだ。もっとゆっくり、、、
意外と難しい。
すると、
柔らかい手が優しく頭に触れる感覚があった。
「初回サービスだからね」
トン、トン、トン、トン
ナギの手がリズムを取るのに合わせて、ざわめきは収まっていった。気持ち悪さも薄れていって、感覚が馴染んでいく。
「最後に深呼吸、そしてゆっくり目を開けて」
「すぅ、ふぅー」
ゆっくり、目を開く。
景色は変わらない。でも世界の見え方が変わった。より澄んでいる。濁っている。
「なんか綺麗だな」
「“おはよう”。この視界もいいもんでしょ?」
「まぁ、、、ってお前、、、」
ナギが、澄み切って、なんとなく綺麗に見える。二つ目の月明かりみたく柔らかく光っていて、なんとなく手の届かない場所にいるような、、、
「千葉、私は人間だよ?」
ナギが優しく手を掴む。触感がある。確かに存在してる。でも今までの言動といい、行動といい、どこか人外じみていた。
俺がひとつの結論を出そうとした時、ナギの鈴の鳴るような声が思考を遮る。
「今は気にしないで欲しいな。っていうか考えないで欲しい」
「はぁ?」
「頼むよ、千葉」
じっと、儚さを感じさせる目で、少し臆病さも混じったそんな表情で取り繕ったような笑顔で言う。
ずるいな。
「わかったよ。でも難しくないか?」
「じゃあ、御呪いをかけてあげよう」
「は?」
「ちょっとした暗示?みたいなものだよ。ちょっと痛いかもだけど」
「いやだな」
「たのむよ」
今度は手を合わせてきた。
さっきみたいに強引に動けばいいのに、なんでわざわざ交渉するんだよ。いや別に無理矢理されたくもないんだけれども。
「私がそうしたいだけってのもあるけど、千葉の意思も重要なんだよね」
「はぁ?」
混乱させることしか言わねぇよな。こいつ。
疲れてるってのに、、、って思ったけど意外と頭はスッキリしてる。
さっきの“アレ”のせいか。
そういえば、最初の契約も後半はこんな感じだったな。たぶん。
それこそ、こいつなら無理矢理にでも契約結べそうだよな。いや榊さんいたから無理か。
でも交渉は意外としっかりとしてた気がする。
追い込まれて契約したってよりかは、俺が自分の意思で決断するのを待ってくれてたような。
もしかして意外と誠実なのか?というかそうしようとしているのか。だとしたらめちゃくちゃ不器用だな。
「ん“ん”っ!!」
ナギが顔を背けて変な咳払いをした。よく見ると耳が赤い。
得体は知れないけれど、どっか人間臭い。
少しずつではあるけど、ナギを気に入りつつある自分がいた。
「わかった。いいよ」
「ありがと。まぁ私を人間だと思い続けてくれたらなんともないから安心して」
あそこまであけすけな態度とっておいて、その上で人間と信じ切ってくれってどういうことだよ。意味わかんねぇ。
でも、研ぎ澄まされた直感のせいで嫌というほどにわかってしまった。これは切実な願いだと言うことを。
でも内容が曖昧だよな。
「ちょっと痛いってのは?」
「頭がビリってするくらい」
「うげ」
「今だけだよ」
「は?」
「改めて今度、新しく契約を結ぼう。そのときに御呪いを解いて、もう少し詳しく話すね」
「怪しすぎるな」
「千葉なら問題ないから安心して」
「どっからくる自信だよ」
「ある並行世界の未来から」
「はぁ?」
「前に通った狐道で偶然にね」
相変わらず得体が知れない。というか胡散臭い。
呆れながらナギを見ると、じっと俺を見つめてた。確信を持った目で。
俺にはよくわからないけれど、ナギの中では揺るぎない自信みたいなものがあるんだろう。
まぁ、今考えてもしょうがないか。
「早く御呪いとやらをかけてくれ」
またさっきみたいなものが来るんだろう。
そう思って我慢をした。
「ごめん、もうかけました」
「は?言えよ!」
「だってさっきいいって言ったもん!」
「だとしても、やる前に一言かけろや!」
「細かいことを気にしすぎるとハゲるよ」
「いい加減にしてくんねぇとキレるぞ?」
「ごめんごめん」
気に入った相手に対して甘い自分の性格が嫌になる。
「ほんと損な性格してるよな。俺」
「詩生のそういうところ嫌いじゃないよ」
ナギの声が小さくて聞こえなかった。
「なんか言った?」
「なんも〜」
一瞬見えたのは、柔らかくて優しい笑みだった。
「じゃあ仕事に取り掛かりましょうか。お相手は神さまだからシャキッとしな!」
「急に態度変えないでくれる?」
「僕相手のそのアホみたい対応をこれから会う相手にしたら蹴っ飛ばすからね!」
「さっきまでのお前はどこ言ったんだよ、、、」
「じゃあご対面といこうか!」
ナギ「やっぱり千葉は優しいね」




