第五話 正体
「待て待て!!さすがに説明をしろ!」
「これから神さまに会うから礼儀正しくしましょうね。以上」
ドロップキックくらいならしても許されないかな。許さないよな。都合よく上からタライ落ちてくれればいいのに。いや、落ちろ。
脳内でそう強くイメージした、瞬間
ゴーン!
びっくりして無意識のうちに瞑っていた目を開く。
タライはないが、痛がってるナギが一匹。
「俺なんかした?」
「したよ!いま!やっぱり覚醒させるんじゃなかった!くそ!いてーな!!」
何が起こったかわからないけれど、異世界転生系のラノベに出てくるチート持ちの主人公みたいなセリフ言ってしまったのは確かだ。
案外スカッとするな。
ってか、これさっき意識が朦朧とした時に出来たやつじゃん。こうやって使うのか。
意外と便利だな。
「ちばー全然関係ないんだけどドロップキックしてもいいかい?」
「関係あるだろ!嫌だわ!」
「ちっ」
「じゃあちゃんと説明してもらおうか」
「君、力を身につけた途端に豹変する系の主人公にでもなったつもりかい?依然として吾輩の方が力関係は上だと思うぞ。力はより強い力に淘汰されるのが自然の摂理だと思うんだ」
「何キャラだよ。いい加減に概要だけでも説明しろよ」
「しょうがないねぇ。ここにいるのは、とある地方で信仰されていた神さまだ。でも人が少なくなったせいで力が弱まったから、僕とアキで引っ越しさせてあげたんよ。最後は、一番信仰心が厚かった一族の近くにいたいってね」
「説明してもらって悪いけど、急に神さまって言われてもな」
「千葉くん、あんたは何度も見てるはずだよ?悪夢って形でね」
「アレが神さまだってのか!?ふざけんな!」
禍々しい黒い人型の霞。家族や友達の姿を模して、何度も俺を殺しにかかってきた忌々しい存在。あれを神さまに分類するんなら、俺は何を信じればいい。
「大丈夫だよ。アレは一つの成れの果てだから。人間にもいろんなやつがいるようなもんだ。神さまと言えども幅は広いんだ」
「じゃあ、ここにいるのは違うってか?」
「気のいい爺ちゃんだよ。元はある山の綺麗な水が流れる川の上流にある大きな岩だったんだ。愛情深いやつでな。最後に昔の山の風景が見たいって言ってんだ。だから千葉が描いてみせてやってくれないか?」
なんでそんな萎れた態度してんだよ。
やっぱりいつもみたいに命令してくれよ。また、俺の意思が大事とか言う気か?こちとら俺に憑いてる悪霊が神さまだって話に未だについてけてないんだよ。
神に殺されかけた人間に神を救えだ?ふざけんな。
「じゃあ千葉は見捨てられる?」
ナギの見透かしたような態度に、俺は耐え切れずにブチギレた。今まで溜まったイラつきが上乗せされて、爆発した。
「あ“あ“!!くそ!!お前わざとここまで黙ってただろ!?榊さんもグルか?」
「アキは関係ないよ。ここに来るのはわかってただろうけど、千葉に憑いてるのが神の成れの果てとかまではわかってないはずだよ」
「だとしてもだ!帰る!」
「契約を破る気か?今は私との契約で守られてるようなもんだが、それが切れたらまた狙われる。それに契約の不履行は、魂の穢れに繋がるんだぞ」
「訳わかんねぇこと言ってんじゃねぇよ!こんなことになるってわかってたらそもそも契約?なんかしてねぇよ」
後先考えずに契約した俺も悪いと思う。でも、いざ仕事の前にクソみたいなネタバラシされて、加害者の同族を助けろ?人を振り回すのも大概にしろ。
「ごめん千葉、ここまで怒るとは思わなくて、、、」
「普通に考えればわかるだろ。人の気持ちを考えやがれ!もしかしてお前も、、、痛っ!さっきのかよ!くそ!もういい!帰る!」
「待ってくれ!」
ナギに腕を掴まれた。俺は振り払おうとしたが、力が強くて叶わなかった。
「ちっ」
ナギはじっと俺を見る。でもその目は少し潤んでいて困惑も見えた。
見てられなくて目を背けた。
「じゃ、じゃあさ、酒でも飲まないか?絵を描かなくてもいいから、それでいいようにするから、一回だけ会ってやって欲しい。それでも気が済まなければ、帰っていい」
掴まれているナギの手が微かに震えていた。それさえもムカつく。
「お前ほんとに態度をコロコロ変えるよな。そうすれば俺が動くとでも思ったか?会った時の傲岸不遜な態度はどうしたよ?」
「どうしても千葉に契約を結んでほしくて、、、あぁ、そうか。お前が他のやつに狙われてんのが嫌だったんだな」
「結局はお前の都合だろうが」
「全部が全部そうじゃない!これはお前のためでもあるんだ!信じてくれ!」
「初対面であんな対応され続けてか?」
「頼む。千葉にとっても大事なことなんだ」
綺麗なお辞儀。あいつにされた覚醒?のせいでナギの想いまで伝わってきた。
優しさ、切実さ、誠実さ、とても柔らかくて暖かい想いやり。
慈愛。
それが伝播してきたおかげで、怒りがやわらぐ。
「はぁー!!!とりあえず会うだけだぞ?」
負けた。負けたからしょうがなくだ。
「ありがとう、詩生」
「くそ」
こんだけ悪態をついた俺に対して向けられた純粋な笑顔に、さらに調子を乱される。
怒りもどこかへ飛んでしまった。
それを見越してかナギはさっそく動いた。
「じゃあ、ドアを開けるね」
人間の感情って難しいね




