第一話 胡散臭い紹介状 後編
「おー!おー!よく来た!!千葉詩生!やっぱりお前は面白いね!近くで見るとさらに良いけんね。君を鬼海から貰って正解やわぁ」
うわ、、電波飛んでる。超絶関わりたくねぇ。
「電波ってWi-Fiのこと?飛んでないですよ〜。ん?違う?まぁいい!とりあえず酒出せ。お前はセンスはあるからずっと楽しみだったんだ。安心しろ。中身までは見えてないからな」
は?俺、声に出してないよな、、、それに初対面なのに、なに言ってんだ?
「毎度思うが、初対面のやつとは言葉で会話しろ。あとは口調を揃えろと何度言えば治る」
「だぁってぇ〜僕の個性?じゃん?それに言葉って楽しいもん。だから、ね?それにさーコイツは新しいコマ遣いになるのだよ!つまりは我のモノだ!いいでしょう?」
「お客様でいいだろう!?聞いてないぞ!ちゃんと説明しなさい!」
なんか当たり前のように思考に返事されてた気がする。
っていうか俺の人権どうなってんだよ。とりあえず逃げていいかな。
「君、死ぬけどいいんだ?」
「え?」
「いろんなとこからもう手遅れって言われたんじゃない?」
「そうですけど、、、なんとかなる気がするんですよね」
「一生抗い続けるつもり?ウケる。確かに頑張れば死なないかもしれない。でも一回でも負けたら終わりだよ?最高の愚か者だねぇ」
「実家に帰れば伝手があるかもしれません」
「たぶん貴方は選ばないでしょ?そもそも鬼海から賭けで貰ったんだ。いい加減に観念しなよ」
わかったつもりで言うなよ。しかも賭けってなんの話だよ、、、
「こっちの話ですよ〜」
この厄介さ鬼海先生と同じ匂いを感じる。いや待て、こうなったのも鬼海先生が原因だよな。
「あいつと一緒にしないで欲しいね!それにきっかけは僕が君を路上で見かけたからだよ」
「どういうことだよ」
「コラ!ナギ、いい加減ちゃんと説明しなさい」
「君の人生それでいいのかって話。お前、もともとは画家を目指してたよな?でも不安で逃げたね。ん?いや選んだ?まぁそこはいっか。結果は、壊れて社会からドロップアウト〜。そんで死んでもいいとは思いなが生きてるくせに、死に方は自分で決めたいときた!愚かで傲慢で甘いねぇ」
鬼海先生にもその話はしてない。
ってかなんなんだよ、こいつ。上から目線で何様だ。
「何様って、、、ねぇ?人間ですよ。わっちは。うん。なぁ〜アキ?」
「うるさい化け物。そんなこと言ってないで、さっさと対処してあげなさい」
「チバ!足首をめくってアキに見せておあげ」
ナギという女?に睨まれた途端、妙な圧力感じた。俺は抗えず、仕方なく足首をめくった。
「あー、、、これは確かに、、、君、本当に大丈夫なのかい?精神に異常はなさそうだけど」
「そんなやばいです?」
「僕が見てきた中で一番厄介です。有体な言い方をすれば生きてるのが不思議なくらいですね」
「こいつなぁ〜自分で何回も追い返してんだよ。面白いっすよね?まぁそれで余計に気を引いてるんだから可哀想でもあるんやけど、アハ」
「それでか、、、でも彼を巻き込んでいいのか?」
「逆なんよ。逆。コイツだからいいんだよねぇ」
「確かに、お前の手伝いをすれば彼は助かる。でもお前の都合でこの子を危険に晒すのか」
「契約するよ。コイツは私の存在にかけて守る」
「そこまでするほどなのか?」
「目をつけた瞬間から確信したんだ。絶対に逃がさないってね」
「勝手に話を進めるなよ!!」
俺の意思をそっちのけで話をされているのにムカついた。それに危険?まだやるとも言ってないぞ。
「ねぇチバ。僕の、私の手伝いを頼むよ。そしたらなんとかなりますから。絶対に大丈夫だと保証するよ」
「はぁ?」
なにをするのかも聞いてないのに、頷けるわけがない。それにこのまま流されるのは気に入らない。
「なにをするかって?”見て描く“だけですよぉ」
描くって、、、もしかして絵か、、、?
「御名答!!」
「だからそれ辞めろって!!!それに絵は辞めた!!」
一気にやる気が失せた。よりによって一度諦めたことをやれと言うのか。もう絵は描かないんだ。
「でも画材を捨ててない。たまに絵の具も買ってるよな?」
「うるさい!もう帰る!」
「本当にこのままでいいの?君が僅かに望んでいた、“絵を描く仕事”で“非日常”が訪れるんだよ?その上で貴方に纏わりつく“黒いの”から解放されるんだ。いい条件だと思わないかね?」
「くっ、、、」
コイツの言ってることは確かだ。でも癪に触る。それにこの選択が正しいとも限らない。
「そんなの、なんにだって言えるじゃない?」
「うるさい!黙れ!!」
「千葉くんだったね。ナギはこんなだけど、この点に関して嘘はつかないし、約束してしまえば必ず守るよ。急に聞かされて僕も驚いたけれど、君の状態を見るにやっぱり頼ってほしい。僕からもお願いだ」
榊さんが、口調を崩して優しく言ってくれた。おかげで、頭に登った血が冷めてきた。
榊さんは少し気にかかる物言いだけど、信頼できることを保証してくれた。どういう意味かはわからない。けれど、直感が真実だって言っている。助かるのは確からしい。あとは決断するだけなのか。
「どうしたい?このまま腐っていく?鳥籠に戻って安牌な道をいく?」
嫌な聞き方をする。全部を見通されてると踏んだ方がいいだろう。やっぱりコイツのことは気に食わない。けれど否とも言い難い。
足元に視線を落とす。この霊障から逃れられて、絵を仕事にできる。
プライドが、過去が、脳裏をよぎった。でも同時に気づく。久しぶり未来を思い馳せる自分がいたことに。
ここが転機か。
不安もある。ただ、これ以外の選択を選んだ先は暗い。最悪、真っ暗だろうな。認めたくはないがあいつの言う通りだ。
「最後に一個聞きたい。俺を一目見て決めたって言ってたよな。理由はなんだ?」
「いろいろあるけどなぁ〜君の過去に描いた絵が好きだから」
「意味わかんねぇ」
昔、個展を開いたときに名前も顔も覚えていない誰かに言われた言葉を思い出す。
『君の絵に救われた』
それが嬉しくて絵を描き続けたな。こんなに求められてるのも久しぶりだ。
意固地になっても仕方ない、か。
あの人はもういないんだし。
好きに生きた方がいい、よな。うん。
「わかった。やるよ」
「めんどくさいヤツだねぇ」
「お前に言われたくねぇわ」
「ちなみに後悔するかもしれないよ?というかするだろうね。治ったあとも手伝ってもらうし、たぶん今までの生活には戻れないよ」
「お前、、、今になって言うか?」
決断を下したあとにデメリットを言うとか最悪すぎるな。でも、それを笑い飛ばせるくらいには、未来への期待が大きい。
「でもいいよ。決めたから」
ナギは怪しく笑う。今まで感じてた不安の一部を理解した。こいつの厄介さが原因だ。
ただ、決断した今なら少し高揚感がある。
そっか。俺は誰かに日常をぶち壊して欲しかったのか。意地張ってた自分がバカみたいに思えてきた。
「いいねぇ。ようやく素直になったじゃないか。契約成立だね」
俺は呆れながら、怪しく笑うナギの手を取った。その瞬間に、手が光った気がした。でもそれより明確に、肩が少し軽くなった。
「なにが起こった、、、?」
「まぁ安心せい若者よ!」
「榊さん?」
「悪いモノじゃありませんから安心してください。一応ですけど。ちなみに今後は軽々しく約束しないでくださいね。あとは、僕の方から給金もしっかりした額を出すので頑張ってください」
「その話をもっと早く聞きたかったんですけど」
「お金で決断してほしくなかったからね。まぁ他にもあるけど」
「それは理解できますけど、なんかまだありますよね?」
「まぁ、そこはおいおいね」
榊さんもひと癖がありそうだ。でもナギよりはだいぶマシかな。もう疲れたからいいや。一旦飲み込もう。
「わかりましたよ。よろしくお願いします榊さん」
俺はナギの時とは違い、しっかり榊さんの手を取った。
「待って?チバー?あんたは俺のもんよ?ですよ?なんでアキの言葉はあっさり受け取るのー?」
「榊さん、この口調どうにかなんないんですか?」
「こればっかりはどうにもできませんでした。申し訳ございません」
「あははは」
ナギだけがひとり呑気に笑ってた。
主役を喰う勢いのナギ登場
この子にとっては口調も人称もさして重要ではない様子
と言うより”言語“を扱うのを楽しんでいます




