閑話 黒に近いグレーな精神科医
「そういえば仕事は結局辞めたんだっけ?辞めさせられたんだっけ?」
メンタルクリニックの診察で何から話そうかと考えてたら、医者の方から偉く失礼な言葉が飛んできた。だからいつものように言葉で殴り合う。
「あんたよくその言葉選びで精神科医なんてやってられるよな。普通に復職失敗しただけですよ」
「あははは。今はそれなりに権力持ってるからねぇ。まぁ君って社会人は合わないと思うよ」
「サラッと社不みたいに扱いながら、業界の腐敗を曝け出すのは辞めてくれません?」
相変わらず性格が悪い。見た目が好好爺のようだからこそ、余計にタチが悪い。
「まぁまぁまぁ。とりあえず暇してんでしょ。このままだと腐りそうだから、日光浴びるついでにここ行ってみてよ。知り合いがバイト探してんのよね」
脈絡もなく、なに言ってんだこの爺さん。ついにボケたか。
「とりあえず上部だけでもいいんで、オブラートに包んで伝えて欲しいんですけど、、、 」
「じゃあ言うけど、このままダラダラしてても腐るだけなんだから日光の当たるところで生きた方がいいよ」
そんな答えで、わかりました!行きます!って言うとでも思ってんのか。そんなことはわかりきっている。ってか前提のオブラートの意味が伝わってないけど、医者に医学用語が通じないってあるか?
「もういいです。さっさと薬もらっていいですか?不眠がひどいです」
いい加減に主治医を変えたいんだけど、なんやかんやで診察や処方はしっかりしている。一応。でも、さすがに今回はお門違いか。変な噂を信じるんじゃなかった。
「じゃあ聞くけどさ。今日来たの、薬の処方がメインの要件じゃないでしょ?」
「わかってるなら最初からその話してくれません?」
「してるんだけどねぇ。でもあんま信用されてなかったし、当てが外れたとか思ってたでしょ」
勝手に思考を読まないで欲しい。
「胡散臭い提案しかされてなかったですけど」
「よし!仕切り直そうか!
大丈夫?最近なんか悪夢を見るとか、嫌な視線を感じるとかよくあるんじゃない?それが過去一番で悪化して命の危機を感じてる。そういう状況になってない?」
「これが診察すぐに言われたら、信用できるのに、、、あれ?でもなんでそこまで、、、」
こういう系の話はしたことない。今までもよく幻覚や幻聴が唐突にあったが、すぐ治ってた。だからあまり気にしてなくて、話題に出してない。
「僕これでも心理の先生なんだけど」
心理学すげぇ、、、とでも言えばいいのか。絶対違うだろ。
「専門外ですよね?」
「君はわかりやすいからねぇ」
「それだけじゃないですよね?」
「心理学的観点からいうと、もうちょいバカになった方が生きやすいよ」
「わかってますよ!そんなこと!」
「ちなみに心理学でもそういう分野あるからあながち専門外じゃないよ」
「俺で遊んでません?」
「楽しいからね。君はなかなか優良物件だし」
最初からずっと意味がわからない。これがなければいい医者なんだけどな。もしかして詐欺に巻き込まれてる?よし、
「帰ります」
「君の”それ“手遅れ一歩手前だよ」
急に冷淡な低い声を出されて意表を突かれた。
「は??」
「相当追い込まれてるでしょ?」
「鬱の症状が酷くなったからそのせいもあるかなって思って、、、」
「それもあるよ。でもほんとにそれだけ?だったら君の場合、診察室に入って開口1番に事情をすぐ説明してたでしょ。なのに少し口篭ってた。だから僕から話を切り出したんだよ」
「だとしても脈絡なさすぎますけど」
「僕は、視えるだけ。だからそれの対処をできる人を紹介したんだよ」
「はぁ?」
それを一番最初に言えよ。
「どうせ噂にでもなってると思うんだけど、僕はそっちの専門家じゃないんだよね。やってるのは紹介だけだよ」
「じゃあもしかして今もなんか憑いてたり、、、」
「んー。憑いてるっていうよりマーキングされてるって感じかな。ちょっと臭い」
「猫にしょんべんかけられたみたいに言われても、嫌なだけなんですけど」
「だいぶタチの悪いのに気に入られてるって言えばいいかな」
「聞きたくなかった」
「どうせなら、前に憑いてたやつの話もする?」
「辞めときます」
「まぁ早めに対処した方がいいね。御守りも出しとくね」
薬みたいに言わないで欲しい
「わかりましたよ。それでなんでバイトなんですか?」
「行ってみればわかるよ」
「やっぱりやめていいですか?今までだってなんとかなりましたし」
なんとなく、霊障とは別の危機感みたいなのがある。あと単純に胡散臭い。
「他に当てがあるの?」
「別で紹介してもらえるとこありません?」
「もう無理だから」
「はい??」
ピシャリと言い切られたせいで唖然としてしまった。
「えーと、君のに対処できる人ってあの子ぐらいしかないんだよね」
「なんか嘘くさいんですけど」
「まぁいろいろ都合がいいんだよ」
「胡散臭いので、詳細教えてくれません?」
「そこもあっちで聞いてね」
「あんたじゃなかったら、絶対詐欺を疑ってますよ」
「いや君ねぇ、そこら医者の紹介でも普通に怪しい状況だよ?それなのに、行くしかないと思ってるでしょ?それは僕を信用してってよりかは、直感でかなぁ。誘導はしたけど君は、我が強いからね。自分の感覚に従ってもいいと思うよ」
「人の心を読まないでくれません?っていうか地味に詐欺みたいな手法使ったって自供もしましたよね?行きたくない、、、」
「でもどうせ行くでしょ?」
「はいはい!行きますよ」
「君が納得してくれてよかったよ。うちの患者で不審死なんて出されたら堪らないし」
「手塚治虫の描いた医者の方がまっとうな気がします」
「僕はちゃんと医師免許持ってるからね」
「そういう話じゃないのわかってますよね?」
「髪色の話?」
「だとしたら中身は真逆ですね」
「あーあとあと、君お酒飲むよね?」
「話を聞けよ。どうせ薬と一緒に飲むな、ですよね。わかってますよ」
「違う違う。対価みたいなもんで、君の好きなお酒を渡すことなってるから渡してね」
「行かせる気あります?」
「これも条件だから」
「どうせあっちで聞けって話ですよね。わかりましたよ。」
「ありがとね。これでまたイーブンだ。」
「なんの話です?」
「こっちの話だから気にしないで。とりあえず本業もしないとだから一応、薬も出しとくね」
「次から違う病院いきますね」
「ああ、次の予約いつにする?」
「あんたが詐欺師の一派じゃないってわかってから」
「たまには顔出しに来てね〜。あ、忘れてた。これ御守りと紹介状。お酒も忘れずにね」
「マジでもう関わりたくねぇ」
「あはは、じゃあねぇ」
なんてこと言いながら手を振っている先生。
去り際、視線の端で悪どい笑みを浮かべていたのが見えた。
腹の中の虫がジタバタしているのを感じながら、病院を去った。
帰り道、とりあえずメモを見ると明日の日付。
『わかってるんでしょ?』なんてあの医者が脳内で言って来るのが鬱陶しい。
っていうかなんであの医者の評判がいいんだよ。病院のレビューの評価がやけに高く、誰も彼もが先生を褒めてる。俺だけにあの対応か?俺が悪いのか?
とりあえず先生について考えるのはもうやめよう。
でも、この御守り効果あるのか?
翌朝、嘘みたいに快適な朝が訪れた。
何日だろう。不眠もあったのに解消されてる。
怪しい薬でも飲んだみたいだ。でも処方されたのは、いつもの薬。やっぱりあのお守りか。
これで、どうにか、、、ならないんだろうな。
『よくわかったね』なんて言ってきそうだ。脳内にまで侵食しないで欲しい。
あの腹黒い精神科医の胡散臭い笑顔を思い出してしまって、さらに気分が悪くなる。
さすがに紹介先はまともだといいけど、先生の知り合いだもんな、、、先生よりはマシだといいけど、、、
ひとまず行くしかないか。朝食の菓子パンといつもの薬を飲んで出かける準備をした。




