第七話 四畳半で暮らす神さま
これから神さまがいるという部屋の中に入る。
玄関の外観は、少し古臭いアパートと言った感じで、表札には505としか書かれていない。
場所は、ナギのせいで狐道という異界を通ったせいでわからない。
そしてさっきまで玄関前で騒いでいたが、全然人が来ない。というか人の気配が全くない。
なんか“覚醒”って変なことされて”俺が“悶え苦しんだり、ナギの説明不足のせいで“俺が”キレ散らかしたりしたのに。
そういえばナギと榊さんが神さまの引っ越しを手伝ったって言ってたから、その時に結界みたいなもんでも敷いたのかもしれない。
「回想はそんなところでいいかい?」
「まだ許してねぇからな」
「とりあえずまぁ、入ろうや」
「ちっ」
ナギがようやく扉を開けた。
中からは、とても澄んだ空気が流れてきた。
古い外観とのギャップに少し警戒してしまったが、すぐに杞憂となった。
ナギのせいで鋭くなった感覚が告げる。
恐れる必要がない慈悲深い存在だと。
そしてようやく中の様子を捉えることができた。最初は少し霞がかっていてよく見えなかった。
とはいえ中は昔見たアニメや漫画に出てくる四畳半の一室だ。水回りが無理矢理に詰め込まれている安い一人暮らし用の部屋といった感じ。
でも生活感はあまりない。というよりも中央にある小さな木造の社が目立って、それ以外が気にならない。
普通だったら違和感や不気味さが先行したと思う。でもこの社は部屋に合わせて組み立てられたようで、よく馴染んでいる。使われてる木材も年季が入っているのが見て取れる。
「遠慮せずに入っておいでなさい。神と言っても廃れた儂には敬意を抱く価値もありゃせんよ」
急に頭に声が響いた。口調はぶっきらぼうだが、声は穏やかで優しげに聞こえる。
そして社の前の霞が濃くなって白い煙のようなものが漂い出した。
ほんとに神さまだ、なんて思った。
けれど同時に、俺が苦しめられた黒い霞を思い出して嫌悪感が湧く。
そんな俺を置いてナギは下駄を脱ぎ捨て部屋の中へ入って行った。そして社の前にあぐらをかいて座り込み、喋り出す。
「そう卑屈になってんじゃないよ。梶原の爺さん」
「おまえにジジイ呼ばわりされたくないと何度言えばいい」
「だって雰囲気が爺さんなんだもんにゃぁ」
「まったく、、、それにしてもさっきは随分と賑やかだったじゃないか。お前が機嫌を取ろうとしてる様を見るのは面白かったの」
「チバー!ほら早く入って挨拶しな!」
ナギは自分の横の床を叩いてささっと手招きした。
こいつ、さっきまでのこと忘れてないか?
でも神さまの前だしな。
いくら神さまって存在に失望しても、染みついた信仰心は消えていないらしい。
しょうがなく靴を脱いで、部屋の中に入った。
でも近づきづらくて、少し手前で立ち往生する。
すると神さま(ナギが言うには梶原という名らしい)の声が響いた。
「すまんなぁ。さっきの話は儂も聞かせてもらった。お主には儂からも謝らせてもらえないか」
「爺さん、あんたには関係ないだろう?」
「だからお前はダメなんじゃよ」
「はぁ?」
この神さまの言うことには同意する。そもそも俺がキレたのもこいつが原因だし。
「ちばぁ?」
「ナギ、お主はもう少し謙虚になった方がいいぞ」
「アキにも言われましたねぇ。でもよくわからんのよ」
そういうところだと思う。
「?」
「お主は黙っとれ」
「はーい」
「千葉と言ったのう。お主には儂のような存在が酷い仕打ちをした。その上で儂の面倒も見てもらおうなどと頼み込んでしまい、誠に申し訳なく思う。悪かった!」
厚い誠実さが籠もった謝罪だった。声だけでなく周りの気配まで通して伝わってくる。
俺という一人の人間を尊重してくれて、敬意を持って接してくれている。
冴えた感覚が、ハッキリと姿の見えないこの神さまの気持ちを余さず拾ってくれた。
この神さまは悪くないのに、さらに言えば無関係と言っていいはずなのに。
いやナギから事前に説明を受けていたか?
「そこまでは言ってないぞ」
じゃあナギが全面的に悪いな。
っていうか神さまってもうちょっと傲慢というか尊大なイメージがあった。それこそナギみたいな。だからこそ、人間に対する態度に驚かされた。
「気は進まないと思うが、儂の頼みに応えてくれたら、彼の奴との縁を断ち切ろう」
「待って!そこまでしちゃうの?確かに褒美はこいつに頼むって言ったが、それほど求めちゃいないよ!」
「は?」
「チバ!こいつは自分が消滅してもいいからお前を助けようとしてんだぞ!」
「待ってくれ!どういうことだ!?」
「神って存在はな「決めたことだ。もういいんだよ」
「あんた、最初からそのつもりだったな」




