第八話 神さまの選択
「元はあの地に“力”を注いで消えようとしてたんじゃ。それを変えるだけじゃよ」
神が消滅するってどういうことだ。
「天に昇ることも、輪廻の流れにのることも興味がないんだな」
「文字通り自然に還るだけじゃないか。これも摂理というものだの」
「あんたはホントに人間好きだねぇ」
「お主には言われたくないセリフだの」
さっきまで緊張感が漂っていたのに、急に穏やかになった。ナギはため息をつきながらも、呆れながら笑ってた。
神さまの方も優しく笑ってるのが、周囲の気配からわかる。
っていうかいい加減に説明して欲しい。
「チバ、神の奴らには死という概念がないんだ。そもそも生命ではないからな。むしろ生命があるからこそ産まれた存在と言っていい。例外はあるがな」
ナギが上を見ながらゆっくりと語り出した。
「神は自然に漂う“力”が集まり、そこに信仰ができてようやく産まれる。信仰って言ったって動物でも植物でもいいんだ」
「儂が梶原と呼ばれているのは、そういう名前の山で産まれたからだ。昔は神社も持っていたんじゃぞ」
よくわからないけれど、神について教えてくれているらしい。
「そして役目を終えた神は、高位の神に認められれば“天”と呼ばれる場所で要職につくか、輪廻転生して新しい命として生まれ変わることができる」
「この神さまもそれくらいの存在ってこと?」
「それぐらいの“徳”と“格”があるんだ。そこらの神はな、長い時間を過ごす中で存在を維持しようと現世にしがみつこうとしてんだ。お前に憑いてる奴みたいにな」
「さっきの“縁を切る”っていうのは?」
「運命にまで作用して関わりを断つってことだ。いくら私と契約したところで、目隠しをしたようなものでな。直接来ないとも限らん。だから縁を断つことで関係性を根源から永遠に断つんだ」
「ああいう輩はタチが悪いから必死でお前を探すじゃろうが、こいつと契約したんなら近寄れんじゃろうな」
「それと消滅って、、、そんな大事なのか?」
「質問が多いなぁ。わかっていながらも信じたくないから聞きましたね?運命に影響を及ぼすんだ。当たり前じゃないか」
「じゃあこの神さまは俺のためにわざわざ自分の将来を投げ打ったってのか?」
「もともと決めていたと言ったじゃろう」
「でも俺なんかのためより、、、違うな。もっと自分のために存在したっていいと思う!」
「ほんとうに優しい子じゃなぁ」
「ふふん」
ナギが横で笑ってて少しムカついた。
「さっきも言ったが、自然から産まれた存在が自然へと還っていくだけなんじゃよ。儂が過ごした永い時間は恵まれたものじゃった。だからこそ、最後は恩返しで終わりたいんじゃ」
最初は神なんて信用ならないって思ってた。だけどこの神さまと話した今なら、あれが偏見だったってわかる。だから
「じゃあさ対価なんていらない。どんな頼みでも引き受けるよ。俺のことはナギがいればどうにかなるだろ」
「言うようになりましたねぇ。でも私も賛成。チバは私が守るから、お前は自分がしたいように力を使いな」
「お人好しな奴らじゃのう。でもやっぱり自然に還るという方針は変えるつもりはないがな」
「なんでそんな選択できるんだよ」
「この世界が大好きだからじゃ」
周囲がゆったりと温かい。この神さまは頑固だけど、ほんとに優しいな。納得するしかないのか。
四畳半の一室に漂う空気が、穏やかな温もりで満たされていった。
腐っていく日常の中で、俺は世界なんか滅べばいいと思ってたのにな。
確かにナギの言う通り、神さまと言ってもそれぞれだ。
「ではチバくん、酒を取り出していただきましょうか。飲み明かそう!梶原の爺さん!」
「はいはい」
ナギに言われた通りカバンから酒瓶を取り出そうとした。
ん?なにか飛ばしてないか?
そう思った矢先にカバンの中の画材に気がついた。
「そういえば絵を描くってのは?」
「儂の記憶をお主に描いて欲しいんじゃよ。それが頼みじゃ」




