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【完結】ヒノモトオンライン~フレンドリストにのらない友達~  作者: 小浪来さゆこ(森原ヘキイ)
10.火車

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10-5

「……ふ、う、……うぇ、う、うう」


 とうとう我慢ができなくなって、僕はしゃくりあげてしまう。袖からのぞいた白い両腕のありとあらゆる面を使って拭っても、とても間に合わない。

 赤ちゃんみたいだ。死んじゃいたいほど恥ずかしい。でもそんな僕を見て、コロは声を上げてうれしそうに笑ってくれる。


「夏樹、ほら早く来て。俺、マジでそろそろやばい」

「う、うぇ、だから、早くログひっく、アウト……すれば、う、いいじゃんっ」

「夏樹が来るまでしませーん」


 座り込んだまま動かないコロは、きっと苦しいはずなのに。それでも、僕が来るのを待っていてくれている。僕が来ることを信じてくれている。


「……祓え給い、清め給え」


 涙混じりの声でも、術技は発動してくれた。僕は根っこが生えたように動かなくなっていた足を、地面から無理やり引きはがす。周囲に光の文字をまといながら、炎の熱気を感じながら、車輪の回る音を聞きながら、コロに向けて一歩を踏み出す。


「神ながら守り給い、幸え給え」


 涙でぐしゃぐしゃになった顔を、猫又がぺろぺろと舐めてくれる。その優しさに、また新しい涙がこぼれてしまった。


「いにしへの、奈良の都の、八重桜」


 トラックを連想させるくらい大きな車輪が目の前を横切っていっても、立ち止まったりしない。押しつぶされそうな圧迫感と戦いながら、ゆっくりとコロに近づく。


「けふ九重に、にほひぬるかな」


 脳の奥が白く点滅する。雨の匂い。急ブレーキの音。強く柔らかい衝撃。

 そんな冷たい記憶を全部ぐっと奥歯でかみしめて、僕は顔を上げる。コロの笑顔が、すぐ近くにある。


「――百華祝詞 《八重桜》」

「みゃあん」


 術技の効果が発動すると同時に、猫又が鳴いた。猫又の持つ《幸運》という特性のお陰で、僕の回復の効果が二倍にも三倍にもふくれ上がる。コロを優しく包んでいた淡い光がまぶしいほどに輝き、小さな桜の花が大輪となって咲き乱れる。僕の今の術技のレベルでは考えられないほどの豪華なエフェクトだ。


「ハハ! やるじゃん、ハルキ!」


 真っ赤だった体力ゲージが一気に全開まで回復するやいなや、コロは跳ね起きて僕にハイタッチを要求した。現実世界でも滅多にやらない動作に戸惑いながらも、その大きな手に僕の小さくて白い手を音を立ててぶつけてやる。


「さて、じゃあ最終戦いってみるか」

「え!? ログアウトしないの!?」

「なんで?」

「なんでって……バイタルアラーム鳴ってるんだから当たり前じゃん!」

「鳴ってる? いつ?」

「は? え?」


 慌ててコロの近くで耳を澄ませても、たしかにあの心臓に悪いアラーム音は聞こえてこない。ということは、ということは?


「ぼ、僕をだましたのっ? あの苦しそうな様子は演技だったってこと?」

「俺の職業、覚えてるか? まあ、そうすればハルキが来てくれるかなと思ったのはたしかだけど」


 鬼の面をつけた歌舞伎()()は、そう言って悪びれた様子もなく笑った。対する僕はといえば、その場にへたり込みそうになるくらい一気に脱力してしまう。


「……もおおおお、本当に心配したのに! 小学生みたいな悪ふざけするんじゃないの!」

「だって小学生だもん」

「こんなときばっかり子どもを主張する!」

「あ、いくらでも怒られるけどサイテーは禁止な。ちょっとだけ傷つく」


 コロに言われて、はっと息を飲んだ。火車戦前の自分の言動と、ここに来た目的を思い出す。


「……ごめんね、コロ。僕、君にひどいこと言っちゃった」

「うん、俺も。ごめんなさい」


 お互いが謝ってしまえば、あとは二人で笑い合うだけ。仲直りの気配を感じたのか、猫又がかわいらしい声で「にゃあ」と鳴いた。


「よし、じゃあ続けるぞ。さすがに火車も待ちくたびれてるだろ」


 沈黙を続ける火車をにらんだまま、コロが自分の袖の中に手を突っ込む。アイテムを取り出すモーションだ。メニューウインドウで目的のものを確認しながら、なにやらうれしそうに笑っている。


「はー、火車用にイベントのミニゲームで集めまくってたアイテムがようやく使えるぜ。出し惜しみは、なしだ」


 そう言うと、僕にはわからないアイテムを立て続けに使用した。

 体力増加。

 攻撃力増加。

 防御力増加。

 移動速度上昇。

 いわゆる《バフ》と呼ばれる、ステータスを補強する効果が、これでもかというほど重ねられていく。戦闘で有利になることは間違いないけど、短い時間制限があるので注意が必要だ。


「これだけ積んでも、俺のレベルじゃきっついな。ハルキ、適当に回復よろしく」

「任せて!」


 それが僕の仕事。僕なりの戦い方だ。力強くうなずく僕を見て、コロがふっと小さく笑った。


「いくぞ」


 石像のように動かなかった火車が、コロの戦闘の意思を確認して長い髪を振り回す。体にまとっていた蒸気を一気に放出させると、僕をさんざん苦しめた車輪のエフェクトがすべて消え去った。おおおおおん、という身の毛もよだつような咆哮が、インターバル終了の合図。

 

 ――さあ、ラストバトルだ。

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