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ママとビキニと、かわいい英雄  作者: 身から出た鯖
第1章 アイナママは、もと【聖女】
38/92

038 不自然な、魔物の氾濫

(あれ? そういえば、)


 その違和感に気づいたのは、食事のあと小一時間たったころのこと。

 あれだけあったほかのパーティーとのはちあわせが、なくなってたから。


(おかしいな? まだ引きあげるような時間じゃないのに)


 そして──


 ドドドドドっ


(なっ? 【万物真理(ステータス)】!)


 そのレーダーマップに現れたのは、魔物の列。

 それがぼくたちのところへ向かって移動してる?


(トレイン! ううん、人族が先頭にいない。ならっ!)


 ぼくはアイナママをみて、短く──


「アイナママっ 魔物っ とってもたくさん!」

「っ! では聖防壁を──」

「ううんっ ぼくがいく!」

「ですがっ」

「ここはダンジョンの出口に近いし、魔物が外に出ちゃうかも! だからぼくがやらないとっ」

「あっ クリス!」


 【万物真理(ステータス)】によると、その数は37体。

 たしかに多いけど、ぼくならやれる!

 【俊足】のスキルで駆けだして、魔物たちを迎えうつ。

 囲まれるまえに正面から、各個撃破してやるんだ!


「いた!」


 飛べるキラービーと、ミラージュモスがまっさきにやってきた。

 ぼくは高速で駆けながら、【跳躍】のスキルで床から飛び上がる。

 さらに三角跳びで壁を蹴り、その軌道を一瞬で変化させた。


「てやぁぁぁっ!」

「キュキー!」


 そんな空中からの剣戟に、飛ぶ魔物たちもあえなく魔石に姿を変える。


「やれる!」


 2日がかりで、その倒しかたは身体に叩きこんだんだ!

 もうキラービーもミラージュモスも、もうぼくにとってザコも同然。

 負ける気がしない!


「たぁぁぁっ!」


 そして──

 そんな一方的なぼくの攻撃が、その魔物をすべて魔石に変えた頃、


「はぁっ はぁっ 、やった」

「ねえっ みててくれた? アイナママぁ」


 けれど──


「あ、アイナママ?」


 いつもぼくを見守ってくれた、アイナママ。

 その姿が、見えなくなっていたんだ。


 ◇◆◆◇


「あ──っ! ぼくのバカバカバカぁぁぁっ!」


 そんなふうに自分を怒鳴りながら、ぼくは無我夢中で走った。

 その行き先は、塔のてっぺん。

 そこに、【万物真理(ステータス)】のレーダーが示す、アイナママの姿があったから。


「よりによってっ よりにもよってぇっ! アイナママを、さらわれるだなんてぇぇぇっ!」


 そしてそのアイナママを示す光点のまわりには、魔物の他に【敵意をもつ人族や亜人】をしめす、黄色い光点がたくさん。

 きっとあの【闇ギルド】って連中のしわざ!


(でもまさか、ダンジョンのなかでしかけてくるだなんてぇぇ!)


 なにが【ぼくが守る】だ!

 ぼくがしたことは、調子にのって魔物を斬っただけ。

 アイナママのいうことをさえぎってまで、それがほんとうにぼくのすべきことだったのか!


「アイナママっ ぼくがバカだった!」


 けど、謝るのはあと!


「ぜったいに助けるから、ぼくにごめんなさいをいわせてっ!」


 そんなぼくが、必死にさいごの階段を駆け上がると──


「クリス!」

「アイナママ!」


 思ったとおり、アイナママのまわりには冒険者らしき連中がいた。

 そしてアイナママには──

 不自然な赤い光を放つ、首輪が付けられていたんだ。


(まさかっ あれで魔法を封じられてるの!)


 いや、アイナママがあんな連中のいうとおりになるだなんて、そうとしか考えられない!


「おいっ ガキのほうが来やがった!」

「あ、あの魔物を全部倒したってのか?」

「ちっ 逃げてきたに決まってんだろ!」

「おっ おいガキ! この女の命が惜しかったら──」


 驚く冒険者たちをよそに、ぼくは【縮地】のスキルを発動させた。

 その距離が、一気に縮まったその瞬間──


 スパパパパッっ


 【抜刀術】のスキルが、5人全員の喉を、一気に切り裂いた。


(あとは──)


 アイナママの腕を掴んでいる男と、その横にいるもうひとりの男のみ!

 そう思ったとたん──


 ドンッ!


「んあぁぁぁっ!」


 ぼくの身体はふっとばされていた。

 虚ろな目をした、その【もうひとりの男】に。


(ば、爆発魔法っ!)


 きりもみ状態で視界がぶれる。

 そして肩から地面に落ちて、瞬間痛みが走った。

 けれど、【痛覚遮断】のスキルが、それを一瞬で止めてくれる。


(あれは、魔族!)


 アイナママの腕をつかんでるのは人族だけど、ぼくに魔法を放った男は、褐色肌に白い髪。

 そして頭には、ヒツジみたいな丸まったツノが生えていた。


「おいおい、マジでここまで来るとかどーなってんだ?」

「アイナママをはなせっ」

「あのなぁ、そんなことが言えたザマか?」

「なっ!」


 ニヤニヤと笑いながらその男は、腰からタガーを抜いた。

 そして震えるアイナママのお顔に、タガーの腹をピタピタと叩いた


「や、やめてくださいっ わたしなら、言うことを聞きます! ですからあの子だけは──」

「ハァ? 助けてください~ ってか? バカじゃねーの?」

「そ、そんな──」

「どうせ魔法の使えないアンタなんざ、屁でもねぇしw それにこんだけ手下を殺られといて、タダで帰すワケねぇだろ?」


 やっぱり、アイナママは魔法を封じられてる。

 そしてとなりにいる魔族も、


(【万物真理(ステータス)】!)


 パッ

-------------------------------------

【服従の首輪】


種 別:マジックアイテム

制 限:無制限

価 値:金貨32枚

性 能:対象の人物の首に装着することで、

    使用者の魔力で縛り、使役することができるマジックアイテム。

    対象の意思を曖昧な【催眠状態】にすることで自我を失わせ、

    強制的に使役することが可能になる。

    ただし対象の自我が曖昧な故に、融通がいまひとつ効きくくもある。

    その使役には、対となる腕輪を装着する必要がある。

-------------------------------------


(【服従の首輪】! そんなもので魔族が操れるの?)


 見れば、魔族の首とあの男の腕には、同じ様なデザインの首輪と腕輪があった。

 そして魔族の赤い瞳は、うつろに宙を見ていて──


「オイ、魔族! まずはそこのガキをなぶり殺しにしろ」

「なっ」

「一気に殺るんじゃねーぞ? とりあえず手足を1本づつもぎ取りながら、十分に苦しめて……最後に首を飛ばせ」

「クリスっ」

「アイナママぁ!」


 しかしその直後、魔族が差し出した腕から魔法が飛んでくる。

 そしてそれはぼくの身体にふれた瞬間──爆発を起こした。


 ドンッ!


「うわぁぁぁっ!」


 しかもあの男の命令を、聞いているつもりなんだろう。

 その魔法はぼくの両手両足を、交互に狙ってきた。


(くぅぅうっ こ、このままじゃぁぁぁっ)


 ぼくのHPは10万以上あるし、痛覚遮断のスキルもあるから、まだまだ耐えられる!

 だけど魔族にとって【魔法攻撃】は、息をするみたいに簡単な行為。

 それに保身を考えていないあの状態じゃ、それこそ終りが見えてこない。


 ドンッ!


「んあぁぁっ!」


 しかもぼくの身体が軽いから、あっけなくふっとばされる。

 そのたびにぼくは、床の上をなんども転がりまくった。


(な、なんとかアイナママに近づかなきゃ!)


 ぼくは立ちあがり、アイナママを押さえつける男をにらみつける。

 すると、その男は不機嫌そうに顔をゆがめて──


「チっ しぶといガキが。おい、魔族! もう手加減はヤメだ!」

「っ!」

「いいからガキに、トドメをさ──」

「い、いやぁっ!」


 どんっ


 しびれを切らした男が、魔族にそう命じようとしたその瞬間。

 アイナママが捨て身の体当たりをして──


「アイナママっ!」


 よろけたその男がアイナママから離れた距離は、ほんのわずか。

 けれどぼくは【縮地】のスキルを発動させ、その間に入り込む。

 そしてそのタガーを持った右手首を──

 使役の腕輪ごと、斬り飛ばした。


「お、俺の腕がぁぁぁぁぁっ!」

「クリス!」


 駆けよってくるアイナママをしっかりと抱きとめて、そのまま抱き上げる。


「きゃぁ!」

「アイナママっ ごめんっ」


 そのままお姫様抱っこの格好で床を蹴り、魔族から距離をとった。

 けれど、


(えっ うごかない? なんで)


 あれだけ魔法を連発していた魔族は、その動きをピタリと止めて──

 ニンマリと笑ってた。

 そしてその目は、さっきまでのうつろなソレじゃなく……


「よくも、この私を今まで──」

「ひぃぃっ! やっ やめ、やめてくれぇぇっ!」

「黙れ! この薄汚い人族が!」

「あ、あひぃぃぃぃ!」


 ドンッ! ドンッ!


 魔族は恨みを晴らすように、自分を使役していた男の両手両足を吹き飛ばし──

 最後に首を飛ばした。


「くくくっ だが、キサマも最後にひとつだけ役に立った様だな?」

「なっ!」


 その赤い瞳が、ぼくたちを見やる。

 正確には、アイナママを。そのお顔を忌々しげに。


「あの憎き【勇者】と共に、我が魔族の王を弑した【聖女】。我ら魔族の恨み、ここで晴らさせてもらお──」

「させない!」


 ぼくはそう、魔族のことばを遮りつつ、アイナママの魔力を封じる首輪を破壊した。


「アイナママ、さっきはごめんね? ぼくひとりで、先走っちゃって」

「あぁっ クリス!」

「だから、こんどは──ぼくにチカラをかして?」

「え──」

「そしてふたりであの魔族を倒して、一緒におうちに帰ろう」

「わかったわ……ママが、あなたを守ってあげる!」


 【服従の首輪】の使役がなくなった今、きっと魔族のチカラはもっと強くなってると思う。


(けど、こんどはアイナママと一緒だ!)


 杖のないアイナママは、その両手を組んで高くかかげる。

 そこからあふれる光の奔流は、きらきらとぼくたちを照らし──

 まるで暖かく、包んでくれるかのようだった。

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