024 ぼく、チョロくないもん
「ダメです」
「そんなぁ」
お昼ごはんのあと、ぼくはアイナママに頼み事をしたんだ。
けれど、答えは今のとおり。
しかもぜんぜん悩まずに答えられちゃった。
「で、でもぉ」
「でも、ではありません。いくら【一人前】といわれる歳になったからといって、クリス? あなたはまだまだ【大人】というには、ほど遠いのですよ?」
「うぅ」
「あなたが【冒険者になりたい】そう考えるなら、それはいずれ叶えても構いません」
「え? なら──」
「クリス? わたしは【いずれ】といいましたよ?」
「ひゃいっ」
「ゆえに、それは【いま】ではありません!」
「えぇぇ」
「ですから。せめてわたしよりも背が高くなるまでは、冒険者になることは許しません!」
「あうあうあう」
うぅっ アイナママが、こういうていねいなお話しのしかたの時は、ぜったいに許してくれないんだ。
でもっ
「ち、ちがうんだよ! アイナママぁ」
「なにが違うのですか?」
「ぼくだって、いますぐ冒険者になって、おうちを出て行きたいっていってるわけじゃないんだ」
「ですが」
「この前の奉仕依頼のときみたいに、いろんな人のやくに立ちたいんだ」
「……それは、どのような?」
やった!
アイナママがすこしは、お話しを聞いてくれる気になったみたい。
ぼくは一緒うけんめい言葉を選んで、なんとかアイナママを説得しようとがんばった!
「まずね? ぼくがこの前受けたのって、【塩漬け依頼】だったでしょ?」
「ええ、そうでしたね」
「塩漬けになっちゃった理由って、めんどくさいわりにおちんぎんが少ないから、だよね?」
「ええ、そうですね。しかし──」
「うんうん! ぼくもアマーリエさんにいわれたんだけど? そりゃあ冒険者の人たちは、生活がかかってるんだもん。おしごとを【選んじゃう】のは、しょうがないよね?」
「そう、ですね?」
「でもね? ぼくは、冒険者になりたいわけじゃないんだ」
「え? ですがさっき──」
あ、やっぱりアイナママ、カン違いしてたみたい。
「うん、ぼくがアイナママにいったのはね? 【これからもギルドで、依頼を受けていきたい】だったでしょ?」
「あら? そう、でしたね。ならなぜ、冒険者になりたくないのですか?」
「うん、じつはぼく、なりたいおしごとが、まだ決まらないんだ」
「そうなんですか?」
「あ、でもやりたいおしごとは決まってるんだ~」
「ええと、どういう事でしょう?」
「あのね? ぼくがなりたいのはね? アイナママたちを、たすけてあげられるおしごとなんだ」
「えっ?」
「あ、たすけてっていうより、おてつだいかな? だから、ちゃんとした【職業】になるかどうかは、よくわからないけど」
「………………」
「ぼくの望みはアイナママたちとずっと一緒に、みんなでたすけあって暮らしてくことなんだ」
「クリス、あなたは」
「だからね? ヘンないいかただけど……ギルドの依頼を受けるのは、ぼくのシュミ?」
「趣味、ですか?」
「うんっ だって、それで食べていきたい! ってわけじゃないからね」
「それよりも、こまった人を助けてあげなさい。その行いは、いつかあなたにかけがえのない経験として糧となるでしょう」
「それは……」
「うん、アイナママが教えてくれたことば」
アイナママは聖女と呼ばれるだけあって、その慈愛に満ちた行いで、たくさんの人を助けてあげてるんだ。
「それでね? ぼく、【剣術:LV06】と【盾術:LV08】のスキルが付いてたでしょ?」
「え、ええ」
「それをね? この前、ユカイさんにみてもらったの。そしたらね? ぼくの剣はすごく【剣筋】がきれいなんだって」
「それは、そうなのでしょうね」
「うん、ユカイさんたちもね? ぼくに足りないのは経験と、それを使いこなす応用力だ~って、いってたの」
そりゃぁ、勇者のスキルをぜんぶ使えば、たいていのことはできちゃうだろうけど?
でも、せっかくまた持てた勇者のチカラ。
(このチカラをぼくは、アイナママたち家族と、それを必要としている困ってる人たちに使いたい!)
「だからぼくがしたいのは、魔物を討伐するコトじゃなくて? 魔物を討伐した【後】にある、だれかのよろこぶお顔を見ることなんだ」
「クリス……」
「あっ もちろん今までどおり、アイナママのおてつだいもするし! お勉強や剣の練習だって、今までどおりやるから!」
「………………」
「だから、依頼のお仕事は、ときどき? そのぉ 7日にいっぺんとか、10日にいっぺんとかじゃ、ダメ?」
はふぅ。
とりあえずぼくのいいたいことは、何とかいえた?
あとはアイナママが、わかってくれるかどうかだけど。
「クリス? ひとつ聞きたい事があります」
「は、はひっ」
「これからしばらく後、レイナも一人前の歳になりますね?」
「うん、なるね」
「そしてギルドに行き、レイナもスキルを調べてもらうでしょう」
「うんうん」
「そしてクリス、あの子もあなたと一緒に剣の練習をしていますね?」
「うん、してるね」
「その甲斐あって、あの子にも剣術のスキルが付いていたとします」
「ありえるかも」
「そしてあの子が、こういい出します」
『わたし、冒険者になってみたいの!』
「だだっ ダメだよ! そんなの危ないよっ! ──あっ」
「クリスもそう思うのですね?」
「………………(ふいっ)」
「目を逸らしてもダメです」
「うぅ 危ないと思いますぅ」
しまったぁぁぁっ!
うぅ、やっぱりアイナママには勝てなかったよ……
「ええ、そしてクリス? あなたの説得の甲斐あって、あの子が『冒険に出るのは時々にするし、危ない依頼はなるべく避ける』といい出します」
「ふむふむ?」
「それならクリス、あなたはどうしますか?」
「それでも心配だよぉ できることならぼくが一緒に行きたいけど? どうせならレニーさんたちみたいな、レベルの高い人たちと行くべきだよ」
「ええ、わたしもそう思います」
「ですよねー」
「ですから……クリス?」
「はひっ」
「あなたが依頼を受けるそのときは、ママも一緒に行きます」
「はい、え?」
「ママも、一緒に、行きます」
「あ、アイナママが、ですか?」
「ええ、その通りです。幸いママは、あなたのいう【高レベル】の冒険者です」
「ですね?」
「しかもレニーさんよりも上の、レベル56。不服ですか?」
「とんでもありません!」
っていうか、勇者が死んじゃった今? この大陸にアイナママよりも高レベルの人なんて、いないよぉ!
「では問題ありませんね?」
「え、ええと~」
「クリス? ひょっとして」
「え?」
「ママと一緒に依頼を受けるのが、そんなにイヤなの?(うるっ)」
「そんなわけありませんっ」
「うふふっ では、そういうことで」
「ないてないしっ?」
「うふふ クリスはちょろいですね」
ちょっ、チョロくないもんっ ぼくぅ
「じゃあ、依頼をうけるのは、してもいいの?」
「ええ、ただし」
「はひっ」
「あなたのいう通り、ふだんのお手伝いに勉強に、剣の練習。それを今までの様に、しっかり続けられれば、ですよ?」
「あ、ありがとうっ アイナママぁ」
ぼくはそういうと、アイナママに抱きついちゃった。
アイナママも、そんなぼくを抱きしめかえしてくれる。
「もう、あいかわらず甘えんぼうのくせに。いつの間にかそんなことを考える様になっていたんですね」
「えへへ だってぼく、アイナママの子供だもん」
「ええ、ママの自慢の息子ですよ、クリスは。ちゅっ」
「やぁん♪」
ぼくのおくちに近いほっぺに、アイナママがキスをしてくれる。
それがくすぐったくて、嬉しくて。
ぼくはそんなアイナママの子供になれて、ほんとうに良かった。
◇◆◆◇
「えぇぇぇっ またクリスとママだけなのぉ?」
「あ、うん。ごめんね? レイナちゃん」
「もーっ するいずるーいっ」
「レイナ、クリスはお仕事で行くのよ?」
「むぅっ わかってるもんっ」
(あーコレ、なんだかすっごく見たコトある気がするー)
レイナちゃんが、またおるすばんと聞いて、ゴネてるみたい。
そもそも? まだ村から出ちゃいけない決まりがあるのに~
「レイナ? いい加減に聞き分けのないことを……」
「はぁい、わかったわよぉ」
「あら?」
「その日はママもいないんでしょ? なら、おうちと神殿のおしごとは、わたしがやるしかないじゃない」
「ええ……でも、いいの?」
「よくはないけど~ それくらいわかってるもん」
「レイナちゃん、すごいや」
「そ、そぉ? ふふん まーね!」
「ええ、偉いわ レイナ」
「そのかわりっ わたしが一人前になったら、クリスとい~っぱいっ 街にいかせてよね?」
「ええ いいでしょう」
「ホント? やったぁ♪ えへへ~ クリスぅ 今の、聞いてたわよね?」
「うんっ もちろんだよ」
「うふふっ だったらクリスも、もっとほめなさいよぉ」
「うんっ ぼくもがんばってるつもりだったけど、レイナちゃんは、もっとすごいや」
「はうっ くく、クリスぅ おおっ お顔がちかい──」
「レイナちゃんっ これからもアイナママをおてつだいしようねっ ぼくとレイナちゃんと、ずっと一緒に」
「は、はひぃ わ、わたしぃぃ ずっとクリスと、一緒に、いましゅぅ」
「うんっ 約束だよぉ」
そんなふうに手をとりあって、やくそくするぼくたちを、アイナママは困ったような~ うれしいような~
そんなお顔をして、ため息をつくのでした。




