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ママとビキニと、かわいい英雄  作者: 身から出た鯖
第1章 アイナママは、もと【聖女】
22/92

022 塩漬け依頼って、めんどくさい!?

「さて、【塩漬け依頼】ですが──」

「ごくりっ」

「それは依頼を受けられることなく、文字どおり塩漬け状態でギルドがずっと抱え込んでしまった不良案件です」

「ふりょうあんけん」

「ま、理由はいろいろあるけどね。大まかに分けてふたつ」

「ふたつ?」

「ひとつはその難易度が高すぎて、誰も達成できないことだね」

「ええ、例えば高レベルの魔物の討伐や、高難易度のダンジョンなどに眠る【アイテムの収拾】などですね」

「なるほど」

「こちらは正にハイリスクハイリターン。しかしその難易度から、【命あっての物種】と忌避されることが多いです」

「ですよねー」

「そしてあともうひとつが、【割に合わない】からさ」

「わりにあわない?」

「ええ、その難易度そのものは、それほど高くないのですが……」

「なぁ? クリス、ここに依頼がふたつあるとする」

「ふたつ?」

「ひとつはスライムを10体討伐、報酬は銀貨8枚」

「ふむふむ?」

「もうひとつはスライムを1000体討伐、報酬は銀貨700枚。さぁどっちを選ぶ?」

「ええと、10体のほう?」

「なぜだい?」

「10体の方ならそれを百回やれば800枚だし、おトクですよね?」

「その通り。この場合、そうやっていつまでも選ばれない1000体の方が、塩漬け依頼って事になる」

「しかも10体なら、そのつど報酬が受けられますが、1000体では報酬が得られるのは【1000体倒した後】ですからね」

「とまぁ塩漬けってのは、おおむねこんな感じの【割に合わない】依頼なのさ」

「なるほどー」


 その考えだと、仮に【1000体討伐で銀貨800枚】だとしても、同じ条件じゃなくなっちゃうわけだ。

 いや、850枚でもワリに合わないかも?


「とまぁ、面倒なくせに稼ぎが微妙で、なら同じ時間でワリのいいいのを数こなした方が美味しい。そんな理由で塩漬けになっちまうのさ」

「その場合、ギルドの【奉仕依頼】とする手もあるのですが、それでも残るものは残ってしまって……」

「あー」

「そして今回の場合、クリスが受ける以上、高難易度の討伐じゃない」

「ですね」

「となると──」


 ◇◆◆◇


「ちょっ クリス! まだ見つからないのか~っ」

「うぅっ ごめんなさいぃぃ まだですぅっ」

「このバカっ! 急かすんじゃないよ!」

「だ だってさぁっ うぎゃ──っ」


 ボヒュっ!


 そんなユカイさんの身体に、氷結魔法が飛んでくるっ

 そしてその身体に触れたとたん、


 ビキビキビキっ


 氷がユカイさんの身体にまとわりついて、その動きを止めてしまった。


「あいだぁぁぁっ」

「ちっ 身の軽さがウリの軽剣士だろっ それくらい避けなっ」

「むっ ムリに決まってるだろっ」

(で、ですよねーっ)


 ユカイさんがいま戦っている魔物は、【アイスゴースト】。

 いわゆるゴースト系の魔物で、ふわふわと宙をただようユーレイみたいなヤツ。

 こいつはすごく……やっかいな魔物なんだ!


「あ、姉貴っ いちど数、減らしてくれよっ」

「ちっ 仕方ないね……【ホーリーブレス】!」


 パァァァァァ


 レニーさんが杖を掲げて神聖魔法を放つ。


-------------------------------------

【ホーリーブレス】

 種別:神聖魔法

 状況:常時

 対象:術者、対象者、魔物

 効果:神々の神聖な祝福を受けることで、

    対象者よりも弱い魔物を寄せ付けなくする魔法。

    一定の時間経過で効果は消失する。

    また魔物に当てることで、若干ではあるがダメージを与えることが可能


-------------------------------------


 そしてゴースト系の魔物には、けっこうききめがあるんだ。


(しかも広範囲魔法だから、いっぺんにたくさんの魔物を討伐できるしね)


 そんなレニーさんの呪文で、アイスゴーストは一気にいなくなった。

 そしてユカイさんががっくりと膝をつく。


「め……めんどくせぇぇぇっ」

「うるさいっ!」


 バキっ!!


「いてぇぇっ」

「大声出すんじゃないよっ またアイツらが集まってくるだろっ」

「だからって杖で殴ること──また来たぁぁぁっ」

「ほらっ いわんこっちゃないっ」

「うぅ ユカイさんっ レニーさんっ ごめんなさぁい! ぼくっ がんばって探しますからっ」


 そう、なんでこんな事になってるかというと……


 ◇◆◆◇


 その【塩漬け依頼】をひとことでいうと、【魔物がいる場所での、落としもの探し】


(しかも街から近い、弱めな魔物しかいないところ)


 これだけだと、冒険者なら簡単そうだけど?

 その魔物が【アイスゴースト】なのがすごい問題。

 この魔物……すごくめんどくさいんだ。


(まず、すぐよける)


 1体ごとのHPはたいしたことないんだけど、とにかく剣や打撃武器の攻撃を、ひょいっとよける。

 それこそ宙に舞う、葉っぱみたいに。


(そしてよけると、かならず魔法が飛んでくる)


 仕返しとばかりに、その相手に【氷結魔法】が飛んできて、相手の身体の一部を氷で覆っちゃう。

 それは素肌にドライアイスを押しつけられたような痛みで、しかもそれが身体に張り付いてはがれないんだ。

 その痛みでダメージを喰らうし、はがさないとダメージを受け続けちゃう。


(同時に何発もくらえばうごけなくっちゃうし、MPが少ないから1回くらいしか魔法をうてないんだけど)


 しかもこいつ……剣で斬ったとしても、分裂しちゃう。

 その確率もけっこう高くて、分裂したやつはまた魔法を飛ばしてくる。


(こっちは魔法をよけられないのに~っ)


 魔法はすごい速さで飛んでくるから、よほど【瞬発力】が高くないと、まず避けられない。

 なので魔法防壁を張るか、ダメージ覚悟で喰らい続けるしかない。


(弱点は【火】と【浄化魔法】だけど~)


 今回は火の魔法を使える人がいないし、レニーさんの浄化魔法も、MPの残量を考えればあまり連発できない。


(それに魔法をくらったユカイさんのHPも、回復させなきゃいけないし?)


 しかも戦闘に参加できないぼくを、かばい続ける必要があるんだ。


(アイテムの【聖水】をつかう手もあるけど……)


 こいつ1体分の魔石のおねだんよりも、聖水の方がお高いんだ。

 つまり、魔法をなんども喰らうのをカクゴで、コツコツ倒していくしかないという……

 超めんどくさい魔物なんだ。


 ◇◆◆◇


「んあぁぁっ 防具の金具が冷えきってつめてぇぇぇ!」

「うっさいっ 凍傷だろうがなんだろうが、後でまとめて直してやるからっ カクゴして喰らっときな!」

「お姉様っ それでは俺が死んでしまいます!」


 そしてぼくはというと、ユカイさんたちが戦ってくれるあいだ、地面にしゃがんで探しものをしてる。


「うぅっ ないっ ないよぉっ」

「クリスっ 慌てなくていいからね? とにかく2度手間にならない様に、【ここにはない】って範囲だけ広げときな!」

「は、はひっ」


 レニーさんのいうとおり、同じ所を何度も探さなくてすむようにしないとっ

 ぼくは地面に木の枝を挿して立てて、その範囲をすこしづつ広げていった。


「うぅっ うでわっ うでわ~」


 探しものは【銀の腕輪】。

 とある冒険者がまえに、ここで戦って落としたものなんだ。

 しかも腕を【氷刃】で切りとばされて、なんとか腕はひろって、神官につなげてもらったらしいけど……


(その時に、大事な腕輪をなくしてしまったんだ)


 そして今回ぼくが受けた依頼は、その【腕輪の回収】。

 当人はそのケガと死にかけたのが原因で、すでに冒険者を引退してる。

 そしてほかの冒険者たちも、アイスゴーストのめんどくささと、魔石の安さを知ってるから受けたがらない。


(うぅっ ホントにここにあるのっ? きのうから探してるのにっ ぜんぜん見つからないんですけどぉっ)


 そしてこの腕輪探しも今日で2日目。

 村へ帰る時間を考えると、今日探せるのもあと数時間がせいいっぱい。


「うぅっ ないっ ないっ ないぃぃぃっ」

(あぁっ もうっ!【万物真理(ステータス)】さーんっ 無敵の【勇者魔法】でなんとかしてくださいよォ──ッ!)


 パッ!


 そのとき、ぼくのアタマのナカに、レーダーがあらわれて──


「さ、さがせたのぉぉぉっ?」


 10時の方向っ 約8メートル!

 ぼくはその方向に向かって、走り出すっ

 すると──


「うでわっ あったどーっ!」

「でかしたっ クリス!」

「たっ 助かったぁぁぁっ」

「ユカイっ さっさとずらかるよっ【ホーリーブレス】!」

「さすがお姉様っ さすおねっ」


 レニーさんの魔法がまた、魔物たちを一気に殲滅した。

 そしてレニーさんはぼくを抱きかかえて──


「ちょっ レニーさんっ ぼく自分で」

「いいから黙っときなっ 舌噛むよっ」

「は、はひぃぃ」


 そんなおっとこ前なレニーさんにぼくは、抱きかかえられたままおとなしくする。


(でもでもっ このかっこうって、【お姫さま抱っこ】なんですけどぉぉっ)

(うぅっ ぼく男のコ! 男のコなのにぃぃっ)


 ◇◆◆◇


「うぅ ありがとう……ありがとう……」

「いえ。お礼なら、ぼくじゃなくて」


 ぼくは、依頼主であるお姉さんに、両手をしっかりと握られながらお礼をいわれていた。

 そしてお姉さんは、目からいっぱいのなみだを流してよろこんでくれたんだ。


「いや、あたしらはクリスの護衛をしただけさ」

「ちょっ レニーさぁん」

「じっさいに腕輪を探したのも、この依頼を受けるのを決めたのも、ぜんぶクリスじゃないか」

「ですけど」

「それにあたしらだけなら、この依頼は受けなかっただろうしね」

「うぅぅ、それでもお礼を……いわせてくださいぃ ありがとうございますっ ほんとうに……ほんとうに……うぅ」


 そうやってお姉さんは、レニーさんとユカイさんにもお礼をいう。

 もう見つかることはないって、何度もあきらめてたみたいで。


「おかげで亡くなった母に顔向けができますっ ほんとうに……ありがとうっ」

「えへへ、よかったです」


 そう、ぼくがこの依頼を受けた理由のひとつが、この腕輪が依頼主さんの【お母さんの形見】だったから。

 女手ひとつで育ててくれた、大好きだったお母さん。

 そのお母さんが病気で亡くなる前に、このお姉さんがもらったもので──


(えへへ ほんとうによかった)


 って、そんなとき。


「あぁぁぁぁぁっ」

「なんだい、やかましいね」


 ユカイさんが悲鳴をあげた。


「今日のアイスゴーストの魔石っ 俺ら、ぜんぜんひろってないっ」

「はぁ? なら、これから拾ってくればいいじゃないか。あんたひとりで(ぼそ)」

「うぇぇぇっ 姉貴はいいのかよっ」

「どうせ数あったって、アイスゴーストの魔石じゃねぇ」

「うぅっ それでもっ【討伐報酬がある】ってコトがだいじなんだよぉぉっ」

「あら、ユカイさん。そのご意見、プロフェッショナルらしくて、とても素敵ですわ」

「そそっ そうですか? アマーリエさぁん」


「ちっ プロはあんただよ……アマーリエ」

「あ、あはは~」

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