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第二王子アレックス殿下の男子会(筋肉は悪く無い)

 クルシェが可愛い。兎に角可愛い。

 この数日。憂い顔の伏し目に、何を悩むのかと様子を見ていた。

 王太子妃のサロンでは、王太子妃の従姉妹のミシェイラ嬢がクルシェに絡む。俺にも馴れ馴れしく絡むので、親しさを疑われてる? やきもちとか嬉しいじゃ無くて、そんな関係の関係も無いんだと、どう伝えるか…。違うと言って信じてくれるかと考えた。そして、クルシェの背中にある傷痕。他人に、俺に、どう思われるのか不安に思ってる? どう言ったらクルシェが安心してくれるのか考えたりもした。

 それが、聞き出してみたら、とても可愛い事だった。

 真っ赤になって「お胸が」と言うその様子が、堪らなく愛らしい。

 すぐさま抱きたいと思う程焦がれているって分かってるのか? 分ってないからそんな事で悩んだんだろうけどな。ほっこりとした時間の共有だけじゃ足りない。その先のその先。もっと、もっとと思わない限り、婚期を急ごうとは、そもそもしない。

 他人が、イヴァンが言った事は気になるが、すっきりとした体の線を出すドレスがとんでも無く似合うのだからスタイルはとてもいい。隠すなんて言ってるけど、首筋から背中の肩甲骨、腰へのラインを隠せて無い。本人の気にするまろみなんて、もう少し食が増えれば解決する事だ。

 俺は可笑しくなって笑った。

 クルシェが何で悩んでると分かるのか…。考え事をすると、鼻梁の整ったあの顔が、一瞬であっても人形の様に表情を消すから。引き込まれそうな紫紺の双眸が、深い所に思考が沈んでる事を物語るんだ。笑う様に、拗ねる様になってもそれは変わらない。これは、教えないでおく。


「アレックス殿下。貴方、気持ち悪い」


 それは、思い出し笑いがか?

 ソファーの背に足を掛けて上体を持ち上げれば、項垂れた様に俯くイヴァンの横顔。


「ねえ。俺にまでその腹見せるのやめて」

「いいから、王太子妃は何て言ってる?」


 俺はそのまま左右に体を捻る。

 何をしてるか…。筋トレだ。騎士でも無いダリル兄上にくらいは、せめて勝ちたい。

 それに、兄上に負けず劣らずのアピールはしておきたいじゃ無いか。

 シャツをはだけて見せたら、真っ赤になって顔を背ける。抱きしめたら固まる。そんな初な様子が可愛くて仕方無い。真っ赤になりながも、ボタンを閉めてくれるのもいい。


「ミシェイラ嬢を持て余してたみたい。言っても聞かないから放っておいたみたいだけど、結婚する王子にあれじゃ駄目だし。クルシェ嬢自身にもあしらい方を身につけて欲しいそうです」

「あ?」

「屋敷と領地に篭もりっきりって訳にいかないって分かってますか?」

「そうだ、なっ」

「モードン家のご令嬢を一番に煽ったのって、ミシェイラ嬢だったんだって。初等科を出ての頃、私塾でさ、『王子に見向きもされないなんて、情けないお姉様方ね』とかあった、とか」


 声音を変えたイヴァン。お前の方が気持ち悪いぞ。


「王太子妃のお茶会や集まりじゃ、ずっと『アレク』ていう人間と親しいみたいに言い続けてて、『アレクの卒業を待ってるの』という人間と、『私が相応しい』って人間で衝突してたんだって。王太子妃だって王家の一員として見れば、実家の身内だとしても、大人しくしてくれってのが本音だったんだろうね。ルーキンスにお出かけ中の第二王子には、王家の思惑もあるの知ってただろうし」

「思惑?」

「酸素、脳みそに届かないんじゃ無い? それ、やめて」

「レイナードと近しくなる事だろ? それで?」


 近しく…。婚約までしたんだし、近い関係だよな。


「留守中に、その第二王子を巡る女の子の戦いがあったんだって。思い込みって、すっごいエネルギー。帰国後に先制したのがモードン伯爵令嬢。ミシェイラ嬢は、帰国の挨拶で顔を出すかもって、従姉妹に張り付いて待ってたの。二人とも、予定通りにならなくて気の毒だよね」


 ぐっと上体を持ち上げて、足を掛けてたソファーの背を掴んで、反動で飛び越える。ぼすんとイヴァンの隣に座った。


「あっ、ぶな」


 重石替わりに座っていたイヴァンが立ち上がって移動する。


「王太子妃のサロンってさあ、既婚者が大半だけど、ミシェイラ嬢達が居たのって『アレク』狙いともう一つ」

「兄上の側室」

「あ、分かってんのね」


 俺はいらないよ。


「それを従姉妹が招き入れる形だから、とっても困ってたみたいだね。若い令嬢に苦言をってのは、大人気ないって感じだし。実家に言っても、もう一人王家と縁付くならって非協力的。クルシェ嬢みたいな高位貴族の台頭を待ってたみたいだよ。これから、手を取り合っていかなきゃならないからね」

「自分でして欲しかった」


 まさか兄嫁を悪く言う訳にはいかないのは困る。

 あんな顔をさせる事はやめてくれ。


「王妃様も静観してたけど、クルシェ嬢、嫁として合格! 多分」


 舞踏会前に王太子妃のサロンってのはと思ったが、やっぱりか。

 いいのよって顔で、母上も試すのか。試さなきゃならない地位っていうのも嫌なもんだな。


「で、クルシェ嬢。何を悩んでたの?」


 沈黙は金。俺は黙った。


「どうせ、お胸が小さいとか? 体質からして、ボンってなる体じゃ無いでしょうに」


 俺はイヴァンを睨む。クルシェはちゃんと柔らかい。


「もしかして、それ? マジで?」

「よく、見てるな」

「や、殿下、やきもち?」


 軽くおどけた後で、はあっとため息をついた。膝の上で組んだ手に頭を乗せるイヴァン。


「ルーキンスの事や、貴方との婚姻が無くても、クルシェ嬢は、表に出る事を強要されたのかもしれないよね。ハロルドが邪魔をしても、女性社会の序列って、純粋に親か旦那の爵位かだし。早目に引っ張り出したいのかもね。本人自体が公爵で、王子妃になるから、もう、名実共に王太子妃の次の身分。本人が望んだかどうかは分からないけど」


 俺はクルシェに会った日の、親父殿と兄上との遣り取りを思い出す。

 兄上も、あの時のクルシェを表に出て来なかったのが不思議と言っていた。そして、あの時それが出来なかった理由があった。今は、俺が表に出る理由になるのか。それとも、クルシェの愛する家族。

 クルシェの可愛い一面と貴族らしい一面。それを間近で見れる幸せ。

 守りたかったら、俺が表に出るしか無いのか。


「他は?」


 イヴァンに問い掛ける。

 んっ? という顔をされたが、レインも部屋に引き上げたのに重石だけで残っていたと、思えない。


「…また、ルーキンスに行く事になるかもって聞いてる?」

「それは、戴冠とかか?  シュニティア姫の」


 あちらも、混乱を抑える為に早くしたい事だろう。


「違うよ。ハレス家の赤子」

「まだ生まれてないだろ? そろそろだろうけど」

「領地のお祖母様が、ルーキンスに移り住むのを希望してる。ハロルドは、それでお留守。止める為か、段取りの為かは分からないけど。ルーキンスは、クロイスを出したこのままで、一刻も早くハレス家の子供を国から出したいと思うんだよね」


 ああ。そうだ。そして我が国は俺達が婚期を決めた今、迎え入れてしまいたい。


「赤子って、冬に連れ回しても平気なのか?」

「えぁ? 首が座らないと駄目とは思うけど、ルーキンス間は比較的行き来しやすいだろうし、年内なら、雪も無いから…」

「ひっそりと行くか、名分を持って行くかなのか」

「なぁ、アレックス殿下。もし、もしだよ」


 言いづらそうに視線を逸らす。


「行くなら、クロイスの気持ちを聞いてやる事は出来ないかな? あんな風に国を出てるだろ? クルシェ嬢もそうだけど、ルーキンスが落ち着くまで、特にクロイスは会いに行く事って出来ないと思うんだ」


 クルシェに託すと決めたら、ハレス夫人はクロイスに会おうともしなかった。別れはあの話し合いの場。

 完全に納得なんてしてない筈だ。


「イヴァンは、ルーキンスに行くとなったら着いてくるか?」

「殿下が行くなら、私もレインも共にでしょう」

「そうか」

「で、どうすんの?」

「先ずは、ハロルドの方。お祖母様の事を確認するのが先か?」

「それ、レインがしてる。国に届け出てないか、資産の動きも調べて貰ってる」

「レインが?」

「お役所は、レインの方が得意なんだよ」


 クルシェは、どう思うかな…。


「俺が行けば、クロイスを連れて行ってやる事が出来るよな」

「だから話しをしたんでしょ」


 こんな時。イヴァンは何時も先の選択肢を用意してくれる。

 立ち上がって衣服を直す。


「殿下。どうしたの?」

「クロイスに会ってくる」

「あぁ。騎士団にね」


 お前も来るかと問うたら、遠慮すると言われた。

 まあ、いい。どうせ調べ物でもするのだろう。


「ねえ、殿下。私もレインも、殿下に着いて行く気はありますが、騎士団だけは嫌ですよ」


 呼び止めて、俺の腹を見ながらそう言った。

 割れてきてる腹。実は、腕も筋肉がついた。何故イヴァンは嫌がるんだ?

 頼りになりそうだろうと思うのに、謎だ。

 騎士になる…か。俺の場合それで目指すのは将軍位か? いやいや、無理だろ。

 兎も角。嫌そうな顔のイヴァンに、曖昧な顔を向けた。

 そう言えば、騎士団官舎に付いてきたのは、初めだけだった。調べ物あるしで気にしなかったが、鍛錬嫌いか?

 実は鍛えてますっていうのも、悪く無いと思うんだがな。

  

今話もお読み頂きありがとうございました。

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