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 お茶会の話題は、やっぱり、ドレスなのかしら? ドレスだけなのかしら?

 そう思ってしまう程、今もドレスの話しになっている。

 同じ方と話した訳では無かったのだけど、先日の学園のサロン。連日のドレスの打ち合わせ。なのにここも…で、もうお腹いっぱいな気分。


「デビューの時に着ていたドレスと同じデザインをアンバース夫人が着ていらしたわ」

「白は清楚で宜しかったけど、赤は妖艶でしたわね。着る色で変わるなんて、難しいけど、一度は着てみたいわ」


 アンバース夫人。ロレイン姉様の事。

 ドレスに関わらず、着るもの全てにお姉様の手が入っている。生地や糸やレースは、お父様が出先で購入。その後がお姉様のお仕事だ。私は刺繍が好きだけれど、お姉様は服飾の全般がお好きなのだ。

 ただ、今シーズンのロレイン姉様のお支度を知らなかったので、曖昧に微笑んでおく。


「幾ら清楚に見えても、隠す為じゃないの」


 囁かな呟きが、聞こえた。このテーブルじゃない。振り返りたいのを我慢して、聞こえなかった振りをした。


「明日の夜会も、アンバース夫人のお見立て?」

「いいえ。アレックス殿下がご用意下さると」

「でも、明日よ。どのようなドレスかは分かっているのでしょう?」


 知らない事は言えないので、俯いて首を横に振る。


「まあ。なら、どの様なドレスをご用意なさってるのかしら?」

「でも、アレックス殿下でしょう?」


 くすくすと、小さな笑いが広がった。

 何故笑うのかが分からなくて、笑う方々を見る。


「朴念仁のアレックス殿下が、どんな物を用意するのか、皆興味があるのよ」


 王太子妃。ジェシカ様がこのテーブルへと回ってきたのだ。

 皆で立ち上がって頭を下げる。


「どんなに着飾った令嬢にも、褒め言葉を言った事が無いらしいのよ?」


 私も言われた事ないのと笑いながら、座る様に促される。

 褒め言葉を言わない? アレク様が?

 信じられないと、きょとんとしてしまった。


「その感じだと、褒めるのね」


 ジェシカ様が可笑しそうに言ったと同時に、皆様の視線が集まった。

 改めて恥ずかしくなる。何故という顔をした時点で、アレク様が褒める言葉を言っていると認めてしまっているのだから。


「初々しいわ」

「本当に、羨ましいですわ」


 少し年上のお姉様方のテーブルだからなのか、微笑ましく見てくれる。表情を浮かべすぎるのは嗜みの無い事と言われがちだけど、こういう視線には、まだ慣れないわ。…どうしましょう?


「ジェシカ様。あまり揶揄うのは、クルシェ嬢がお気の毒ですわ」

「揶揄っては無いのよ。ルドルフ様から話しを聞いていても、本当にアレックス殿下の事って思ってしまうのですもの。婚約を、さっさと決めたと思ったら結婚の日取りを卒業に合わせてだなんて…。慶事は喜ばしいけれど、物凄くせっかちなんですもの」

「あの、王太子妃様…」

「ジェシカお姉様よ」

「ふぇ?」

「ふふふ。ジェシカお姉様って呼んで下さる?」


 あの…。その…。もじもじしていると、誰かが王太子妃の名前を呼んだ。


「ジェシカお姉様」

「まあ。ミシェイラお行儀が悪いわ」


 ジェシカ様の従姉妹のミシェイラ嬢。ご紹介を受けて挨拶をする。

 いきなりなミシェイラ嬢だけれど、何時もの事なのか、皆様がそれを受け入れている様だった。


「私。クルシェ嬢と話してみたかったの。あちらにお誘いしてよろしい?」

「我儘ね。何時までもそれじゃ子供の様よ」

「ジェシカお姉様や皆様からしたら、子供でしてよ」

「仕方の無い子。クルシェ、付き合ってあげてくれる?」


 困った様に美しい眉根を寄せられては、嫌とは言えなかった。


「はい。あちらにお邪魔させて頂きたいと思います。王太子妃様。皆様。失礼いたします」

「違うわ! ジェシカお姉様よ」


 困った方。どうしても皆の前で言わせたいのだろう。


「ジェシカ様。クルシェ嬢も困ってますわ」


 はい。とても困ってます。


「一度皆の前で言ってしまえば度胸がつくと思うの。王妃様だってね、お母様と言わせようとしてるのよ」


 その通りなのです。打ち合わせで顔を合わせる度にお願いされるのが困ります。


「クルシェ嬢も、ジェシカお姉様に付き合ってたら駄目よ。あちらに行きましょう」


 しょんぼりとした瞳の王太子妃様。私は、震える唇を動かした。


「ジェ、シカ姉様。行ってまいり、ま、す」

「ええ。行ってらっしゃい。ミシェイラ。クルシェを虐めては駄目よ」




 ミシェイラ嬢のテーブルはお隣だった。遠くへ行く訳でも無いのに大袈裟だった。

 ミシェイラ嬢の隣に席を用意され、ご挨拶してから座る。

 お会いした事の無い御令嬢達。お年は上のお姉様方。


「ねえ。アレクの事聞かせて」


 話しがしたい話しは、アレク様の事?

 普通にお洒落の話しかと思っていました。

 それに、アレクと呼んでいます。親しい方なのでしょうか?

 誰も咎めない。ジェシカ様も、聞こえているだろうに、その事に触れない。それを、許された方?


「ねえ。褒めるって、どんな風?」


 私を褒める言葉を聞いて、どうするのですか? 口に出しそうになって飲み込んだ。


「アレクって、空気の読めない男なのよ。だから、皆、興味があるわ」


 ミシェイラ嬢の言葉に同意する様に、頷かれたりなさっています。

 ご自分達のご説明は無いですが、同席の方達もアレク様を知っているとなれば、アレク様と同じ時に初等科に通った方々…? 以前。メリル様が、アレク様はそういった噂の無い方と言っていましたけど、親しく名を呼ぶ方が居て、噂にならなかったのかしら?

 色々と釈然としないなと、考えてみる。


「興味、ですか? 褒めるも何も、普通だと思いますけど」

「分からないから聞いているのよ。どんな時? どんな風?」

「…皆で、お揃いのリボンをした時に、可愛いと言って頂きました」


 リボンと言って笑われた。


「そのリボンって、アレクがくれたの?」

「いいえ。学園の御令嬢です。この前の催し物の時に。邪魔にならないようにと髪を纏めるのに使いました。何時もと違うので、その、可愛い、と…」

「ふぅ~ん」


 面白く無いなら、聞かなければいいじゃないですか。

 そもそも、私も親しくも無い方にお話して楽しいと思えませんし。

 ですが、こういう話題を変えるには、どうしたらよいのでしょうか?


「プレゼントとかは? デビューの時に、記念に何か送ってと言ったら、アレクったら知らない振りだったわ。お花の一つでも良かったのに、そんな事も考えつかないのよ」


 デビューにお花を贈る? それは、パートナーの申し込み、なのでは?

 何とも言えない気持ちでミシェイラ嬢を見る。

 催促したという事は、アレク様からは申し込んで無い。お家の事情からお誘いした感じも無い。

 …だから、朴念仁さんなのですか、アレク様。


「アレクからのプレゼントって、王妃様が用意してくれたのものでしょう? 用意するって事、あるのかしら? 貴方も気の毒ね」

「そうでしょうか?」

「何? 誰かが用意した物以外、貰った事なんて無いでしょ?」


 お幾つか年上なだけで、身分は、恐らく私の方が上。

 王太子妃様のご親戚という事で、多目に見て貰ってるという事でしょうか? 年上の方は尊重するべきです。それは変わりませんが、私は、何も感じない人間ではありません。

 実を言えば、先程からのアレクと呼び捨てにするのに、むかむかとしています。それに、ミシェイラ嬢の声を聞いていて分かった事がある。さっきの「幾ら清楚に見えても、隠す為じゃないの」は、彼女だ。


「今は、送れるものは無いと仰っていましたわ」

「何それ」

「アレク様。まだ学生だからと言っていました」

「だから何? 王子費だってあるのだもの、学生も何も関係無いじゃない」

「そうでしょうか?」

「貴方も、貰った事が無いからそんな負け惜しみを言うのでしょう? 王家都合の縁組ですものね。公爵家で良かったじゃない」


 すとんっと、何かが嵌った。

 この方は、アレク様の隣に立つ事を考えていた方だ。

 だけど、ミシェイラ嬢は、私が知るアレク様を知らない。ジェシカ様のお立場に近い距離をアレク様と近いと演出して見せているだけだわ。

 王家も本人も動かないし知らない女性だけの席で、親しく名を呼んで見せて、近しいのは自分だと、特別な自分なのだと虚勢を張っているのだ。

 ジェシカ様は、分かっていてこの場に私を誘った。

 その意図、は?


「そうですね。公爵家で無かったら、目に止まる事も無かったのかも知れません」

「そうよ。高い身分で良かったじゃない」

「私。王子として話しを聞いていただけ以外のアレク様を知って、三ヶ月程ですけど…」

「何よ!」

「体裁や面子に拘らない方だと思います。大袈裟でなくて、小さな事一つ一つを大切になさって下さる方。そう思いますの」


 私は、口元を扇で隠して息を整えた。


「ご自分の役割りやお仕事を考えていらっしゃいます。先程の王子費ですが、それは、王子としてで、個人の物では無い、と」

「だから? だから、誰にも贈り物をしないって? 使えるものを、馬鹿じゃ無い!」


 使えるからと使ったら、その方は特別な人となる。

 今の私がそうだろう。

 王妃様が今ご用意して下さっているお衣装とかは、王家の、その王子費からだろう。

 アレク様はそれを、ご自分の意思では無いと思っているし、ご自分の力では無いと思っている。


「お仕事をしたら、沢山買って下さるそうですわ」

「そんなので、何が買えるって言うの?」


 いらいらな声に、私は「さぁ?」と、首を傾げた。

 どうしても欲しいと思う物なんて、それ程無い。

 ランチボックスを用意してご飯を食べたり、この間の様に、お庭で隠れんぼみたいに時を過ごしたり。アレク様が、私の為に考えてして下さる事。もっともっと私が欲しいもの。


「アレク様は、興味の無い事は、興味を持たない方だと思いますの」

「それって、私に興味が無いって言ってるの?」


 返事もせずに、視線を反らせた。

 立場以外のアレク様に興味の無い方に言える事なんて、無いに等しい。

 後がどうとか、気にするものか。引いたら負けだ。


「臣籍に降りるのに、調度良い爵位持ちだったってだけじゃ無い」

「そうだとしても、より良い関係をと思って下さっていますわ」

「貴方、生意気ね!」

「私は私であるだけですわ」


 私は、立ち上がって胸を張った。


「席を立っていいなんて、言ってないわよ!」


 そして、王太子妃のお茶会に相応しく、ゆっくりと、一際優雅に見えるように礼をした。


「王太子妃ジェシカ様。本日はお招き頂きありがとうございました。お姉様とお呼び出来た一時は、大変光栄な一時でした。お先に失礼する御無礼、お許し頂けますでしょうか?」

「ねえ! 私は許してないわ!」


 貴方の許しなんかいらない。


「もう、おやめなさい」

「ジェシカお姉様?」

「もう、時間切れよ。ミシェイラ」


 そう言ってジェシカ様が扇を向けた所に、アレク様が居た。


「…何時から?」


 何時からいらっしゃったのでしょうか?

 アレク様が、私に向かって手を差し出しました。一歩一歩近づいて、その手に触れました。


「爵位目当てと言われるくらいなら、何処か、知らない所にでも行く? 着いて来て、くれる?」

「もちろんですわ。ですが、私、刺繍くらいしか出来ませんのよ」

「俺は、もっと出来る事は少ない」


 両手をきゅっと握られた。とても温かい。


「まあ、凄いわ。アレックス殿下が、求愛の言葉を口にするなんて」


 ジェシカ様が、呆れた様に呟いた。


「揶揄うのはやめて下さい。クルシェが恥ずかしがってます」

「あら? それは、私のせいでは無いわよ」

「兎に角。母上が呼んでいるので、連れていきます」

「ええ。分かったわ。私も後から行くわね」


 アレク様に手を引かれた。

 ですが、そのまま素直に着いて行く訳にはいかないのです。これから、アレク様との結婚が無くても、ご婦人方との付き合いはあるのです。伯母様が言っていました。こんな時程凛として、と。


「ジェシカお姉様。お義母様と、ご一緒にお待ちしてます」


 私は、間違って無い筈。アレク様が、母上と言ったから。

 ジェシカ様は微笑んだ。

 間違ってはいなかったみたい。良かった。 







 アレク様と歩きながら、私は、護衛の中にお兄様を探した。


「どうかした?」

「お兄様が、居ないかと思って」

「話し? 急ぎ?」


 急ぎという訳では無い。ただ、聞きたい事があるだけ。

 何とも言えずに歩いていると、アレク様が足を止めた。

 私を見る目は、話してと言っている。


「気になる事が。私の怪我は、陛下もご存知ですよね…。それを、どのくらいの人が、知っているのかと思って」

「なんでそんな事を?」

「ミシェイラ嬢が、私のドレスを、隠すドレスみたいな事を。それに、学園でも…」


 言い淀めば、その先をと促される、抱きすくめられる。


「クルシェ?」

「聞き取れ無かったのですけど、きずもの? きずもち? 視線が逸れてしまって口の動きだけの事で、考え過ぎかもしれないのですけど」

「うん。分かったよ、クルシェ。当時、どれだけ話題になったのか、調べて貰おう」


 そう言って、アレク様は肩口に口付けた。


 

今話もお読み頂きありがとうございました。

【今更その様な事を言われましても…】という女主人公視点を書きました。

男主人公視点も書く予定です。

よろしければ、そちらもお読み頂けると嬉しいです。

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