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女公爵クルシェ嬢 ドレスから始まる物思い ①

 セシェル・モードン伯爵令嬢が、実質、学園と今期の社交界への出入り差し止めとなった。

 ならば、学園が平穏に戻ったかと言えば、余波は残っている。

 私塾として、完全に手を引くのは後援者達が許さなく、高位貴族の御令嬢方に、残って名誉の回復をと押し付けたのだ。

 残された者の中心人物として、ヴィニカ・サミュー嬢がそう言ったので間違いは無い。お嫁入り予定のモリス公爵夫人が、それくらいのケジメを付けられない様ではこれからのお話しにならないと叱咤したとか…。弱音は婚約者のトヴィアス様に零しているのと、本当に困った顔で言っていた。

 ヴィニカ様達は、学園で以後活動するにあたり、評議会と密に話し合った。来年度は分からない。だけれども、今年度の終わりまで、彼女達は頑張らないといけないのだ。

 他人事と片付けるのは難しい。個人的にも、気の毒としか言いようがない。

 兎に角。一番の活動はサロンを開く事。「ダンス」「音楽鑑賞」「刺繍や編み物」「詩の朗読会」と、幾つかテーマを上げて、学園生を招いて行く予定。それとは別に、きちんと講師に家政の歴史なる講義をおこなってもらう事。

 残すところ二ヶ月と少しだけど、婚家の手前ヴィニカ様には頑張って欲しい。

 高位貴族としての矜恃は、私も伯母様達に散々教え説かれた事。聞くと行うでは全然違う。これは、私達にとって、経験を積む一つの場なのだろう。

 そして今は、詩について語り合う場…の筈。


「クルシェ様? 今度の舞踏会のドレスは、やはりアレックス殿下からですの?」


 後を任されたヴィニカ嬢が開いたサロンの席。同席の令嬢に話し掛けられた。

 この場での話題としては、至極当然のもの。数日後には、シーズン最後の王宮舞踏会がある。例えサロンの趣旨が詩についてでも、詩よりも重要な話しはこちらだろう。

 私は、頷きながら返事を返す。


「ならば、お色は? アレックス殿下の瞳のお色でしょうか?」

「ヴィニカ様は、トヴィアス様の瞳のお色でしたわよね?」


 ただ、問い掛けられるその声に、ちょっとした棘を感じていた。


「黒…っぽい色? ごめんなさい。はっきりとは聞いていないの」

「えっ? 婚約者なのに、殿下のお色ではないの?」


 黒っぽいと言えば、響く様に言われた。

 ええ。殿下の色ではありませんとも。アレク様が選んだ色は、多分、私の瞳の色だ。サロンの話題として出るとアレク様に聞いた時。アレク様の瞳の青は髪を飾る物と教えて貰えた。ならばドレスは…。言葉無く瞳を覗き込まれて、嬉しそうに、「今度はお揃い」と言われたのだ。なので、多分、紫紺だと思う。黒っぽいと言ったけど、白とか銀だったらどうしましょう? 髪の色ならお互い銀なので、そっちかも? 兎に角ドレスの色で、明るい青という事は無い。


「楽しみにしていてと言われて、教えて貰えませんでしたわ」


 本当にごめんなさいと繰り返した。嘘を教えたと言われても困るので、予防線は忘れない。


「デビューの時に身に付けていた真珠は、殿下からの贈り物と聞いてますわ」


 ドレスの色の情報を集めるのも、それから身に付けるアクセサリーの話しになるのも、当然。

 私の事だけで無く、皆様の事も教えて下さいな。


「正確には、王妃様からの贈り物でしたの」

「まあ。王妃様からの?」

「ならば、アレックス殿下の贈り物の中にはご自分のお色は…」


 無かった、と、思いますわ。いいえ。花束がありましたでしょうか? 初めて我が家にいらした時の。

 あの時の事を思い出していたら、私の無言を肯定と受け取ったのか、同情的に眉を顰める顔がある。


「男の方は、ご自分の色で飾りたいものでは無いのでしょうか?」


 さも、心配そうな声音で言うのは、止めて頂けないかしら? 心の中で笑ってる気がして、どう切りかえそうかと少し考えた。

 やっぱり政略ですのねと、小さな呟きも聞こえた。

 そう思う方も、やっぱり居るのね。だけど、政略だとしても、皆様には関係無いのでは?

 何だろう…。アレク様って、おもてになるのかしら?

 悶々としながら、聞かれれば答え、微笑みながら相槌を打つ。

 気心の知れ無い方とのやり取りが、こんなに疲れるものだとは思わなかった。つまり、楽しくないのだ。


「楽しんでいるところを済まない」


 そんな事を考えていたら、そう言ってアレク様が姿を見せた。

 挨拶としてアレク様が口にした楽しんで…だけど、聞いた私は微妙。楽しい? 心で私に問い掛けた。

 出迎えの為に立ち上がったヴィニカ様。


「アレックス殿下。ようこそいらっしゃいました。ご結婚の日取りがお決まりになったと聞いております。おめでとうございます」

「ありがとう、ヴィニカ嬢。クルシェを迎えに来たんだ」

「折角ですわ。お席をご用意いたします」

「悪いが今日は。済まない、決め事が多すぎてね。クルシェ」

「分かります。お任せする場合でも、同席しなくてはならなかったりで、時間なんて足りませんでしたわ」


 ヴィニカ様は、進行形でご結婚の準備をなされているので、妙に実感がこもってる。

 私は、アレク様に呼ばれたのを機に、同席の方々に離席の挨拶をして立ち上がる。


「そう言えばアレックス殿下。お聞きしたい事があるのです」

「何をだろう?」

「クルシェ様のドレスのお色ですわ。私達。とても興味がありますのよ。是非教えて下さいませ」

「ヴィニカ嬢のドレスの色は?」


 男性が、女性のドレスの色を聞く事なんて無い。まして、婚約者の居る令嬢に向かって。

 それでもヴィニカ様は、頬を染めて婚約者の色だと答えた。

 それを微笑ましそうに見たアレクは「私の服も、婚約者の色なんだ」とヴィニカ様に答え返していた。

 まあと、驚きや感嘆の声が広がる。

 私のドレスの色を聞かれて、贈るアレックス殿下が自分の服を婚約者の色だと言った。要は、揃いの色を纏うと。


「クルシェ様。今日は本当に楽しいひと時でしたわ。ありがとうございます」


 私を追い掛けるようにして立ち上がってそう言ったのは、政略と呟いた令嬢だった。ぴんと胸を張って立つ彼女は、私の向こうのアレク様を見ていた。

 私も、彼女に有意義でしたと返して、アレク様の元へと歩んだ。


「お時間、でしたか?」


 差し伸べられたその手に触れれば、より近くにと引き寄せられる。


「私の時間が空いたから、待てなかっただけだ」


 額にキスが落とされた。

 人前でと抗議をしようとしたら、さっと腰に手を回されて歩き出していた。


「ではヴィニカ嬢。後はよろしく頼むよ」


 アレク様。退室の挨拶は、私がしなくてはならないものです。

 振り返ろうとすると、強引に前を向けられた。

 ちらりと見えた彼女は、此方を見ていた。

 強い視線。挑む様…な? 何だろう。セシェル嬢の様では無かったのだけれど、引っ掛かるように気になった。




 結婚式は領地で。こちらの衣装は、ロレイン姉様が一切を取り仕切って下さる事になってます。ですが、問題は王都での披露宴になります。此方は、王妃様が全てを取り仕切って下さる事となりました。

 大袈裟な事は気後れしてしまいそうな私ですが、母親代わりと言って過言では無いアーデンテスの伯母様が、王妃様と手に手を取り合って張り切ってしまっていますの。

 その打ち合わせと、王子妃教育が入る事になりました。

 暫くは、王妃様のもとから学園に通い、戻ってはお勉強と打ち合わせが入るそうです。

 アレク様は、クロイスが騎士団官舎に居るので、様子を見て下さる為にあちらへ帰られました。

 さっきまでアレク様の座っていた所をぼんやりと見ていましたが、何となく自分を見下ろしてみました。

 薄く肉付きの悪い手足が目に入ります。

 …あの時。彼女は何かを話していました。私には聞こえないけれど、私に聞かせる為に。アレク様に挑むような眼差しを向けながら、何を伝えたかったのでしょうか。

身を飾るドレスですが、クルシェのコンプレックスを少し弄る様な話しになると思います。多分。

今話もお読み頂きありがとうございました。

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