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⑧ (報告会という名の…)

誤字報告ありがとうございました。

気を付けているはずなのですが…。

本当に助かります。

 どっちを優先する? 何方と一緒に居たい? 俺とクロイス…。

 じっとりとした目で問いかけそうになる言葉を思わず口に、の、前に我に返って飲み込んだ。

 いやいやいや…。そんな心の狭い事を言ってはいけない。

 どちらを選ぶの選択肢以前の問題なのだろう。

 エドガー達が訪ねて来て、クロイスが俺を話しに誘ったら、頬を緩めて俺達を見た。どうぞと言わんばかりのとても嬉しそうな微笑みに、後ろ髪を引かれながら別邸の応接室へと引っ張りこまれた。

 エドガーもクロイスも、随分と仲が良くなったものだ。俺がここに居なくても良くないか? そう思わなくもないが、今更クルシェの所に戻っても「どうして?」と問われそうな気がするので仕方が無いと座る。

 イヴァンやレインに並んでランスやルキスやエリオットまでが顔を揃えているし、仕方無くだ。

 が、俺への当たりが強くなる。

 王太子夫妻と御夫人方のその後と、御夫人方とモードン伯爵夫人のその後を、俺とクロイスに話してただけなのにな…。

 解せぬ!




《ランス・バーデイントからの話し》


 王太子夫妻からは、明確な方針が無いのなら、学園内での行動を自粛する様にとモードン伯爵夫人に申し付けがあっただけで、あの場での言及は無かった事。

 それ自体は妥当だろう。あくまでも労いの場に叱責は相応しくない。

 ドレスに消えた相当の寄付の話しも、王太子夫妻ひいては王家や学園には関係は無い以上、当事者間で、だ。

 そして当事者間では、責任を問う方向が強い。

 出資の方向性の違いから、これ以上不当に使われる事に難色を示して半分の金額の返金を要請。全額でもいいんじゃないかと思うが、学園進出の途中である内はそれでヤレという事。

 返金された分は、国内の孤児院や救護院への支援に回す事に。

 馬鹿な事に金を出したと思われるよりマシらしい。

 厚手の服は、北の領地ならばこれからの季節には不可欠な物。それと毛布や薪など。この際だから、昨日の寄付にそれを足して大々的な支援をしたらいいのでは、と。

 その分配を公正を期す為に王太子に願い出たそうだ。

 ただ融資しただけの事だが、その失態を無かった事にしてもらう為の交換条件みたいなものだ。

 その分配の仕事を、王太子からエドガーが任された。

 王太子曰く、騎士団預かりから平民の生活をしる機会を得た。なら、今までとは違った目線からの支援に気付けるのではないか。という事で、御夫人方に認めさせたらしい。

 …認めるしか無かったんだろう。


 来た時からのエドガーのちょっと不安顔は、それが理由だったのかと納得。

 アレックス兄上がいるのにと、愚痴っとこぼして見つめられた。

 エドガー…。ルドルフ兄上は、無茶振りはしない。新しい目線というのも理由だろうが、王子の公務として出来ると判断したのだろう。

 俺と違って、国政に責任と信念を持ってる兄上が、半端な采配はしない。




《イヴァン・ランドンからの話し》

 

 セシェル・モードンという伯爵令嬢は、良くも悪くも箱入り(井の中)のお嬢様。

 一流を知れと、与えられる物は高価な物。欲しがれば与える母親。

 初等科は、私塾内でも教鞭を取るものがいるからと、学園に入る事は無かった。初等科を出てから入塾した歳上の令嬢達に混ざって、塾内の講習には必ず参加。

 講習といってもお茶のマナーやダンス。会話術や周りの見方など、女性特有の気配りなどの重要点。心構えなど。

 ただ彼女の場合、立ち居振る舞いよりも顔繋ぎを重視したもの。塾を出た御令嬢方が、奥方となり、出資者にかわる事をみこしてだか、歳下の自分が優位に立てる事を知ってからは、敬う事も礼節も忘れた様だ。

 要はより横柄で高飛車に。

 お茶会や晩餐会のマナー講習において高位の者の役割りをしていたのが、それを自分故だと果てしなく勘違いをし始めるのは直ぐの事。

 横柄な態度は日増しに酷くなり、ちょっとの事でも気に入らなければ騒ぎ立てるだけでは済まなかった。講師に対してもなのでセシェル嬢の独壇場。講師も、塾長息女には強く出る事は無かった。

 隣に座っていても、注意の言葉さえかけなかった講師の姿を思い出して察する。

 講師を従えて、成績を盾に優位に立ってご満悦。

 テストや論文に点数は付けられる。後は態度により加点減点。そういった分かりやすいものではなく、「相応しくない」「宜しくない」などの言葉一つが明暗を分ける。親に対してだけでは無く、社交の場においてそんな発言をされたら、それを教える私塾からの評価として伝わってしまうのだ。だからと、悪く言われない為に、一年の我慢と笑顔を貼り付けた御令嬢は多い。

 兎に角。そんな首を傾げるだけの塾内も、モリス公爵子息の婚約者ヴィニカ・サミュー嬢の様に、嫁ぎ先の意向で通っている御令嬢にとっては、立ち居振る舞いや心構えが宜しくないと報告されるだけで痛手になる。そんなで、従うような雰囲気が出来上がっていったそうだ。

 小さな国の女王様の誕生である。




 ランスに続いて話しを終えたイヴァンが、ため息をつきながら俺を見る。聞き終えれば誰も微妙な顔だが、何故俺を見る?


「まあ、エドガーも大変だろうが…意外と有意義かと思うぞ」


 何かをと一声を出せば、エドガーとランス等も俺を見る。


「なら、兄上がして下さい。僕にはまだ早過ぎな事ですよ」

「ルドルフ兄上の判断だろ? 臆する事無くやってみればいいじゃないか」

「ですが…」

「通例に従ってでもいいが、何かに気付くかもしれないんだし、気楽に取り掛かってみたらいいじゃないか」


 ランスのため息が入る。

 何だ? 悪い事でも言ったか?


「そういった公務を、アレックス殿下はなさった事は…ありませんでしたよね」

「無いな」

「なら、簡単に言われても困ります」

「協力者を集めればいい。官舎で生活してれば色んな身分の者がいるだろう」


 エドガーの動向は兄上も把握している。筈じゃ無くて絶対に。把握だけじゃなくて、もっと話しをすればいいんだと思うが、王宮はまだ、エドガーにとって敷居が高いみたいだ。兄上は、これを機にと思うのだろう。


「公務に気楽という言葉は適切では無いが、何か見つけるかは見つからなくてもいいってぐらいで取り掛かればいいだろ?」

「…兄上」

「それこそルドルフ兄上に、その都度相談したらいいじゃないか?」

「迷惑をかけたくは、無いんですよ」

「なら頑張れ。俺が言えるのはそれだけと、俺にも頼っていいぞって事くらいだな」


 エドガーは俯きながらため息をつく。肩も落ちて覇気が無い。それでも「やるだけ、やってみます」と言って顔を上げた。


「それにしても、イヴァンの持ってくる話しって、どうやって集めてくるの?」


 エドガーが与えられた事を飲み込むのを待って、の、タイミングで、今まで静かだったクロイスが口を開いた。

 実際は、もぐもぐしてたからだが、手にしてる人参スティックを口元にあてて首を傾げている。

 イヴァンもそれを受けて、こくんとお茶を飲み込んでから言った。


「人から。この場合は、とっても若い御夫人や御令嬢方から」

「ふ~ん」

「こういうのは、話したがってる人間が多いからな。勿論、何人かに聞いて、ある程度の確証は得てから話すようにして、ますよ」


 おぉ~。言葉遣いを気にしたな。


「あの伯爵令嬢が、とっても我儘を通してきて、やっぱり我儘なのは分かったけど、何でアレクに傾倒しちゃってるのかは分かったの?」


 クロイス…。随分と難しい言葉を知ってるな。

 横にちまっと座っているクロイスと向かい側のイヴァンを見比べる。か、会話を返す相手のクロイスでは無く、俺を見ているイヴァンと目が合う。そして再び俺を見ながらため息をつかれた。

 だから俺が何をした?

 だが、イヴァンがどうやってそんな話しを聞き込んでくるのかは、皆興味があるようだ。


「昨日のお茶会」


 昨日のお茶会とは、私塾主催のアレ。イヴァンはそっちのサポートにまわっていたんだよな。

 イヴァンは、聞きたいかとでもいう様に俺をじっとりと見る。思わせぶり過ぎるぞ。段々とイラッとしてくる。


「勿体ぶって出し惜しみしないで、分かった事をさっさと話せ」


 おぅっ。イラッとが出過ぎた。


「お茶の席での講習に、クロイスお嬢様の様に出席したセシェル嬢がキラキラした目で「王子様ってどんな方?」って口にしたのが、もしかしたら始まりだったのかな?」

「何だそれは」

「…その聞かれた令嬢は、俺達と同じ時に学園の初等科に通ってた」

「何でそれが始まりなんだよ」


 はぁ~っと、あからさまなため息。


「これだから鈍感は…」

「何だ、悪口か?」


 何かにピンときたのか、ランスが顔を上げた。


「まぁ、多分、素敵な王子様だくらいは言ったんだろうな。でもな、その令嬢に向かって、何で王子妃になれなかったのかって言ったんだよ」

「それで?」

「あ、の、な。初等科の後私塾に通うくらいなんだから、高位貴族の令嬢か高位貴族に嫁げる令嬢にだよ? 当時から最近まで婚約者の居なかったアレックス殿下の同窓の令嬢。要は、王子の心を捕まえる事も出来なかった令嬢だって言われた訳よ、その令嬢からしたら」


 そんな言い方をされても、将来を考えられる令嬢自体を考えた事がなかったんだから困る。でも、言われ方一つで、とても嫌な思いをしたんじゃないかくらいは分かる。


「丁度クルシェ嬢とセシェル嬢までの年齢の令嬢は、アレックス殿下の婚約者になれるかもって、ちょっと思ったっていう令嬢は、少なからずいるんじゃないか? ああ、クルシェ嬢は、考えてもいなかったみたいだ、ですけど」

「おいっ!」

「なら私ならって、年々エスカレートしてったって話し。で、春先辺りから本格的にアレックス殿下の婚約者にって夢を膨らませていったのを、あの舞踏会で描いていた出会いが粉砕。夏中にも殿下不在。おりよく学園への話しがあがって今日に至る」


 勝手に夢を描かれても、はっきり言って迷惑だ。俺の意思は、何処にある?


「言われた令嬢達も「そうね、貴女なら」と、煽った事を言ったみたいだが…。王子妃に相応しいからってよりは、相手にされる訳無いのを見越して、恥をかけの意味合い強し!」

「それって、俺に迷惑だろ」

「相手にもされなかった意趣返し?」


 このやり取りで納得したのか、クロイスは「ふぅ~ん」と言ってエドガーを見た。


「何で僕を見る?」

「特に…。何でも無いよ」

「なら、あんまり見るな」

「エドガーは、どうするの?」

「どうするって?」

「これから資料探しでもする? でもそれって、それの記録を見た方が早いよね」


 クロイスのいう記録は王宮の物がやはり正確だろう。


「あ、明日調べに行ってくる」

「早い方がいいよね」

「クロイスは気になるのか?」

「気になる…。気になるのかな?」


 こてんっと首を傾げてエドガーを見るクロイス。


「クロイスは、ルーキンスで携わった事あるのか?」

「無いよ」

「そうなのか? あっ、でも、気がついた事があったら教えてくれるか? クロイスは、変な事考えるから」

「僕が変?」

「ドレスを着ようとしたりするのは、変だろ?」

「変じゃ無いよ。方法の一つってだけだよ。それよりも、変って言えば、姉上が変だった! アレク、何かした?」


 エドガーを見ていたクロイスが振り返る。


「…特に、何も」

「本当に?」


 イヴァンとレインを見て様子まで伺ってるクロイス。

 イヴァンは目を逸らす様に上を向き、レインは静かに微笑んでみせる。


「王宮の庭を案内したり、お茶をしたり、だが」


 やがて義弟と呼ぶクロイス。お前の聡い所は好ましいが、それと同時に困りものだ。

 クロイス推薦図書に従って、思い出づくりをしただけじゃないか。




 クロイスは、長兄であり、執事でもあるダリルに促されてご就寝。

 自然とエドガーもエリオットを連れて客間へと消えた。

 イヴァンよ、まだ話しでもあるのか?

 そんな雰囲気があったので、何気なく留まってる。

 ダリル兄さんも、感じ取ってクロイスを連れ出した感があったからな。

 ランスやルキスまで、何気に留まってるし…。さあ、イヴァン。さっさと話せ。


「今回のお嬢様は、暫く社交の場への出席を見送る程度だと思うんだけど。気になる? 気を付ける? ちょっとあるんだよね」

「モードン伯爵令嬢の事で?」

「嫌、彼女じゃ無くて、彼女を煽った方」

「…初等科時の、ご令嬢? あまり記憶が無いんだが」

「だよね。本当に興味無いから、最低限の交流しか持とうとしなかっただろ? この三年の社交界でだって、自分からダンスに誘って愛想を振りまくでもなかったし」

「何か悪いのか?」

「悪いと言えば、どちらとも」


 イヴァンの言い様に憤慨だ。


「良い面も悪い面もあるって事。今回の件はさぁ、モードン伯爵令嬢の横柄な態度に出来るもんならやってみなだったけど、靡かなかった王子を手に入れたクルシェ嬢に対する嫉妬って出てくると思うんだよね」


 ランスも同意か? かすかな頷きが見て取れた。

 そういう動きがあるのか?


「…今日のアレックス殿下を見た方のなかには」

「だろ? 生徒の中では抵抗無くても、今日居たお若い方達は…な!」


 そんなものだろうか?


「女性の嫉妬を、軽く見ない方がいいですよ」


 ランスが、苦い顔をして言う。

 そうなのかと見れば、「姉を見てれば」と返ってくる。


「まぁ。少しの嫉妬は想定内だけど、行き過ぎには気を付けないとね、殿下」


 イヴァンの心配が取り越し苦労な事を願おう。という訳にもいかないか…。こんな風に煩わされる事なんか、無いに越したことはないからな。

 まぁ、まだまだよろしくしてもらわないと。

 頼んだぞ。 



随分と長くなりましたが、アレックス殿下目線の話しはこれで締めになります。

報告会。それはすなわち、彼等の男子会です。

今話もお読み頂きありがとうございました。

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