⑥
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先ずはすみません。ごめんなさいからです。
途中も途中で四ヶ月の放置…。
書くつもりはあったのですは言い訳です。
秋の読書とすっかりはまり込んでしまってました。
今話も書き出したのはいいのですが、ストックがある訳でなし。
ゆっくりとですが、またお話しをあげていきます。
よろしくお願いいたします。
ダンスを終えた余韻を楽しむ間もなく、無遠慮に俺の名を呼んだその声は甲高いもの。ダンスの輪を抜けるのを伺っていたのは視界に入っていたが、人を押し退けてまでして近づいて来ようとするとは…。昨日の今日どころか、今までを考えに入れれば、セシェル・モードン伯爵令嬢の予測を裏切らない行動には改めてビックリだ。
その声が俺と同じ様に聞こえていただろう俺の手の中の小さな指先がぴしっと固まった。
王太子の始まりの挨拶の中で、弟である俺の婚約者として紹介されたクルシェ・ジス・レイナード女公爵。振り返り相手をするのかと、問うて俺を見る瞳。勿論クルシェも、あの声と行動がこの場に相応しく無い事が分かるのだろう。だが、あくまでも、俺がどうするのかなのだ。
王太子夫妻主催のダンス会。王宮の広間。招待されたのは学園生が殆どだが、学園生以外も招待されている。無礼講とはならない場。名を呼ばれたのが俺な以上、王子としての模範を心掛けなければ…な。
婚約者であるクルシェの背がぴんと伸びる。見られる事を意識しての反応。口を出す事は無くても、共にあるものとしての態度。頼もし過ぎるよ。
それに伴い自然と俺の足も止まる。
取り敢えず繋いだ手を解き、より寄り添う様に腰を抱き込んで再び歩き出す。素直に寄り添ってくれる事が慕わしい。
声を発した彼女と俺達の間に居た者達には良く聞こえているだろう俺の名は、楽の音を理由に聞こえなかった振りをした。
今振り返り足を止め、時間を取ってしまう事の方が彼女には問題だろうという親切心。伝わらなければただの無駄。何人がというより、こちらを興味深く様子を伺っている者達は気付いてる事なのに、彼女は自分の立場に無頓着過ぎる。回りを見る事無く振る舞う姿は、この貴族社会において歓迎されるものではない。昨日に続いて、何の考えも及ばなそうな彼女の頭の中を気の毒と思う。
実害の規模でいったらとても小さいだろう。でも、放置していいかどうかは別。この場合は、増長する事を防げない俺が無能になる。
あぁ。俺とクルシェの親切心は、当の本人には一向に伝わらない。残念な事にその声は、段々と大きなものにと変わる。より近付いたのか大声を張り上げているのか? 何方にしても、褒められる姿では…。
招待された学園生がほとんどを占めているが、高位貴族の御夫人方の居る王宮内の広間で、今現在、眉をひそめられると…気付いてくれ。
これから俺達が行こうとしているのが王太子夫妻を交えた御夫人方の元。おそらく、事の成り行きを見下ろしているだろう人々が待つ広間の二階席へと上がる階段に向かう。
そしてそこにはエドガーが待っていた。
「兄上、クルシェ嬢。ダンスとてもお上手でした。クルシェ嬢、今度私とも踊って下さいますか?」
「そんな事を言うのに待っていたのか?」
「…いえ。挨拶に行くのに臆してしまいました。御一緒出来ればと…」
駄目ですかと問うていだが、モードン伯爵令嬢の前に立つ気であるのは明らか。
戦力としてどうあれ、その心意気が嬉しい。
とうとうモードン伯爵令嬢が追いついた。
「アレックス様? 最初に踊って下さらないなんて酷いですわ。次の曲では、お約束通りダンスをお願いいたしますね」
「セシェル嬢。今は殿下方がお話し中ですわ」
場を読んで、牽制の意味を込めてクルシェが声を発する。
満面の笑みのモードン伯爵令嬢とツンっとしたクルシェ。ツンじゃ無いな、余所行きな顔なだけだ。
凛とした立ち姿に、初めて会ったあの時に見惚れていたんだと思い出す。それ程所作が美しい。誰、と、比べるでもなく美しい。要するに、今も見惚れている。
「お約束がある以上、私の方が優先ですわ」
笑顔を消し、睨む様にクルシェを見て言い返した。
回りの空気がザワリッと動く。
俺とエドガーは王族。クルシェは高位貴族。権力を笠に着るつもりは微塵も無いが、許しもなく彼女から話し掛けるのは宜しくない。それを許した間柄でも無い。決まり事によって保たれているものもある。特にこのような場では。彼女は中堅程度の伯爵家の者。淑女教育だのと彼女の口から聞いた…聞いたかな? なら、彼女の受けた教育や決まり事は、別の国のものかと言える。近隣諸国より、もっともっと遠くのだな。
婚約者とファーストダンスを踊るのは、約束以上のお約束の筈なんだが…。
約束はしていないが、していても、こんな風に呼び止める事は令嬢としてありえない。
「モードン伯爵令嬢?」
「名前を、セシェルとお呼び下さい!」
…ため息が出そうだ。感心や賞賛じゃ無い方の。
俺は呆れた顔をしてると思うが、何でとろりとした目で見る。
「…モードン伯爵令嬢。ここは小さなお茶会の場ではありませんよ」
エドガーが窘めるように言う。若干おろおろとして見えるのは、場馴れしてないから。それでも、一言に成長を感じた。
「ええ。分かっていますわ。ですから、アレックス様にダンスを踊って頂きたいの」
俺に向かって手を伸ばす。
「モードン伯爵令嬢。貴女からの申し込みは、お断りしよう」
「えっ? どうしてですか? 乙女に恥をかかせますの? それに、お約束したじゃないですか」
「人聞きの悪い…。私が自分から貴女に踊ってくれと頼んだ事は無い。それに貴女に踊ってくれと言われて、是と答えた事も無い」
否とも言ってないが、言う隙間が無かったのだから仕方が無い。だからと言って、都合よく解釈されたのに付き合う理由も無い。
「なら、改めて踊って下さいアレックス様!」
コレにはエドガーも言葉を無くしたみたいだ。パクパクと音を出さない口だけが動く。何度か学園内で交流を持っていた(女装クロイスと)エドガーだから、上手い回避の糸口でもと思っていたが無理の様だ。
「何度でも断る」
「えっ? どうして?」
「始めに兄上から話しがあったが、今日は婚約者の手だけを取っていたい。それより、何故モードン伯爵令嬢はここに居る?」
「それは、アレックス様と踊りたいからですわ」
クルシェがため息をついて俺から離れようとしたので、急いで両の手で抱え込む。
それを目で追った彼女は、目を見開いた後、物言いたげに口角を上げた。
「これから王太子夫妻と御夫人方に挨拶に行くのですが、モードン伯爵令嬢は、伯爵夫人と一緒に居なくてもいいのですか? よろしければ、私とご一緒に」
間に入り込み、取り持つ様にエドガー。
「何故お母様と居なくてはいけませんの?」
こてんと首を傾げるモードン伯爵令嬢。
「えっと…。上に集まってる御夫人方は、昨日のお茶会に協力してくれた方達で、モードン家の後援者方なのでは無いですか?」
「ああ! そうですね。淑女教育を広げる事に賛同して下さった方達ですわ。頑張るようにと沢山のドレスを頂きましたの。ですけど、あちらに居ても、楽しくないんですもの」
段々と近付いてくる。
それを広げる為に受けた融資を、日替わりのドレスに変えてしまっただけだろう?
学園に打って出る当たり前の資金と取るかどうかは出資者次第。もっと有意義に、寄り良い知名度の為にした出資だと思う。私塾のブランド力が高ければ、そこを出た、そこを支援していると言えば夫人方の中の立ち位置は高いものになる。それを見越してのものだった。だから、金の流れを調べても、本当にこれといったものがでてこなかったんだ。それでも見落としようもない額の金が動いた。その融資した御夫人方が、これをどう取るかで変わってくる。
「ですから、アレックス様。私と踊って下さい。そちらの方とは、二曲も踊ったではないですか。それこそマナー違反です!」
そう言ってクルシェを睨みつける。
もう…。庇うも何も無い。クルシェは婚約者。今日の俺は、招待主側ではなく招待された方。心無い言動は忌避すべきだが、極端な話し、終わりまで婚約者と踊り狂っていても嬉しくて浮かれ過ぎましたで通せる。それをしないのは、王族としての品位が問われるからだ。自分の言動の責任を取るのは、自分。
「婚約者と踊って何が悪い。それがマナー違反なら、婚約者の居る者達は誰と踊ればいい? 私としては喜ばしい気持ちでいるのに、水を差されてまでしてモードン伯爵令嬢とは踊る気も無い!」
「アレックス様、酷いです! 私を知っていだければ、そんな事はおっしゃいませんわ。私、その為に学園に行きましたのよ」
「モードン伯爵令嬢! 言葉にして良い事と悪い事があります!」
「色々な意味で、エドガーの言う通りだ。…耳目があるのだと、もっと考えた方がいいと思うぞ」
「何で言う事を聞いてくれませんの? どうして意地悪を言いますの?」
癇癪を起こしたのか、真っ赤になって怒鳴る。
「意地悪な事は何一つ言っていない。あえて親切で言ってやれる事は、君は学び直す必要があると言う事と、上で待つ御夫人方には礼を尽くして謝罪するべきだと思う」
モードン伯爵令嬢は、「何で?」「どうして?」を呟く。
「足を止めて、耳を傾けている者も多いだろう。私はこの数ヶ月、人の言葉を聞くという事がいかに大切かと痛感している」
かろうじて音楽が流れ踊りの輪の中の者も居るが、こちらに近い者達は、皆が注視している。モードン伯爵令嬢から目を離し、俺は周りを見回した。
エドガーも、クルシェの親戚筋のエリオットの言葉をきちんと聞いていれば無かった間違い。もしくは、手順を得て話しを精査していれば気付けたもの。彼女も、ある意味同じだ。ここまでの思い込みや行動の経緯は知らないが、動いた評議会も勿論だが私塾の令嬢令嬢達も注意をしたらしい。エドガー参加のお茶会でも、エドガーが、彼女達の立ち位置と学園内でどうしてゆくのかもう少し計画性をと訴えた。そして昨日と今。学生以外の前で彼女がとった行動。私塾塾長の娘である責任全てが、自分とは関係無いと思っているのか。才覚も何も無い一伯爵令嬢になんて、意味も無く、誰がドレスを買い与えるものか。生まれた責任に気付かなかった。知ろうとしなかった。聞こうとしなかった。彼女と、そう育てた親の責任だ。
「学園のダンス会に王子が出席すると、場を乱す…と、これから言われてしまいそうだが…」
クルシェと、改めて皆の方を向いて立つ。
「何れ、私は皆と同じ一貴族となる。…今日の事は、きっと忘れない。兄上が王に成った時、それを支えんとする自分の姿だけではなく、共に奔走する皆の姿が想像出来る。拙いところは大人達に頼るしかなく、子供の遊びだったと言われようとも。今日の皆への信頼が、国を支えていく者への信頼であると、振り返り思うだろう。皆にとっても、今日という日がそうである事を願う」
そう言って、改めてクルシェを抱きしめる。
腕の中で、小さな悲鳴が上がった。
「楽しい思い出に!」
見せ付けるように見渡せば、わっとその場が湧き、楽しげな声と拍手が起こり俺達の婚約を寿ぐ言葉が飛び交う。
そんな中をエドガーも共に、王太子夫妻の待つ場へと足を向ける。
俺達に注目が集まる中。モードン伯爵令嬢は会場から静かに連れ出された。
エドガーが、複雑な感情を浮かべた瞳でそれを見ている。
思うところが有り過ぎるのだろう。
このアレックス殿下目線の話しは、後二話続きます。
四ヶ月も空いてしまったので、また読もうと思って下さる方がいるかと心配ですが、続きを読んでくだされば嬉しいです。




