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第二王子アレックス殿下は後手を好まない①

 正面に副学園長二人。右に評議会会長のマーカス・ケンネルとメリル・ドレイン。左に私塾の講師一人とセシェル・モードン。

 代表者を呼び出したら、揃った面子がこれだった。


「王子様には、それぞれ護衛が付くのでしょう? 問題と言われる意味が分からないわ」


 週末に学園から通達されたのは、私塾の彼女主催のダンス会だった。

 イヴァンが、レイナードに居る俺に持ち込んだ話し。俺はそれを王宮の親父殿に持ち込んだ。国王陛下を煩わせるつもりは無いが、俺には権限が無い。何か変と思ったって、権限の無い王子に、何が出来ようか。学園の運営は国。私物化されるんじゃないかと思われる学園の現状に、その都度困りものだと訴えるも、学園の対応は今一。王子、評議会と言えど、生徒の打つ手なんて、その学園内で上に訴えるくらいに限られる。それぞれが口にした不満は、二週もあれば、学園から各生徒の家に話しが回る。私塾の評判が落ちるだけじゃ無い。このままなら、国が後ろ盾の学園の名も落ちる。

 ぼやぼやしてて、無能扱いも不本意だ。

 評議会を無視したそれに対して、異を唱えたのは評議会。主催という名前だけを彼女が持って、段取りその他は、副学園長クラートの名前で評議会に丸投げされたのだ。

 本当にそれが通用するとクラート副学園長は思っていたのだろうか? 顔を静かに伺うも、苦虫を噛み潰したような顔で腕組みをしている。お前はそれ程偉いのか? 学生としてでは無く、王子としてこの場に居る俺は、マーカスが話す度に威圧的な視線を向ける副学園長に不快な感情が募る。

 クラート副学園長自身。評議会にはイベントに対してのノウハウがあるのだから問題無いの一言だ。なら、予算は何処から出るんだ? クラート副学園長の口から、予算の有無が出ない。護衛や警備云々では無く、楽団の手配や、軽食の手配だって予算が無ければ評議会でだって行う事が出来る訳が無いのだ。後で申請? そもそも、ダンス会の理由は何だ。歓迎会か?

 仮に予算があったとしたって、誰の為にそんな事しなくちゃいけないんだ? それが、学生の立場からした俺達共通の認識であり言い分だ。

 どうしてダンス会を開くのか? どうやってダンス会を開くのか? その問答に対してのセシェル・モードンの先の言葉。俺を含めた右側は嫌な顔をしたのは間違え無い。


「モードン伯爵令嬢」


 呼びかければ、頬を染めて「セシェル」と呼んでくれと、許してもいないのに「アレックス様」と言う。


「クラート副学園長もだが、何故話し合いをしてからとは思わないんだ?」

「受け入れに対しての協力は願ってきましたが、具体的な行動が無かったので。今回は、初等科とも交友を持つ事も出来た事もありますので、頃合いかと思いました」

「アレックス様が早く学園に戻って下さっていれば、ダンス会だってとっくに開く事が出来ましたのに。アレックス様。是非私と踊って下さいね。約束ですわ!」


 彼女は、この場の話しを聞いているのか? 言えば叶えられると思っている者特有の頭だと、その言葉と表情に伺えた。周りがそれを許してきたからなんだろうが酷すぎる。外でそれが通用すると? 淑女教育を掲げる家の娘がこれじゃ、何を教えているのか疑問にしかならないだろう。兎に角、伯爵程度がここまでの態度がとれるのは、権力よりも資金力か? 散財とも言える服飾の支払いの数字。皮肉な笑いが込み上げた。なのに何だ、俺は、同意の笑顔を向けた訳じゃ無い。馬鹿かと苦笑いなのに、「嬉しいです」と両手を頬にあてて微笑んでいる。

 ...何と言うか、不快だ。思慮深さも何も無い娘。あぁ、早く癒されたい。


「ハイデン副学園長。貴方からは、何か言う事は?」


 無言を貫くもう一人の副学園長。いい加減に動いてくれないと、貴方にも無能者の烙印を押すぞ。


「アレックス殿下は、王族としてこの場にいらっしゃるのですよね」

「そうだが」

「お手を煩わす事になって面目もありませんとしか。申し訳無い」


 それは誰にだ? 陛下にか?  生徒にも謝罪した方がいいかもな。流れで中・高等科で学ぶ奴等より、専門の方が迷惑してるからな。授業の妨害より、実は、食堂やカフェで悶着だって、時間を考えたら痛い物だっだろう。食堂の騒ぎが落ち着くのを待つと、時間によっては、食べずに午後の講義へ。行き先を変えて昼食を取ろうとすると、カフェは金がかかる。最初から配慮もなにも無い者に、非難の目が向くのは当たり前だ。それを引き入れたのがクラート副学園長なら、対策が取り切れなかったのがハイデン副学園長だ。学園長も可を出したのだろうから、責任問題だろ? 陛下まで話しがいってるからな。話したのは俺だけど、それは、大事な報告に違いないだろ?


「不測の事態に対して、私共の考えが及ばなかった事は、深く反省をするしかございません。ご指示があれば従うのみと」


 その態度は潔い。まぁ、力を尽くすまでしたかどうかは分からないけど、生徒の間に立ったのは貴方だよな。

 隣に並ぶクラート副学園長は、謝罪を口にするハイデン副学園長を蔑むような目で見ている。謝りを口にしたハイデン副学園長を下に見ているのが明らかだ。

 お前に謝っている訳じゃ無いし、お前が謝ってないぞ。

 とっとと終わそう。話しを聞かない奴の相手なんて、時間の無駄。


「事情を聞いても、今更だな。ハイデン副学園長並びにクラート副学園長!」

「「はい!」」

「この度の事、王太子の耳へと届いた。いたく関心を持たれたようだ」


 喜色の声を上げたのは雰囲気の読めない一人だけ。「まぁ、王太子様が」の声は軽やかで、クラート副学園長は眉をひそめていた。

 俺が独断で文句を言う為に集めたとでも思ってたのか? 俺がしゃしゃり出ただけなら、学園内ですんだのにな。王太子イコール国だから、同じ事を続けられる訳も無い。クルシェに言った事の報いを「懲戒免職も有りだぞ!」と、心の中で毒づいた。


「淑女教育の中の家政における重要性の検証。そう学園長が言った」

「そうです! 淑女教育の大切さをアレックス様にどうしても知って頂きたくて私っ」

「セシェル・モードン伯爵令嬢! 私は令嬢では無いから、そんなものは必要無い。何れ臣籍に降る時の為に、貴族としての矜恃があればいい。前にも言ったと思うが、学び直したのか? 私は、名前を呼ぶのを許してはいない」

「えっ?」

「殿下っ! 学園に慣れない令嬢に、あんまりなお言葉では無いですか?」


 ぽかんとする伯爵令嬢をクラート副学園長が庇うも、知った事では無い。


「代表として立てるからここに居るのでは無いのか? 知って貰いたいというくらいだから、何かを成そうとして来たのだろう? ならばそれは何だ? かれこれ一月。クラート副学園長は、初等科との交流が成されたと言ったが、それは評議会が動いて成された事だろう? なら、クラート副学園長は何をした? それに、モードン伯爵令嬢は、代表として何をした? それに淑女教育とは、貴族の子息子女の学ぶものとは違うものを言うのか?」

「あ、あの...。私は、アレックス様のお役に立ちたくて...」

「お嬢様っ」


 伯爵令嬢に並ぶ講師が、これ以上喋ってくれるなとばかりに手を引いて止める。

 この講師にとって彼女は「お嬢様」。教え導く令嬢では無く「お嬢様」。


「よりよい改革の礎たれと王太子が仰った。双方ダンス会と区切った日時までに王太子にお見せできるだけのものを成す様に」


 マーカスの「殿下」という呼び掛けに、短く応える。


「その言葉を、何処までと受け取ったらいいのでしょう? 方向無くは難しいのです」

「それこそ、家政の重要性でいいのでは無いか? 私には、王太子のお心の全部は分からない。が、問題にするべきは令嬢らしからぬ態度では無く、学園を悪戯に騒がせた事でも無い。一度受け入れてしまったものなら、それを我が身に受け入れてみせろと言う事ではないのだろうか」

「...ご期待に添えるよう尽力致します」


 マーカスとメリル揃って頭を下げる。


「ハイデン副学園長とクラート副学園長は、双方の調整を。都度、王太子に報告を入れる様に」

「短い日時で、何を、何が出来ると言うのですか?」


 講師が、青ざめた顔で俺を見る。


「短い期間で何かを強要したのはそちらだろう? 家政についてなら、遺憾無く力を発揮してくれると信じているよ。王太子をがっかりさせたくないからな」


 俺は、そう言って立ち上がった。ここでする事は終わりだ。

 もう少しで昼になるから、早くクルシェと合流したいものだ。今、薬草学の講義を受けてるだろうクルシェ。ナタリア嬢が、評議会室に誘導してくれるだろう。緩みそうになる頬に気付かれ無い様に、さっさとこの場を後にした。

 静観してて、いちいちそれに対応だなんて、とんでもないがやってられない。待ちの姿勢と様子見で、エドガーにもクロイスにも迷惑をかけてるからな...。

 クラート副学園長も、この対応を間違ったら足元が心許ないものになると、自覚して修正に回ってくれる事を願いたいな。 







 クラートは腹立たしくも苦い心地で、イライラと爪を噛む姪の姿を見ていた。モードン伯爵家に嫁に入った妹の話しに乗るのではなかったと思う気持ちは、後悔しているという事だと自分でも分かっていた。

 初めは講師をと思っていたが、姪自身が来るという。それならそれでいいと思ったのが、間違いの始まりだったのだろう。交流の中から存在を大きくしていくのかと思っていたら、足場を固める前から問題を起こした。苦情をいなし、何度注意をしただろう。それも無駄だった。叔父である私の言う事なんて、聞こうともしなかった。この度のダンス会も、日時も勝手に招待状を彼方此方に送り付けた後だったのだ。ダンス会さえ行う事が出来ればと、評議会に開催を取り仕切る様にと通達をだしたが、それが、王家の目にとまってしまったのだろう。悪い意味で...。

 これをどう収集を付けるかは、この姪では難しいだろう。

 同席する講師も苦い顔をだ。心中は、自分と同じだろう。

 副学園長まで登った。後一段だと、欲を出していたのだろう。まともに考える事もしていなかったのだと、今は振り返らなくても分かる。

 何を成すか...。

 姪を交えて話すのは時間の無駄だろう。せめて、この後、何もせずにいれくれと願うばかりだ。




 ダンス会の日にちは翌日へと変更され、王太子と王太子妃の主催となった。


  


今話もお読み頂きありがとうございました。

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