レイナード家の料理教室(?)
クルシェとアレックス殿下の視点で何度か切り替わります。
のんびりとした話しを何話か書きたかったので、学園の方とかを待っていた方がいらっしゃったらすみません。
【秋の恵みのビスコッティ】
(材料は、クルシェ視点で見た物です)
・ 元どんぐり 鍋2つ分
(皮を剥いて茹でた木の実)
・ 昨日乾煎りした物 ボウルに半分
(榛の実)
・ 昨日蒸かした物 鍋3分の1
(むかご)
・ 白い粉 ボウルにたっぷり
(小麦粉)
・ 白い粉 小皿に山盛り
(ふくらし粉)
・ ほんのり茶色の結晶? 小皿に山盛り2つ
(てんさい糖)
・ 少し黄色い水? 適量
(植物の油)
・ 卵 8~10個
・ 干しぶどうやレモンピール 適量
(お好みで)
【注】お好みで、胡桃などの他の木の実。ドライフルーツ。バターや牛乳の使用もあり。
《クルシェ視点》
ビスコッティ? 何でしょう。料理人がテーブルに並べた材料と、お好みの材料を言ったが、あまり私の頭に入ってこなかった...。
朝。何時も通りに身支度をしようとしたら、侍女の突入を受けてレミーネとお揃いの服とエプロンを着せられた。髪は邪魔にならない様に三つ編みで後ろ。
そして簡単に朝食を頂いたら、この状態だった。
目を輝かせたクロイスとレミーネ。ちなみにエドガー殿下も並ぶ。私は、アレク様とエリオットと後ろから眺めて聞いている。
ランス様とルキス様は、朝食の後騎士団官舎へ戻られた様で、姿が見えなくなっていました。
何故、私までがと思う。何時もなら、眺めているだけだから。
目立たない様にちょびっとびっとと、後ろに下がる。
どうしてだか...。得意では無いのだ。私が手を出すと、邪魔になっていまう。それを、アレク様に知られるのは...いたたまれないのです。
「クルシェ?」
「はい。アレク様」
「何か気になるものでも?」
「何もありませんわ」
じりじりと後退するのを気付かれてしまったので、少し前に出る。
「髪...。可愛い」
身を屈めたアレク様が、耳元で囁く。
サイドの髪ごと編み込んでいるので、耳と項に息がかかり、擽ったくてうにゃっと声が出た。腰に手が回り、ピッタリと寄り添う。こうなると、料理人の説明なんて、なおさら聞こえてなんていません。
クロイスとエドガー殿下とエリオットは、茹でた木の実を潰す様で、太い棒を手にしていた。
私とアレク様は、蒸かしたむかごの薄い皮を剥くらしい。
これなら私でも出来るかしらと、灰色がかった実を手にした。
アレク様も手にしたが、ため息混じりに呟く。
「今日も剥くのか...」
ちょっとアレク様が憂鬱そう。昨日も遅くまで皮剥きをしていたようなので、「大変でしたね」と「ご苦労さまでした」どちらを言うか迷う。迷うけど、言葉になんてしない。エドガー殿下は、持ち込み分の責任というやつらしく、最後までやってとクロイスに詰め寄られて、帰るに帰れなかったらしい。今も、責任の真っ最中。食べられる物を、拾った見習い達に持っていく事になっているらしい。なら私は、何時も通りでいいのではと思うも、兄弟のコミュニケーションって大事だよねの一言がアレク様から出たので、侍女達も張り切ってしまったみたいだ。何でそう思うかですか? 朝から上機嫌で身支度の手伝いをされたら、分かりますよ。ですから、巻き込んだアレク様に、労る言葉はかけないのです。
「剥かなくてもいいとは思いますが、果物と混ぜ合わせるなら、その方が口当たりがいいと思いますので、よろしくお願いします 」
とりあえず頑張りますよ? 私の出来る範囲で。
既にクロイス達は、潰す作業に入っている。棒を突き落とすたびに、ドゴングチョンと音がする。これで、食べる物が出来るのは理解を超える。とにかくそれを見て、私もアレク様も爪で摘む様に剥き始めた。
こういう作業は不思議だ。やり始めれば、何時の間にかのめり込む。
《アレックス視点》
水色のワンピースに白のエプロン。髪を纏めた三つ編みで、細い項があらわになってる。
可愛いと近寄ろうとしたら、朝一番、ぷんっとそっぽを向かれた。それだって俺からしたら可愛いだけだから、気にせずに隣へ並ぶ。
料理人の説明もろくに聞かないで、ちょっとずつ立ち位置を下げていくクルシェの頭を見下ろす。キョロキョロとまではいかないが、僅かでも視線を動かすと頭が動く。様子を伺いながらじりじりと後退。俺や料理人が気付いていると気付いて無い。
名前を呼んだら、何でも無かった様に隣に並ぶ。
挙動不審と言えなくもないが、可愛過ぎる。
パクッとしたいクルシェの耳元で囁き腰を抱き寄せる。可愛い声が聞こえ、離してという感じの目で見られても俺は気にしない。
クルシェと一緒に、俺は再び皮を剥く。
クルシェを見ると、丁寧に丁寧にと剥いている。それこそ、傷が付かない様にだ。指先一つ分のそれを、慎重に綺麗に剥いてはため息をつきながら一度眺める。そして等間隔で並べた後でニッコリと笑うのだ。剥き終わったら潰される運命だと、クルシェは知っているのだろうか? クルシェの指でだって、容易く形を変えてしまう程には柔らかいソレを、俺は手元のボウルに剥いては放り込む。歪に潰れようとも皮を剥いた物。俺が雑なのでは無い。潰す事が前提で、手早いことが望まれる。
「...クルシェ。丁寧もいいが、早く剥かないと」
そう声を掛けたら、俺とボウルの中を見比べて、何だか悲しそうな顔をされた。
どうしてだ? そう出かかった言葉は飲み込んだ。
学園に残っていたイヴァンの姿が部屋の隅にある。何かあったのだろう。
「悪いのだが、残りを頼めるか? 手伝わないと終わらないっていうのは分かってるんだか、すまない」
「どうしましたの?」
「イヴァンが来た。話しだけでも聞いてくるから」
「はい。お任せ下さい」
そう言うと、素っ気なくクルシェは手元に意識を向けていた。
始める前は気乗りしなさそうだったのにと思うと、随分な差だ。だが、夢中な様子は意外な一面過ぎて、それまた可愛いと思うのは俺だけか...。嫌、居た。兄馬鹿の眼差しも、愛おしそうで柔らかい。
《クルシェ視点》
綺麗に剥く。並べて置く。私は私のペースで作業を進める。等間隔なそれをただ一つ惜しいと思うのは、大きさが均等では無いという事だった。均一であれば美しく並ぶのだろう。
アレク様が席を立ったら、クロイスとエドガー殿下が何時の間にか目の前で皮剥きを始めていた。
あちらは終わったのかしらと見れば、エリオットが布で絞っていた。白乳色の汁が鍋へと滴る。
「クロイス?」
「何ですか、姉上」
「せっかく綺麗に剥いたのよ?」
「ええ。とても綺麗です。美味しく出来るのが楽しみです」
私のむかご達が、ボウルに入れられ潰されていく。
傷も無かったそれが、あぁ、無惨に...。達成感の前に挫折を味わった気がした。
「姉上。これを細かく切って貰えますか?」
クロイスに声を掛けられた次のお仕事は、レモンピールを切る事。
クロイス達は、絞って残った実と潰したむかごをそれぞれ半分にして、次の工程に進む。エリオットは、榛の実を、包丁で叩くように細かくしていた。
私もさっさと取り掛からないと、途中でお仕事を取られてしまう。始めた以上は、きちんとやったと実感したい。
私が終わったと満足して顔を上げた。この時エリオットは、干しぶどうを細かくする事を終えていた。クロイスの方も、干しぶどうとレモンピールを混ぜるだけになっている。
ボウルの一つに、レモンピールと干しぶどうが混ぜ合わされる。
「こちらは、レモンピール自体に砂糖がまぶしてあるので、元の甘みは押さえてあります。この他に二度焼きを入れますが、それもなさいますか?」
細長い長方形の生地になった物が、オーブンに入れられた。
「何であと二回焼くの? それに、何で塊のままなの? 僕、皆にたべさせたいんだけど」
「十五分後に一度取り出して、冷ましてから切ります。切った物を並べて再び焼きますが、水分が多いので、ひっくり返してもう片面も焼きます。心配はありません。十分お配りできるくらいは出来上がりますよ」
「そうなの? ならいいけど、エドガーはどうする?」
「ここまでやったのなら、最後までだろ?」
「そう? 分かった。どれくらい待てばいい?」
「四五十分ってところでしょうか。お昼を食べて頂いてからで十分ですよ」
「なら、食べてから。姉上。手伝ってくれてありがとう」
クロイスに屈託なく言われて私は微笑んだ。ありがとうと言うけど、役にたったとは思えない。エドガー殿下を引っ張る様に連れ出すクロイスの後ろ姿を、何となく見送った。
テーブルの上の片付けが始まった。クロイスに取り残されてしまったが、私も手を洗ってしまいたい。一抹の寂しさと言っていいのか、胸がぽっかりとした。ひとまず水を求めて流しの方へと近寄る。
その歩を、後ろから腰に回された腕に止められた。
「クルシェ。ちょっと王宮まで行ってくる」
シャツを腕捲りした姿では無い。着替えをしたのか上着を着たアレク様。ベタっとした手を服に付けてはいけないと、咄嗟に両手を前に出す。
「どうしたのクルシェ?」
私の気遣いに対して、アレク様の口から出たのはそんな言葉。
「レモンピールを触っていたので、ベタってしてますの。お洋服が汚れてしまいますから、離して下さい」
「レモンピールって、砂糖漬けの?」
「そうです。手を洗ってしまいますから、手をお離しになって」
振り返って見上げるも、伸ばした手を掴まれぺろっと舐められた。
「本当に甘い」
「ア、アレク様!」
「お昼なのに、食べられなくって残念」
食べるって、何をですか? 指先に口付けられてドキッとした。その後、自分の唇をぺろっと舐めて甘さを確かめる様子に、もう一度ドキッと。
アレク様を見ていられなくて俯いている間に、誘導されて流しの前。両手の指を丁寧に洗われてから、ハンカチで包まれる。
「すぐ戻るから。一緒に居られなくてごめんね」
そう言うと、頬に口付けて行ってしまった。
指先も頬もとても熱く感じて、熱を冷まそうと、意味も無く手をパタパタとした。
とりあえず、この後はどうしましょう...。ため息混じりに周りを見回すと、レミーネと目が合った。そう言えば、レミーネは、今の作業には手を出していなかった。個別に色々としていたのねと、レミーネの前に並んだ色々を見て推察。まだまだ何かをしそうなレミーネを置いて部屋に戻る気にもなれなかったので、ここに残る事にした。戻って一人になるのが嫌だったのだ。と言っても、一緒に何かをするというのは、上手くいかない。こう...ペースを乱してしまうのだ。クロイスの邪魔にならなくて良かったと胸を撫で下ろしながら、私は、夕飯のメニューを聞いた。そして手に取ったのは人参だった。兎に角、一人で出来る事がいい。
【レイナード家の夕飯メニュー】
・ 木の実のスープ
(木の実を絞った汁使用)
・ お花畑風サラダ
(人参のグラッセなど花を形どった物を添えて)
・ 白薔薇一輪
(カブと白身魚の蒸し物)
・ 鶏のハーブソテー
(榛の実と栗を巻き込んで)
・ さつまいもと胡桃のパン
・ りんごのゼリー
《アレックス視点》
何度かレイナードで夕食を食べたが、今夜目の前に並ぶものは明らかに何時もと違っていた。木の実が取り入れられるのは、まぁ、分かる。どんな風に食す事が出来るのかという、クロイスの好奇心を埋める為もあるのだろうから。
なら、何が違うのか。それは、料理の飾り付けと言っていい。今日のものは、凝っているというか...花を乗せた物がそのまま出されたかと一瞬思ったくらいだった。
サラダはラディッシュと人参の小花が咲いて、蒸し物は、説明通り白薔薇だった。りんごのゼリーの中には、生のりんごで作られた花が漂うみたいに浮かんでる。見た目からして、女性の喜びそうな飾り付けだった。
そして、俺の前にだけクッキーの様な棒状の塊がある。昼間に作ったビスコッティ。
「あの...。すみません、アレク様」
顔を半分手で隠したクルシェが、申し訳なさそうにしている。
謝られる覚えは無いので、理由を聞いてみる。
「あ、味付けはもちろん心配する事は無いと思いますの。それはきちんとお料理してもらえましたから。ですが、夢中になってしまいましたの...」
何を夢中になったと言うのか...。
申し訳なさそうなクルシェと、分からない俺に助け舟が出された。
「姉上がお花にしたんだよ、アレク。とっても綺麗だと思わない?」
「クルシェが花に?」
「クロイス達の邪魔になってはいけないと思って、でも、何かをしないとって...。気が付いたら色々と。それを上手に取り入れてもらいましたの。食べずらかったりしたらと思うと...すみません」
言って、シュンと肩を落とすクルシェ。
改めて花をかたどった物を見れば、俺の目からでも美しい出来栄えだと言える。
「凄い、凄いよ。綺麗過ぎて、手を付けるのが勿体無いくらいだ。レミーネも料理上手なら、クルシェもなんだな。今度はクルシェの手料理をちゃんと食べたいな!」
シュンとしたのを喜ばせようと言ったら、微妙な目をされた。
「クルシェ?」
「アレク様...。それは出来かねます」
「何で? この家は、料理をしたりするのを禁じて無いだろ?」
「味付けはしてもらいましたと言いました」
「ああ。でも、これだけの腕なら美味い物が」
「出来ないのです。料理にならないというか、最後まで行き着かないというか...。今日も、目的があってしたのではなくて。何となくで形が作れても、その後が...」
料理を口に運んだクロイスからは、美味しいし、綺麗なんだからいいのにねと声が上がっているが、クルシェには聞こえて無いようで、しきりに俺を気にしている。
昼のクルシェが浮かんた。丁寧に丁寧にのクルシェ。
一つ一つを丁寧に。そして、満足の物が出来る度に微笑んだのだろう。
王宮になんか行くのでは無かった。可愛い彼女の一面を見逃して、とても惜しいと悔しくなる。
「くっふふふ」
「アレク様?」
「クルシェって本当に可愛い」
「何を言い出すのですか?」
「何をって、可愛いものは可愛いで間違って無いよ。料理っていうか、飾り切りしたフルーツでもいい。今度、俺に作って!」
そして口に運んで貰う。フォークを持つ指先と、俺の口元を注視する眼差し。思い浮かべるクルシェの表情は、まるでキスを強請る様に...。そこまで考えて、俺は顔を背けながら隠す。やばい...。食事を前にして想像する事じゃ無かった。手の平で、顔を覆って項垂れる。
「アレク様?」
「うん? 大丈夫。想像したら、思いのほかクルシェが可愛過ぎて、こう、胸が...」
そう言ったら、「何を言い出しますの」とあたふたしてる。
俺の未来のお嫁さんは、本当に可愛い。
「や、やはり、手作りというの、お好きですか?」
「好きというか、クルシェからなら何でも。それが俺だけになら、なおさら嬉しい」
俺は、笑った。上手に下心を隠して笑えただろうか?
今話もお読み頂きありがとうございました。
ビスコッティは、アメリカのママの、大雑把だけど美味しいクッキーをイメージして貰えたらと思います。
王宮に出掛けたアレックス殿下。次話は、アレックス殿下になると思います。
よろしくお願いします。




