第二王子アレックス殿下の男子会?(二人の弟)
パチッ。パキッと地道な音がそれぞれの手元からする。エドガーが持ち込んだ分を合わせて、バケツ三杯分。半分が剥かれて白乳色の粒が、別の山を作っていた。
「アレクも手伝ってもいいと思うけど」
クロイスの作業に飽きた声に、視線だけ向けて無視をした。それは、持ち込んだエドガーのせいだからな、エドガーにちゃんと責任を取って貰えばいいんだ。
エドガーを筆頭に、ルキスとエリオットも地道な作業に参加をしている。
出された夕食は、料理人が言った通りに付け合せやスープ。薄焼きにされたパンにも木の実がふんだんに使われていて美味しかった。地道な下準備と、手間と調味料のなせる技に、舌ずつみを打ったのは俺だけじゃ無い。頑張れと、心でエールを送る。
俺とランスは、俺と一緒に報告書という紙束を目にしていた。
何時もならイヴァンとレインなのだが、例の一団の事なので、エドガーに任せた視点からランスの意見を聞いておこうと思ってだ。
ちなみにイヴァンとレインとは、学園以外は別行動だが、仲違いでも何でも無い。王宮と他の関連貴族家との連絡を受け持って貰っている。レイナードに直接だと、俺宛でも目立つかと思ってだ。
「やっぱり、納得がいかないですね。学園より高い授業料や寄付金でもあるのでしょうか?」
実は二度程、私塾の集団にエドガーを行かせた。縁のある幼き令嬢の人見知りを治す為と協力を頼む形でだ。
どちらの王子かは言わない。縁の令嬢も、身元は秘密だ。二人並んで銀糸の髪なので、令嬢は誰かと言うのはとても思わせぶりだろう。
学園では評議会が動き、貴族以外も学ぶ中・高等科では、今のままでは衝突があり、本来学ぶ事の邪魔になる。だから、初等科できちんとした実績をつくってから上に持ち出して欲しいと訴え。私塾に通う令嬢の家からは、学園での噂から私塾を辞めるぞと脅しをかけさせた事が総じて、少しだけ大人しくなった。なったが、何かしそうな雰囲気は、まだまだある。何かしそうと言っても、邪魔くらいだけど。気にしないでもいいのだが、クルシェとの学園生活の残りを潰されるのは嫌だ。ハロルドにも使い物にならない男と思われるのも遺憾だしなと、情報を集め、対策をこうじている。
ランスの目線で、何が納得いかないのかを聞いておこう。それ大事。
「セシェル嬢は、学園に毎日違うドレスで来ている様ですし、貸し出しのドレスも二三十着はあるかと思われます。流石に貸し出しのドレスは新しくて高級な物とは言い難いですが、セシェル嬢自体の物は、それなりかと...。それに、これでもかと装飾を身に付けてますし、何て言ったらいいか...。家の権威の為に着飾るというのは我が家を見ても分かりますが、伯爵家でここまで出来るのかが疑問です」
好きになったクルシェは、ゴテゴテと着飾る事は無いし、ドレス姿は品のある落ち着いた物だ。普段は、ただただ可愛らしいだけの装いなのは間違いない。
もう少し身近な母上や王太子妃は由緒ある物が多いし、普段使いは、夫からプレゼントされた物を使っている。必要以上に華美過ぎるのは、見た事が無い。そう思っているのは俺だけかな?
服の相場は分からないが、セシェル嬢の今年に入ってからの購入の記録と、ランスの姉君が社交デビュー時の購入記録(公爵家で宰相の家だからそれなりにという目安)。これを見たランスは、嫌な顔を一瞬した。自分の家の何かが知られるのは嫌な物だろう。それと、勢いのある伯爵家の何件か分。それらを比べても、ランスの言う通り疑問しか浮かばない。ドレス一着は高いのか安いのか? それが今一分からなくても、数を揃えれば大した額になる。ちなみにレイナードは、ハロルドがすべておこなっていて、生地やレースなどの買い付けの記録だけ。ドレスや服飾の仕立て購入は無かった。ならば何処でと探れば、長姉のロレインの所だった。プレゼントするドレスの相談は、彼女にすれば間違いは無し。
そうしてみると、そこまで出来る金の出処の不明が気になる。ドレスだけじゃ無い。屋敷から通わせている人数も考えたら、食事や、世話をする者の人件費。学園自体にだって、授業料というか、施設利用の何某かは支払われている筈だ。学園関係のそれは、ハロルドの手元に来るものを見せてもらった中には無かったので、どうしても知りたいとか調べようと思ったら、親父殿にお伺いをしないと、俺じゃ無理。
とりあえず私塾長のモードン伯爵家で溜め込んでいたものを出しているのか、出資者がいるのか、それとも不正にか。それが、今の俺達には分からない。そして誰と話し合っても、そこまでする意味が、分からない。王子妃ったって、結婚すればただの臣下だ。本気で分からない。
「何にしても、知りたいのは経緯ですね。アレックス殿下の方では、もう少し詳しい事が分かりましたか?」
「経緯って言えるものは、何にも出てこない。王子妃に夢を持ってるらしいが、エドガーには食い付きが弱いんだろ?」
言ってから、ランスと二人でエドガーを見た。俺が婚約を決めた以上、残る王子はエドガーだけだ。決まってからの一週間に二度の接触を計ったというのに、言葉通り、エドガーには食いつかなかった。ははは...。俺? 俺は俺の最愛を手にしたからな。高みの見物でいたい。
「所作が美しいのはベラルダ嬢。ご自分の立ち位置が分かってるのはヴィニカ嬢。控え目だけどよく気配りが出来るのはサリア嬢。初等科を出た三人以外は回りが見えて無いよ」
クロイスが言う。
八才児の言う事かと、俺は、つい見てしまう。
この、よくしゃべるクロイスが、人見知りの令嬢なのだが、不機嫌さを不安に思ってる様に見せるのが上手いらしい。らしいというのは、俺が見た訳では無いからだ。
「僕は、観察するだけだからね。あの人、ギュウギュウにコルセットを閉めてるから苦しくてイライラしてるの、全然隠せてないし。僕らのいる間は我慢してるだろうけど、お目当ては違うのって顔はありありだよ。ランスやルキスは、他の令嬢には関心を持たれてるみたいだけど、エドガーには無いよ」
クロイスの無情な言葉に、エドガー撃沈。ゴンとおでこをテーブルにぶつけていた。
クロイス...。エドガーを虐めてくれるな。
皮むきをリタイヤしたエドガーの代わりに、仕方ない、俺が参戦してやろう。手を濡れタオルで拭いてから、木の実を手に取る。
「それで?」
「レースでゴテゴテさせれるから、メリハリの為に身を縛るでしょ? それで苦しいだけなのに、思いが通じなくて辛いわって相手を見上げるか、俯くの。んっと、乙女の処世術? まじかで見ると、本当に凄いね!」
処世術なんて言うお前の方が凄いと思うぞ。
「ナンデソウイエル、ンダ?」
片言のルキス。
俺も知りたい。クルシェに見上げられると心拍数上がってどうにもならなくなるぞ! それは、乙女の〇〇なんていうのだとは、俺は思わないけどな。
「シュニティア姫。式典の時なんか、見栄えを良く見せるのに、ギュウギュウだって、控えで涙目で毒吐いてた。それでも近くに騎士が居ればちゃんとして、頼りなくも凛とした姫っていうのを心掛けてるんだって。アレはアレで必要な事だと思ったけど...。僕は、見下ろされる事はあっても、見上げられた事がないから分かんない。アレクはどう?」
俺に振られても...。幸せな俺からは惚気しか出ないぞ。今日だって、口元を押さえての涙目は、グッときたし。そう喉まで出かかってやめた。そんな話しをしてるどころじゃ無い。
クロイスの言っているシュニティア姫の行動も、分からない訳じゃ無い。兎に角ハッキリとした姫だった。俺みたいに自覚も半端な王族じゃ無い。それを知っている周りの者からは、きちんと慕われていた。まぁ、辛いからと言って、それを表に出さない見栄を張ったのがクロイスの言うソレなのかなとは思う。
「クロイスは、その乙女の処世術っていうのが気になるのか?」
「気になるっていうか、コロッといきそうな騎士がいたよ」
クロイスの言葉に力が入りすぎた。バキッと潰れてしまった実が哀れだ。
クロイスを学園に連れてくる時は、王宮の母上の所から、護衛を付けてエドガーと共に来ている。
騎士団官舎を出たエドガーとクロイス一行は、協力者のヴァイス・リヒター将軍の屋敷に立ち寄り、そこから王宮の母上の所に。支度を終えたら護衛を伴い学園に。その流れで護衛は第一師団からなのだが、グレイの様に、事情を知っている者ばかりでは無い。
「それは、誰だか分かりますか?」
ランスが問い掛ける。
「ん? 二度とも来てた人。お力になれる事があったら言って下さいだって。何であからさまな事にコロッといっちゃうのか、僕にはまだまだ分からないよ。ねぇ、マーナ。アレ貸してあげて!」
マーナが何故ここに出てくるのかは分からないが、涙目にコロッといった事に心当たりのあるエドガーは、両手で顔を覆って項垂れている。恋じゃ無かったようだが、言い分をすっかり信じてしまった弟。
ランスも難しい顔になって思考を始めていた。
その騎士を泳がすか入れ替えるか、思案どころだ。
「汚れた手じゃ触らないよ。皆、読むの早いからすぐに返ってくるから大丈夫だよ。ねぇ、貸してあげてよ」
クロイスのお願いで、マーナが部屋を出ていった。
ヨシュは隅に控えているが、マーナ共々皮むきには参加はしていない。クロイスに言わせると、自分がしたい事で、させたい事じゃ無いからだそうだ。運んでもらう事はしても、木の実を拾うのは、クロイス自身がしたというから、クロイスの行動のこだわりどころが今一分からない。
「ねぇ、エドガー。そろそろ手を動かしてよ」
今の俺とクロイスは、外皮を俺、中皮をクロイスと分担している。クロイスの効率が上がって、ぽいぽいと進んでいるのは間違いないだろう。こういう事を、領地の子供達はやっているのだと知った。目の前のクロイスの様に。幼い手が出来る事は少ないかもしれない。それでも、少しでも冬を豊かに。貧しい訳じゃ無い。無いより有った方がいいというだけの事だ。
「クロイスは、これからどうしたい?」
クルシェと一緒に聞こうと思っていた事が、ポロッと口に出てしまっていた。
「何? アレク。いきなりだよ?」
「学園までは、数年あるだろ? 家庭教師をつけての勉強は嫌だろうと思ってな」
クロイスは、家庭教師を嫌がると分かってる。本人が退屈とこぼした離宮暮らしの中で、雁字搦めに勉強を強いられていたと聞いているし、する事も無いので読書三昧。その年以上の知識はあるのだと知っている。そんなクロイスの楽しみは、自分でしてみる事だというのは、身分が高いだけに何とも言えない。子育てちゃんとしろよと言ってやりたい奴は遠い。
「面倒臭いから、僕は居ない者のままでいいんだけど、退屈は嫌だな」
「そうか...」
クルシェが、大好きな姉上が居ないから言える言葉だと思った。クルシェが聞いたら、何を言うのと泣くぞ。
目で伝わったか、クロイスが小さく笑う。
「兄上もクロイスも、何を言ってるの?」
同じ継承三位の二人だけど、違いすぎる二人だと思う。
「言葉通りだよ? 僕は、押し付けられた面倒臭いのは要らない」
「面倒臭いって、何だよソレ!」
「僕は争いの種になり得るから、国を出されたんだよ」
分かっていても、八才のクロイス本人の口から出るのは、俺も辛い。
「そんな勝手な事...」
ニッコリ笑ったクロイスに、エドガーは言葉を無くしたみたいだ。
エドガーも、聞き知った事で、心当たりがあるのだろう。
「ねぇ。アレクとエドガーは?」
「俺は兄上様になるんだから、クロイスの好きな様にさせてやるぞ」
本当は、そんな事を聞きたい訳じゃないだろうが、そう答えた。
もう一人の弟は、そんなクロイスに、何と答えるだろう。
「クロイスは、退屈したくないだ。エドガーはどうしたいんだ?」
そんな簡単なものじゃないと呟くエドガー。そうかな? どうしたいがあって、 どうするかだと思うのは、俺が単純だからか?
俺とクロイスに見られて居心地が悪そうだ。
でもな、俺は聞いておきたい。それは、お前に寄り添って行こうと思ってる者も、聞きたい事だと思うぞ。ランスもルキスも手を止めてお前を見てる。
「...を、ひ...たい」
絞り出す様にエドガー。
聞き取れない。もっとハッキリと。
「視野を、広げたい、です!」
力みから顔を赤くしたエドガー。我が弟も、可愛いもんだ。
「そうか! ならば、ちょうどいいな」
「え? 何がですか?」
「民の暮らしを知った。暮らす場所で、価値の違う事を知った。後は何がある、ランス?」
実を剥きはじまったランスにふると、笑いながらで答える。
「優しい兄君の存在ですか?」
何だそれは...。背中がむず痒いっ。
ランスのソレに、エドガーもクロイスも笑う。
ん。重くならなかった事を良しとしよう。
話題の変更は、何にしよう。思えば、クロイスがマーナに頼んだ物が気になった。
「ところで、マーナに頼んだのは何だ?」
「えっと、本。女性が好むお話しみたいですよ。それこそ賛否両論の物もあります」
「クロイスは、読んだの?」
「分からないものを勧める馬鹿だと思うの?」
クロイスがため息をつく。
「アレクは、それを読んで勉強して下さい。姉上にベタベタするだけじゃ、嫌われても知りません」
十も離れたクロイスから、チクッとダメージだ。
「クロイス? それを読んで行動すればいいのか?」
「アレクも馬鹿? 読んで可笑しいと思った事は、可笑しいの。それをそのまま実行馬鹿なんて、笑えないよ」
「なら、何で読めって言うんだよ」
「可笑しくても、惹かれるものがあるからなんじゃ無い? 大人なんだから、自分で考えて!」
「なら、僕は何で読まなきゃならないんだ?」
「人間観察の資料。ウルウルだけで恋なんて安易じゃ無い? 何度だって、何人だって恋が始まるの? どれが本当?」
子供のクロイスの言葉が、何故だか的確な気がする。どうしてだ? くそっ。恋も知らない奴に言われるなんて、屈辱だ。
「僕はね、姉上には幸せになってもらいたいの!」
「幸せにするぞ」
「うん。そうだね。...でもさぁ、食べさせっこも姉上自分からじゃ無いでしょ? たまにはいいけど、何時も? それだけ?」
俺を見る目が、かなりがたジト目だ。
「それなりに考えてる!」
強く言ったら、鼻で笑われた。
「プロポーズの後...何で姉上は気を失ったの?」
それは、言えない。
クロイスが立ち上がる。マーナが戻って来たからだ。
「それは右。それも。左で右...」
汚れた手だと思ってるだろうクロイスは、本にさわる事なく七冊の本を、右四冊左三冊に分けた。
表紙を見ただけで分けるのは、本当に読んだんだなクロイスよ...。という事だろう。
先ずは、俺が三冊だった。ん。幸せの為に読ませて貰うよ。
「クルシェは、読むのか?」
「姉上は読まないね。でも、嬉しい事って共通なんじゃないの?」
「僕の方のは?」
「美味い話には裏がある? 賛否両論の方だよ」
ブホッと、今まで存在感の無かったエリオットが吹き出した。
クロイスは本当に面白い。エドガーがいい影響を受けたらいい。エドガーと足して割ると真面でつまらない人間になりそうだけど...。
気になる事はあったが、概ね良好。
「ははははぁ。クロイスは最高だな!」
俺も可笑しくて笑った。
まぁ、さっさと目の前の物を片付けしよう。
眠くなったのか、途中から録な戦力にならなかったクロイスだが、最後まで見届けて部屋を出ていった。
俺達は、片付けられたテーブルで、お茶を飲む。
飲みながら、クロイスの置いていった本に手を出したのはエドガーだった。賛否両論と言ったって事は、感想交換をしてるって事か? 本に残った読み癖は、それぞれバラバラ。侍女同士で読みあってるのかと思えた。何となく俺も手にした。
嬉しい事は共通と言ったクロイスの言葉を、何となく頭に浮かべる。主人公となる少女共通って事で、読む少女達も憧れるやつって事か? 興味深いと読み進めた。
「兄上?」
エドガーに呼ばれて顔を上げた。見れば、エドガーの顔は、何とも情けない。泣き出すんじゃ無いか?
「どうした?」
「あ、あの...。これってどう捉えたらいいのでしょうか?」
と、聞かれても、内容が分からなければ何とも...。
「賛否両論だから、読み手の受け取り方そのままでいいんじゃ無いか?」
「そうですか...」
エドガー達は、本を手に泊まる部屋へと案内されて行った。ランスもルキスも微妙な顔だったぞ。賛否両論...何が書かれているんだ? それを知るのなら、俺も読まなくてはいけないのか...憂鬱だ。
今話もお読み頂きありがとうございました。




