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第二王子アレックス殿下 何気にお預けに耐える

男子会では無く、兄弟会議を持ってきました。

 週末...。

 心躍る響き。

 レイナードへ向かう馬車。

 たとえ...二人きりでなくても、俺は満足だ。

 ハロルドだけの別邸に侘しく帰りつき、ハロルドの巻き散らかす書類を耳を揃えて分類する。レイナードで執事をする長兄のダリル・ギースと向かい合って食事をし、「いってらつしゃいませ」と送り出される数日に、ようやく訪れた幸福タイム! 

 そう思いながらクルシェとレミーネを馬車へと乗せて、いざ俺もと乗り込もうとしたその時...。王宮、親父殿からの呼び出し。まぁ、いい。いいよ。さっさと終わそう。明日は、婚約誓約書の取り交わしの日。ちょっとした連絡事項くらいだろう。萎む心を隠して二人の乗る馬車を見送った。

 俺の乗り込んだ馬車は、王宮ではなく、第二騎士団詰所へと乗り付けて止まる。

 何事と思わなくもなかったが、従う警護の者は変わりなかったので、そういうものかと案内の後を付いて歩く。

 俺の危機回避能力? 無いな。

 第二騎士団で連想するのは、師団長のルイス・アンバース。婚姻が済めば義兄様になるのだろう。ついでに挨拶? 何てだよ。ともあれ、騎士団預かりのクロイスの事だろうか?

 師団長室の扉。 

 開かれて入れば直ぐに閉じられた。

 このお呼び出しの意味は、どんなところにあるのだろうな?

 揃った面子を見て考えた。


「アレックス殿下? この場ではアレクと呼んでもよろしいでしょうか?」


 そう声を出したのは、この部屋の主でも無い男。レイナード家の執事、長兄のダリル・ギース。屋敷では、「殿下」か「アレックス様」と呼び掛けられていた。職務中の澄まし顔では無い。

 他にこの部屋の主、長女の婿ルイス・アンバースと、第一騎士団の次兄グレイ・ギースに末弟のクロイスが居る。

 これは、兄弟会議というものだろうか? 

 ならば、隔てなく呼んで貰いたい。勿論頷いた。


「俺は、兄上と言っていいですか?」


 砕けていこう。腹の探り合いの必要何て無い。

 クロイスの横に、さっさと座った。

 

「お許しありがとうごさいます。さっそくですが、アレクに幾つかお願いがあります。一つは、過度な触れ合いは控えて貰いたいと言う事ですが...」


 ズバッと切り出されたそれは、邪な俺にはかなりがた辛い申し出。触れちゃ、いけないのか? そんなの無理な話しだ。あんなに可愛いのが側に居てギュッとも出来ない? 頼むから、そんな酷い事を言わないでくれ。しかし、家族として心配する気持ちも...分かる。と、思う。ダリルには、クルシェの唇を啄む俺を見られている...。

 ダダ漏れの俺の気持ち。顔に出過ぎたのか、ダリルにくすりと笑われた。


「アレクが熱を持ってあの子に触れるのは、その時まで待って貰いたいだけですよ」

「...無理」


 婚姻前の娘に、それは確かにいけない。でも、無理だろ?


「ならば、屋敷で暮らすのは辞めて貰いたい。クルシェにも立場があります。庇護され、屋敷に閉じこもればいい令嬢では無い」


 言葉の通りだ。

 適切な距離も、当たり前の事。

 ...熱。熱という言葉てダリルは包んだが、包まれた内容は俺の煩悩。抑え込むなんて、どうやってするんだ? 

 俺は、唯一の既婚者であるルイスに尋ねた。何を、煩悩の散らし方をだ。

 苦笑いで俺を見るのは辞めてくれ。そして、その極意を是非とも教えて欲しい。


「私が妻と出会った経緯はご存知ですか?」


 正確かは分からないが、知っているので頷いた。


「私の妻は、色々あって、甘えるのが下手でした。ですから、甘えさせる事に苦心しましたね。と言っても、周りの関心も強かったですから、付け込まれない程度には...」


 それでは、男特有の煩悩の散らし方は分からないぞ。具体的に言ってくれ。先達者の教えは大切な教訓。背筋を伸ばして耳を傾ける。


「愛しい者が、身持ちの悪い娘と言われない様に気を付けるだけですかね? 当たり前の事ですが」


 ルイスの顔を見れば、本音と建前の建前だというのは丸分かり。甘えさせるだけでいられるものか。即ち、暴走しないで上手くやれだな。所構わずになりそうな俺に、釘を刺す為に集まったのか。

 言わずには居られない兄貴の心情を、俺はしかと受け取った。


「抑えて貰いたいのは熱だけです」

「当然の、事だ。俺にも事情がある。だから、屋敷を出ろとは言わないでくれ」


 事情? 口実だが、言わねばバレまい。

 薄々は分かっているだろうが、そこをつかない兄貴が憎い。


「ええ。分かって頂けるのなら。それから、お願いというより、要望なのですが、ルイス」


 ダリルがルイスを促す。


「アレクに提案が。官舎で寝起きをしてもらえないでしょうか?」


 何だと?


「週末は、クロイスと一緒に屋敷へ帰って貰っても結構ですが、書類の耳を揃えて居たって無駄ですから。時間は有効に」

「ハロルドの側に居るのは無駄か?」

「必ずあの子の元に帰れるくらいの力量は備えて貰いたいんですよ」


 すまし笑いに苦笑い以外のいい笑顔が、騎士二人の顔に浮かんだ。


「臣籍に降れば、護衛も、今と同じといきません。どちらにしても、屋敷から出ないという選択はありませんから」

「因みに、どんな事を?」


 恐る恐る聞いた俺を、ヘタレと言ってくれるな。それくらいの笑顔が前にある。


「剣技の前に、体力の底上げですかね? 基礎がなければ、踏ん張りも効かないものです」


 そうか...。この様子なら、学園の手合わせの話しがいってるんだな。確かに、体力を言われたら言い返せない。官舎から学園に通うエドガーも、弟ながら、締まった体になったと感じるのは嘘じゃ無い。

 この提案は、受け入れるものなんだろうな。強くなると思ったのだって俺だし。書類整頓から、筋肉作りに変えるだけの事。

 発散して疲れたら、余計な事までは考え無いですむだろう。

 承諾したら、隣のクロイスがくすりと笑った。大人しくしているが、機嫌がいいな。兄弟の輪の中で嬉しいのか? 俺も、忌憚なくで嬉しいぞ。邪険にされるどころか、破格の待遇だ。壁も溝も無いのには、王子じゃ無い俺を、受け入れて貰っている感じがして心地良い。


「他には、兄君達から見てあるかな?」


 クロイスからでもいいぞ。俺は幸せにして幸せになりたいんだから、その為の言葉は、いくらでも聞く。側で辛苦を舐めてきただろう兄弟の言葉に答える気概は持ってるつもりだ。クルシェの幸せを願わなきゃ、こんな席は設けないだろうと分かっているから。


「あの子が…感情を表に出せる様になった事を、私達は喜んでいます。ですから、このまま幸せにして頂きたい」


 そう言ってダリルが頭を下げた。

 親よりも親らしい長兄の姿勢に恐縮する。


「ああ、必ず。兄上達も、よろしく頼む。いや、お願いします」


 言われなくてもそのつもり。だが、改めて言われれば、決意も新たにだ。

 この兄貴は、色が違えど、目元がクルシェと似ている。兄弟の括りで認めて貰えれば、嬉しい事この上ない。


「アレク。これからよろしくお願いします。では、クロイス。屋敷へ帰りましょう」


 ダリルがクロイスを促す。

 えっ? 俺も帰るよ? ついて行こうとしたら止められた。


「殿下は、王宮へのご用事があるかと。明日の婚約誓約の儀の終わりを心待ちにしております」

「この度はおめでとうございます」

「アレク。明日ね」


 不吉なクロイスの言葉。「明日ね」とは...。今日はレイナードに行けないのか?

 俺の新生活に味方を得たと思ったが...。

 週明けを楽しみにしていますと、ルイス。

 王宮までご一緒しますと、グレイ。

 無情な現実に泣きたい。

 ...本当に泣きたいのはその後だったけどな。




 王宮へ連行された俺は、親父殿の前に出る間もなく、机に溜まった書類に向き合わされた。イヴァンとレインが揃っていても、終わりそうも無い。あっという間に日付けが変わり深夜。

 せめて朝一番で迎えに行こうとすれば足止めをくらう。

 親父殿の執務室では将軍閣下が間に入り、クルシェに近付く事も出来なかった。

 後見人として他貴族への牽制で将軍が睨みを効かせたのは分かる。王宮の中を、文句があるなら俺に言えとばかりに歩って来たのだろう。そして俺を見る目。その目が若造と物語ってる。サインをするくらいだから、反対では無いのだろ? 

 兄貴達の期待もある。精々精進するので威嚇するのはやめてくれ。

 そんな待てをくらった俺を見る兄夫婦(王太子と王太子妃)の目は、同情を含んで生暖かい。お祝い事は大歓迎の母上を止める親切があってもいいんですよ。クルシェの両隣を王と王妃で固められ、近寄る隙も無い。

 王宮の庭も、案内する事無く連れ帰られた。

 これにも俺は置いてけぼり...。

 時間差でレイナードにたどり着いた時。我慢の限界で抱き上げたのは、俺は悪く無い。だって、おかえりなさいって言うんだ。

 後ろに控えたダリルと目が合う。

 兄上! これは邪な熱を持ったものではありません。ルイスの言った甘やかしたいです。

 甘やかしなら、問題無いよな...?

 チラリと伺えば、仕方無いといった顔を見る。

 そう。これくらいは容認してくれ。

 

 


 


 


 

今話もお読み頂きありがとうございました。

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