第二王子アレックス殿下 試される
ちょっと試合を...。
すみません。あまり詳しくないので迫力の欠片もありません。
アレックス殿下ですので、このくらいと考慮して頂けると嬉しいです。
クルシェは、アーデンテス伯爵夫人の言い付けで、使者を迎える日と週末以外は学園に。俺は自爆で別邸だ。身から出た錆だが、このままの俺は生活力の無い若造。臣籍降下で王子の肩書きが無くなれば、公爵家に婿入りするただの若造。親父殿からは卒業後の話しは無いから、勝手にしていいのか? 領地経営は出来れば一緒にと思うが、考えてみると俺の自由になる資産というものが無い。王族として贈与されているものは返すつもりだから、ハロルドの元で学ぶのは、悪い事じゃ無い。
早い話し、開き直った。
昼間は学園だか、空き時間はクルシェに張り付くと決めた。卒業までの三ヶ月と少し...振り返る思い出は多い方がいい。
ならば、今の学園をどう快適に過ごすか。
学園に戻る馬車の中。並ぶクルシェとレミーネの二人を見ながら考える。邪魔なのは、あの一団。精々...皆に働いて貰おう。
目が合えば頬を染めるクルシェが可愛い。
昼前は騎士学で、国史の座学から始まり鍛錬に終わる。昼前の一時間は、クルシェの空き時間と聞いたので見に来てと言った。かっこいいところを見せたいのでは無く、一緒に昼食を取りたいから。
鍛錬場には、まだクルシェの姿は無い。当たり前だな、クルシェの空き時間には少し早い。
準備運動を兼ね、模擬剣を持ったまま肩を回す。
「殿下? とある話しを耳にしたのですが」
熱い胸板と太い腕。いかにも鍛えてますといった体の男。べイギー伯爵家の嫡子、ウイル・べイギーが立っている。
何だと顔を向ければ、貼り付けた様な笑顔だ。どの話しかと、先を待つ。
「華を手になされたと聞きました。真偽の程は如何でしょうか?」
「...そうだな、とても綺麗な華を手にする事が出来た」
手にした華。とても愛しいクルシェ。
「それがどうかしたか?」
俺を見る目が不平を物語る。先を促せば、鼻で笑われた。
「その華を手にするのに相応しいかと、騒ぐ者達がおります。高嶺の華と、皆が眺めるに留めていましたから」
「ウイルは?」
「私は微笑ましいかと。ですが、騎士団に出入りする者の中には...」
「王子ってだけの俺がと言う者も居る?」
「そうですね」
「ルキスは、興味無さそうだった」
彼の弟。ルキス・べイギーは、ダンス会の時にエドガーと共にクルシェの名を呼んだ男だ。
「そうですね。騎士団への出入りが有る無しでは、受ける印象が違うかと。少し...腕を上げたと聞きました。我々と手合わせ願えますか?」
成程。話しはそこにくるのか。
俺は二つ返事で受けた。腕を上げた覚えは無いけどな。
ウイルが手を上げたら、三人が近寄ってきた。お前が相手じゃ無いのかと見れば、「勝ち抜いて下さい」ときた。まぁ、お前の腕が学園一だからな。真打は最後。俺の腕じゃ敵う訳が無い。
「本当に楽しみですよ。有事の際には、命を預けるのですから。殿下には、是非とも健闘して頂きたい」
言葉通りだ。平和ボケしていた。今なら王太子が総大将だが、その下は俺。王太子が王になれば、俺が総大将。色んな意味でも、上に立つ俺は頼りない。勝ち負けも無くウイルから発破をかけられてるって事だ。
「胸を借りるよ」
並ぶ三人に声を掛ければ余裕の顔だった。
勿体ぶる訳では無いが体をほぐす。俺は貧弱王子だからな。ウイルまで行き着けなくても、三人目まではと思う。
一人目と向かい合う。
「殿下」
俺に聞こえるくらいの声で、呼び掛けられた。
「我々には愛でる華ですが、手折る機会を狙っていた者もいます。その手を払う為にも本気でお願いしますよ」
言われた言葉を噛み締めながら、俺は頷く。
ウイルの「初めっ!」の声で、俺は踏み込むのでは無く、一歩を引いた。
間合いをずらす。振り下ろされた剣先が上から下へ流れていく。と、横薙ぎに翻るそれを受け流した。受け流しても重い。斜めに剣を走らせれば、弾かれた。やはり、俺の剣は軽い。筋肉の差がありありと...。躱しながら上段に数度打ち込む。長く時間をかけるつもりなのか、単調な俺の打ち込みを受け流される。ならばと振り下ろした勢いのままに懐へと入り、柄頭を喉元へと突き付けた。
「それまで!」
ウイルの声で息を整える。随分と俺に甘い判定だが不満は言わない。
「手を出そうと考えるのは?」
誰だを飲み込む。
「騎士団に出入りの無い者達ですよ。守護者揃いを知らない者」
思わせ振りだが、言いたい事は分かった。クルシェを、後ろ盾の弱い令嬢だと思っている奴等だ。険しくなるのをウイルの声が引き戻す。
「型以外への移行を覚えましたね」
「移動の間に、相手をしてもらってたからな。俺に甘い判定だがいいのか?」
「怠惰でないと分かっただけ、評価に値するかと」
そうだな。やる気が無いと思われてても仕方無い王子だからな。
「次、行きますか」
深呼吸して頷く。
二人目は早い。受けるより避ける。
すり抜けるようにすれ違う。俺の息だけが荒い。休ませる気が無いだろうと、ハッキリ分かる。何でって、余裕で笑ってるぞ。三人目までは行きたい。
剣を横に薙ぎながら足払い。に、見せ掛けた踏み込みで肘をを腹に入れた。浅くてダメージは望めない。そのまま柄頭を突っ込んで、剣を受けた。腰を落としていた俺は、掌底を顎に向かって打ち込んだ。
剣を持ち直すのに距離をと思った所で、「そこまで!」と、声が掛かる。
掌底を予測していなかったのか、ダメージは無くとも、唖然とする顔が目の前にある。
「殿下は、体さばきを学ばれたのか?」
「剣が弱いと、馬鹿にするか?」
コリニアス殿に会ったら、礼を言わないといけない。お情けでも、勝ちを上げられたのは彼のおかげだ。
「いいえ。二ヶ月前とは雲泥の差で、驚かされました」
「小手先だけじゃ、駄目だろ? 続ければ俺が負ける」
「そうですね。ですが、伸び代を考えたら脅威ですし、私達も、取り入れようかと思うくらいです。息が上がってますが、いけますか?」
何の事だ? 分かってる。三人目だ。
俺は頷く。
軟弱王子が、完全勝利なんて出来る訳が無い。これから鍛えても、皆は、その前を行く。意気込みだけで、努力してきた者を追い越す事は出来ない。
「折角ですから、剣は置きましょう」
そう言ってウイルが前に出た。
え? お前は最後。四人目だろ?
あからさまに顔に出た。
「スタミナが持たないみたいですから。体さばきも、何処までなのか知りたいのですよ。よろしくお願いします」
別にいいけど、それ程は持たないぞ。俺の目標は三人目。誰だろうと達成だ。
本来の三人目に剣を預け、息を整えながら向き合う。
ウイルは、勝ち負けを見たい訳じゃ無い事は分かった。皆が見守ってきた華に相応しいかどうか。向上の欠片も無ければ、守護者達に潰される。それに向かう気があるかどうか。きっとこれからも試される。
初めという声を聞いて、前に出た。
避けて避けられてと言えば聞こえはいいだろう。決定的な一打をウイルが出さないだけで、俺の消耗戦。叩き込まれる事が無いように、掴まれる事が無いようにと体を躱す。
剣帯に手が届いた。
ここぞと掴み、後ろへ倒れた。上手くすれば投げられる...。
勝負を賭けたが、蹴りあげた足は空を切り、ウイルはよろけただけ。俺は尻をついた。上から抑え込まれて俺の負け。
大の字に寝転びたいのを堪え、ウイルを見上げる。
「今のは?」
「投げ技だ」
「もう一度、やって頂けますか?」
誰をだ? お前等は無理だぞ。興味津々なウイルに、次の言葉を無くす。
立ち上がってイヴァンを呼んだ。コリニアス殿に教わったから、投げても受け身が取れるだろ。掴みと姿勢を説明する。
「クルシェ嬢が泣きそうだぞ」
イヴァンの言葉に、かがもうとした動きが止まる。
浮き上がって景色が流れた。
何の事は無い。投げられたのは俺だった。
「投げる為に呼ばれるのは、面白く無いよ殿下」
悪かった。確かにその通り。だが、クルシェは?
見回せば、確かに居た。唇を噛んで俺を見ていた。
強くなくてゴメンな。
「殿下! またやりましょう」
何だ...。終わりじゃ無いのか?
「是非とも強くなくて頂きますよ」
「程々で」
そう言って立ち上がる。
クルシェに向かって歩く。
心配しないでくれ。痛くは無い。息が苦しいだけだから。言葉よりもと抱き上げた。
息を飲むクルシェを見上げて笑いかける。何処も、何とも無いと伝われ。
「お怪我は?」
「無いよ。手加減されてたから。情けないだろ?」
「そんな事、ありません」
「強くなるよ。その前に水が欲しい」
そのまま水場へと歩く。「自分で歩きます」を無視して進む。
頑張った俺へのご褒美だ。
今話もお読み頂きありがとうございました。




