閑話・僕はこれから(エドガー殿下)
二ヶ月間の夏季休暇の終わりは、父上が課した僕への罰の終わり。
この二ヶ月…。ずっと考えてる。
思った事は声にして話しをした。こうしてみようという事もした。それでも、これだと、これならと、思える事は見つからない。
僕は、王子という立場を持て余していた。正確には、王子という僕をだ。いらないと言葉にしてよいものではない。僕が相応しいと思えないと言うだけだ。
騎士団預かりになって一ヶ月。八の月に入った。
騎士団預かりの僕達は、あの娘に会いたいと願い出た。横領とかの不正が分かって調べられている家のあの娘。あの時の彼女は、自分はレイナード公爵の妹だと信じていた。その彼女がどうしているか、どう思っているかと心配になった。
結果は、会わない方がよかった。違う。会っておいてよかった。彼女は僕を見て、助けてと訴えてきた。姉妹では無かったけど又従姉妹なのだから、レイナード公爵の力で助けてくれるように頼んでと、エリオットに詰め寄った。せめてここから出られれば、お金ならあると。王子なんだからどうにかしてと泣きもした。
僕は、彼女の何を見て、助けなくてはと思ったのだろう。
今の僕が思い悩む様に、彼女も、振り返って悔いていると思ってた。
彼女は、一族の子達と一緒に、修道院へと送られた。彼女自身の罰と、一族が侵した罪の為に。その日の彼女を、僕は静かに見送った。
ならば、僕への罰は、重いのか軽いのか? 期限として二ヶ月だと言われてただけで、これで終わりなのだろうか? これでいいのか?
それに、間違ったら改めればいいという問題じゃ無い。
ルキスは学園後期を終えたら、キシュワ砦に行くと言っている。騎士になるつもりなのは変わらないから、自戒の意味も込めて行くと。離れて行くのかと喉まで出かかったけど、そういう事では無いんだと思った。ルキスはルキスで、自分のした事と向き合ってる。
ランスはこのまま一緒にいてくれるみたいだが、思う事もあるらしい。その思う事の邪魔をしない様に、頼りすぎてもいけない。
エリオットとは相変わらずの感じで、必ず隣にいてくれる。でも、今までと同じじゃ無い。
彼女の事も踏まえて、心のモヤモヤを言葉にする。
そうすると、やっぱり僕は…になる。産まれてからずっと僕にある王族としての地位。それに相応しく無いと思うと同時に重い。責務でなく肩書きが。
今は反省を促す為の罰で、僕が反省したからじゃ無い事が引っかかっている。そしてこんな僕でも、行動と発言によっては、誰かを不当に貶めてしまう事が恐かった。
心のケジメとして継承権をかえしてみますかと、ランスが言った。
王太子であるルドルフ兄上がいるし、国も安定しているのだから、継承権があっても僕が王になる事は無いだろう。僕は臣籍降下の予定だったのだから、継承権という名の付属を早々に無くして出来る事を考えたらどうかと。
なら、それをしてどうするのか?
騎士団で、体を作って騎士なるとは考えて無い。だけど、ここで始めた事を辞めたくない。
僕がエリオットに怪我をさせてしまってから、デール以外は、相変わらず遠巻きにしている。だけどデールに話聞かせた事を紙に書いて置いておくと、誰かは見ている。沢山の本の中から知りたい事を探すのは時間が掛かるだろうけど、そこから本へと手を伸ばせればと思ってる。訓練と仕事の中で学びたいと思ったら、興味があるものから知るのが早いとランスが言った。ならば、その助けになりたい。王族の責務としては、意味の無い事かもしれないけど、僕が始めた事だから。
僕は継承権の返上と、騎士団預かりの継続を願い出た。
継承権に対しては何もいわれなかったが、官舎での生活は受け入れて貰えた。ただし、学園には通う事。
八の月も半ばを過ぎた。学園の後期の始まりはすぐそこだ。
学園に通うならと、生徒評議会に謝罪をしたいと申し出た。
あの時の、奢っていた僕のケジメとして。
アレックス兄上とクルシェ嬢達がしてくれたのは、家同士の事で、僕は何もしていない。それでいいとは、やっぱり思えなかったから。
どんな風に謝りたいのかと問われて、一人の人としてと答えた。誰も足を止める事無く通り過ぎても、王子だからと人の足を止める事はしたくない。
生徒評議会の会長と、ダンス会の時の兄上のパートナーだった令嬢の同席の元、その場をどうやって作るかを話し合った。
あの時。何で勘違いしたのだろう。貴族の令嬢だからでは無くて、役員だったからパートナーは彼女だったんだ。今更ながら、よく見ていなかったと痛感した。
そして九の月。
あの時と同じ講堂。僕は壇上からでなく、出口の所に立った。王子じゃ無くて、一人の人として謝る為に。
講堂に、制服じゃ無いドレスの一団。その中の一人に、随分と責められた。それも仕方が無い事だ。王族としてどうだと、今日まで責められなかった事がおかしいんだ。言われた言葉を覚えていよう。
そう思って通り過ぎる彼女と一団を見送った。
アレックス兄上のパートナーだったメリル嬢は、この後の僕を、随分気遣ってくれた。そんな資格はないと思っても、嬉しかった。
学園と官舎を行き来する毎日が始まった。
朝の水汲みと鍛錬。学園に行き、戻ったら、残っている仕事を手伝う。行き来には馬を使わせて貰っているので、大体は馬の世話だ。それでも、自分で決めた事だと思うと楽しく感じた。
アレックス兄上が、ルーキンスから帰って来た。直ぐに会う事は出来なかったけど、クルシェ嬢には学園で会えた。謝りに行った今の僕を見て、ニッコリと笑ってくれた。困った子供を見る目では無くて、少し安堵した。
初等科の僕達には何もなかったけど、中等科と高等科で、少々問題が出ていると聞いた。僕を責めた彼女が、何かしているらしい。
官舎での生活も、少し変わった。クルシェ嬢の弟が、騎士団預かりになって、僕達の隣の部屋に入った。縁続きになるエリオットに話し掛ける様子は溌剌として見えるのに、僕が近寄ると黙り込んでしまう。何故だろう?
昼間の彼は破天荒。見習いでも、僕みたいな罰でもない彼は、敷地内なら自由にしている。ルーキンスの継承権三位というのがあって、敷地内でも護衛付きだが、捕まえたカエルを食べようとしたとか、キノコを焼いて食べようとしたとか…。デールから聞かされる事にびっくりした。彼クロイスは、王弟の子供で、あっちの宮殿内で育ったと聞いていたのに…。ルーキンスは格式に煩い国だし、あのクルシェ嬢の弟の行動として、信じられなかった。
兎に角…。彼も官舎内では遠巻きにされていた。気にした様子も無いのは、凄いと思った。
アレックス兄上が、夜になって官舎を尋ねて来た。
クロイスの所にだけど、僕達も同席した。
クルシェ嬢との婚約が決まったそうだ。クロイスは唇を尖らせて、本当に姉上がいいと言ったのかと執拗いくらいに聞いていた。僕の兄上に向かって、馴れ馴れしいと思った。クロイスは、僕とは話そうともしないのに…。
その後は、兄上は僕と話した。
向かい合って僕の両手をギュッと持って、「よくやった」と言った。国に居たルドルフ兄上とも、父上や母上とも、あれから会っていない。
罰の最中はと会いに行けなかった。アレックス兄上が帰って来て、家族に会ったのはこれが最初。
僕は、この二ヶ月の僕を、合ってるのか間違ってるのか分からなくて不安だった。父上は、こうしろと教えてくれなかったから。これでいいと言ってもくれないから。なにに対して兄上が「よくやった」と言ってくれたのかは分からない。分からないけど、頑張ったと認めて貰えたと嬉しかった。
後は、兄上からのお願いだ。明日。クロイスを連れて、学園のレミーネ嬢を迎えに行く。発表がまだでも、何があるか分からないから。なるべく早く屋敷へと連れ帰りたいらしい。
頼られたのが嬉しくて、僕は引き受けた。
アレックス兄上を見送る時。「おめでとうございます」と言ったら、照れくさそうに「ありがとう」と言った兄上。耳まで赤かった。
朝、訪れたレイナードの屋敷。午後再び訪れた。
兄上からの呼び出しだ。
大きい方では無くて、小さい方の建物に通された。兄上はいない。
「だから、取り敢えず会わせてみてよ。それからでいいから」
クロイスの声だ。何か、他にも言い合ってる。
身構えて、少し…。兄上の側近のイヴァンが、可愛らしい女の子を伴って僕の前に現れた。
ぱっちりとした瞳にふっくらとした唇。僕を見てぎこちないながらも膝を曲げて礼をした。緊張してるのかな? 僕は一応王子だ。
大丈夫と言ってあげたくて、立ち上がってその子の手を取った。
「ほら、ちょろい! 言った通りだろ」
イヴァンに向かってクロイスが。
何を? 僕はからかわれたのか?
「ちゃんと女の子だよ! どうしてもなら、この方法が使えるよ。イヴァンもそう思うだろ? ねぇ、エドガー? 君の兄上と僕の姉上の為に協力してくれない?」
初めはイヴァンに向かって、それから僕に。
兄上の為? こんな事で、何が出来るんだ?
聞いていた通り破天荒だ。言っている事の意味が分からない。だけど、兄上の為なら、話くらいは聞いてもいいかな。
悪戯の成功を喜ぶクロイスにイヴァンは苦笑い。
兄上に会うものと思っていた、ランスとルキスはポカンとしている。エリオットは、項垂れていた。
先ずは話しを聞かないと。二度と間違わない様に。
改めてエドガー殿下の登場になります。
ちょこちょこと学園であったり、騎士団官舎のクロイスとであったりと絡む事があると思います。
エリアナ・ベネルに少し触れました。
今話もお読み頂きありがとうございました。




