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女公爵クルシェ嬢 触れ合いは何時でも擽ったい

殿下とではありません。

クロイスとレミーネとです。

 屋敷の私の部屋。大きな執務室から扉で続く、ベットだけの部屋。

 私は今、内鍵をして、立て篭りの引き籠もりをしている。

 屋敷の中が慌ただしく身の置き場が無い。

 何で? 分かってる。王宮からの使者を迎える為だ。

 今日来る訳じゃ無いのだけれど、殆ど使われていなかった屋敷中を整えるのに、皆が浮き足立ってる。公爵家なのに、人手不足だしね…。時の止まった屋敷中の時間が、一斉に動き出したみたいで出ていく事が出来ないのだ。

 だから私は、起き出す事を放棄して、グルグルとシーツに巻きつく様にして耳を塞いでいる。

 ダリル兄様が、何度か声を掛けに来ていたが、返事もしなかった。仕事があるのでしょうから、そちらに取り掛かって下さいと声を出す事無く心で思う。


「姉上?」


 鍵は開けられてしまったのか…。籠るのはここまで?

 そう思ったが、声のした方がおかしい。それにクロイスの声。

 ばっと起き上がると、二つの扉を見た。執務室側と廊下側の扉。開いた様子の無い様子に、まさかと思って窓を見た。

 まだまだ九の月。空気の入れ替えで空いていた窓から、クロイスが顔を見せている。

 何で? 呆然と見ていると、窓枠に足をかけて立ち上がる。危ないと言葉を掛ける前に、ぴょんと飛び降りる。窓と床の高さは無いけど、反対に落ちたらどうするのだろう。クロイスに向かってそんな事をしては危ないと、喉まで出かかった言葉が消えた。続いて顔を出したのはレミーネだ。ヨシュに体を支えられながら、レミーネも窓枠を超えて来た。床に両足を付けてほっとした顔。それから、やったとばかりに小さく笑ってる。


「おはようございます。姉上」

「おはようございます。お姉様」


 二人揃っての挨拶に、直ぐに何かを言う事が出来なかった。


「お姉様? せめて、食事を召し上がって下さらないと心配になります。ですから、食べるだけはして下さい」


 レミーネは、ヨシュから籠を受け取ってベットの上に乗せた。

 クロイスは既に、ベットの上に座っている。

 レミーネから、濡れたタオルを渡された。

 もこもことしたシーツの上に、ピクニックの様に食べ物が並べられていく。動けばひっくり返しそうなので、勿論動けなくなっていく。

 身支度を整えるのに、もう動く事は出来ない。レミーネから渡されたコレは、顔を拭けというものだろうか? 考えても仕方が無いので、寝不足気味で腫れぼったい瞼へとそれをあてた。水気を含んだそれは、思いのほか気持ちいい。

 ほっと息をついた所で、どうやって二人が部屋に入って来たのかを思い出す。


「クロイス? レミーネもだけど、危ないわ」


 何がと言えば、二階の窓からの入室だ。

 二人が居ると知っていれば、部屋の鍵を開けたし、部屋から出ただろう。


「でも、面白かったです」


 と、クロイス。並べられたサンドイッチを手にもぐもぐとしている。


「登るのはいいですけど、降りるのは恐そうです」


 が、レミーネ。水の入ったカップを渡そうと手を伸ばしている。

 私にだと受け取るが、変な気がする。

 誰も止めなかったの?


「お姉様には悪いけど、部屋を出る時は扉からです。あっ! 大丈夫です。鍵は閉めますから」


 そう言ってポケットから鍵を出して見せた。

 何時までも引き篭る気は…無いよ?


「お姉様は放っておくと、食べる事をしないので困ります」


 レミーネに怒られた。そして、手元のカップと引き換えに、サンドイッチを渡された。言い返せなくてパクッと口にする。それを見てからレミーネもサンドイッチに手を伸ばす。

 二人共、付き合いで食べているとは思えないくらいに食べている。よく見れば、並んだ量も多い気がする。


「ご飯食べてないの?」


 レミーネは寮で、クロイスも第二師団で朝食が出ている筈だ。

 聞けば、朝が早くて、食事が出来るその前に屋敷に戻って来たのだと言う。


「ダリル兄様が、今帰ってきても慌ただしいからって。でも食事だけはしなさいって用意してくれました」

「僕達は今、何処でも少し邪魔みたい」


 それは、どうして?

 もぐもぐとしていた口の中のものをごくんと飲み込んでから、クロイスが私を見る。


「姉上?」

「なあに?」


 レミーネも私を見ていた。


「アレクと、結婚するって本当ですか?」


 言われて、ボンッと顔が熱を持つ。

 昨日の今日。

 私が部屋を出れない理由。出れない訳では無いけど、躊躇する理由。

 昨日の夕刻。アレク様と屋敷に戻った私は、お父様とダリル兄様とキアン伯父様の三人を前に、結婚の意思があると報告をした。私が同意したのなら、王家は止める事無く動くと判断された。だから屋敷内がソワソワとしている。おめでとうございますみたいな雰囲気が、とても恥ずかしくていたたまれない。朝早くから、お掃除の段取りだと廊下を行き来するのが分かったら、忙しくさせてごめんなさいって思ってしまった。だから、ちょっと逃げ込んでいるのだ。

 クロイスに、首を縦に振って答える。


「無理に承諾させられた訳では無いですよね?」


 何で、もう知っているのか…。夜にアレク様がクロイスを尋ねて報告をして行ったそうだ。レミーネは昨日のうちに、メリル様から。もしかすると、早い時間に迎えが来るかもしれないと聞いていたそうだ。私が屋敷に帰って来ていると知ったクロイスは、早朝からエドガー殿下の同行で学園を回ってレミーネを連れて帰って来たそうだ。

 二人共…帰りは予定通り夕方で良かったんだよ? その頃なら、進んだ話しを、落ち着いて話せたのに…。勿論私も、部屋から出ていた筈だ。窓からの訪問でクロイスのペースに乗せられてしまっていたが、寝起きのままの報告になってしまって、ガックリと項垂れてしまいそうになる。

 恥ずかしいけど、もっとちゃんとして話したかった。

 ただ、学園のレミーネの周りは、場合によっては慌ただしくなるかもしれないとの考慮が働いたみたいだ。後、今の学園は通常の学園で無い。どのみち週末で休みになるので、クロイスとレミーネを一緒に屋敷へと戻したみたいだ。


「姉上?」


 返事を待つクロイス。心配そうなレミーネ。

 鍵までして引き篭ったのだから、心配させてしまっていたんだなと思う。これ以上心配させるのは駄目だ。


「アレク様が好きなの。私を思って下さる様に、私も思ってるって、だからね…」

「無理矢理じゃなきゃいいんだよ、姉上」


 レミーネがほっと息をついている。そして向けられる笑み。

 クロイスは、何でもない事の様に、口を動かし始める。無理矢理だったら、どうしてやろうかと思ったなんて呟かないで。

 確かに、こんなに早い展開なんて、考えて無かった。だけど、想いあってが分かってなら、先に進める気がした。怯えて戸惑うのは、アレク様に失礼だ。アレク様を信じて無い事になる。

 昨日は気持ちも高ぶっていて、流されたみたいにだけど、ちゃんと離れたくないって思ったのだか


「お姉様? 昨日は、あまり食が進んでなかったと聞きました。ですから、きちんと食べて下さいね」


 レミーネから渡されるパンや果物を口に運びながら、私とレミーネは、クロイスの第二師団での話しを聞いた。

 二人共、無理矢理でないと分かったら、興味が無いとばかりだ。

 主に昼間何をしていたかだが、ほんの数日の事なのに、内容にびっくりした。朝は走り込みと鍛錬に参加。皆に混じってというよりは、体づくりの様なものらしい。ルーキンスへの往復で同行した騎士の方がクロイスに付いて下さっているらしい。コリニアス様に教わった鍛錬を、そのまま見てくれているとか。それはいい。無理な事をしていないのなら問題は無い。びっくりしたのは、昼間の時間帯。訓練所や馬場を囲む林の中で、クロイスは植物図鑑を片手に…実際はヨシュが持っていたみたいだけど、植物採取。食べられるものは、火を起こして食べたと言う。

 何をしているの? クロイスを第二師団に預けて良かったのだろうか、不安になる。お腹でも壊したらどうするのだろう。

 一番取れるのはキノコだけど、それだけは食べるのをヨシュが許してくれなかったとこぼす。「ヨシュ! 止めてくれてありがとう」と、心で思う。キノコは、見分けるのも難しいと聞くし、調理の仕方ではと油断すると、痛い目にあう事がと聞く。ルーキンスから付いてきた従者のヨシュは、何でもクロイスに従っていると思っていたけど、そうでは無かったのだと安心した。

 調理の話しになれば、レミーネが興味を持って聞く。王都内の林でもあるなら、レイナードの敷地内でもあるかもしれないと、クロイスと採取の約束をしている。

 既に食べ物は片付けて、ベットにゴロゴロとしながら楽しく語る。

 目を細めたレミーネが、小さな欠伸をした。そんな様子は、レミーネには珍しい。つい、クロイスと二人でつい見てしまった。頬を染めて俯いたレミーネは、昨夜はろくに眠れなかったと言った。クロイスと違って、理由もあまり知らされない状況だったのだから無理も無いかも。寮に戻る事無く、私も屋敷に帰ってしまったし…。前の週末も、予定を変えて私一人で戻ってきてしまっていた。

 振り回して、心配掛けてごめんねと思うのと、欠伸を失敗だと思ってるのが可愛くて抱き寄せた。

 お父様もキアン伯父様も、本当の事は、まだ話していない。

 何時、話すのだろう。聞いたら、レミーネは傷付くかしら? 姉妹と従姉妹。呼び方が変わるだけだけど、きちんとお母様の事を知ったら、原因となった私を怨むかもしれない。


「レミーネ?」


 声を掛ければ、顔を上げる。

 私はレミーネを抱えたまま寝転がった。


「あのね。冬か春に、赤ちゃんがくるの」


 ポスンとクロイスも寝転がる。クロイスの頭が肩に触れた。


「お兄様達が私達を守ってくれた様に、赤ちゃんを、一緒に守ってくれる?」


 大体は、こうなるだろうとは聞いているだろう。引き取る事になると。言葉にするのは、まだ重くて、話題にするのを避けていた。わがままだけど、出来れば一緒にいて欲しい。


「お姉様が結婚なされば、直ぐに赤ちゃんが出来るかもですよね。私とお姉様みたいです」


 そ、それは、幼児になった赤ちゃんと産まれた赤ちゃん? 直ぐ産まれるの?

 結婚は何時とは決まって無いのよ? 結婚したいって決めただけよ? あまり何でも早く進むのは…。頭の中が違う事で悶々とした。


「勿論です。沢山可愛がりますよ。私。お姉様の専属侍女になるのが夢ですから」


 レミーネの言葉に、くすくすとクロイスが笑う。

 大丈夫? クロイスはどう思ってる?

 お母様と産まれてくる赤ちゃんの事をとても大切に考えていたクロイス。色々あり過ぎて、クロイスの願った通りにはならない。赤ちゃんの到着を待って、レイナード預かりのクロイスも、正式にレイナードの者になるのだ。クロイスの事も、考えていかなくてはならない。


「レミーネ? 侍女じゃ無くてもいいのよ?」

「でも、夢でしたから」

「姉上とレミーネって、小さい時どんなだったの?」


 クロイスからの質問だ。レミーネの専属侍女発言は、後で、良く話し合おう。もっと色々出来るのだから。

 もしかすると、キアン伯父様が考えて居るかもしれない。


「お兄様達に、始終抱っこされてたくらいしか思い出せないわ」


 今なら分かる。私が体力も何も無かったからだろう。自分で満足に動けないくせに、レミーネにくっつきたがるので、二人一緒に腕の中だった気がする。お兄様達には迷惑な事だっただろう。

 ご飯は、ロレインお姉様からしか食べなかった気がする。お父様に抱っこされるより、お兄様頻度の方が高いと記憶にある。私達の為にお仕事していたから、あまりそういう記憶が無いのかもしれない。

 ただ、ずっと守られていた。それだけは分かる。


「お姉様はね。ぼーっとすると、ご飯たべないの」


 レミーネもくすくすと笑いながら、それをずっと心配してるのだの言う。

 確かに今も心配されてしまうけど、何故だろう? 口に物を入れる事って、それ程大切だと感じないのだ。だけど、心配を掛けることには違いないのでごめんねと謝る。


「私がね、お口に運ぶと一生懸命に食べてくれるから、お料理…楽しいわ」


 スープに指を入れてから私の口に触ってきたレミーネの姿が、何となく思い出された。べちゃべちゃにして、ロレインお姉様を困らせたのも思い出す。

 レミーネが私の真似をして、私がレミーネの真似をする。閉じこもってた私に、温かさをくれたのがお兄様達なら、光をくれたのはレミーネだ。

 睡魔に勝てないのかレミーネの瞼が閉じている。朝の早かったクロイスもだ。呼吸と共に少し動く度に髪か動いてくすぐったい。

 私も、睡魔に勝つ事は出来そうも無いと、瞼を閉じた。

 ルーキンスから帰って来た時は、レミーネは学園にすでに行っていてゆっくりと話も出来なかった。帰ってきてからは、学園に通うのにクロイスと離れた。

 優しい時間。これは、ダリル兄様が私達の為に作ってくれた時間なのだろう。子供頃、お腹がいっぱいになると、そのまま眠ってしまっていた。そんな時と同じ。他に、何もしないでのんびり、だ。




 どのくらい? 微睡んだのは、ほんの少しだと思う。以外にしっかり寝たかしら。妙にスッキリした気がする。

 何処からか? 開いた窓からだろう。ヨシュの声が聞こえた。


「ですから、主の申し付けですので、お通しする事は出来ません」

「だからって、鍵を掛けて返事もしないんだろ?」


 もう一つの声は、アレク様だ。

 体を起こすと、既にレミーネとクロイスが起き上がって窓へと向かっていた。


「朝が早かったので、皆様で眠っているだけだと思います。ですから、少しお待ち下さい」


 そんなやり取りが聞こえる中、レミーネが窓枠を超えた。ギョッとして私も窓へと向かう。

 体の向きを変える事が出来なかったのか、こちらに背中を向けていた。


「ヨ、ヨシュ?」


 レミーネがヨシュを呼ぶ。登って来た時に、ヨシュの手を借りたからだろう。その声は震えていた。恐いから扉から出るって言ったのに、何をしてるの? 私はレミーネの体に手を回した。

 窓枠に掛かっているのは梯子だ。

 動けば揺れる。揺れが伝わると私も恐い。


「大丈夫。掴まって。クルシェも手を離していい」

「お姉様の邪魔をしては駄目です」


 震える声のレミーネに、梯子を登って来たアレク様がそこにいた。


「起きてくれればいいんだ。会いに来たのに、淋しいだろ?」


 レミーネはアレク様に頷いた。そして掴まるように手を伸ばす。それを見てから私は恐る恐ると手を離した。片手で支えられ肩に持ち上げられたレミーネが下へと降ろされて行く。足が着いたのを見てほっとする。肝が冷えたというか、兎に角恐かった。見上げるアレク様と視線が合うが、今度はクロイスが窓枠を超えた。何をしてるの? 窓は出入り口じゃないのよ? 心配をよそにクロイスは、レミーネと違ってスルスルと降りていく。

 降りきる前にヨシュを呼んで、梯子を片付けるようにと言っている。

 レミーネもクロイスも、朝からびっくりする事ばかりする。

 今は領地館へ行っている執事長が居たらと、言い出すお小言を考える。少し、きちんと叱らないといけないかもしれない。こんな事、何度もあったら心が持たない。


「片付ける必要は無いだろう?」

「置きっぱなしで不審者が侵入したら、大変な事になるだろ? アレク。姉上はお支度がある。姉上を待ってる間でいいから、話しがあるんだ」


 不審者って…。不審者じゃ無くてもびっくりするのよ?

 レミーネと手を繋いで、アレク様にこっちだと歩き出す。

 アレク様は、私とクロイスを交互に見る。

 私は、自分の姿を思い出してカーテンに隠れた。


「アレク! 早く」


 クロイスがアレク様を呼んで、アレク様がクロイスの後へとついて行く。

 私の支度。そう。このままではいけない。ならば、どうしよう? 

 変に意識しすぎて、考えがまとまらない。兎に角…。何時も通りで。




 

今話もお読み頂きありがとうございました。

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