女公爵クルシェ嬢の掲示物は毎日を語る
《生徒評議会からのお知らせ》
全科生徒の皆様へ
学園後期の始まり。エドガー・エイメル・シルフ殿下の申し出を、この様な形で終わらせてしまった事は、正式なお話しであった以上、私達の落ち度というしかございません。それを、この様な形で終わらせてしまった事が悔やまれてなりません。
評議会を代表して、エドガー・エイメル・シルフ殿下へお詫びをさせていただきました。
生徒評議会はこれを重く考え、学園側への抗議の声とするつもりがあります。
賛同者であれ、ご意見のある方は速やかに申し出る様に願います。
九の月 朔日
評議役員 メリル・ドレイン (高等科二年)
《生徒評議会からのお知らせ》
中等科並びに高等科の皆様へ
学園後期の授業も始まりました。中等科の皆様を高等科に迎えて恙無くのスタートと思われていましたが、この二日の出来事は、沢山の方よりご指摘をいただき、学園側に確認中であります。
学園側が、どの様な思惑で受け入れたかは不明ですが、私達の学業の場でもあります。学園側の勝手な判断でなされた事を抗議すると共に、説明責任の場をと、強く申し出る予定です。
生徒評議会は学園と関係の無い私塾生の立ち入りが、正当で無いと思っております。
賛同者であれ、ご意見のある方は速やかに申し出る様に願います。
九の月 三日
評議役員 メリル・ドレイン (高等科二年)
《生徒評議会を緊急招集致します》
九の月 五日
評議役員 メリル・ドレイン (高等科二年)
《生徒評議会・緊急招集後のお知らせ》
全科生徒の皆様へ
特別生徒評議会の発足となりました。表の取り扱い事は今まで通りですが、特別生徒評議会への中継ぎ連絡は致しません。掲示物のみとなりますので、よろしくお願いします。
九の月 八日
評議役員 メリル・ドレイン (高等科二年)
ナタリア様と、副学園長室から高等科棟へと戻った私は、入口の掲示物に足を止める。
三日から五日の間に、私塾の方々の行った事に対して、学園側の未回答の文字が書かれた用紙が十数枚、少し重なる様に張り出されていた。一枚一枚のスペースを考えたら、この場では、収まりきらない事だろう。
そして、八日以降の一週間…増え続けている。
訓練所での行いに対しての苦情。訓練所に立ち入るのは、見学に行く生徒も居るのでそれ程問題では無いのだが、体を動かしているところを取り囲むとか。「お疲れでしょうからお休みになって!」と差し入れを押し付ける。まぁ、差し入れはいい。今までも、ある事だった。問題は、模擬戦の途中だろうが、最初に受け入れてしまったからなのか、遠慮を知らない。そういった苦情が数枚。まぁ、全員が全員迷惑してる訳では無いらしいけど、何度もになりこれからもであれば対応を考えてもらいたい…らしい。
中等科棟を使用するにあたって、食堂は、棟内にある。が、高等科棟の食堂へ立ち入ろうとする。現在、高等科と中等科の生徒が使用しているので、彼女達の場所は無い。なのに、「学園内での優先便宜は、学園側から約束されている」と食事中の女子生徒をどかせようとした…とか。これは、女子生徒からと、食堂の給仕からと、数日分。毎日ですかと思うくらいの件数。
いきなりカフェの貸し切りを主張。前もっての貸し切りの予約ならば、受ける事もある。既に利用する生徒の居る中、人払いを給仕に命令して、断られたら首にしてやると脅しの言葉。貸し切りしなくてはならない程の人数でも無いのにビックリな主張だ。
伯爵令嬢は、何時の間に、学園の人事権まで手にしたのだろう? 学園内の優先便宜って何?
食堂やカフェの件では、横柄な命令口調が目立つみたい。
そして…今日…。
セシェル・モードン伯爵令嬢を、擁護する様な副学園長の対応。…これだけ事と言ってしまっていいのかは別として、風紀的に乱れても、明確な対処をしない学園側。首を傾げるしかない。
進まなそうな現状把握に、メリル様の評議会役員としての多忙さを思うと、心配になります。
「メリル様…。お忙しくて、どうにかなってしまわれなければいいのですけど…」
メリル・ドレイン様は、ダンス会の時のアレックス殿下のパートナーであった方であるが、私と同じで爵位を継ぐのに、学園に残って学んでいるお姉様。お茶会でもお馴染み。初等科の時から優しくして下さっているお姉様。生徒評議会の会長では無いのですが、お一人だけ名前を出されます。今年のそれが、メリル・ドレイン様。
そのメリル様が、今週に入り、カフェでお見かけしなくなっているので、皆で心配していました。
今まで学園内で事が起こっても、学園側も、きちんと対応してくれていた筈です。生徒評議会が調整や連絡事項以外で、これ程表立っての活動は無いに等しい。それだけ問題の個人と、学園側の対応が宜しくないという事なのでしょう。本来なら、こんな問題事態…生徒間で起こる事は無い。学園での不祥事不名誉は、学園で払拭しないと、己の力量を問われます。ですから皆、自分の行いに気を使います。
休暇前の、エドガー殿下の事だって、立場の弱い者への親切心からだと思えば、間違ってはしまったが、自分勝手に威張り散らした訳では無いのだと誰でもが分かる事。それこそ問題は、方法と身分でした。
「そうだねぇ…。学園側のさぁ、「何で」と「どうする」くらい分かったらいいのにね」
副学園長の態度事態おかしいのだ。モードン伯爵令嬢を、学園に招き入れた理由は何なのだろう? 寄付の有無…? 実を言うと、寄付金の額は、年間にすると、とんでもない額になるかも知れない。先ず、初等科の学費と寮費の金額事態がお高い。見栄でも何でも、入学するには、それを支払えるだけの力を持ったお家といえる。初等科から上にに進んだ貴族家は、初等科での年額費用に寄付金を上乗せする。学園から教育者を派遣しての学校は勿論あるけど、王都にあるここは別格。それが出来るという事は、それだけの力を有する貴族であるというステータス。ですから余計に不祥事不名誉は忌避されます。
ちなみに私達の学費は、お父様が払っている。そうしてみると、お父様って、高給取り?
兎に角それが、学園の運営資金となる。中等科から集まる平民の方々は寮費だけの負担だけど、その寮費を払えるお家か、必要があって奨学金を受けている方々だ。
ただ、学園が国の運営である以上、全ての収支は、国の財務の管理。私塾私学で無いので、目の色を変えて出資者に便宜をはかる必要は無い筈なのだ。…多分。
「取り敢えず、評議会に報告しないとね」
ナタリア様がため息をつく。
「これからですか?」
「ん~? 授業だけじゃなくて学園の対応もコレでしょ?」
「確かにそうですが…」
あっ! と、何かに気付いたナタリア様。
「ねぇ、クルシェ様? もし良かったら、一緒にメリル様の所に行かない?」
「メリル様の所ですか? お邪魔では無いでしょうか?」
「邪魔じゃ無いよ。メリル様、お茶にだって顔を出せないでいるんだよ? 顔を見せれば嬉しいに決まってるよ! ね? 行こう?」
授業と副学園長の呼び出し。他にも気になる事があったので、頷いてナタリア様と並んで歩いた。
特別生徒評議会。通常とは違い、高等科生徒全員が事に当たる。
当事者になってしまったナタリア様も、評議委員としてのお仕事があるのだろう。
そして、気になっていた事を聞いた。…エドガー殿下の事だ。エドガー殿下は、学園の皆に謝罪をして受け入れられたと聞いていた。だけど、メリル様が、評議役員としてお詫びをするとは、何があったのだろう? 掲示物を見るまで、問題があったとは知らなかった。一度は、学園でエドガー殿下と会っている。軽はずみであったと後悔の表情でありながら、これからに向き合おうとする意思が感じられた。並ぶエリオットも、スッキリとした顔をしていた。それに、ほっとしていたのにと思う。
「あぁ。エドガー殿下の事ね…。うん。どうなるかと、休み中皆が思ってたと思うけど、講堂に現れた殿下はきちんとしていたよ。先ず、話しを通す事から初めていたし、ね!」
「なら、何があったのですか?」
「エドガー殿下の前に、私塾の紹介があったでしょ? まだその場に居たモードン伯爵令嬢が、エドガー殿下を扱き下ろしたのよ」
「こき、おろした?」
「ごめん。糾弾したの」
休暇前の学園の事なのに、どうしてなのだろう? 迷惑は、あくまでも学園内だけの話しだ。
「んーっ? 殆ど八つ当たり? ルキス様とランス様が、デビューを見送ったでしょ? アレックス殿下も外交で、社交界はしょぼかったらしいのね」
私には社交界は関係無いけど、と、言葉を切った。
それは、エドガー殿下だけのせいでは無いと思う。ルキス様とランス様が、デビューを見送ったのは、それぞれのお家の判断だ。アレックス殿下がルーキンスに行ったのだって、陛下の判断。
「王族が馬鹿をすると、貴族が迷惑するとか色々。でもさぁ、殿下達は、ちゃんとそれに気付いたんでしょ? だから、評議会を通して判断を仰いだんだしさぁ。生徒以外のモードン伯爵令嬢の八つ当たり的な言葉にだって、黙って聞いていた後、すまなかったって謝ってたよ。それを、ふんってそっぽ向いて通り過ぎて行ったの」
「何ですか、それは…。いくら何でも、伯爵令嬢が王子する態度ではありませんわ」
「だよね? それを見た私等生徒は、その時点で、彼女達には関わりたくないって思ったのが殆どだったよ。エドガー殿下はさぁ、場合によっては、敢えて謝罪なんてしなくても構わなかったと思うよ? それでも、自分のした事に、向き合おうとしてるのは好ましいよね。王族だからって威張って無かった事にするんじゃ無くてさ、一生徒としてだって謝る事が出来るんだよ。偉いって、応援したくなっちゃうじゃん!」
ナタリア様は心なしか優しい声でエドガー殿下のお話しをする。
自分と向き合うだけでは無く、してしまった事に対して声を上げるのも勇気のいる事だっただろう。ナタリア様の語るエドガー殿下の様子なら、同じ事はなさらないだろうと改めて思えた。アーデンテスの伯母様からのお手紙でも、エリオット達との関係も良い感じで修復されているみたいなので尚更だが、学園部外者のモードン伯爵令嬢に腹が立つ。
「クルシェ様?」
「はい。何でしょうか?」
「お顔が、ぷんっとしてるよ?」
ナタリア様に言われて、思わず両手を頬に当てた。
腹が立つと思いましたが、顔に出てしまってましたか? 声には出してませんでしたよね…。
ふふふと笑われて、顔が熱くなります。
「エドガー殿下が原因で、来たくも無い学園に来る事になったからっていうのだったら、いい気がしなくて八つ当たりも分かるんだけど…。八つ当たりしていい身分の人では無いでしょ? それ以前に、そういう訳でも無さそうなんだけどね。かと言って、私塾の淑女教育を掲げるかと思ってもアレだから、私には分かんないよ」
そう言ったナタリア様ですが、私にも分かりそうもありません。
モードン伯爵令嬢は、貴族令嬢らしいとは思え無いのです。ん? ある意味(威張りんぼ)貴族? ナタリア様には、貴族でないからと高飛車でした。ならば、公爵の私や、王子のアレク様に対しては? 益々、彼女という人が分かりません。
私は、爵位だけは高位です。何かあれば、その肩書きに相応しくありたいと思います。お母様の代わりに令嬢としての心得を説いて下さった伯母様や、お父様が誇れる私でありたい。そう思えば思う程、やはり、彼女の事を理解出来そうもありません。彼女の肩書きは伯爵令嬢ですが、私塾長の娘であるのです。ご自分が、私塾の顔である自覚をお持ちでは無いのでしょうか?
「考え事すると、クルシェ様って真顔になるね? 何考えてるの?」
覗き込まれて、ハッとします。
心在らずに思われてしまったでしょうか? 失敗です。
「申し訳ございません!」
「謝る事じゃ無いよ? ぷんっとした後だからどうしたのかなって思っただけ」
軽い口調は、足元も軽やかにしてくれる感じがします。
ナタリア様効果でしょうか?
「つまらない事が、気になったみたいですの」
「そうなの? つまらない事なら、気にするだけ無駄よ?」
明るく笑うナタリア様に釣られて、私も笑っていました。
砕けた口調のナタリア様は、ご自身が明るくあるように、私に明るさを伝えて下さります。
伝わるものを伝えたいと思ったら、自然と笑顔になってしまいます。
言葉が上手に並んでくれなくて悶々としていたら、あっという間に日にちが過ぎてしまっていました。体調不良からですが、物事が進まないどころか手に付きませんでした。
ストックもないので、ワタワタとしています。
それでも、読んで頂ければ幸いです。




