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女公爵クルシェ嬢 学園生活は平穏が希望です!

 この数日の私の周りの動きとしては、大きい一番はクロイスの事。

 学園に戻るというのは、寮に戻る事で、本邸にクロイスを残していく事になる。お父様は、何時も通りなら、別邸を開ける事が多い。ダリル兄様におまかせすから心配無いのだけれど、色々あった後だから、クロイスが寂しさを感じないかが心配だった。

 それがいきなり、第二騎士団で預かると聞いた時は、本気ですかと我が耳を疑った。クロイスの行動範囲として、騎士団の駐屯所内。護衛騎士が二人付くそうだ。夜は、夏からそのまま残っているエドガー殿下と一緒に。侍女のマーナは連れては行けないが、従者のヨシュの同行は認められていた。

 私は反対だったのだけど、クロイスが楽しそうなので、言葉にするのはやめた。嫌だと言い出した時でいい。それに場所は第二騎士団。ルイス義兄様の所だし、様子を見に行ったロレイン姉様から、クロイスの様子を知らせるお手紙が届く。

 もう一つは、エドガー殿下。

 クロイスの話しが決まった頃…。カフェでお話しをしていた時に現れた。同席の皆に頭を下げ。私に謝罪の言葉を言った。あの時とは違い、しっかりとした眼差しを向けられて、私は喜んでそれを受けた。私も色々あったが、エドガー殿下も、色々あったのだろう。王族籍の返上を、ご自分から願い出ている事も伝え聞いている。エリオットも年長の二人も、しっかりとしたお顔をなさっていた。

 クロイスの事をよろしくとお願い出来るくらいには、エドガー殿下が頼もしくなったと感じて嬉しかった。





 学期末がアレだったし、ならばなら平穏に過ごしたい。嫌と思った人間も、中等科棟と訓練所に近付かなければ、行き合う事も無い。

 概ね良好と胸を撫で下ろした。撫で下ろした筈…だった。

 なのに何故、嫌だと思った彼女が、ここに居るのだろう?

 ここは、学科棟の二階。薬草学講義最中の教室。

 制服の私達に向かって、ヒラヒラとしたドレスが並ぶ。教鞭をとっていた先生を押し退けて…。

 やめてくださいよ…。私達は、呆れて見るしか無かった。

 授業の邪魔になるので、退室する様に促せば、


「私達は、淑女教育の大切さを知ってもらう為に学園に来ましたの。貴方の方こそ、邪魔はなさらないで!」


 私達の授業を邪魔しておいて。彼女は、臆面もなく教壇に立つ先生に、そう言い放った。

 誰に知ってもらうの? 御一緒の皆様も、本当に、そう思っているの?

 眺めて見れば、他の方は、下を向いてしまっていた。

 ランランと目を輝かせて教室を見回す彼女は、私の横に座るアレク様を見付けると、「アレックス様。お会いしたかった!」と言って近寄ってきた。基本…学園内では護衛は連れて歩かない。(ダンス会の時は、生徒以外の出入りがあるから特別だった。)なので、御一緒していたレイン様が、彼女の前に立つ。近くの席の男子の方も。

 後ろの席から、「やっぱ、男漁りだ」と聞こえた。

 ナタリア様? いくらお相手探しでも、常識では、こんな事しませんわ。


「アレックス様! 私、モードン伯爵の娘で…」

「先生! この授業は中止という事でしょうか?」


 皆まで言わせず、アレク様が遮った。

 こうなっては続行は無理だと判断した先生は、新たな授業は後日でと言った。

 アレク様は、レイン様に声を掛けると、教室を出て行こうとなさいました。

 

「まぁ、お勉強の必要が無くなりましたのね? ならば、アレックス様。是非お茶でも如何でしょうか?」


 その後ろ姿に向かってモードン伯爵令嬢の声。

 それに足を止めたアレク様。ギギギィーっと音でもしそうな動きで振り返られましたが…。冷ややかさを含んだ眼差しです。この様な顔は、見た事がありませんでした。


「君は、大切な授業の邪魔をしたのを分かっているか? この講義は、友人であるビデディアの王子の国を知るためのものだった」

「ならば、講師を招きますわ! 是非ご一緒に!」

「君は、淑女教育の大切さと言ったが、学園の専門教育の大切さを知って、淑女教育とやらをやり直した方がいい」


 そう言うと、今度こそレイン様と教室を後にした。

 後を追って行こうとするモードン伯爵令嬢を、立っていた皆様が、取り囲む様にして足止めをした。


「行ってしまったじゃない! やっと会えたのにっ!」


 そう言うと、キッと私を睨み付けてきた。

 私が、何かしましたか? ただ座っていただけですが?


「私を紹介する事くらい出来ないの? 公爵令嬢だなんて、たかが知れてるわね」


 えっ? そんな知り合いじゃ無いですよ? 私、貴女を、何とお呼びしたらいいか分かりませんのよ?


「殿下が、貴女に、何て言ったか分かってる? 貴女は、私達の時間を無駄にしたのよ!」


 ナタリア様が立ち上がった。


「貴女は?」

「私はナタリア・トハスよ」

「トハス? 聞いた事が無いわ。貴族で無いのね。私に話し掛けるなんて失礼だわ」


 失礼なのは、どちらでしょうか? ナタリア様は、薬草薬学の為に学園に通ってらっしゃるのだ。ナタリア様にとっても大切な時間だった。今日の講義は、コリニアス様から頂いた、ビデディアで一般的な薬草の事だった。この国では採取出来ない物。持ち込んだのは、私です。

 珍しさもあって、中等科と高等科の希望者が集まった。コリニアス様のお嬢様の事もあり、アレク様も、お薬に興味を持っての参加でした。「講師を招く」と、おっしゃいましたが、争い以外の交流を持とうとしている時です。ご自分が学んだだけでは意味がありません。アレク様も、色々考えてのご出席だったのだと思います。

 そして、ナタリア様を馬鹿にした態度が気に触ります。


「ナタリアお姉様? 折角ですから図書室に参りましょう」

「クルシェ様?」

「こちらで知られている効能を調べておくのも、いいと思いますの?」


 お姉様と呼ばれて、戸惑ったナタリア様だったけど、教材を手に立ち上がった私を見て、是非にと笑顔になった。何時もは、お姉様何て言わないから、戸惑うのも当たり前です。

 ですが、不躾で不快なものは無視が一番。そう仰ったのは、ナタリア様ですのよ?

 感の良いナタリア様。ご自分の教材をまとめます。


「クルシェ様? その様な態度は、改めるべきですわ!」


 貴族でないナタリア様が話し掛けるのが失礼なら、伯爵令嬢が公爵である私の名をその様に呼ぶのも失礼です。学園内では、「私、公爵ですわ」と威張りません。ですが、身分や淑女と仰るのなら、対応を考えます。

 あぁ、その目付き…。殿方もいらっしゃいます。本当に教育を受けてきた方なのでしょうか?


「私。貴女の事は、存じませんわ。名前を呼ぶ事も許していないのに、不愉快ですわ。それでは、ナタリアお姉様。参りましょう?」


 私は心の中で「無視よ、無視!」と、唱えながら教室を出た。きっと、ナタリア様も心で思っているに違いない。

 私を見る目が愉快そうだ。

 嫌な事は、無視して笑いましょう。そう思って私も笑ってみせた。

 廊下を歩く私に向かって、後ろから呼び止めようとする声がする。


「アレが淑女?」

「伯爵令嬢なのは確かですから、幼年生なのではないのでしょうか?」

「クルシェ様も言うね!」

「はい。アレが普通だと思われるのは心外ですもの」

「アレなら、私は、立派な淑女だと思わない?」

「アレと比べなくても、ナタリアお姉様は淑女ですわ」

「クルシェ様?」


 ある程度歩いた所で、ナタリア様が立ち止まった。

 どうかなさったのかと心配になる。彼女のアレは、随分馬鹿にした態度だったから。


「私を見ながら、お姉様って言って!」


 ずいっと迫られました。


「ナタリアお姉様?」

「あ~っ! 可愛い! キュンキュンする。これは皆に自慢だわ!」


 満面の笑みでナタリア様が笑う。訳が分からないが、楽しくなった。

 そのナタリア様が、揉めない様に、連れ出してくれたんだよねとお礼を言った。

 いいえ。私が不愉快だったからです。




 その私達二人は、副学園長の呼び出しを受けた。

 何ででしょうかと出向けば、セシェル・モードンに対して、学園生として有るまじき態度であったとか…。

 副学園長? 本気で言ってますか? 事情を説明したが、私達が悪いの一点張り。態度をあらためなければ、謹慎や退学もある。とまで、言われた。

 無駄だと思った私達は、もう一人の副学園長の元を尋ねた。

 並ぶナタリア様のお顔は、とても好戦的でギンギンとしてました。

 


 

 

クルシェの心の言葉が崩れるのは、ナタリア様達の影響もあるかと…。

学園らしさをと思って、色々考えてみましたが、楽しんでいただけていたら嬉しいです。

今話も、お読み頂きありがとうございました。

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