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女公爵クルシェ嬢  人に聞かれるのは恥ずかしい事です

 馬車を降りたら、玄関の扉を開けたダリル兄様がいた。

 ごめんなさい。今日は帰らない予定でした。びっくりした顔をしたお兄様の隣を、兎に角通り過ぎる。


「お兄様? お父様ってどちらですか?」


 早歩きでエントランスを抜けて行く。


「別邸の書斎の方に」


 クル?と、私を呼ぶ声が聞こえたが、それどころじゃない。自分でも、どうしてだか、いてもたってもいられないと前へと進む。

 開きっ放しの扉に飛び込む様に入ると、床に座り込んだお父様が居た。目の高さを合わせる為に、私もペタンと座り込む。


「お、お父様? 何でですか? どうしてですか?」

「お帰り。で、どうしたの?」

「ヴァイスおじ様が、お話をお受けしたって! 私、知りません。皆さん知ってるって、どういう事ですか?」


 お父様が私の頭をなでなでとする。

 そんな事してもらいたいのじゃ無いですよ? 私は、どうなっているのかが知りたいのです。

 自然に視界が悪くなる。これ、泣きそうなやつです。ぐっと我慢した。


「爺がどうしたの?」


 お父様の手が来い来いと動くので、曲げた膝を動かし、ちょっと近付く。両手が伸びてきて、頬が挟まれた。


「クルシェ?」

「ヴァイスおじ様が、私の、こ、婚約の申し出を受けたって」

「誰との?」

「ア、アレックス殿下っ」

「アレクの事、嫌?」

「嫌も何も、まだ、何も考えてないの。何てお返事していいか分かって無いのに、色んな事が進んでっちゃったら考えられな、い…」


 私はとっても困っているのに、お父様は、ほわっと笑顔になった。


「私の最愛は、前提から間違っている。忘れている事に気付いていない」


 それは、何でしょう? 忘れている…。


「ルーキンス行きの噂なだけで、爺が、クルシェの意思も関係無く受ける事は、絶対無い! クルシェに嫌われたく無い爺は、クルシェが嫌って言ったら、全力でもみ消すよ」

「無いですか? だって、王族からの正式な申し出なら、断われ無いでしょ?」

「アルバルト…陛下は、お前が辛い思いをするのは望んでないよ。想いあってでない限り、無いよ。そもそも、留守の間の噂でしょ? 直ぐに否定しないのは、大々的にやった理由付けの為だし。その前に返事って、何て言われたの?」


 お父様の言葉に、アレク様の言葉を思い出し、ぼっと顔が熱くなった。


「アレクは、何て言ったの?」

「一緒に…」

「うん。一緒に…」


 何て言えばいいのかしら? お父様に言うのは、恥ずかしい。

 顔を動かそうとしたけど、頬を押さえる手は離れない。


「ほら、教えて」

「夫に…って…。一緒に、傍に、だから夫にしてって」


 集まってくる熱と恥ずかしさ。お父様の顔が見ていられなくて、視線を下げた。


「ほぉ~っ。なるほど。アレクはそう言ったの? それで、何が問題? 何を考えるの?」

「一緒に居たいって、何処までの気持ちならお受け出来るのか、分からないの」

「うんうん」

「本当は…お父様が、お仕事でも、遠くに行くのは嫌。お姉様が結婚して、離れて暮らす様になったのも嫌だった。学園に行くようになって、家から離れるのも嫌」

「そんなに嫌な事があるの? 困ったね」

「なら、側に居てって思うのは? 嫌って思ってる時程、側に居てと思うわ。なら、アレク様は? 側に居てくれて良かったと思ったけど…」

「思ったけど? 側に居てとは思って無いの?」

「それを考えようとすると、苦しくなるの…。だから、考えられないの」


 かさがさと、紙の擦れる仄かな音。私でも、お父様でもない。誰かがたてた音が、今居る室内でした。

 お父様と話す事に夢中で気付かなかったけど、誰かが居たんだ。そう思うと、聞かれた事が恥ずかしい。


「ぁの、お父様?」


 見たくないけど、誰が居るのか確かめたい。キョロキョロと視線を動かし、顔の向きを変えようと思う。思っても、お父様の手は離れない。俯いていたから気付かたかったけど、お父様は、誰かを見ていた。


「ごめんなさい。私っ、気付かなくて」

「問題無いから。なら、クルシェは、アレクが嫌いでは無いんだね?」

「嫌いではありません」


 少し考え込むお父様。


「嫌いな人って居るの? 嫌だと思う人間は?」


 確かめるように聞かれた。

 嫌いならと、私は迷わず王太妃と言った。誰が嫌いと聞かれて、真っ先に浮かんだ。唯一、嫌いだと思った人かもしれない。なら他には? そう考えても、嫌いは思い浮かばない。

 ならば、嫌なのはエリアナ・ベネル。それにセシェル・モードン。

 嫌いな方なんて居ないと言える程、私は出来た人間じゃ無い。嫌いだと思う人間くらい居る。王太妃はアレだし、エリアナもアレだった。なのに、今日初対面の彼女の名前が思わず出てしまって、自分でもびっくりした。


「モードン? さっき見たな」


 お父様の言葉で、紙の擦れる音が複数になった。

 一体、何人いらっしゃるの? 私の視線が彷徨う。


「因みに…それだけ?」


 困った人だと思う人は結構居るが、それだけだと言った。


「モードン姓は、学園の生徒には居なかったけど、どうしたの?」


 お父様の手が離れたけど、誰が居るか、知るのが恐い。

 はしたなくも駆け込んで座り込む。お客様の前で、失態を見せてしまっている。成人した、淑女らしからぬ行いと言動。アレク様の事だって、聞かれて恥ずかしいどころではない。

 そう思っていたら、立ち上がったお父様に抱き上げられた。


「私の最愛は、とても可愛いらしい事を言う。クルシェが嫌なら、もう仕事しなくていいかな? 学園も、行かなくてもいいよ」


 抱き上げられるのは通常ですが、仕事しないには、困ります。


「淋しくて嫌だったのは、前の話しですよ? 今は、学ぶ事も大事だって分かってますもの」


 上がった視線で、何方かと見ようとしたら、お父様に止められた。


「仕事の引き継ぎだから、見ちゃ駄目。気にしなくて大丈夫。守秘義務があるから、彼等は誰にも言わないよ」


 だから、見てはいけない。私が誰だか知ってはいけない方達なのね? そうか…本当なら、私は居ない筈だったもの。だけど、お仕事中なら、申し訳ない事をしてしむったわ。


「取り乱して申し訳ありませんでした。学園でからかわれたものですから…。忘れて下さると嬉しいのですが…」


 恥ずかしさを堪えて、謝罪する。背を向けているので分からないのだけど、コトンと音がした。「はい」って事かしら?


「何モードンだっけ? それがどうしたの?」


 個人的な話しを、これ以上してもいいのだろうか?


「報告書の中に家名があった。犯罪のとかじゃ無いから大丈夫。国内で、どんな動きがありましたってヤツだから。クルシェが言った事が書いてあれば、それだけの事。無ければ確認」

「お父様? 今更ですが、お父様のお仕事って?」


 あぁ、何て今更の事を聞くのだろう? お父様を送り出してきて、何の仕事をしているか、知らなかった。

 親の仕事も知らなかったのかと思われる。何て恥ずかしい…。恥ずかしいが増えていくわ。


「う~ん。収集と分析? 陛下の便利屋さんかな」


 お父様は簡単に言ったけど、それは、大変な仕事なのではないの? 尚更、振り返って見る事は出来ない気がした。

 兎に角。それならと、私は話し出した。中等科に現れたドレスの一団と、横柄なセシェル・モードン伯爵令嬢の事を。


「照らし合わせて気になるなら、調べてみて。私は、この後来客があるから、このまま失礼するよ」

「お父様?」

「何?」

「お部屋の外に連れ出していただければ、私一人でもあちらに戻りますわ」


 このままお父様が部屋を出るのは、相手の方達に失礼ではないのかしら?

 そう思い言ってみた。


「この後来るのは、アレク達だよ。彼等も、アレクと行き合う訳にはいかないからね。だから、失礼するよ」


 お父様の言葉に、コトンと音が返ってきた。

 後ろ向きのまま、お父様が下がる。

 私は慌てて、お仕事頑張って下さいと言った。出来るなら、忘れて下さいとは言えなかったけど…。









 





 

今話もお読み頂きありがとうございました。

次は、アレックス殿下です。

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