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閑話・女の子は噂話しと恋のお話しが好き

学園には、中等科から平民も居ます。勉強の為に居るので、貴族も平民も無く、友好的に過ごしています。なので、砕けた口調も会話に入ってきます。

この話しは、ほぼ会話だけです。

クルシェは居ません。

「私…。クルシェ様が表情を崩すのを、初めて見ましたわ」

「嫌だ。それは、貴女だけでは無いわ。皆がよ!」


 クルシェが立ち去った後のカフェ。

 残ったお嬢様達は、お互いを見合って含み笑いをする。


「あの様子だと、ルーキンスの行き帰りで、何かあったわね」

「きっと、ありましたわ!」

「何があったかは知りませんけど、舞踏会の時。クルシェ様とお父様の睦まじい姿を見ていた殿下のお顔が忘れられませんわ! 切なそうな眼差しで、クルシェ様を視線で追いますのよ! 言葉も出ませんわ…」

「それを言うなら、入場待ちの時でしてよ! 愛おしそうにクルシェ様を見下ろして、耳まで赤く染めてましたもの。恋して無いなんて、有り得ませんことよ!」

「ならば、私が見たのは、アレックス殿下が恋に落ちた瞬間かしら?」


 そう言葉にしたのは、ダンス会の時、アレックス殿下とファーストダンスを踊る予定だったメリル・ドレイン伯爵令嬢。

 皆の視線が集まる。

 それを確認してから、思わせぶりに話し出す。


「ご存知の通り、ファーストダンスの為にお隣に居たのですけど、壇上からの突然の声に見たらエドガー殿下でしたでしょ? 誰かのお名前を呼んだのは分かっていたのですが、聞き取れなくて。アレックス殿下は、エドガー殿下の視線の先を追いましたの…。そうしましたら、凛と立つクルシェ様でしてよ。アレックス殿下が、息を飲むのが伝わりましたわ。本当に、一目見た瞬間にですわよ」

「一目惚れってやつね?」


 そうだと思いますわよねと、見回す。


「糾弾する言葉を聞いて、直ぐにクルシェ様の元に向かおうとされるのを、イヴァン様が止めました。エドガー殿下の言い分が真実だとしても、いけない事ですもの。穏便に治める事を考えるべきだって。その間…一目だってクルシェ様から離しませんでした。段取りが整うと、待てないとばかりにでしたわ」


 一人を除き、その場にいたご令嬢は、ほぉぅっと息をついた。

 その場に居たかったと呟いたのはヴィニカ様。


「あの、申し合わせがあったような息の合ったダンスは、忘れる事はできませんわ」

「それで、舞踏会のダンスでしてよ? それだけだってもう胸が高鳴りますわ」

「それは見たかったー。貴族で無い事を悔やんだ事は無いけど、聞くだけで、その場に居られない我が身を悔やむわ」

「まだまだ機会はありますわ」

「そうかもしれないけど、それも見たかった!」


 コホンと、初等科のナターシア・ルース男爵令嬢。


「あの…、お姉様方?」

「なぁに? ナターシア」


 視線を受けて、もじもじとする。


「私の兄が、護衛騎士としてルーキンスに同行してましたの。とてもとてもクルシェ様が心配で、家を出る時、兄に手紙を残しておきましたの。それで、お返事をもらいまして…」

「お衣装の話しもお兄様からね?」

「他に何か?」


 言われて、こくんっと息を飲みながら頷く。


「あった事を家族といえど、明かすのは、騎士として如何なるものかと思いますが…」

「うん。分かってるよ。大丈夫!」

「あちらで、クルシェ様のお父様が怪我をされたそうですが、動揺するクルシェ様をアレックス殿下が抱き抱えてお慰めしていたと、書いてありましたわ」

「うわぁーっ! それ、演技無いでしょ? 気持ち無くってそれやったら、ただの迷惑スケベっ!」

「スケベ?」

「嫌らしい勘違い男!」

「それは、嫌だわ」

「ベタベタ触るのはタブーなのよね? そんな事が噂になった後で婚約かもの話しが流れたら、クルシェ様に傷がつくわ」

「そうかも。ならば、ここだけの話しで!」


 うんうんと頷き合う。


「他には無いの?」

「やはり、抱き抱えた話しが」

「大丈夫よ。ここだけの話しで! クルシェ様の事が知りたいだけですもの」

「ビデディアの王子様とキシュワ砦に滞在した話しですが、皆様で水遊び(?)をなさったそうですの。足首程の浅瀬を、アレックス殿下がクルシェ様の手を取って歩かれたそうです。楽しそうに笑いあってたお二人でしたが、山からの水ですから…。真っ赤になった足を気にした殿下が、クルシェ様を抱き抱えて岸にあがったのです」


「まぁ!」と「うわぁー!」の声が…。


「それで? その後は?」

「お二人は直ぐに離れたそうですが、クルシェ様がお顔を赤く染めしまっていたのと、離れても、アレックス殿下はクルシェ様を見詰めていたそうですの」

「それって…」

「噂ではありませんっ! 手紙にはそう書いてありました」

「噂だなんて言わないわよ。ただ、その手紙が見たいわ」

「それは駄目よ!」

「メリル様?」

「私達はね、一目惚れから始まったお話しをしているだけなの。ドキドキとふわふわよ。憧れるお話しよね」


 名前を出して話していたが、ご令嬢達は、メリル・ドレイン伯爵令嬢の言葉にしたがって、ただのお話しという事にした。


「そう言えば、クルシェ様に、エドガー殿下の事を話すのを忘れていたわ」

「気になさっていましたものね」

「エドガー殿下のアレには、王族への不安しか無かったのだけど…」

「陛下に、王族籍の返上を願い出ているらしいけど、本当?」

「本当らしいわ。だけど、取り敢えず、継承権の放棄で済むかも知れないって」

「そうね。あのご様子なら、同じ間違いは侵さないでしょうし」

「騎士団でも、水汲みから頑張ってるって話しだよ。見習いの子達に、勉強を教えてるって聞いてるよ」


 始業の挨拶が終わって、講堂を出ようとした生徒達に向かって頭を下げたエドガー殿下。震える声で、やってはいけない間違いを詫びていた。責任の取り方は分からないけど、一生懸命に考えて、国の役に立ちたいと言った姿は、ドレス姿の令嬢より好感が持てた。

 同じ事を繰り返さないでと、皆が願う。王族からの断罪を、軽くされては困るのだ。今回の様に、勘違いでも、王族の威信は揺らぐ。反対に無実でも、王族の勢いによっては、無実であっても断罪される事だってある。どう転んでも、好ましい事態では無かったのだ。

 皆は、一様にため息を付いた。


「ねぇ? ロマンスたっぷりの話しもいいけど、ヴィニカ様のお話しは?」

「えっ? 何で私?」

「気になるわ」

「気になるでしょ?」

「だって、夏季中は、婚約者の御屋敷に滞在していたのよね? どんな事があったか知りたいわ」

「と、特には無くてよ? ドレスを選んだりとか、新居の決め事くらいだし…」

「それ、聞きたい!」

「そうそう! 参考までに!」


 こうして、ご令嬢達の話しは続く…。




今話も、お読み頂きありがとうございます。


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