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ルーキンス国の話しは、これで終わりになります。

 お母様の隣に当たり前の様に座ろうとしたジェイド様に、お母様は否と言って、私とクロイスの前に、一人で座った。

 お父様とアレックス殿下。そして先王陛下は、壁沿いに設えられた席にて、私達の話しを聞くようだ。その先王陛下に呼ばれて、ジェイド様は渋々とそちらの席へと腰を下ろした。


「いきなり何を、今更何をと思うでしょう? 自分勝手だとも…」


 私とクロイスは、その言葉の先を待った。


「私はね、子供なんかいらなかったの。自分は逃げ出して、クルシェを捨ててきたのに、子供なんていらない…そう思っていたわ」


 お母様の言葉に、クロイスの体が強ばった。


「ジェイドとは子供を持たないとの約束は、願っても無い事だったの。連れ去られる心配も、何時失うかの心配も、もうしたくはなかったのよ」


 そう言いながら私を見る目は、後悔の色が伺えた。


「クロイス? 産まれる前にそう思う程、お母様はね、子供を持つ事が怖かったの。命を脅かされて、痩せ細ったクルシェを見るのが辛かった。死んでしまうのを見たく無いと、自暴自棄な気持ちでこの国に来たの。同じ思いは、二度と嫌。だから子供なんていらないと思っていたのに、貴方がこの体に居ると知った時は、とても恐ろしかった。それは、産まれた後も…」


 ジェイド様が、「そんな風に思っていたのか?」などと言っているが、私達は、何も言えなかった。


「産んで良かった。産まれてくれて良かった。そう思える様になったのは、ハロルドが、少し健康になったクルシェを連れて貴方に会いに来てくれた時からよ。それからは、クロイスが大きくなるのに、喜びさえ感じた。穏やかな成長を感じること、脅かされない毎日。クルシェには申し訳無いけど、クルシェの時には感じた事の無かった喜びよ…」


 何となく…お母様の気持ちが分かる気がした。

 お母様にとって私は、恐ろしく辛かった日々の象徴なのだろう。


「なのにね…。やっぱり産んではいけなかったのだと思い知らされたの…。王太妃にクロイスがされた事を聞いて腹が立ったわ。また、私の子供を害するのかと。そんな事は無いと言ったジェイドにも、何か言ってやりたかった」


 この言葉は私達では無くジェイド様に。お母様は、ジェイド様を見て言った。

 お母様の言葉に狼狽えるジェイド様。

 クロイスは、泣くのを我慢してか、歯を食いしばっていた。


「だけど…ごめんなさい。あの時そう思っても、口に出せなかったの。静かに、穏やかに過ごしていたかった。口に出したら、怖いものが身近に溢れそうだったから…」


 そう言ってふふっと、お母様が笑った。何でだろうとお母様を見れば、私を見て笑っていた。


「お母様?」

「ごめんなさい。クルシェは、とても強くなったのだと思うと嬉しくて。クロイスもよ…」


 思わず立ち上がろうとするクロイスを、お母様は、静かに手の動きで止めた。


「だけど、それではいけない。次に何かがあったら、今度こそ声を上げようと思っていたの。そう思っていたら、再び、子供を授かったと知った…。あぁ、またか。また、何かに振り回されるのか。考えるだけで、恐ろしさで息も出来なくなったの。この子は、クロイスと同じ…誰かの思惑の為に望まれた子供」


 お母様の両手が、膨らんだ腹部に当てられる。


「王妃様に、お願いをしたの。お腹の子供が、再びクロイスが、具体的な話しの表に出る事があったら、これ以上巻き込まれない様にシルフストに託したいと…。子供を授かった時点で、王太妃が関係している。王妃様も、それは分かっていたから頷いて下さったわ」

「それはどういう事か、お母様は理解なさっていますか? …シュニティア姫は、クロイスと子供の今後をも考えて下さっています。それを待つ事は出来ませんか?」

「それこそ、王妃様が言った通りよ。王太妃が動いて、シュニティア姫が貴族の意識を集めた今、争いの種になる子供をそのままにはしておけないでしょう? ましてジェイドは、母君の…王太妃の思惑に乗った。王位を欲しがった訳では無いのは分かっているの。だけど、クルシェをルーキンスの貴族に与えようとするのは、後ろ盾を欲しがっていると思われても仕方の無い事よ」


 そうですよねと、確認する様に、お母様は、先王陛下を見た。

 口出ししないを守ってなのか、先王陛下は、言葉にしなかったが、肯定する様に頷いた。


「クロイスも腹の子も、私の子供だ! 何処にもやらない! ルリーシェ。勝手に決めるなっ!」


 ジェイド様の言葉を、お母様は、無視をした。


「クルシェ・ジス・レイナード公爵にお願いします。このままでは、ルーキンスの子供二人が、どこかの貴族の元に封じられる事となるでしょう。ですが、貴女様の血に繋がる者。慈悲を持って保護をお願いします」


 立ち上がり、お母様は、私へと深く頭を下げた。

 止めて下さいと言う前に、ジェイド様がお母様に掴みかかった。

 随分と興奮しているらしい…。何時も大事にと気遣っていたお母様の体を、乱暴に揺さぶる。


「いくら君でも、勝手は許さない!」


 お母様を守る様に、お父様とアレックス殿下が動いていた。

 アレックス殿下に体を押さえられたジェイド様は、お母様を見て、怒りの形相になった。お母様にじゃない。お父様にだ。


「ハロルドっ。ルリーシェから手を離せ! 触れる事は許さない!」


 怒鳴るジェイド様の目は嫉妬に淀む。

 よろけた体を立て直したお母様は、ジェイド様へと歩み寄り、頬へと両手を添えた。視線を合わせる様に。


「貴方は、ハロルドに懐くクロイスを見て、私がハロルドの元に行ってしまうのではと恐れたのでしょ? ハロルドの手元のクルシェを取り込んで、私の目をハロルドに向けないようにと…。私だけ居ればいいと言ったのに、欲を出したから不安になるのよ…」


 静かな言葉に、ジェイド様の体から力が抜けていた。

 様子を見ながら、アレックス殿下かその手を離した。

 ジェイド様と視線を合わせながら、お母様は、「クロイスと、この子をお願い」と言った。それは、私にだろう。


「クロイスも産まれてくる子供にも、良いと思う事を…と、思いますわ」


 私は、そう言うしか無かった。

 考える事を放棄してじゃ無い。動いた現状に、それ以外の言葉が思い浮かばなかったのだ…。







 それから…私はお母様に会うこともなく、お父様やアレックス殿下と共に帰国の馬車に乗った。

 シュニティア姫とは、約束通りの決め事を交わした。

 お父様が持ち込んだ証拠の契約書の数々と、ルーキンス国内で独自に調べてきた事の擦り合わせが進めば、色々な事が白日の下になるのだろう。

 そんな状況下に、子供を置くのを良しと思わなかった王妃の計らいで、クロイスの身柄は、レイナードに一時預かりとなった。

 だから、今。この一団の中にクロイスは居る。

 初めの数日は、不安を隠せなく憂鬱そうだったが、北方伯の領地から国に帰ると同行していたビデディアのコリニアス様に、構われすぎて気持ちの切り替えが出来たのかも知れない。ルーキンスやシルフストの馬よりも、大きな体の馬に乗せられて得意に上げる声が、時たま聞こえる。

 今まで、日焼けを知らなかった肌が、赤焼けて熱を持つのを心配しても、当の本人は、何処吹く風でそっぽを向く。

 お互い…。お母様の事は、会話に出せていない。同乗した馬車内で、お互い気鬱になるのよりは、いいのかもしれないと思う事にした。







 夏の初めの学園で、又従姉妹と知ったエリアナ・ベネルと第三王子の作った波紋は、私の日常を、思いもしないものに変えてしまった。

 出会いや繋がりが、悪いものばかりでは無いとは思っている。だけど、過去の清算や罪を問われる人もいると思えば…。

 私が知った私自身の事。私を取り巻く人達の事。心に重くないと言ったら嘘だ。だけど、その重さに潰されないようにと、ずっと私を愛して守ってくれているお父様が居る。

 まもなく、夏も終わる。学園に通う毎日が帰ってくる。

 これからレイナードの本邸には、クロイスも暮らす様になる。

 新たな日常は、私にもクロイスにも、良いものであればと願う。


 






 





クルシェが過去の出来事を受け止め、次の一歩をと思える様にとここまでを書きました。

ここを一つの区切りとして章わけしようか思案中です。兎に角、閑話とアレックス殿下の男子会を入れてみながら考えたいと思っています。

一話目を投稿してから、二ヶ月が経ってました。自分でも、これを書いてから進みたいと思っていた所に行き着きました。折り返し地点だと思っています。

この後は学園の話しになります。二歳差の二人が絡む場面としてはアレとかコレは外せないと思う学園イベントは、書きたいなと思っています。

今話もお読み頂きありがとうございました。

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