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女公爵クルシェ嬢 残滓の贖い①

暗躍の御方の登場になります。「アレの親はコレです」みたいな感じです。


 王陛下を挟んで四人の大臣と、数人の諸侯が顔を揃えている。

 シュニティア姫が、昨日ハレス公爵の元に置いていった契約書の写しと同じ物。そして九年前の誓約書を並べた。


「お忘れなきようにと言われても、何の事か、思い当たりもしませんでしたの? 思い出して欲しいと言った事は、それ程王陛下の怒りを買いましたの? だからと言って王宮殿の門前で、あの様な事...。見ない振りをなさったら、民心が離れますわ」


 そのように切り出したシュニティア姫から始まり、


「王陛下? いいえ...お父様。これだけじゃありませんのよ? お父様が見ない振りをしてきた事は、思った以上に大きくなってますわ。穏便にと思うなら、お言葉違え無き様にお願いしますわ」


 で...終わった。


 二時間程の会話も、蓋を開ければこんなものだった。

 ハレス公爵は昨日の事を知らせてはいなかったし、王宮殿門前のお父様の一件は、大臣達は別として王陛下は気にもしていなかった。アレックス殿下が言及したハレス公爵の私への対応は、誓約書を再び見ても、親としてなら当たり前の事だそうだ。

 私は、この国の人間でも無ければ、子供として扱われた覚えも無いのだけれど...。王陛下に言わせれば、年に数日行き逢えば責務を果たした事になるのだろうか? 私の生活は、お父様達の助けがあって成り立っていた。領地の収支から、衣食住の全ての段取りをしてくれたのはお父様だ。

 取り敢えず、我が国で出てきた契約書のいくつかを見せ、王陛下とはもう約束は取り交わさないとして、第一王女のシュニティア姫と再び約束をと願いでた。印章指輪を持つアレックス殿下。その殿下と発言力を同じにする為に立太子をと...。

 帰国までの二日の間に立太子と王配決定の発表。

 取り決めを知る第三者。立会人にコリニアス王子を。

 出した条件に良い顔はしなかった王陛下。そんな王陛下に、シュニティア姫が釘を刺して、その場を離れた。




 コリニアス様の滞在する宮に戻れば、一晩の宿でもほっとした。

 このままここに滞在しても、離宮に戻っても、身の安全を考えたら不十分と言ったシュニティア姫の言葉に、アレックス殿下とお父様達が話し合う。

 少し息をつきたくて皆から離れた。ほんの少しと部屋を出ただけだ。なのに、目の前が暗転した。

 成程...。安全を考えたら本当に不十分だと痛感したのは、目を開けてからだ。

 後ろ手に縛られ、口には布が。頭からすっぽりと袋を被せられて居たが、四方の狭い箱の中だと分かった。上体を動かせば直ぐに固い物に当たり、ゴトゴトとした振動が体中を揺らす。コツコツと時たま聞こえる靴の音が、建物内を移動しているのだと思えた。

 ならばと言葉にもならない音を喉から出し、ゴツンと頭をぶつけて箱を揺さぶってみた。


「恐れながら、この時間はほとんど人は通りません。痛くて苦しい思いをなさるのは、得策ではありませんよ」


 んぐっと声を出したのを、私が聞いていると確認したのか、声の主は言葉を続けた。


「ある御方が、お会いしたいとお待ちしています。このままお静かにお願いしたい」


 丁寧な物言いだが、随分勝手な言い分。

 言う事を聞く気はないが、閉塞された中は暑苦しく、暴れていても体力が無くなる方が早いと思えた。

 大人しくするしかないのかと、声を出そうとするのは諦めた。

 それを応と捉えたか、再び動き出す。

 鼓動を数え時の流れを推測してみると、直線を長く歩いている気がした。これほど長い廊下などあっただろうか? そう思うくらいには、方向を変える度の直線が長く感じた。

 やがて浮遊感に変わり、降ろされる。


「これからお支度を整えて頂きますが、回りは侍女です。騒ぎ立てれば、外にいる男達が入ってきます。宜しいですか? くれぐれもお静かにお願います」


 箱から出され、立たされた。ふらつけば、支えの手は女性のものだと分かった。言葉通りなのだろう。そう言って声の男は出ていった。

 全身を覆っていた袋の口が開けられ、布がスルッと落ちた。

 目の前にいた侍女はぎょっとした顔をしたが、声を出す事無く口の中の布を取り出した。水分が取られて口がからから。水を望めば、冷えた水を渡された。

 汗で張り付いた服を脱がされ、湯を使う。用意された物に着替えた頃には、太陽の残滓も消えるところだった。

 着せられた服は、仕立てだけは良い物と感じたが、押し付けられた服の醜美など、どうでもいい。相手の存在を誇示する様な真紅のドレスを着せられた事を憎々しいとだけ思った。


「こちらへ」


 言葉も無く、淡々と動いていた侍女の初めての言葉。

 言われるまま歩き出せば、身支度を整えてくれた侍女達が、そのまま私を囲みながら進む。

 侍女達しか目に入らないが、部屋の外の男達というのも、遠巻きに囲んで居るだろ。

 今居る場所は、日付けが変わっていない限り、王宮殿内だと思えた。

 身支度の時間的にも、その位の時間経過。 

 ある御方と言った言葉を思い出す。王宮殿だとして、この先に居るだろ人を思い浮かべると、もしやという人物が浮かぶ。



 

 案内された先に居たのは、辛うじて金だと思える程度の髪を結い上げた御夫人。若作りの顔だが、髪はほとんどの色が抜け白髪に近い。相手の意思も関係無く我が物顔。この人が、王太妃だ。

 紹介なんていらない。

 そもそも、こんな方法で連れて来たのだ。礼儀なんていらない。

 真っ向から向かい合えば、気に入らないと睨み付ける視線とぶつかる。


「...挨拶も無いの?」


 広げた扇の向こうに、笑ってない目。

 私だって、笑うどころじゃ無い。

 

「お嬢様。御挨拶をなさって下さい」


 同行の侍女が促すが、従う気にはならなかった。

 先ず自分が名乗れ! 

 思った事が顔に出ているのか、侍女の顔が強ばる。


「こちらの方は、とても高貴な御方です。その様な態度で接してはいけない御方なのですよ」


 高貴な御方...。思わす笑ってしまう程、滑稽に見えた。


「何が可笑しいっ! 無礼な態度はやめよ。衣服も整わないというから

待てばその態度。立場を弁えろ」

「衣服も整わない...。確かに、汗でよれよれの姿でしたが、そうなった経緯は、御存知でしょうか?」

「経緯も何も、相応しくない身支度であったのだろう? それを綺麗に整えてやったのだ。感謝の言葉くらいあろう?」


 私は再び笑ってやった。


「お嬢様。態度を改めて下さいまし!」

「手足を縛られ、口に詰め物をされて連れて来られても感謝ですか?」

「何だそれは」

「私が、ここへ来た方法ですわ」

「シュニティアの馬鹿騒ぎから助け出してやったのに生意気な...。まあ良い。そこへ座れ」


 不本意どころでは無い。意識を奪われ連れてこられたのだ。その経緯を無視して話を進めようとするのに、意思の疎通は望めないと感じる。

 座れと言われても、大人しく従いたく無い。そう強く思う程には、目の前のこの人に対する反発心が湧き上がった。


「シュニティア姫は、馬鹿騒ぎなどなさっていませんわ。それに、助けて下さったと言うのなら、もとの場所に帰して下さい」

「なら、お前がシュニティアを誑かしたのか?」

「仰っている意味が分かりません」

「逆らう子では無かった。なのに何を思ってか、立太子をと騒いでいると言うではないか! お前で無ければ、シルフストの王子か?」


 私は、首を傾げて、当たり前の事ではないかと言った。順当に王の長子が継ぐ事の、何が問題なのか? と。


「もう少しでお前の母が、次の王を産む。王の姉として、この国の権力が欲しく無いか? くだらない事で騒ぐより、余程に有意義だ。見目の良い男が良いか、権力のある男か? 望み通りに用意をしてやろう」


 私がこの国で望むのは、放っておいて欲しいのと、クロイスの自由な意思。目の前の、この御夫人に用意出来るものでは無いと思う。思えば、笑いが込上げる。

 吐いた息が、ふふふあははと音になる。


「お断り致します。ですが、どうしてもと言うのなら、時を戻して頂きたい。母とこの国の王子が出会う前に。そして、王子を国から出さないで。そうすれば、不幸になる者は居なくて済みますわ」


 邪魔があろうと無かろうと、領地経営など、対策をとっても天気次第だ。今年の運は悪かったと、次を見る事が出来る。産まれた者は、触れ合えば、愛しいと思える。なら、消えた命は...。

 切なさがこみ上げるのに、私は、より高らかに笑った。


「ジェイドが望んでいるのに、何が不服かっ!」


 自分の息子。ジェイドと言った。母が望んでいるのでは無く。

 馬鹿じゃ無いのか? お前の息子の望みに、何故、私が付き合わなくてはいけないのだろう。


「我が王の言葉なら、命さえも差し出して従いましょう。ですが、何故ルーキンス国の者に従わねばならないのか...分かりかねます」

「生意気なっ!」

「生意気も何も、事実です」

「王太妃である私に逆らうなどっ!」

「ですから、私の国の王太后様ではありません。いい加減、それを分かって下さらないでしょうか?」


 王太妃が立ち上がる。

 座る事もしなかった私へと、肩をいからせて近寄ってきた。

 私は、胸を張ってそれを見る。

 同席の侍女が、私の腕を抑えたが振り払う。

 目の前には、扇を振り上げた王太妃。落ちてくるそれを、腕で受けた。

 お辞め下さいと侍女が騒ぐが、言葉だけだ。私を抑えようとするのなら、王太妃を抑えればいいのにと思う。

 二度、三度と打ち据えられるのに、王太妃の腕を掴んで止めた。

 今度は、私に向かって離せと騒ぐ。

 いい加減...王太妃にも、囲む侍女にも腹が立っていたのも手伝って、私自身も、思っていなかった事をした。どうして、そうしようと思ったのか、掴んでいた王太妃の腕に爪を立て、そして噛み付いた。離されるものかと、もう一方の手も伸ばした。

 引き離そうとすれば、噛んだ腕も引っ張られ、王太妃は一層の痛みを伴う。

 騒ぎで、外に居た者達が入ってきて引き離されたが、口に広がる血の味に、ざまあみろと思った。

 だって、すかした態度だった王太妃が、ヒステリックになって叫んでいる。

 男手によって押さえつけられてしまったが、口の中のそれを吐き捨てて、王太妃を睨み付ける。

 再び可笑しくなって笑い出せば、鬼の形相の王太妃が近付く。

 また叩くのだろうかと思って見上げれば、私を拘束した重さは無く、王太妃を止める者が居た。

 重さは無くなったが、後ろから抱きしめられた。今度は何だと緊張すれば、耳元で声。


「置いていくなと言ったのは君なのに...心配した」


 アレックス殿下だった。


 






クルシェの過去の出来事に、けじめを付けての一歩にしたいと思っています。

今話も、お読み頂きありがとうございました。


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