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ハロルドパパに代わって、アレックス殿下が動きます。

情けな王子が、上手く動いてくれたかは、分かりません。

それは、私が上手に表現出来たかによるところだと思います。

それでも、興味を持って読んで下さる方がいらっしゃる事に感謝します。

 離宮へ戻る馬車の中。胸ポケットの印章指輪を抑えながら、ハレスの住む宮での出来事を思い出す。

 口を出す事は、何となく出来なくて…。ハロルドとジェイド殿のやり取りを見聞きしていた。

 気になるのは、クルシェの事。やっぱり理由があったと改めて思うのと、先代にも現当主の娘にも可哀想な事をと言った親父殿を思い出す。何度にも亘誘拐未遂。幼い時の怪我。食事も取れなくて痩せ細った子供。置き去りの再婚。巻き添えの死人。不利益を被った者は、きっとまだ居る。

 ハロルドが言った通り、戦何て誰も望んではいない。ただ、何度にも亘っての他国からの介入は、許せないのも確かだ。親父殿の事、報復の方法は有るのだろう。実行するかしないかは、王の代弁者の采配だ。

 何かを見落としてないか?

 不安が過る。

 印章指輪…権限の譲渡。宮から王宮殿への馬車の中。ハロルドに返そうとしたら、渡して直ぐ突っ返されるのは格好が悪いから後でと言われてそのままだ。

 何時も、後からこうだったのかと知る。この件も、何かまだあるのではないだろうか? 

 俺に指輪を持たせたままのハロルド…。

 何かハロルドの身に起こるとでもいった感じだ…。

 思い出せ! 謁見の時から、ハロルドは尊大な態度だった。ジェイド殿にも、態々謁見を済ませてきたと言ったのは何でだ? 


「馬車を!早く馬車を止めてくれ!」


 俺は、大声を上げた。


「どうしました殿下?」


 レインが、何事かと俺を見る。

 ああ、レインだ。分かるなら、レインしかいない。あの写しは俺もハロルドも、王都を出てから後の物だ。合流の遅れた荷物。目を通し、共に来たのはレインだ。


「レイン! 王宮からの荷物の中に、大切な扱いで、レインの触らなかった物ってあるか?」

「突然、どうかしましたか?」

「突然じゃ無い。大事な事なんだ。王宮で用意された物の中に、密書というか、何かなかったか? ハロルドかキアンが手にして、そのままの物とかっ!」

「物を前にしないと分かりかねますが、大事な事なんですね」

「あぁ、誓約書とか契約書。それの写しか本物だ! 頼む、探してくれ!」


 俺は、止まった馬車を下りる。


「イヴァン。付いてきてくれ! 護衛の半分はこのまま馬車を。半分は、俺と一緒に戻る! 馬をくれ!」


 もう、半分以上は離宮に近い。戻って一時間。ハロルドは、まだ王宮殿に居るのだろうか?


「アレクどうしたんだ?」


 イヴァンの横に、馬を引いた騎士が立つ。


「突然で済まない! 何も無ければいいんだ。だが、多分、ハロルドは自分を餌に罠を仕掛けた。ならば、王宮殿へと戻らないといけない!」

「ならば、余計に殿下は、離宮にお戻りなった方がよろしいのでは?」

「そう思うか? だが、そういう訳にも行かないんだ。もしも何かがあったら、この国の王と、渡り合わなければならないのは俺だ!」


 渡された手綱を持ち、騎乗した。


「急いで戻りたい気持ちだが、馬の足は、極力抑えろ。他国の者といえど、巻き込んで怪我をだなんて事は無い様に頼む」


 護衛に挟まれて、俺とイヴァンは、来た道を戻る。




 戻って行き当たったのは、騒然とした王宮殿前広場だった。

 門扉を守る警護の者達たけでなく、何がと見ている者達の人だかりで、先へ進む事が出来なくなっていた。

 ほんの一時間前とはうってかわった様相に、俺は怯む。


「私は、シルフスト国第二王子アレックス・エイメル・シルフという。この先て、王宮殿前で何があったか教えてもらえないだろうか?」


 ざわざわと波紋の広がる様に、声の届いたその先からと、俺への視線が集まる。


「馬車と馬車の接触で、門前が塞がれちまったんだよ」


 それを聞いて、護衛の数人が動く。俺の身の回りを固める者と情報を探る者。


「その馬車に乗っていた者は、どうなったか、知っているか?」


 そのまま、答えてくれた者に聞いた。


「御者は、投げ出されただけで済んだらしいぞ。馬に踏まれる事無く、倒れた馬車の下敷きにならなかったのはもうけものだぁ!」


 イヴァンか近付いてくる。

 俺は、話すのを止めてイヴァンの言葉をまつ。


「殿下。件の馬車は、我が国の物でした。馬車の転倒のおり、御者と中の者が、怪我をしたらしいのですが、護衛に付いていた者達は無事だそうです」

「その場には?」

「案内をしてくれるそうです」

「分かった。イヴァンは、護衛を連れてクルシェの所へ行ってくれ。必ず守れ」

「ですが…」

「馬車の護衛は怪我は無いのだろ? 問題は無い。グレイを護衛に戻して彼女を連れてここに」

「はい。必ず」


 一時間と少しでこれではと、彼女が離れている事が不安に思えた。 

 イヴァンを見送り、再び回りの者へと視線を向ける。


「我が国の者だったようだ。話を聞かせてくれた事、感謝する」


 頭を下げれば、近くから声がする。


「王子様が頭を下げる程大事な人か?」


 ああ、よく聞いてくれた。


「大事だよ。私の愛した公爵令嬢の父君だ」


 そう言って、案内の警ら騎士の元へ足を向けた。

 案内された先には、横倒しになった馬車と、門柱に接触して止まってる馬車の二台。門を少し入った所に寝かされているハロルドとキアン。そして、何故か指示を出すコリニアス殿の姿があった。


「コリニアス殿? 何があったかお伺いしたい」

「何だ、随分と早いな」


 早かったとは、これ如何に?

 思わぬ言葉に首を傾げる。


「見ての通り馬車と馬車の接触で横転。離宮に、付いて行こうとしてたら、二人の乗る馬車を追い越す様に後ろから馬車が走ってきた。接触した勢いで御者は投げ出されて怪我をしたんだが、擦り傷と打撲だな。それで、中のハロルドは頭を殴打して、今の所意識がもうろうとしている。キアンは、体の打撲と破片での怪我だ」


 彼等に歩み寄りながら話を聞く。


「問題はな、相手の馬車には、人は乗せていなかったのと、御者の姿が消えた事だ。」

「動かしたくても離宮は遠く、王宮殿は不安だな」


 王宮殿の中での事だ。

 誰かが、中の車止めから馬車を操り、追い掛けてきた。その道筋を振り返り、俺はため息をつく。


「何をやったんだ?」

「何をも何も、クロイスを、帰しただけだよ。何処かの御仁がクロイスを気に入ったから。自国の及ば無い所で動かれるのは好ましくなさそうだったから、帰宅の挨拶をして、親元に戻した。…クロイスが、どんな立場の子供だか、知っているんだろ?」

「そうだが、馬車から二人を出そうとしていた時、自業自得だと呟いた者がいたんだ。俺からすると、柵の向こう側からだったんだが、誰が言ったかは確かめられなかった」

「…分かった。なら、故意に起きた事故で間違いは無いな」


 俺の横に、無言で立つコリニアス殿。

 俺はキアンを覗き込んだ。

 影で、誰かが立った事に気付いて視線を寄越す。俺だと分かると、にやりと笑った。

 気付いて合格かと、聞きたくなった。


「なぁ、アレックス殿」

「何でしょう?」

「二人を、俺の滞在する宮に運ぶのはどうだろう? 信用してくれとしか言えないが、どうだ?」

「願っても無い事ですが、護衛を入れても良いのでしたら」

「構わない。そもそも、人数も居ないのに、あそこは広すぎる」

「是非ともお願いします」


 二人を運ぶ先が決まり、運ぶ用意に回りが動き始める。

 そんな時、イヴァンと共に、グレイに抱えられる様にしてクルシェが馬で乗り付けた。

 クルシェは、白を通り越した顔色をいていた。

 横たわるハロルドを見て、お父様と駆け寄る。

 抱き付こうとする彼女を止めれば、ゆっくりと手を伸ばし、ハロルドの頬に触れた。途端に流れ出す涙。崩れ落ちる様に座り込み、ハロルドの手に触れ、その手に顔を寄せる。

 自国の騎士。他国の騎士。騒然とした中の一人の少女。

 柵の向こう側から見る者達の目には、どんな風に見えているのだろう?

 

 戸板に乗せ、意識の無いハロルドを、コリニアス殿の滞在する宮へと運ぶ。

 言葉も出ない彼女を抱き寄せれば、俺の胸で泣く。

 震えて立ち上がれないクルシェを、俺は抱き上げてハロルドを運ぶ列れと続いた。

 グレイが手を出そうとしたが、それはそれ…護衛の手は空けておかないと、と、通した。

 

 ルーキンスからの使者が、同じ滞在するなら別の宮を用意すると言ったが、それに返事をする事無く沈黙を貫いた。

 そんな俺達を、この国はどう思うのだろう?

 まぁ、どう思われても構わない。ルーキンスを信用する方が無理だ。

 それを確信したのは、夕刻。

 離宮からレインが、一抱えの宝飾品用の箱を持って合流した。

 謁見用の衣装と共に持ち込まれた筈たが、必要が無いと、キアンが避けた箱だったらしい。中には、確かに宝飾で飾られたティアラが入っていたのだが、持ち出しの目録には無い物なので、取り出して改めて見れば、油紙で包まれた例の物。


「殿下のおっしゃっていたのは、これだと思うのですが…。数がありましたので、全部持ってきたのです…」


 何とも歯切れが悪い。渡されて中身を取り出して見れば、一枚では無く…束。

 誓約書に契約書。新しい物から古い物まで…。

 今回のセニエルだけで無く、以前からの物。それには、同じ家名に対しての取り決めと、共通して同じ名前の署名があった。

 数々の誓約書や覚え書きに、三人で目を通し、身勝手な人間の考える約束事は、傍迷惑なだけのものだと改めて知った。自身の物でも無いのに、成功報酬として書かれていたりするのが、乾いた笑いを誘った。

 それに目を通しながら、俺はハレスの宮での事をかいつまんで話していた。


「この後、どうするつもりだ?」


 唸りながらイヴァン。


「どうも、俺達には荷が重くないか?」


 その通りだと思うも、ルーキンスの王族と対するしか無い。

 

「今回の事で、王族との面会を願い出るのが妥当と思うが、現物を持って乗り込むのも馬鹿かと思う。どうやって接触するかが悩みどころなんだ」

「太陽王への狂信者か…」

「動かれる前に、止めろとハロルドが言ったが、思ったより相手の反応が早かった。ただ、これらを有効に使わないとな。ハロルドに、情けないと笑われる…」




「アレク様達は、何をなさっているのですか?」


 突然の声に、俺はドキッとして顔を上げた。

 クルシェはハロルドに付いて居るからと油断した。

 人を近付けるなと、一言を忘れていた。この場合は、そこに立つクルシェだった。


「目を通さないといけないものがあったから。それで、ハロルドの様子はどんな感じだ?」


 俺は立ち上がり、レインが広がった物をかき集めた。

 クルシェは、一歩進み入り、俺を見る。


「とても…、興味深いお話が聞こえましたの。詳しくお聞きしても、よろしいですか?」

「興味も何も、別に用事があったんじゃ無いのか?」


 俺はクルシェに向かって歩いたが、クルシェも俺に向かって歩いてきた。微妙な半歩を進んだのはクルシェ。

 見下ろすクルシェの顔は、冷ややかな眼差しと微笑みを浮かべて俺を見上げている。

 グッと言葉に詰まる。


「アレク様? 私、詳しくお聞きしたいと言いましたわ」


 濃紺の瞳で真っ直ぐに見詰められて、目を反らせない。瞬きもなく俺だけを見るその瞳に、胸が高鳴った。


「俺は、クルシェの用事を先に知りたい」

「用事ですか? クロイスに、お父様の状態を知らせてあげたいと思ったのですが、アレク様の方が先ですわね?」


 ごまかされないと、強い意志を感じる眼差し。


「私も、あちらの物を、見せて頂いてよろしいですか?」

「見ても、面白くないぞ」

「面白そうだから見る。面白く無いから見ない。というのでは無いと思いますの」


 振り返り、レインに見せてと言えばすむ事。なのに、俺の返事を待つクルシェ。

 是非を問う様に見詰められる。その真っ直ぐな視線に、俺の心臓がもたない…。


「国の大事で、私の様な者が知る事の出来ないものなら…そうおっしゃって下さい。ですが、私が関係するのならば、教えて頂きたいのです」


 反らされない瞳。言葉が出ない俺の、より近くで問われた囁き。俺の胸元に添わされた、頼り無い掌。それに不埒な想像をすれば、見透かされしまっているのではと恐くなる。

 兎に角、まともな思考なんて出来ない。お手上げだった。     

 俺は…改めて彼女に惚れてしまっていると実感した。

 先に惚れた俺は、どうしたって彼女…クルシェには敵わない。

 先ず、嘘を付いて誤魔化す事が出来ない。嘘つきと嫌われるのが嫌だから。


「見ても、気分のいいものじゃないぞ」


 クルシェの手を取り、俺の隣へと座らせた。レインに視線を向ければ、困惑しながらも、クルシェへと集めたそれを渡した。

 そう。当事者のクルシェには、見せたく無い物だと思うのは誰だってだろう。渋る様な態度…レインとしては珍しく動作の鈍いものだった。


 言葉も無く、目を通していくクルシェ。

 見開いた瞳に、込められていくのは、どんな思いだろうか? 見てる方が、固唾を飲む。

 俺達の心配を他所に、顔を上げたクルシェは微笑んでいた。待て、これはこれで心配なやつだ。


「アレク様は、最初からご存知でしたの?」

「知らない! ハロルドの様子で、もしやと思ってレインに探して貰っただけだから!」

「そう…ですの? ならば、これから、どうしようとなさっていましたの?」


 冴え冴えとした冷ややかさを伴った笑顔。


 恐らくだがと、俺はハレスでのジェイド殿とハロルドのやり取りを話した。横やりというには、悪質過ぎる物事に釘を刺す。ジェイド殿の対応を見るのに、この契約書をダシにハロルドが自分を囮にしたのではないか? そうかもしれないと思った事自体、離宮へ戻る馬車の中であった事。ジェイド殿に猶予を与えた筈なのだが、思ったよりも早く、ハロルドに報復の手がかかったのだろうと…。

 あくまで、俺の推測だ。


「ふふふ…。私の事なのに、何も知りませんでしたわ。…覚えて無い事も踏まえて、私の不覚ですわね」


 悩むだけ悩み。泣くだけ泣き。心配するだけ心配した後のクルシェは、何処か振り切れてしまったのか、鋭さが増していた。


「欲しがりも迷惑ですけど、忠誠心をはき違えた者の方が迷惑だとおもいますの…」


 クルシェが俺の腕に手を添え、耳元に顔を寄せた。


「行くならば、必ず私も連れて行ってくださいね。置いて行っては嫌ですよ?」


 そう言って立ち上がる。


「何処へ?」

「お父様の所に戻ります。お聞きしたい事が沢山ですの」


 それではと、クルシェは部屋を出ていった。

 それを無言で見送った俺だったが気が付いた。護衛に戻したグレイが居たのでは無いかと…。

 急いで廊下を見に立ち上がった。

 その俺が見たのは、グレイに手を引かれるクルシェ。二人の後ろ姿だった。

 ちょっと妖しい目付きにどぎまぎとしたが、何も変わらない彼女の後ろ姿に安心のため息をつく。


「随分と雰囲気が変わってたけと、あれは、怒ってるってやつだよな?」


 クルシェが居る間、一言も話さなかったイヴァンが、口を開く。

 

「滅多に怒らない人が怒るとってやつですよね。独特の雰囲気で、話し掛けられませんでした」


 レインもお同意見だと頷いている。

 怒っていたのだと、俺だって分かる。分かるが、あれはやばい!


「アレックス?」

「んっ? あぁ、何だ?」

「やられちゃってんじゃ無いよ! しっかりしてくれ、王子様」

「あれ、不味いだろ…」

「また何処かに行っちゃってんのか?」

「何処にも行って無い。綺麗な顔立ちだと分かってたけど…」


 俺は息を吐き出しながら、胸へと手を当てた。


「魅力再発見で興奮してんのね? それでもいいけど、どうするの?」


 俺に呆れた様な態度のイヴァンだが、俺の考えを聞いてくれた。呆れられて、放り出されなくてよかった。レインも俺を見ている。


「娘の…、クルシェの望まない事はしない。それが、親父殿の考えなんだが…。王族の誰かとは、話し合いを持たなくてはならないと思う。俺は、シュニティア姫ではと思うのだが、どうかな?」


 二人に聞いてみる。

 今は、次の行動を考えるだけだ。




 





アレックス殿下を動かしたら、①②で大人しくしていたクルシェも出てしまいました。

何度も書き直してみて、彼女がこうなってしまいました。

面白いと思って貰えたら嬉しいです。

今話も、お読みいただきありがとうございました。


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