表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/84

朝露に咲いた俺だけの華

王子目線の話しなのですが、第二王子アレックス殿下の○○とするのは、何か違うと思ったので、この様なサブタイトルになりました。

朝と夜の場面で、どちらにしようか迷ったのですが、夜は危険なので朝! 朝となりました。

溺愛も恋愛も、もしかすると、中途半端にしか書けてないのかなと途中思う事があります。いえいえ…これからです。そう思ってお付き合いくださると嬉しいです。

 随分早く目が覚めた。

 嘘だ。浅い眠りなのか、目を閉じていただけなのか、分からなくて起き出した。

 警護の関係を考えて、歩き回るのは止めた。サロンから外への扉を開き、そこに立つ。

 朝霧で煙る視界。日の出と共に、その白の存在が消えようとしているのを、ただ眺める。

 新緑を過ぎ、青さが強くなった緑。

 やはり、休めてなかったのだろう。光を弾き出した露の煌めきが、目に痛い。

 室内へと向き直せば、クルシェが立っていた。

 俺と、同じ理由かも知れない。

 俺は、左の人差し指を口元にあて、空いた手をクルシェへと差し出した。

 離れているが、クルシェはこの手を取ってくれるだろうか?

 静かに。近くに。意図を察した彼女は、俺の隣に立った。手を繋ぐ事はなかったが…。


「おはよう」


 小さな声で言えば、小さな声が。


「おはようございます」


 返ってくるクルシェの声。


「眠れなかった?」


 聞けば、こくっと頷く。

 よく見なくても赤く腫れた瞼がある。


「クロイスの機嫌が悪くて、眠れなかった?」


 ふるふると首を横に振る。この場合は、クロイスの方は関係無いという事だろう。


「あの…アレク様?」

「何?」


 今日は、アレクと言った。殿下でなくアレクと。

 嬉しくて、手を伸ばしそうになる。


「昨日は、色々とすみません」

「何であやまる?」

「だって、個人的な悩みでしたので…」

「聞くと言ったのは、俺だけど」

「でも…」


 ちょっと待ってと、開いた扉の所に、外に向けて椅子を二つ並べた。

 座ってと促せば、素直に座る。


「昨日は、行動の行き止まりをどうするかが決まっただけだから。心が晴れないなら、俺が聞く」


 そう言って俺も座れば、また泣き出しそうな目をしていた。


「何が心に引っ掛かってるんだ?」

「引っ掛かりが…ある訳では無いのです」

「うん。それでも、心が晴れない時は、あるよね」


 ただ、隣に居ればいいのか? 何か話したらいいのか? 

 どうしたらいいのか、俺が迷う。


「クルシェは、良い子でいようとし過ぎだと思う」

「前にも言いましたが、わがままですよ」 

「なら、部屋の不満言った?」

「部屋、の?」


 思って無い話題なのか、首を傾げながら俺を見る。


「俺達は三人共簡易ベッド。イヴァンは、信じられないって大声だしたぞ。ちゃんと一人一部屋あるのに何故だって、頭を抱えてジタバタ」

「殿下は?」


 今度は、殿下呼びか…。

 まだ近くに居ないのだと、心の距離だと感じた。


「気にならなかったかと言えば、何故寝室を使わないのかの方かな? 寝室に警護が立って、俺は居間なのは何故? かな」

「訳は、お聞きになりましたか?」

「やはり、警護の事かな」

「そこまでしないと、この国はいけないのでしょうか?」

「あぁ。ハロルドと一緒の高官に聞いたけど、国から出たら、何時もらしいぞ。ここまで極端なのは初めてらしいが、滞在が王宮の方ならましだったのにってこぼしてたから。警戒し過ぎてるって、気にしてたの?」


 頷くクルシェの、小さな「はい」が聞こえる。

 何を重視しての警戒かは、黙っておこう。


「それこそ何でって聞けばよかったんだ。状況に不安があるのにそのままはいけない」

「ですが、答えてくれない時もあります。聞いて、答えをくれなかったらと思うと恐かったんです。それに、クロイスが楽しそうだったので…」

「クロイスは、何をしても楽しいだろう。俺達の所でも、楽しそうにしてるぞ。だから、同じ状況でもそれぞれなんだ。言葉にしないと伝わらない…」

「本当ですね。気を付けないと」

「気を付けないといけない事では無いよ」


 俺は立ち上がって外に出ようと誘う。

 煙る様だった朝霧も、ほんの少しの存在を残すだけになっている。

 足を揃えて座るクルシェの前に立つと、思わず笑いが込み上げた。

 こぼれた笑い声にクルシェが顔を上げる。


「何か可笑しな事でもありますか?」


 拗ねたのか、唇が…気持ちとがってる。そんな顔をしても、とても愛しいと俺は思う。その唇に俺を重ねたら…。今度は、どんな顔をするのだろう?


「靴。靴を履いてるから」

「ここは自分の家ではないのですから、何時も通りではないですよ」

「うん。だから、外に出よう」


 でも…と、戸惑うのに、サロンの入口に彼女の兄、グレイが居る事を教える。朝早くからといっても、護衛も付いているので、問題は無いだろうと促せば、クルシェは俺の手を取り立ち上がった。

 自然と俺の口角は持ち上がる。声を抑えて笑う俺の声が聞こえるのか、プイッと横を向いているクルシェ。

 柔らかそうな頬の向こうに見える唇が、どうしても俺の視線を引く。


「屋敷でもそうだったみたいだけど、もっとクロイスと一緒に楽しんでるかと思ってた」

「楽しむ…ですか?」

「そう、楽しむ。俺は、レイナードの屋敷は寂しいと感じたけど、クロイスやレミーネの声のする食卓は、とても羨ましいと思ったよ」

「羨ましい? 何処が?」


 表情を凍り付かせたクルシェが足を止める。


「話し声。笑い声。甘い匂い。誰かの為に手を動かす誰か。レモンの香りに思い出せば、秋は? 冬は? と、想像する。そこには、必ずクルシェがいる」

「思い出しても、良い場所じゃ無いのでしょう?」

「どうしてそう思う?」


 唇を噛んで言葉を止める。


「噛むのは駄目」


 口元へ手を伸ばせば、身を固くしたのを繋いだ手から感じる。

 なので、俺は手を止めた。


「噛むくらいなら、話して」


 手を下ろして、促す。

 迷いが、瞳の動きで伝わる。


「大丈夫。誰にも聞こえないから」


 この場合の誰かは、グレイだ。

 後ろを気にしたクルシェは、ゆっくりと歩き出した。


「殿下は、私が七歳で当主となったのはご存知ですよね?」


 密やかな声。

 俺だけが聞き取れる、とても小さな声。


「屋敷が今みたいになったのは、五歳の頃でしょうか? それ以前? 子供過ぎて覚えて無いのです。兄様達に抱き上げられて、自分より小さなレミーネと遊んでた。なのに、何故何時も通りの毎日が終わってしまったのか? 本当に覚えて無いのです。ですが、一つだけ…。何故、お母様は辛そうなのか、笑わないのかとお父様に聞いた覚えはあるのです…」


 顔を上げていても、何処も見ていない様な眼差しに、ジクジクとした胸の痛みを感じる。


「それから暫くして、突然…ジェイド様が出入りする様になったと思ったら、お母様と結婚すると教わりました。私の世界は、レイナードの屋敷とお父様の暮らす別宅を繋いだあの場所だけです。私は、兄様達と過ごすあの場所が無くなるのかだけ気にしてました」


 誰にも話した事も無い彼女の心。


「気が付いたら、屋敷からお母様は居なくなり、当主となってました」


 クルシェが俺を見上げた。


「後から、あれはこういう事だったと分かりました」

「うん。でも、何で良い場所じゃ無いって思うの? クルシェにとって、どんな所なんだ?」

「…お父様と一緒に居られない。お母様にも連れていって貰えない。そんな私の為にお父様が作った場所だから」


 躊躇いながらも言葉にした。 

 だけど、そう言ったくせに、とても傷付いた顔をしてる。

 それに対して俺は首を傾げてしまう。


「それこそ、聞いてみないと分からない事だろ?」

「聞けません…」

「離婚して、レイナードを出なくてはならないハロルドが、どんな思いで別邸を建てたのかも?」

「聞ける、訳なんか…」

「離婚から再婚まで、二年? あったのに、ハロルドはクルシェから離れたくなかったんだろ! それこそ気にしすぎだよ」

「私の為ですよね?」


 クルシェの少し大きくなった声に、後ろのグレイだろうか、力を入れて踏み出したのが分かる。

 クルシェに分からない様に、待てと手を広げる。


「自分の為だよ」

「それこそ、聞いてみないと分からないじゃ無いですかっ!」

「聞かなくても分かるよ。貴族の子供が、表に出るようになるのは何時から? 自分より身分のある公爵家に、子供に会わせてくれって行っても、会わせて貰えない事だってある。それを回避したかっただけだろ? それは、ハロルドのわがままだ!」

「だって、本邸にだって…。上には上がって来ない」

「それこそ、男の見栄? 一線かな? これは、憶測だけど、後見人だって別の者をたてたんだろ? 縁が切れた公爵家には、口出ししない。だけど、子供の側には居たい。それだけだよ」

「…それだけ、ですか?」


 クルシェが呟く。


「それだけだよ。じゃなき、舞踏会のダンスでだって、あんな事しないだろ?」


 一月もまだ過ぎない。国での舞踏会を持ち出した。

 ハロルドはクルシェと踊ったのだが、あろう事か、途中でクルシェを抱き締めて曲の最後まで踊りきった。それだけで留まらない。抱き抱えたまま俺達の所まで来て、その終わりまで彼女を離さなかった。


「あそこまでする親は、今までだって一人たりと居ないぞ」


 そう言えばと、クルシェは思い出して俯く。

 苦しそうな表情が、少し和らいだ。


「確かに、人気の無い屋敷は寂しい。使用人と家族じゃ、どうしたって違うから。それだって、今だけの事だろ?」

「…今だけ、ですか?」

「子供だったクルシェには、辛かった事もあったかもしれない。今だって、思い出して寂しいと感じるかもしれない。だけど、夫を迎えたら? 子供が出来たら? 何人居たら賑やかになるかな。なら、反対に別邸は? レミーネは、何時まで別邸で暮らすのかな?」


 黙り込んだクルシェに、俺は、歩こうと促す。

 考え込む。おそらく、無意識に足を動かしてる。


「なら、何故苦しいのでしょうか?」


 ポツリと言う。


「心に溜めてるからだな」

「…心に?」

「ハロルドに言ったらいい」

「何て?」

「育てたのはハロルドなんだから、責任取って? 違うな…」


 ふふっと笑ったみたいだ。


「俺の娘の事に口出すな? ん”ーっ、これも少し…。でも、そんな感じでハレスに親顔させないでっとか?」

「お父様に言わせるのですか?」

「クルシェが言えば、絶対言う!」

「本当ですか?」

「絶対!」


 笑いながら、その頬に涙が伝う。

 朝日を弾いてキラリと光る。


「クルシェと一緒に、屋敷で暮らしたい。扉という扉を開けっ放しにして、子供とかくれんぼをする。疲れたら芝で寝転ぶ。親父殿と、妻を取り合うか子供を取り合うか…。クルシェの隣で過ごしたい。俺を、クルシェの夫にして」


 冗談だと思ってるのか? 言葉の意味がクルシェに伝わって無いのか…。聞こえて無いのか…涙はそのままにクルシェが笑う。


「取り敢えず、ハロルドに言ってみて。それで、その通りだったらご褒美が欲しい」

「何ですか? ご褒美って」

「俺の言ってる事、本気にしてないだろ?」


 俺が、求婚の言葉を言ってるって分かって無いだろ。

 そうとしか思えない。

 

「当たったら、俺を婿に貰ってっていうのは、行き過ぎだから…ここにキスして」


 目元の涙を拭って、ここにと頬をトンとする。


「俺は、しつこいかもしれない…。だけど、癖の強い舅と上手く付き合えるぞ。それに、俺の側近は、とても有能だからな」


 待て? 俺の側近? 他力本願なのか?

 自己嫌悪だ…。

 言ってから眉を潜めた俺を見たクルシェが、声をたてて笑いだした。


「アレク様は、有能じゃ無いのですか?」

「有能か無能かは、自分で言う事じゃないだろ?」

「そうですけど…ふふっ」

「先ず信じて。この前みたいに、クルシェの両手にキスしたら、グレイがすっとんで来る」


 顔を見ながら言うと、クルシェが頷く。

 彼女も、そう思うのだからきっと来る。


「ただ、この前と違うのは、クルシェを抱き上げて、さっさとその来た道を戻るかな? 当たったら、ハロルドに言ってみて絶対だから」


 サッと繋いでなかった方の手も取る。口を寄せながら「クルシェが好きだ」と言った。

 ようやく俺の言葉が通じたのか、クルシェの頬が赤く染まった。


「信じて!」


 そう言った瞬間。クルシェは、俺の言葉通り抱き上げられていた。

 後ろからで、意識していなかった彼女は、ひゃっと声を出したが、グレイの腕の力だけで反転されて、安定感のある縦抱きになっていた。


「そういう事は、止めて頂きたいと言いました!」


 グレイはそれだけ言うと、来た道を戻る。

 グレイの腕の中から、俺を振り替えるクルシェに見える様に、俺は頬を叩いてみせた。


 彼女の言葉は、俺だけが聞いた。

 親兄弟にも言わなかった気持ち。

 それを口に出せるほどには、心が近くにあると願いたい。

 泣いた顔も笑った顔も、見たのは俺だけ。今の一時は、俺だけだ。







 





 






今話もお読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ