第二王子アレックス殿下の待機時間
離宮に一泊したコリニアス殿に鍛練に誘われたので、早い時間から外に出た。
手合わせかと剣を持てば、軽く笑われた。
眠いだろう目を擦りながら合流したクロイスと一緒に、持たされたのは丸太。動きを真似る様に言われて動き出せば、型の足さばきだと気付いた。丸太の重さに、腕と足腰に負荷がかかる。
下がる腕を持ち上げ様とすれば、奥歯へと力が入る。汗が流れるのに頭を振れば、視界のすみにクルシェの姿が入った。
近くに行きたい気持ちを押さえ付け、体を動かした。
もういいだろうとコリニアス殿が、自身の持っていた丸太を下ろし、クロイスを抱えあげたが、俺は彼女の側へは行かなかった。
何故か…。息が上がっていて情けなかったからだ。上がった息を落ち着かせる様に、今度は剣を手に型を辿る。
そのうちに彼女もクロイスも居なくなっていた。
どんだけ駄目な男なんだ俺!
コリニアス殿は、汗を流す事無く、馬に乗り滞在先の王宮殿へと戻って行った。
「あまり勝手をしては、皆に悪いからな」
その一言に、自覚があったのかとびっくりさせられた。
自覚があっても、これ…。回りの者の苦労を察した。
汗を流して朝食をとる。
何時もなら、クロイスと二人食事に出てくるが、二人の姿は無い。
クロイスが疲れてる。
誘えば二人で庭の散策もありかもしれない!
本当に二人きりにはならないのは分かってる。必ずグレイもついてくる。だが、クルシェの反対に、何時もクロイスが居るという事はない。
俺は、何事も無しを装おってクルシェ達の部屋への廊下を歩く。
向かいから歩って来るのは、ハロルドの秘書。セニエルから始まり、この旅でも世話になっているキアン。
キアンは、廊下の端に寄る。
俺は頷き、その横を通り過ぎる。
「あっ。殿下!」
キアンの声に振り返る。
「先に謝っときますね。ごめんなさい」
そう言うと、背中を向けて行ってしまった。
謝られる覚えが無いので、何だろうと首を傾げるしかない。
彼女の部屋の前に立つ。
扉の前には、警護の者が立つ。
開けてくれと促せば、中から開かれる。心浮き立てば、出てきたのはグレイ。くちに指を当ててる様子から、静かに中を伺うと、ベッドの上に彼女とハロルドの姿を見た。クスクスとクロイスの笑い声も聞こえた。
俺には遠慮してもらいたいという事…か…。
来た廊下。扉一つ分を俺は言葉無く戻った。
「あれ、クルちゃん誘えなかった?」
部屋に戻っていたイヴァン。
そうだ。誘えなかった。
俺は閉めた扉を背に座り込んだ。
何故だ…。
距離を縮めたくても、中々上手く行かない…。
コンコンコン
軽やかなノックの音。震動が背中に伝わる。
俺は上体を倒して扉が開くのに備える。
「イヴァン。でん、っか?」
レインに蹴られた。
俺は気にするなと手を振って体を起こす。
「殿下、申し訳ありませんっ!」
「大丈夫だ。で、何だ?」
「キアンさんが、高官の打ち合わせに出て欲しいそうなんですが…」
「…そうか。分かった…行く」
なるほど、だからごめんなさいか…。




