女公爵クルシェ嬢 草原の王子を少し知る
1話目にシルフスト国登場人物を割り込みしました。
最新話は次になります。
花園に、 殿下達が戻ってきた。
本当に行って帰ったのかは、同行者でないと分からない事だ。
ただ、シュニティア姫を中心として集まる私達を見て、殿下はギョッとし、コリニアス様は成程美しいと言った。
同行の皆様が座るのも待たず、シュニティア姫が立ち上がる。
「意義のある時間が過ごせましたわ。詳しくは、それぞれのお華にお聞きになってね」
シュニティア姫がコリニアス様へと手を差し出し、手を取り合う。
私達に付いてくるように言うと、先を歩き始めた。
歩くのは、建物を繋ぐ回廊だった。
根に持つ様だが、やはり、普通に道は存在するのだと実感。
シュニティア姫達を前に、後ろをティアリナ姫とクロイスが歩く。
しばらく歩くと、コリニアス様が立ち止まる。クルっと振り返り数歩戻る。歩幅が広いので、私達を通り過ぎ、クロイスの前に立ったと思ったら、あっという間に抱え上げていた。
「子供の歩幅では、遅れない様に歩くのも大変だろう」
「大丈夫です。着いて行けます!」
「遠慮するな。ティアリナ姫もどうだ?」
ティアリナ姫は、一歩下がる。
「コリニアス様? 小さい者をやたらと抱え上げるのは、止めてくださいとお願いいたしました筈ですが?」
シュニティア様が注意をするが、聞く気は無いようだ。
じたじたと身を攀じるクロイス。コリニアスの腕はビクともしない。
「私とも仲良くしてくれと言ったら、はいと言ってくれたでは無いか」
「だからと言って、抱え上げられるのが仲良くだなんて、思う訳ないです」
「そうか? だか、アレックス殿には付き合うのだろ? ならば、私とも付き合ってくれ」
有無を言わさない態度…。
知ってる。私はこういう人を、何人か知っている。
幼い子供にやたらと構いたがる。単に子供好きの一言では収まりきらないのは、相手が無尽蔵の体力を有してるからだ。そう、騎士団のおじ様達だ。職務中はキリリとしていて強面で敬遠されたりもするが、相手が怖じないと分かればグイグイ来る。
改めてコリニアス様を見れば、おじ様達と同様の感じがする。日焼けした肌に、厚い胸板。クロイスを抱える腕は筋肉の盛り上がりで、パンパンとしている。
諦めてとしか言えない。
きっと満足するまで、構う事を止めてはくれない。クロイスを助ける事は、暫く無理だと思った。
アレックス殿下の腕に逃れても、程よいところで構い直されるのが、何となく分かってしまっていた。
此処で立ち止まっていても仕方が無いので、クロイスには、そのまま我慢してもらうしか無い。ついでにティアリナ様も、幼子の手を引く様に繋がれていた。抱え上げられるよりはと妥協したのだろう。
若干二名の表情が浮かないものであっても、コリニアス様は上機嫌だった。
サロンに通されて、殿下と共に並んでコリニアス様の前に座る。姉の元に帰るかと、ようやく解放されたクロイスは、クタクタのヨレヨレだった。乱れた髪を指を通して撫で付けると、蒸気した頬が表れた。
「ところでクロイス殿の着ているのは、アレックス殿もそうだが、草木織りの物か?」
コリニアス様は、目でクロイスを追っていた。しつこくして嫌われる前に、一度離れたといった感じだろうか?。
「そうなのです。コリニアス様! 私達も先程知ったのですが、草木織りです。恐らく、ビデディアの物ですよね、クルシェ」
シュニティア姫の言葉に曖昧に頷いて返す。
アレックス殿下は、どの様に切り出すか思案顔だ。
「アレックス様? 恐らく、ビデディアとの交流を目当てにいらっしゃったのよね。ならば、その方には、政治的貴族的な物言いは無駄でしてよ」
シュニティア姫がコリニアス様を忌々しそうに見る。
見られたコリニアス様は、苦い笑みを浮かべて耳の後ろをかいていた。
「シュニティア姫の言う通りだ。山の上で馬に乗るのが得意なだけの男だからな。出来れば殿も様も無く語らえるのが好ましい」
「お話しになるならこのままどうぞ? 後、七日程の滞在ですもの、時間は短くてよ」
それよりも、と、シュニティア姫はクロイスを手招きした。一瞬、腰の引けたクロイスだが、シュニティア姫とティアリナ姫と一緒に、離れた場所に座った。
その様子も気になったが、目の前のコリニアス様だ。
殿下と目配せを交わす。
「シュニティア姫の言う通りです。ビデディアから王子が来ていると知って来ました。コリニアス殿は、この国に、何を目的として来たのですか?」
プハッと息が吐き出された。
「嫌、馬を買い付けたいと言われたので、その交渉だ」
「ならば、婚姻によって国を結ぶ事は無いという事でしょうか?」
「直入だな」
「それを望まれましたので…」
「俺に関しては無い。そっちはどうだ?」
額にかかる前髪を摘んで「この国は居心地が悪い」と言った。
「私に関しても、この国の方に求婚する予定は、今後も無いですよ」
「俺に会う理由の為に仰々しく来たのか?」
アレックス殿下が考え込む。何故考え込むのですか?。
「すみません。彼女と一緒に居る為です」
「それを俺に言うのか、俺はついでか?」
「お気を悪くさせたなら申し訳無い。沢山の意味で彼女と居る為です」
コリニアス様は、顔を顰めてアレックス殿下を見ている。
私は、臆面もなく言い切る殿下を凝視する。
一々私の話題を入れないと、会話してはいけないとかって決まりは無い。無いので、本当に止めてもらいたい。
「ご覧になれば分かると思います。これはご指摘の通り草木織りです。コリニアス殿、貴方に手っ取り早く興味を持ってもらう為に、同行の高官達が用意したものです。私は彼等の代表者に過ぎない」
「なら、何故ついでのように言う」
「同じ目的でも、根源はそれぞれ違うかと…。共に来た者達は、貴方の国との対話を望んでいます。勿論私もですが、決意の時点で彼等に劣る。私は彼女に憂いが無い事をのぞみますが、国の平穏の為に動く者こそ、話し合いの場に相応しい」
「その対話に何を望む?」
「小競り合いの無い国境を」
「何時も攻め込む側にそれを望むのか」
「小競り合って、その度に怪我人だけを出すのは無意味です。その無意味な事をどうにかしたいと思っている者。その者達と話す機会を頂きたい」
バチッと大きな音がした。見ればコリニアス様が組んでいた腕を解き、自身の両膝を叩いた音だった。
ガッと立ち上がったコリニアス様は、クロイスの元まで行き抱き上げた。クロイスの上着の背中を私達に向けながら「会う」と言った。
「この織りの模様は、母の部族のものだ。俺へのメッセージだろう? これを知る者が、貴国には居るのだな!!」
コリニアス様の乱入で、話を切られたシュニティア姫はきつい目で見上げてる。
「だから止めて頂きたいと言っているでしょ? 大きい体でいきなりされると、周りの迷惑ですわ」
「小さい事ばかり気にするな」
「小さいでは無いのです。危ないと言っていますわ!」
「クロイス殿も、視界が高くなったりすると楽しいだろ?」
「僕は振り回されるのは好きじゃないです」
「遠慮する事はないぞ」
「コリニアス様っ! ここは草原でも何でも無いのですわ」
確かに、室内では止めてもらいたい事です。
だけど、コリニアス様は、とてもおおらかな方だという事は、良く分かった。動きは大きくて、雑な様でも、クロイスを見る目が優しい。
離宮に戻る馬車の中。クロイスと並んで座る。
色々あったと振り返れば、色々あったその内の一つは、殿下と並んで馬を走らせている。ビデディアのコリニアス様だ。
コリニアス様の同行が、とんとんと何時の間にか決まっていた。
そのコリニアス様が、やたらとクロイスを構うので、クロイスが警戒して私の後ろに、果ては同行のグレイ兄様を見付けて逃げて張り付く。なのに、何時の間にかコリニアス様に抱えられていた。
ぐったりと寄りかかり、投げ出された手足が疲れを物語っている。
離宮につくまでにクロイスは深く眠っていた。
馬車が止まり次第扉が開かれる。
コリニアス様が眠ったクロイスを慣れた手付きで抱き上げたが、クロイスの従者のヨシュと侍女のマーナが、見知らぬ者の手にある主の様子に平静では無いと感じたか、渋々と従者にクロイスを渡していた。
隣に立った私に、一緒に暮らしてるのかと聞く。
「いいえ。ルーキンスとシルフストに別れてですわ。どうかしまして?」
「貴女は、彼を愛おしいと思うか?」
「勿論です」
「なら、いいんだ。子供は可愛いものだからな」
側に立つアレックス殿下に、案内をとコリニアス様が歩き出す。
コリニアス様の事は、殿下にお任せしよう。殿下自身、願っている者との話しの方が、きっと良いと判断されたのだろうから。
私は、深く眠るクロイスを置いて部屋を出た。お父様に、今日の事を話そうと思ってだ。でも、出た所にアレックス殿下とイヴァン様とレイン様が立っていた。
「ハロルドの所に行くんだろ?」
「はい。殿下は?」
「俺達もだ。別で動いてる状況も知りたいし、花園で何があったかも知りたい」
「知るも何も…。お父様は、殿下にご報告はしないのですか?」
「報告…か。俺は、王子という大義名分だから、ハロルド達の邪魔はしたくないんだ」
「だからと言って、それでいい訳ではありませんわ」
「今回はこれが最善。分かってない者が先頭に立ってお膳立てを無駄にするぐらいなら、役割を果たして目的を達した方が、誰の為にもいいだろ?」
そう言う殿下の顔は前を向いている。
「それこそ出立直前に色々詰め込まれたから、ボロを出さないかの方が俺の中では重要。コリニアス殿がああまで興味を持ったのも、そこまでのお膳立てのおかげじゃないか」
私から見える横顔は微笑んでる。
「それで、シュニティア姫達と何を話したの?。ギスギスしてたのが改善されてたけど」
「ハレスのお義父様が、ルーキンスで私の結婚相手にと、今日のご子息方に声を掛けていらしたそうですの。婚約者もいらっしゃる方々ですので、皆様、お困りの様でした。他にも声を掛けられてるだろうからと教えて頂きましたわ」
殿下が足を止めます。殿下の手が頬へと伸びて来て、触れるかというところで止まっています。
「ハロルドに話さないと…。クルシェ…俺が求婚してる事、忘れないで」
そうだったと頷くと、殿下はほっとした顔をしてゆっくりと歩き出していた。横に並んだ私も、ゆっくりと歩く。
お父様の待つ部屋までゆっくりと…。
無言である事がくすぐったく思えた。
今話も読んで下さりありがとうございました。




