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女公爵クルシェ嬢 人の思いはそれぞれと…

昨日から今日。見えなかったものが見える。そんな風に表現をしたいと思ったのですが、上手く伝えられるかが心配です。

クルシェを取り囲む暗がりの一つです。

ルーキンス行きの前に、領地に立ち寄って二日目。

ダリル兄様、グレイ兄様、ロレイン姉様と旦那様のルイス義兄様。私にレミーネとクロイス。私の兄妹、皆で来た。

ルーキンスに帰るクロイスをお祖母様に会わせる為に。と、私は思っているのだけど、クロイス曰く「私の成人を皆で祝う為」なのだそうだ。

それにはお祖母様は不可欠。たとえ短い日数であろうと、外す事は出来ないと主張していた。

それはそれでお祖母様とクロイスを会わせる事が出来て、皆で集まれて、自分のお祝いまでしてくれるのだから嬉しいとだけ言っておく。

昨日は、着いたところからクロイスとレミーネが、料理を作り出し、試食と言っているうちに皆が満腹となる事態があった。

だから今日は、クロイスの調理場への立ち入りは禁止だ。

今夜は、お祖母様の方でご馳走をしたいのだそうだ。

そしてクロイスの予定していたお祖母様の前でダンスだ。飽くまでもクロイスが言っているだけだけどね。でも、気恥ずかしくても、見てもらいたい気持ちは私にもある。

夕刻に向けて支度に掛かっているところで、あの日に着たドレスに着替えたところ。髪を結い上げ同じに髪を飾る。

鏡に映った自分、思わず思い出した恥ずかしさで、顔が赤くなっのが見える。


支度が終わるのを見越してダリル兄様が迎えに来た。

ここで合流予定のお父様とアレックス殿下方も着いていると言われると、一気に鼓動まで早まる。

何故と聞かれたら、あの恥ずかし事を知ってる人達に会うのだ。動揺するなという方が無理だと理解して欲しい。

ダリル兄様に手を取られてサロンへと入る。

支度を整えたのか、さっぱりとしたお父様とアレックス殿下が居た。白いシャツと黒や紺のトラウザーズ姿。畏まった格好をいているのは私とクロイスだけ。いくらクロイスの要望でも、この場で着飾った自分が恥ずかし過ぎる。


「ねっ! お祖母様、姉上は綺麗でしょ?」


ぴょこっと立ち上がると、私に向かって歩いて来る。出された手を取ってお祖母様に、二人で礼をする。

そのまま踊ろうと言い出されるかと思ったが、お祖母様の所まで行って、二人でお祖母様を挟んで座った。


「本当に、素敵ね」


クロイスを見ながらお祖母様。


「お祖母様! よく見て下さい。素敵では無く、綺麗でしょ?」


クロイスの言葉に、お祖母様は私を見た後クロイスに向き直す。


「ええ、綺麗よ。二人で並んだ姿が素敵と言ったの」

「アレクもお祖母様に教えてあげてよ。僕とアレクが居なかったら、どれだけの男が姉上にダンスの申し込みをしようとしてたかって!」

「…? 一度も声を掛けられなかったけど?」

「女性の視線には気付くのに、あれだけ熱い視線を向けられてて気付かなかったのか?」

「姉上? 姉上はとても美しいのですよ? あれだけアレクと中央で目立っておいて、興味を持たない男なんて居ないのですから」

「そうね、クルシェはにはお嫁さんに貰ってくれる人を探さないとね。これだけ綺麗なのだから、クルシェに夢中になる殿方も多いわね」

「違います。婿入りできる者をですよね」


そう言ったクロイスに、お祖母様は少し考えてから、アレックス殿下を見た。


「どちらのお家の方かしら。お家をお継ぎになるの?」


ゾッとした。

アレックス殿下を第二王子としては紹介していなかった様だ。隣国とはいえ公爵家のクロイスが、年上の他人に気安い以上の口をきいているので、お父様と一緒の外交の仕事についている身分の低い人間と思っているのかもしれない。

殿下は静かに二番目ですと答えてくれていた。

当たり障り無い会話が続く。

昨日の様な和やかさが消え、クロイスが緊張していくのを感じた。

大丈夫ですよ、クロイス。







明日は出立だからと早目に切り上げて、皆がそれぞれの部屋へ引き上げていく。

就寝の身支度を整えるところ、ドレスから部屋着に着替えた私は部屋を出た。ダリル兄様が、待っていた。見上げれば静かな瞳で私を見ている。

無言で歩き出した私の後を、言葉無く付いてくる。


お祖母様の部屋の前へと立つ。

訪ねる事は伝えてあったので、そのまま招き入れられる。

お父様とクロイス、アレックス殿下が先に居た。

何で殿下まで居るのかしら? 疑問に思ったが、案内されるままに座った。


「クルシェも揃ったわ。ハロルドのお話って何かしら?」


私が話があると言ったのに、お父様からもあるのだろうか?

だけどお父様? 私が話があるのです。


「お祖母様。私から先にお話しても良いかしら」

「クルシェ? 女が出しゃばるものでは無いわ。もう当主だからと男の様な事をしなくて良いのですよ?」


男の様な事など、した覚えは無い。


「当主だからでは無く、当主です」

「でも、子供が産まれたら、クロイスがレイナードを継いでくれるのよね?」


クロイスの顔が苦痛を感じた様に歪む。

何処でそんな話が出たのだろう?


「クロイスからは、何も聞いていませんわ」

「聞くも何も、任せておけば良いのです」

「何方にですか?」

「殿方達にです。クルシェは、家の事はまかせてお嫁に行けばいいのですよ? 早くしないと婚期もあるわ」

「お祖母様。クロイスはハレス家の嫡子です。子供が産まれても、それは変わりません。そして私も当主である事は変わりません」

「自由になれるのに、何を言っているの?」

「当主だからと、不自由を感じた事はありません」

「そんな口の利き方許しませんよ」


睨み付けてくるお祖母様。

許さない? 誰に許されなくてはならないのだろう?


「ルリーシュも、思ってくれる方に嫁いで幸せになったの。だから貴女も、嫁いで幸せになるのよ!」

「何方が私を幸せにしてくれるのですか?」

「セニエルのお兄様も言ってくれてるの、クルシェを迎える用意があるそうよ? 貴女が気に入らなければ、その後の事をハレスだって考えてくれるでしょ?」


セニエル伯爵家。お祖母様のご実家。そのご実家の、既に当主を降りた男が何だと? 縁戚であっても付き合いの無い、格下の伯爵家が公爵家当主の私に、何をする用意があると? 公爵家の全ての権利を放棄してジェイド様に嫁いだお母様。そのハレス家が、このシルフスト国で、どんな権利があるというのだろう? 私に、あちらに嫁げと…?

静かに、とても静かにお祖母様へ問い掛けた。


「だって、ハロルドの娘が面倒を起こしてしまってレイナードは大変な事になってしまったのでしょ? そんな面倒を貴女が背負う事は無いのよ。だから、ルーキンスに行くのよね?」


お父様が遅れて来た訳が分かった。アレックス殿下の同席の訳も、何となく…。

クロイスが言葉を探している様だが、私は静かに止める。


「誰がそう言ったのですか?」

「ロナウドよ。お兄様から聞いたのですって」


ロナウドは、セニエルがお祖母様に付けていた従者。お祖父様が亡くなって、お祖母様と一緒に領地へ来た。領地采配を任せていた男。


「そうなのですか? 得に大事にはならなかったのですが…」

「クロイスが予定を変更する程の事だったのでしょ?」


私は立ち上がってお祖母様の足元に膝を付く。


「お祖母様? 私は私をを好きになって下さって、私も好きになった方と一緒になりますわ。だから心配なさらないで。クロイスがレイナードを継ぐ継がないも、産まれた子が女の子だったらどうなりますか? 確かで無い事をクロイスに聞かせてはいけません」


そこに居るのだとお祖母様に意識させる。


「ハレスからクロイスを取り上げて、私が、お祖母様の言う自由になっても、産まれた子が女の子なら、もう一人私が出来てしまいます。お祖母様、その子が可哀想だと思われませんか?」

「そうね…」

「産まれても無い子に期待をするのは、お母様にとっても負担だと思いますの。ですから今は、無事に産まれる事を願いましょう?」

「その通りだわ。クルシェは優しい子ね。だけど、何時になったらクルシェが幸せになれるのかしら…」


お祖母様は、私を可哀想な子だと思っているのだと、改めて知った。

でも、愛して無い訳では無いのだろう事は、何となく分かる。それは、私やクロイスが望む形で無いというだけの事だろう。


「お祖母様が私達を愛してくださって、心配をかけてしまっている事を申し訳なく思いますわ。一つづつ心配事を片付けて行きましょう?」


今の私の心情を、お祖母様に言っても無駄だろう。そして、聞いた者を傷つける。


お祖母様を抱擁し、小さくなった体を確かめる。子供ながらに柔らかいと思っていたお祖母様の腕は細く頼りないものになっていた。







執務室へ場所を移した。もう、お祖母様の前でする話では無い。

ダリル兄様に連れられて、ロナウドが待っていた。


「ロナウド? 貴方が仕えているのは何処?」


私は、顔からも声からも感情を消す。

答えようとしないロナウド。


「ロナウド! 貴方が仕えているのは誰?」


渋面を浮かべた後、小さく「奥様です」と聞こえた。

この男は、お祖母様を「奥様」お母様を「お嬢様」と呼ぶ。

私に仕えた訳でも、レイナードに仕えていた訳でも無いのだろう。


「ロナウド。お前は要らない。お祖母様に近寄る事も、領內に留まる事も許さない。直ちに出て行くように」


この男にかける言葉など何も無い。


「ダリル兄様? 屋敷内で、ロナウドと同じ考えの者にも暇を出す様にに手配して下さい」


そう言って退室を促す。

残ったのは、泣きそうなクロイスと表情を消したお父様。何故かまだお付き合いでこの場にいるアレックス殿下。

付き添ってもお父様が何も言わなかったのは、レイナード家の事だったからだろう。


「お父様? お調べになっていた事の詳細は、やはりセニエルでしたか?」

「その様だった。娘を動かしたのもセニエルで間違いは無い」


そうですかと呟く。


「クルシェ。夫人は話を聞いただけで、動いてはいないよ」


だから、愛情は疑うなと? お父様の言葉に、心の中で反発する気持ちが産まれる。


「対応は…このままダリル兄様にお任せしても大丈夫かしら?」

「取り敢えず、帰って来るまでの対応は任せるしか無いな」


そう言うと、クロイスを連れて出て行った。


「アレックス殿下は、王都で、お父様と御一緒でしたの?」


目の前に残ったアレックス殿下に話し掛ける。


「どういう意図があれ、エドガーが絡んだからね」

「そうですか。…そうですよね…」

「クルシェ?」

「陛下にもお詫びを頂きましたが、問題はレイナードにありましたわ。申し訳ございませんでした」

「そんな事今は…」

「アレックス殿下? 明日は出立ですし、お休みにならないといけません。どうかもう、お部屋にお戻りになって下さい」


どうにか言葉を絞り出し、物言いたげなアレックス殿下も、出かかる言葉を飲み込んで「お休み」と執務室を出てくれた。

そうして…ようやく私は独りになれた。

瞼を閉じると、肺の中が、空っぽになるくらい息を吐き出した。

空っぽ。

心の中も頭の中も、空っぽになってしまえばいいのに…。





女の幸せ。女に限らず人間としての幸福感は、人それぞれです。周りの人の思惑はどうであれ、彼女の幸せまでを書きたいと思っています。

それまで、お付き合い続けてもらえるなら嬉しいです。

それから、一話挟んでルーキンスと書きましたが、もう一話入ります。


今話もお読み頂きありがとうございました。

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