女公爵クルシェ嬢 領地で姉と語らう
クロイス達とお祖母様のおしゃべりが耳に嬉しい。
「お祖母様も食べて見て下さい」
クロイスが言い出して、レミーネと共にお料理教室開催となった。
家に帰れば、自分で作って出したいクロイスの練習の場となってる。
ハレスの家で、調理場に入る事が出来るのかは疑問だが、今が楽しそうなら…良いだろう。もしもの為に、レシピも書き込んだ。駄目なら料理人が作るだろう。
調理場にお祖母様の座る椅子を持ち込み、出来上がっては、味見をしてと足を運んでいる。
私は…春先に手配した領地計画の現報告を受けていた。
今年は農地水路の延長に力を入れている。水路と同時に、ため池も試している所だ。ダリル兄様と、進行状況と現段階の作付けの確認をいていく。
山間に広がる領地は、平面が少なく、多くの麦の収穫は望めない。
私とダリル兄様は、安定した食糧生産を目指している。
目指しているのだが、斜面を利用した果樹園が多い。果樹だけでは、冬場の蓄えには足らない。
公爵家の領地とはいえ、宝石が出る山を持っている者ばかりでは無い。
色々考えても、私の出来る事は本当に少ないのだ。
「クル?」
思わずのため息に、ロレイン姉様が声を掛けてくる。
「エルンストもそうだけど、山間を領地に持つ者は山間の苦労があるわ。考えもしないのはただの愚か者だけど、考え過ぎて空回りするのは馬鹿よ?」
少し力を抜きましょう? と背中を撫でられた。
「滞在も僅かなのですから、詰め込んでも益が上がるとは限らないですからね」
ロレイン姉様にダリル兄様が答える。
「そうよ! 折角クルに着いてきたのに、難しい事考え始めちゃうし…つまらないわ」
「でも、見直しておきたかったのです」
「全部任せてしまいなさいとは言わないわ。クルの仕事ですもの。でも、もう少し力を抜いてみて? 柔軟さも大切よ」
そこでコレよと、ロレイン姉様が瓶詰めを並べる。
領地で採れた果樹の実を、それぞれシロップ漬けにした物。
「ルイスやグレイにも聞いたのだけど、アレックス殿下の護衛達に振舞ったお茶やお菓子! 詰所でも食せないかって要望があるの!」
何ですかそれ…本当ですか?
「アレックス殿下が屋敷に来た時。流石に出した冷菓は持ち帰れ無いけど、飲んで下さいって水筒に入れたのを侍女が渡したんですって。折角氷が入ってて冷たいからどうぞって」
それは侍女が気を利かせただけで、私は何もしていないのではないでしょうか?
それに、ただのミント水ですよ?
「馬鹿ね! 夏場の氷は強みよ! 王都まで三日無いし四日の距離。これからの時期、飲食に携わる者にとってはぜがひでも確保したい物じゃ無いの。ため池だって、農水じゃなくて、氷の切り出し用でしょう?」
「姉様? それと騎士団と瓶詰めに、何の関係があるのでしょう?」
「そうねぇ…氷に関しては、騎士団の予算で購入は無理ね」
でもね…と続く。清涼感を出そうと思って入れたミント。ぬるくなった飲み残しを、たまたまこぼしてしまったが、体にかかった部分に思いもしなかった効果がと報告があった。
医療武官に問い合わせると、確かにそういう効能有り。
私達は、侍女達が用意する物を使って知ってたけど、鍛錬後の汗を水場でザバッと流す脳筋達は知らなかった。
だ、そうだ。
だけど、一度植えれば、ドバッて増えるミントですよ?
「学園で焼き菓子渡したでしょ?」
お話が氷から飛びました。
はいと、お返事をしておきます。
「それから作りすぎたからってお裾分け」
これも、はいと言っておきます。
「護衛を任される第一師団では、アレックス殿下の護衛争奪がおきている!」
そう言って「ふふふ」と笑う。
姉様? 悪戯そうな顔をするとお父様ににていますよ?
「何ですか、それ…」
「高確率で、レイナードに行くからよ」
「だからって…」
「護衛が出先で、何でも口にするのは褒められた事では無いけれど、心遣いが嬉しいって、誰にでもあるでしょ?」
まぁ、今回は第二師団で争奪戦があったのだけれどね。と、ダリル兄様の用意したお茶をのみながら誇らしげに笑う。
第二師団で争奪戦…。ロレイン姉様にルイス義兄様がついてきたのは、やっぱりクロイスの護衛の為なのですね。クロイス自身のルーキンスからの護衛は居るけど、こちらの国で何かあった場合を考えれば国からも護衛をつけるのは当然の事なのだろう。
ですが、姉様? まだ話の確信に辿り着きません。
「第二は、グレイが居た時のクルとミーネを覚えてるのが残ってるの。一杯食べて貰いたいからって、二人が持ち込んだ差入れ…。それがね、第一に持って行かれるのが我慢出来無いの、ですって!」
肩まで震わせて笑っています。
「姉様?」
「んふふふはぁふふ」
口元を押さえてますが、押さえ切れない笑いがこぼれます。
「可愛い子からの差入れは、仕事のモチベーションの為に必要な事だって力説されて、ルイスも閉口させられたのですって」
「でも、作ってるのはレミーネですよ?」
「馬鹿ね。作る環境は誰が用意してるのよ? 今だってグレイやルイスに差入れしてるでしょ。それをね、自分達も分けてくれってのをね、真面目に提案してくるのですって」
「そんな…の…」
「ヴァイス様やギース伯父様の所にだって出入りしてて、皆、上を気にして表立ちはしないけど、クルもミーネも、すっごく人気があるのよ。知らなかったでしょ?」
知らなかった。全然、知らなかった。
兎に角…人気って何でしょう?
「お断りしてますが、レイナードに護衛警備の仕事は無いかと問合せもありますよ」
「そうなの?」
「何でですか?」
「お嬢様が…クルシェが学園に通いだしてから増えてます」
それは、いったいどのような事なのでしょう?
可愛がられているのは知っていましたが…よく分かりません。
「まぁ、要注意だわ」
「ええ、要注意です」
「お父様も大変だわ」
「握り潰している事もありますよ」
「まぁ、では申し込みもあるの?」
「…かなり」
ダリル兄様とロレイン姉様との間で話が進んでいく。
私…入って行けません。
所在無さげにお茶を飲む。
「クル。何で知らない顔してるの?」
「知らない顔してませんよ、知らないだけです」
「もぅ、拗ねちゃ駄目よ」
「拗ねてませんよ。作ってるのはレミーネです」
「だからね? クルはクルで、作ってるじゃ無いの!」
ロレイン姉様が瓶を手に取りコロコロ転がす。
その瓶の中身は、領地の人ですよ?
「お砂糖…? 既存の物では無いもので作ってるのよね…」
はい。カブの様なお野菜から作ります。取り敢えず、果樹園の端っこで栽培してもらっています。作るには、結構な薪も必要になります。
ですが、それも領民が作ってますよ?
「甜菜という植物ですが、持ち込んだのお父様ですよ? レミーネが料理に興味を持ってから、何だか色々と…。それを領地で栽培してもらってるだけじゃ無いですか」
「もぅっ! クルのお馬鹿!!」
また、お馬鹿と言われてしまいました。
言ってやってと、ロレイン姉様がダリル兄様に向き直ります。
「自給や冬場の蓄えで言ったら、我が領は弱いです。今の取り組みがそれですので、長期でみたら矢張り取り組まなければならない事です」
それは変わらないと、ダリル兄様。
「現在、甜菜の栽培収穫は希望する各々でしてますが、生成は領主館で一纏めにしてます。自家で使う者も居れば、買い取りを望む者も居るのです。なら、領主館で買い取った物はという事ですが、元来の砂糖に比べて安価ですので、取り引きを願う者も居ます」
「それって領地以外から?」
「そうです」
「ねっ! クルのお仕事は御領主当主なのだからそれでいいのよ」
何か強引に言い切られました。
ん? 言いたい事は言ったかしらと、ロレイン姉様が指を折ります。
「クルとミーネが可愛いので騎士団で人気。氷も売り込み次第で領の収入になる。安価な甘味に注目あり…」
首を傾げて、「後、何かしら?」と呟きます。
「兎に角、出来る者が出来る事をすればいいのよ」
「そういうものですか?」
「そういうものよ。ちなみにレミーネは出来るので無く、好きだからでしょ? 好きな事が出来る環境。食べるのに困らない環境。それに心を砕いてるのはクルでしょ? 大丈夫。ちゃんと出来てるのよ」
これは褒めて貰ってるという事ですか?
そうなら、とても嬉しいです。
これは貰って帰るからまとめておいてねと、兄様に言って立ち上がりました。試食の行われてる調理場へと向かいます。
そうでした、ロレイン姉様は食べ専門でした。
残ったダリル兄様と目が合って笑ってしまいます。
ロレイン姉様は、私に力を抜けと言いたかったのかもしれません。
心配をかけてしまっているのでしょうか?。
ですが、結局騎士団のお話は、どういう事だったのか、ちょっと分かりませんでした。
可笑しい…姉に転がされるクルシェを書こうとしたのですが、言葉だけで、クロイスの時の様にゴロゴロと行きませんでした(泣)。
この後領地がもう一話入ってルーキンス入りする予定です。
今話もお読み頂きありがとうございます。




