表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/84

女公爵クルシェ嬢 お父様の手の中で踊る

前半と後半にアレックス殿下視線が入ります。

タグに学園と入ってるのに、初めだけで学園して無い事に気付きました。

学園はお休みなので、しばらく校外活動が続きます。

複雑な環境を伝えたいと思う事が、もしかすると、余計な話になってしまているかもと心配です。ですが、お付き合い頂ければ幸いです。

今宵社交界へとデビューを飾る令嬢達は、皆、白を基調としたドレスを身に纏う。

何度か屋敷に出向き、飾らない彼女を見ては可愛いと思っていたが…今目の前に居る彼女は格別だ。

グレーの髪を結い上げていて、おくれ毛の項を見れば、胸元と背中から首までを覆うレースで隠されている。レインからのドレスの報告を、もっとキチンと聞いておくべきだった。レースから覗く肌がたまらない気持ちにさせる。この国の物では無いデザインだが、奇抜さは無く、細身の彼女によく似合っている。

喉元を隠すレースで、送ったチョーカーは使われなかったのかと思ったが、結い上げた髪にあしらわれていた。

伏されたまつ毛の下で揺れる藍の瞳。

この手を取るのは俺だけであって欲しいと、切に願う。

彼女の全てを背負うのも、彼女と並び歩くのも…俺だけだ、と。







陛下との謁見を、クロイスと共に終えた。

九年ぶりに御目見する陛下は、先ず学園の事を詫びて下さった。

希望の物をと言われたが、何も要らないと辞退した。

爵位を継いだ七歳の時は、幼くとも力を尽くせと仰っていたと思う。あの時は独りだった。いや、直前までお父様と一緒だったと思う。でも、この場所では独りだった。あの時は心細さと緊張どっちが大きかっただろう? 良く出来ましたと抱き上げて貰ったのは覚えている。

今日は、クロイスが隣に居た。手を取り合って進み、同じく膝を折る。辞するまで独りでは無かった事がとても嬉しかった。

…今日は、上手く出来たのだろうか? 何故か気になった。


今は、パートナーであるアレックス殿下と並び、ファーストダンスを待つ同年の者達の中に立つ。

今日のアレックス殿下は、騎士の礼装を藍の色で仕立てた物を召している。殿下が騎士服であると思うと、守って貰える様で少し安堵する。

実は今日、私にとって最大の緊張事は、陛下との謁見では無い。これから始まるダンスだ。それはただのダンスでは無い。本来は男女の円を描き、相手を代えながら進むのだが…。二重の円の中央で、アレックス殿下と踊り続けるという、何とも恥ずかしい事をこれからするのだ。

その事を知った昨日、どうしたら不参加で済ませられるか考えた。考えたが、上手い回避の方法は考えつかなかったのだ。過去の王太子妃のデビューの時、王太子と踊った方法なのだとか…。待って下さい。私とアレックス殿下は、そんな関係では無いですよ? と、言ってもお父様には取り合って貰えない。何で? 如何して? 繰り返し聞いても必要だからの一言。「お父様なんか嫌い」と言っても、クロイスが会場に入り込む為だからとだけ、それだけしか教えて貰えなかった。何時もなら、無理に何かを強要する事は無いし、こうだからと理由を分かる様に教えてくれる。なのに、昨日は違っていた。殿下が居るので軽く練習はしたが、殿下を見送ると、クロイスと早々に本邸に引き篭った。

今朝は早い時間から支度に取り掛かり、屋敷をクロイスと出る時は、「行って参ります」と、挨拶をした程度だった。


「クルシェは緊張してるの?」


物思いの私の耳元に声が落ちる。

頭の中のお父様が少し遠い所に行った気がした。

学園でお会いした方も居れば、初めての方も居る。そしてこれから踊る大広間では、他の貴族達が取囲む様に私達の登場を待っている。


「緊張しない訳…無いですよ?」

「そう? でも一人では無いのだし」

「殿下は平気」

「アレク!」

「ふぇっ?」


耳により近いところから声が…くすぐったさに変な声が出た。


「アレクだよ、クルシェ。昨日約束したよね」

「約束したからって、それは…」


確かに気安く呼び合おうとのやり取りはあった。これからルーキンスへの往復路一緒なのだし、あちらでも同国の者同士、共に行動する事だろうから仲良くしようと提案された。だからって、直ぐに気安くというのは無理な話だと理解して貰いたいのに…。


「アレクは平気? 何を平気?」


…言い直せと?


「…アレク様は、平気そうでいいですね」

「平気? ん…平気では無いかな…」


そう言いながら視線を逸らされた。


入場の声が掛かる。

指先を包むアレックス殿下の手が、 大丈夫だという様に握り込まれる。

入場のエスコートの為に、肩の高さまで持ち上げられた手。目の高さに近く持ち上げられて気が付いた。アレックス殿下の袖口を飾る物が、頂いた真珠の飾りと同じ意匠。

気を取らて居るうちに、大広間の中央に立っていた。

両の手を取られて曲が始まる。

向かい合って、殿下に押されて後に下がる。殿下に引かれて前へ出る。右手を離されて大きく回る。再び向き合う殿下を見ると、私の手を待つその手にキラキラと光る真珠が見える。私は、私を待つ手を追うのに夢中になる。緊張も恥ずかしさも無い。同じ事の繰り返しが、とても楽しい。

気が付けば曲は終わり、最後の礼をしあっていた。

共に同じ曲を踊った者達が退場する中、私達はそのまま正面を向き軽く頭を下げる。

手を取り合う王太子と王太子妃。そしてクロイスが並んで歩いてくる。

アレックス殿下からクロイスとパートナーが代わる。

礼を取り合い少し離れる。


「姉上。元気過ぎるくらいに踊れと言われました!」


この子は緊張しないのかしら? そう思う程、何時もと変わりが無い。

身長差で当り前のダンスは踊れない。だから元気に何時ものダンスをとクロイスが跳ねる。

無作法と眉を寄せる者は居ない。格式ばった曲で無く、若い者達が元気に踊る曲だから。笑顔のクロイスが飛んで跳ねてクルリと回るのを、微笑ましく見てる。

物怖じしないクロイスを誇らしく思う。

クロイスと王太子のリードでパートナーが代わり、そしてこの曲も間も無く終わる。




クロイスは、ルーキンスのハレス公爵の嫡男。継承三位を持つ国賓として紹介された。レイナードの、姉のお祝いに駆け付けてくる程の仲の良さを、国同士の友好を願うものとして、暖かく迎え入れようという事らしい。

ダンスを踊り終えた今、そんなクロイスと私を、アレックス殿下と側近のお二人が囲む。

我が国シルフスト側のホストの立ち位置なのだそうだ。

だけど、私は居たたまれない。御令嬢方の視線が痛い。

クロイスを挟んだ向こう側に座るアレックス殿下。二人の話題はお父様の事だった。それに耳を傾けながら、私は嫉妬とも思える視線に耐える。


「クルシェ?」


アレックス殿下の声。

どうしたのかと顔を覗き込まれる。

クロイスも心配顔だ。


「お疲れになりましたか?」


レイン様が、グラスを渡してくれる。

いいえ、疲れてなんか居ませんよ? 辛いだけなんです。


「殿下は…」

「アレク」

「…アレク様は、もう踊ったりしませんの?」

「クルシェは踊りたいの?」

「いえ、私では無くて…」


此方を見ている御令嬢をチラリと見る。

と、それに答えたのはクロイスだった。


「アレクの今日の仕事は、隣国から来た社交に慣れない僕を接待する事です。姉上が踊りたいと立ち上がらない限り、僕の側を離れる事は無いです」


そうですよねと、クロイスはアレックス殿下に向き直す。

クロイスは、私以上に打ち解けている。


「クロイスの言う通りです。クルシェは踊りたいですか? …それとも誰か他に踊りたい者でも?」

「そんな方は…。ですが、殿下やお二人と踊りたい方だって居ると思いますのよ?」

「それならば、幼いと言っても国賓。クロイスを誘うくらいの気概を見せて貰いたいくらいだ」

「アレクの言う通りかも、なら僕、王妃様を誘わないと駄目?」


殿下の言葉に軽く答えるクロイス。

この場所に落ち着いてから一度、ロレイン姉様がクロイスをダンスに誘いに来ている。

それ以降、殿下達と踊りたいとの視線は向けても、遠巻きに見られているだけで、他に近寄って来る者も居ない。


「王妃を、母を誘うのはどうかな? あれだけ飛び跳ねられては、疲れてしまうだろう?」

「そうですね。お祖母様も、半分踊りきる前に音を上げますから」


クロイス? お祖母様と王妃様と一緒に考えるのは、どうかと思うのよ?


「ところで姉上?」


クロイスが何かを思い出した様に私を見る。


「ハロルドの事。許してあげないのですか?」

「お父様?」


そう言えば、朝送り出されてから見て居ない。改めてお父様を思う。


「謁見の時も広間に出てからも、隠れる様にして姉上を見てますよ」


謁見の時も? ダンスの時も? 隠れる様に? もしかして今も? 

人、人、人。柱の影。二階? 私は周りを見回す。…お父様?


「確かに今日の演出は、姉上にとっては恥ずかしいものだったかも知れませんが、僕は嬉しかったです。こんな事、中々無い事ですから」


…お父様? 何処?


「ハロルドの事は、別に知らな振りをしててもいいのですが、姉上の一生に一度の事です」


クロイス? 私、お父様に腹を立ててる訳では無いの。当主としての私は、この舞踏会を境として表に出て行く事になる。その後押しを、クロイスや殿下を巻き込んでしているのだろう。だけど、私の問に答えをくれなかった。何を求められているのか分からないお父様に付いて行けないの…。大きく遠くへ放り出されそうで、不安なのに、聞いてくれなかったお父様に「お父様なんか嫌いです」と言った。それだけなの。「行っておいで」と送り出してくれても、嫌いと言った私に触れなかった。一歩以上の距離があった。どうしよう? お父様に嫌われた? だけど、心配してくれている?

教えて! お父様は、どう思っているの?


「クルシェ…」


アレックス殿下に呼ばれて、顔を上げる。目が合うと、視線で促される。その先には、お父様が居る。

クロイスが繋いでいた手を離す。

私は立ち上がった。お父様の元へと行く為に。




近付く程に、お父様の困った顔が深い苦笑いに…。だけど、私に向かって手が差し出される。私も手を伸ばす。

お父様は私を見る。私もお父様を見詰める。曲の切り替わりを待って進み出る。無言のままに踊り始める。体は自然と動いてくれる。だから、お父様から視線は外さない。


「お父様?」


何も言わないお父様。


「嫌いって言ってごめんなさい。…大好きよ」


綻ぶ…。お父様の困った顔が、一気に甘い笑顔に変わる。


「私も大好きだ。愛してるクルシェ」


言われて抱き締められる。そしてその手で高く持ち上げられた。

誇らしげに見詰められる。


「とても綺麗だ! 私の最愛」


お父様の顔が、悪戯に微笑む。何を考えてますか?

そう思った時には遅かった。

抱き上げられたまま、お父様がダンスのステップを踏む。

お父様…ここはお家じゃ無いのです? お行儀の悪い事をしては、皆に陰口されてしまいます。私、もう子供では無いのですよ?

心で目一杯困った事を並べる。

余りにも困ったのでお父様の肩に顔を押し付ける。

高ぶって、高ぶって涙がこぼれる。

私を「最愛」と呼ぶお父様。お父様は幸せですか? 私は幸せです。

曲の終わりまで、私をあやすようにダンスのステップを踏む。


ずっとこの腕の中なら何の心配も感じない。この腕の中から出たくないですお父様。







クロイスが唸った。

俺の視線の先にも、同じものが見える。

口惜しいが彼女が大きく心を許すのは、父親なのだと痛感する。


「アレクは、ハロルドに言ったんだって?」


彼女を見詰めたまま、言葉の先を待つ。


「レイナードを檻だって」

「檻だと思っていないのは…クルシェだけなんだろ?」

「そうだよ。反対に、自分が檻…枷になってるって思ってる」


変わった声音に振り返れば、無邪気に笑っていた子供の顔が歪む。


「ハロルドも悪いけど、ハロルドだけが悪いんじゃ無いって事を、見ない振りしてる大人がいるんだよ。僕は、そいつ等が嫌いだ。好きなんだけど嫌いなんだ」


それは誰だと問たい。


「ねえ、アレク?」

「何だ?」

「中途半端なら入ってこないでよ」


迷惑だからと、強い瞳が物語る。

中途半端な気持ちなら引き返せ。クロイスの言う通りだ、引っ掻き回してお手上げと背中を向けるなんて、きっと彼女を苦しめる。


「本気なら入れてくれるのか?」


クロイスは嫌そうに顔を顰めた。


「虫除け程度には役に立つならね」


俺の半分も生きてない男に釘を刺される俺。前途多難だ。

でもな、クロイス…。覚悟はあるんだよ。




作中、アレックス殿下は愛称呼びになりますが、心の中はまだまだ全然殿下です。クルシェの心の距離がまだ殿下です。

上手く伝わるとうれしいのですが…。

お付き合いありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ